お伽の夢想曲

月島鏡

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第四章 祈りを繋ぐ道

第七十二話 この世界で心から愛せるもの

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「あんたは、どうして、ここに……」

 頭上に現れた、端正な顔の優男にステラは問いかける。
 ずっと前に、一度だけ会って話した事があるその男は、本来ならこの場に来れる筈がない者だ。
 問いかけに対し、男――オルダルシア=カルバレアスは柔らかい笑みを浮かべ

「久しぶりだな、ステラ。どうして、か。んー、そうだな……何となく顔を見たくなったから……ってのじゃ駄目か?」

 久方ぶりの再会を、心から喜んでいるかのような、穏やかな声でそう答えた。
 その答えを聞いた瞬間、ステラの中で何かが切れる音がした。

「オルッダルッシアァァァァァァア‼」

 激情のままに名前を叫び、ステラはオルダルシア目掛けて駆け出していく。
 胸の内で再燃した業火の怒りが、傷だらけの身体を突き動かした。
 到底許す事などできない怨敵が、目に映る場所に、手の届く距離にいる。
 勝ち目が限りなく薄い事は、頭では分かっている。でも、それでも、動かずにはいられなかった。何としても、一発叩き込んでやりたかった。
 だから、痛む身体に鞭打って、無我夢中で走り出したのだが

「うっ‼」

 これまでの戦いで負ったダメージは、精神力で乗り越えられる範囲を大幅に超えていた。
 もう少し進んで、そのまま大きく飛べばオルダルシアに届くという所で、ステラは突然ぴたりと止まり

「ごふっ……‼」

 口から大量の血を吐き出し、その場に両膝をついた。

 ――クソッッ‼ 限界が……‼

 ごぼごぼと溢れてくる血が、地面に広がり、膝を濡らしていく様を見つめながら、ステラは動く事ができなくなった我が身を呪う。

「ステラちゃん……‼︎」

 ――オルダルシア‼ こんな時に……‼ ここにいるという事は……

 肝心な所で立ち止まる自分の肉体に憤りを覚えるステラの身を案じつつ、レアルはある事に強い不安を覚える。
 それは、レアル達がヘルハウンド達と死闘を繰り広げていた間、同じように命を賭してオルダルシアと戦っていた者達の安否だ。

 オルダルシアと戦っていたのは、ライゼ、ライゼと同格の『霊王』エードラム、エードラムに次ぐ強大な力を持つ大精霊であるシルフとグロームの四人。
 たった一人の人間に、それらの壁を打ち壊す事などできる筈がない。
 逆に打ち砕かれて、沈む事になるに決まっていると、レアルはそう思っていたが、当のオルダルシアはほぼ無傷の状態で自分達の上に立っている。

 その事実は、レアルの考えが全くの間違いであった事の証明だ。
 先に名前を挙げた者達が、オルダルシアをみすみす取り逃がす訳がない。つまり、オルダルシアは全員を返り討ちにしてここに来たという事。

 一度オルダルシアと対峙し、『雪月の輪舞曲ニクス・ルナ・ワルツ』を奪われた苦い経験を持つレアルは、オルダルシアという人間の戦闘時の様子をよく知っている。
 戦っている時のオルダルシアは、顔では笑っているが、目は一切笑っていない。
 戦いを心から楽しむようなタイプではないが、他者を傷付ける事に対する躊躇いは一切ない。
 動けずとも、意識があって敵意を抱いている相手に対しては容赦なく追い討ちをかける冷酷さを持ち合わせており、それで『七人の小人』らが重傷を負わされた事から、レアル個人はオルダルシアの事がトラウマとなっている。

 『七人の小人』に負けない程の意志の強さを持っているライゼと、ライゼに匹敵するエードラムらの事も、オルダルシアは徹底的に追い込み、破壊した筈だ。それ故、全員の安否が心配で、不安でたまらないが、聞いた所で答える筈がない。
 質問しても無駄である以上、一旦切り替えて自分達で撃退する他ないが、レアルにはもう動く力も、魔力も残っていない。
 自分にできる事が何一つない事を、レアルが歯痒く思っていると、オルダルシアは縁から飛び、軽い音と共にステラの前に降り立った。

「おいおい、あんま無理すんな。『魔王』とやり合ったんだ。魔力も体力も限界だろ? それ以上無茶したら、本当に死んじまうぞ?」

 軽い口調でステラの身を案じているかのような事を口にするオルダルシア。
 どの口が言っているのだと叫びたくなるような内容の発言と、人を小馬鹿にするかのような言い方に、ステラは再び強い怒りを覚える。 

「だま……れ‼ よくも、まぁ、そんな事を……言えるわね……私を、殺して……『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』を奪う気で来たくせに‼」

 身体は動かせなかったが、口を回す事はできなかった。
 血を飛ばしながら、ステラは自分が推測するオルダルシアの目的を叫び、薄っぺらな心配をするオルダルシアを怒鳴りつける。
 その怒号には瀕死の者が飛ばしたとは思えない圧が込められており、異様な迫力を放っていたが、オルダルシアは怯まない。笑顔のまま「いいや」と呟き、ゆるゆると首を横に振る。

「今はまだ奪うつもりはねぇよ。ライゼやユナ辺りに聞いてるかもしれねぇが、『幻夢楽曲』ってのは、所有者の成長に応じてより強大な力になるが、所有者が死ねばその強さが一度リセットされるって性質と、奪った時点で成長が止まるって性質があるんだ」

「折角なら、それまでに蓄えられた力を自分のものにしたいだろ? 面白い事に、元の所有者を殺す前に奪って、所有権を自分に移せば、その後に元の所有者を殺しても、『幻夢楽曲』に蓄えられた力が無くなる事はないんだ。だから、殺すにしても奪った後にするし、お前の『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』はまだまだ弱い。もっと強くしてもらわないと困る」

「なっ……」

 さらっと馬鹿にしてきたオルダルシアに、ステラは思わず眉根を吊り上げ、反論しようとしたが、すんでの所で踏み止まって閉口する。
 今は反論よりも呼吸に集中する必要がある上、悔しいが、オルダルシアの言う事が全くの見当違いという訳でもない。

 ステラ自身、自分が完璧に『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』の力を使いこなせているとは思わないし、ステラの前の所有者――ステラの母親であるルージュがどれだけ巧みに『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』の力を使いこなしていたかを示す逸話をいくつか知っているため、自分がまだまだである自覚は大いにあった。

 ルージュは自分の血は言うまでもなく、他者の血すらも繊細かつ大胆に操る事で、ありとあらゆる種族の強者を撃ち倒してきた伝説の魔導士の一人だ。
 ルージュ本人やその逸話を知っている者からすれば、ステラの『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』の練度は遥かに劣って見えるのだろう。

「あいつとの戦いで何度も死の淵に追い込まれ、その度に立ち上がって限界を超えた事で、お前自身も、お前の中にある『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』の力も更に強くなったみたいだが、それでもまだ足りねぇ。願いを叶える事だけを考えるなら、今奪ってもいいんだが……さっき言った理由と、他にも色々と理由があるからな、だから、まだ奪うつもりはねぇよ」

「じゃあ、一体、何しに来たの?」

「さっきも言ったろ? 何となく顔を見たくなったから来たんだって。本当に、ただそれだけが目的で来たんだ」

「私達、そんなに親しい仲じゃなかったと思うけど?」

「つれねぇ事言うなよ。悩み相談に乗ってやった事もあるってのによ」

 冷たく問いかけてくるステラに、オルダルシアは陽気にそう返す。 
 オルダルシアが口にした通り、オルダルシアは一度ステラの悩みを聞いた事がある。
 まだ『魔神の庭』に入りたてだった頃、ステラは望んでもいないのに、他人を簡単に殺す事ができる『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』という強大な力を持った『赤ずきん』として生まれてきてしまった事。自分自身の事が分からない事に悩み、苦しんだ事があった。
 当時自暴自棄になりかけていたステラの相談に乗ったのが、オルダルシアだった。



『私自身がなりたいものも曖昧で、自分の事が何一つ分からなくて、それだけでも苦しいのに、呪われた力を無理矢理押しつけられて、その力を捨てたくても、捨てる方法が一切見つからないんです。もう、苦しい事だらけで、どうすればいいか分からないんです』

『そうか』
  
『私は、一体どうすればいいんでしょう……』

『とりあえず生きてみりゃいいんじゃねぇの』

『生き続けていれば、今は分からない事も分かる日がきっと来る。お前がお伽話を嫌う理由も、お前がなりたいものも、生きてりゃその内分かる』

『そうなん、ですかね』

『あぁ。そうゆうもんだ。それに、お前は自分の魔法を呪われた力っていうが、その力を上手く使えれば、いつか誰かを助けられるかもしれない。そう悪いもんじゃないさ』

『呪われた力でも、いつか誰かを助けられる……』

『そうだ。外野の人間が偉そうな事言っても、説得力ないかもしれないけどよ、『赤ずきん』に生まれた事を気にして生きるよりも、何か一つ大事なものや好きなものを見つけて守り抜く……そんな生き方をした方が、俺はずっといいと思う。いくら自分の生まれや過去を呪っても、そいつは絶対に変えられねぇもんだから』

『私に、できるでしょうか?』

『知らん。そんなもんお前の気持ち次第だ。できると思ってりゃできるし。できないと思ってりゃできない。ならできるって信じて見つけてみろよ。大事なものと好きなものをよ。そうすりゃ、小難しい事で悩んだりする暇なんてなくなるさ』



 あの日、『ディアーナ森林』の泉の近くで話を聞いてもらえた事で、ステラは自分と、自分自身の力に向き合うための余裕を持つ事ができた。
 その結果、オルダルシアが言っていたように、呪われていると思い込んでいた『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』を、誰かを守る為の力として捉え、前向きに活かそうと思えるようになった。
 その一点だけは、ステラはオルダルシアに感謝している。

「あれから見つかったかよ? 好きなものや大事なものは」

「えぇ」

 オルダルシアの問いに、ステラはゆっくりと頷く。
 その時のステラの脳裏に浮かんでいたのは、ステラがこれまでに出会ってきた、様々な人達の顔だった。

「見つかったわ。アルが、リオが、リリィが、ローザが、ユナが、ライゼさんが、マリが、『魔神の庭』の皆が、友達が、皆が大事にしているものが、大好きで大事だって思うようになった。だから、私はその全部を守りたい」

 まっすぐに前を向き、オルダルシアの黒瞳をじっと見つめながら、ステラはそう答える。
 少し前のステラには、心から愛せるものや、命を賭して守りたいと思えるようなものがなかった。

 でも、『魔神の庭』に入ってから、ステラは変わり始めた。
 仲間達の優しさに触れた。
 誰かを守る為なら、どれだけ強大な敵にも、命懸けで立ち向かえる人達がいる事を知った。
 そんな人達に、ステラは何度も助けられてきた。

 だから、自分もそうなりたいと思うようになった。
 少し変わってはいるが、優しくてまっすぐな心根を持つ彼ら彼女らの事が、愛おしくてたまらなくなった。  

 そして、その感情はやがて、彼ら彼女らの大切な人にも、自分が友達だと思える相手にも向かうようになり、その結果、ちっぽけな手では有り余ってしまうくらいの、大好きで大事なものができて、それらを何が何でも守り抜きたいと思えるようになった。

 我ながら、あれだけ人に冷たかった自分が、よく変われたなとステラは思っているが、その愛情深さと優しい心こそが、ステラがルージュから受け継いだステラ本人の生来の気質だ。
 どちらかといえば、変わったというより、『魔神の庭』で過ごした時間が、本来の在り方を思い出させたという方が正しい。

 自分にとって大切で、守りたいと思う存在について語る時の、ほんの少しだけ穏やかになったステラの表情を見たオルダルシアは、どこか嬉しそうに、何かを懐かしむようにふっと笑う。

「……そうかよ。なら、よかった」

 ステラの変化、それを自分事のように喜ぶオルダルシア。
 それとは対照的に、ステラの表情は段々と怒りに染まり始め、拳を握る力が強くなる。
 
「だからこそ、あんたには、あんたらには死ぬ程腹が立ってる」

 低い声でオルダルシアと『夜天の箱舟』に対する怒りを口にする。
 水色の瞳は血走っていて、額には青筋が浮かんでいる。
 熱く激しい怒りを露わにするステラだが、それも当然の事だ。
 ステラは『夜天の箱舟』によって、自分が大切だと思う存在をことごとく傷付けられている。

「あんたらは、リーベを、ユナを、レアルを、その周りにいる大切な人達、私の仲間、友達、たくさんの人達を、殺して、傷付けた」

 『夜天の箱舟』は、『幻夢楽曲』を手に入れる為に、多くの者を傷付けた。
 リーベは『海鳴騎士団』に所属する大好きな仲間約二百名を『夜天の箱舟』に殺された。
 レアルは一度自身と仲間をオルダルシアに死ぬ寸前まで痛めつけられた上に『雪月の輪舞曲ニクス・ルナ・ワルツ』を奪われ、その後も『夜天の箱舟』が向かわせたヘルハウンドに自分も仲間も殺されかけた。
 ユナも同じくヘルハウンドによって瀕死の重傷を負わされ、一時期は死の淵を彷徨った。

 それに加え、ヘルハウンドは『魔神の庭』の仲間、ジークフリートやグラニ、ローザとユナにとって大切な存在であるコナーを始めとした『サルジュの森』の住人達、助っ人として駆けつけたテオやニンフまで傷付けた。

 『夜天の箱舟』の悪意は、ステラの大切なものに無差別に牙を剥いた。それが、その事が

「その事が、私には……どうしても……どうしても、許せない‼︎」

 冷たい空気を震わせる程の声量で叫んだ途端に、ステラは勢いよく立ち上がり、再びオルダルシアに向かって駆け出した。
 
「おぉ」

「――――っっ‼︎」

 精彩を取り戻したステラの動きに、オルダルシアもレアルも目を剥く。
 ステラには、立ち上がる力は残されていなかった。
 だから、オルダルシアと会話をしている最中、ステラは密かに最後の無茶をする為に必要な準備を、呼吸を行なっていた。

 ――なるほど、武心ぶしん……いや、その応用の武心戴天たいてん

 ステラが再び動けるようになった理由を、オルダルシアは一瞬で看破する。

 武心。
 それは特殊な呼吸法によって、身体能力を底上げする『穿剣』と同じく『渡月国』由来の技法にして、ステラのもう一つの武器だ。
 その応用である武心戴天は、不動の状態で三分間武心の呼吸を行う事で、武心の効果をより高める技だ。
 この技で肉体を無理矢理活性化させる事で、ステラはもう一度動く力を得た。
 ただ、実際に武心に費やせた時間は半分の一分半程度であるため、半分程度の効果しか得られていないが

 ――悠長に三分間も息をしてらんない‼︎ 逃げられたり攻撃される前に不意を突くなら、これで十分‼︎

 効果を完全に発揮させる事よりも、確実に、たった一度の不意を突けるようにする事をステラを選んだ。
 もう一つの武器、穿剣ならば、たった一度でも当たりさえすれば、大ダメージを与えられる。

「はぁああぁあああぁあっっ‼︎」

 声を張り上げ、拳を振りかざす。
 そして、その横っ面に、ステラが全力の穿剣を叩き込もうとした時

「ステラちゃん‼︎ 駄目‼︎」

 レアルが拳を止めるよう叫んだ――が、制止の叫びが響いた時には、ステラは既にオルダルシアの左頬を渾身の力で殴り飛ばしていた。
 肉が弾ける音と共に、これまでの怒りを込めた一撃が炸裂する。
 それは、一見見事に直撃したかのように見えたが

「ちっ……‼︎」

 ステラ自身は手応えを感じていなかった。
 大きな舌打ちの理由。それは確実に食らわせなければならなかった穿剣が不発に終わった事だ。
 これまでに蓄積されたダメージと激しすぎる怒り、絶対に当てなければならないという緊張と焦りが、魔力のコントロールを一気に狂わせた。 

 最悪だ。
 一定の確率で起きる失敗が、最悪のタイミングで起こってしまった。
 だが、悔やんでいる暇はない。次こそ確実に穿剣を叩き込んで、今度こそオルダルシアを討つーーと考えながら、ステラが逆の拳を握り締めた時、不可視の力が、ステラの左頬を殴り飛ばした。

 ――えっ……?

 強い力を頬に叩きつけられ、その勢いのまま吹き飛び、地面の上に背中を打ちつけ、仰向けに倒れた後、ステラは痛みを上回る困惑に目を丸くする。

 ――何? 一体、今、何が起こったの?

 何の前触れもなく攻撃が飛んでくるという不可解な現象に、ステラは理解が追いつかない。 
 オルダルシアに魔法を使う素振りはなかった。だが、この理解を超えた現象は、間違いなく魔法によって引き起こされたものだ。それは確かだ。

 ――オルダルシアの、魔法……はっ、そうだ……‼︎

 オルダルシアの魔法の正体についての思考を巡らせていたステラは、かつて『海鳴騎士団』の緑髪の騎士見習いであり友人のベリルが語っていた、オルダルシアの魔法の詳細を思い出す。

『ほとんどの騎士と騎士見習いは、あの男に殺されました。あの男には、攻撃が効きません。当たりはしましたが、ダメージがそっくりそのまま跳ね返ってこっちがダメージを受けてしまいました』

 ――しまった、忘れてた‼ あいつの力はダメージの無効と反射、普通に殴ってもダメージは通らない……‼︎

 オルダルシアの能力を思い出したステラは、自分の行動が一から十まで無意味だったどころか、自殺行為だった事を知って戦慄する。
 もしも穿剣が炸裂してれば、その時点でステラは死んでいた。
 どんなダメージも無効化し、反射するような敵が相手では、ステラが知る限りではたった一人を除いて勝ち目がない。

 ――ライゼさんが、いてくれたら……っそうだ‼ ライゼさん‼ いや、ライゼさんだけじゃない‼

「あんた‼ ライゼさん達は、アルは、マリは、ニンフは、どうしたの⁉ 皆は、皆に手を出してないでしょうね⁉」

 魔法無効化の特性を持つライゼがいてくれれば、そう考えた途端に、連鎖的にライゼとこの場にいない者達の安否が気になり出したステラは、上体を起こして牙を剥き、顔に焦燥を浮かべながらオルダルシアに問いかける。

「そう噛みつかねぇでも、誰も殺しちゃいねぇよ。今回は誰かを殺す事が目的でも、お前とユナの『幻夢楽曲』を奪う事が目的でもねぇしな。ぞれに、目的のものはもうとっくに手に入れた」

「目的のもの……?」

 熱くなるステラとは反対に、落ち着いた雰囲気、余裕のある笑みを浮かべながら答えるオルダルシアの言葉を、ステラは上体を起こしたまま繰り返す。
 先程跳ね返ってきたダメージと武心戴天の反動により、ステラは何とか上体を起こし、意識を保つのが精一杯の所まで追い込まれていた。
 そうして、動けなくなったステラにオルダルシアは「あぁ」と頷き

「そろそろ帰る。もう一度言うが、もっと強くなって、『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』の力を伸ばしといてくれよ。期待して待っ」

「待ちなさい」

「ん?」

 言いたい事だけ言ってその場を去ろうとしたオルダルシアを、ステラは引き留める。
 自分もレアルもぼろぼろ。
 オルダルシアの機嫌次第で二人とも殺せる状況で、わざわざ引き留めるような事はしない方がいい事は、ステラも分かっていた。
 それでもオルダルシアを引き留めたのは、オルダルシアについて、いや、『夜天の箱舟』について明らかにしたい事があったからだ。

「聞きたい事が……あるの。答えなさい」

「あんた達の目的は、世界を作り変える事だって、そう聞いた。一体、どう作り変えるつもりなの? 今の世界を、どんな世界に、しようとしているの? あんた達は、何を望んで、誰かを殺してまで、『幻夢楽曲』を手に入れようとしているの?」

 それは、『夜天の箱舟』の具体的な最終目標についてだ。
 『夜天の箱舟』が世界を作り変える事を目的としている事は、ステラもライゼから説明を受けているために知っているが、具体的に何をどう作り変えるつもりなのなまでは分かっていなかった。

 故に、ステラはずっと引っかかっていた。
 『夜天の箱舟』の願いの先が、一体どのような世界に繋がっているのか。
 本当に、ただ気になっているだけだ。
 ずっと、もやもやしているから、そのもやもやを晴らして、迷いなく戦いに集中できるようにしたい。それだけが目的で、ステラはオルダルシアを引き留めてしまった。
 そんな純粋な疑問に対して、オルダルシアは腕を組み、顔を傾けながら「んー」と考え込む。

「そうだなぁ……一言で説明するんのは難しいんだが、無理矢理分かりやすくまとめると、好きなものだけの世界を作りてぇんだ」

「好きなものだけの……世界?」

「あぁ。俺、セルドア、ギガ、ルクルハイド、そして、もう一人の好きなものだけでできた、俺らと俺らが好きな存在にとっての幸せで満ちた世界を作る。それが、俺達『夜天の箱舟』の最終目標だ」

 『夜天の箱舟』の最終目標。
 作りたい世界の形は、一言で言うなら、思った以上に夢見がちな、それこそお伽話のようなものだった。
 好きなものと、自分と好きな人にとっての幸福が満ちた世界。
 字面だけ見れば、誰もが夢見るような、この上なく理想的で平和な世界に見える。
 正直、もっと残酷な事を口にすると思っていたステラは、思わず呆気に取られ、拍子抜けしてしまうが

「……好きじゃないものは……どうするの?」

 少し遅れて、また別の疑問を抱く。
 自分の好きなもの、好きな人と、好きな人にとっての幸福に満ちた世界を作るつもりなら、好きでない人……嫌いな人や、好悪の感情を抱く程の関心を抱いていない相手は、一体どうするつもりなのか? そう問いかけたステラに、次の瞬間、オルダルシアは顔から笑みを消し、こう答えた。


「消す。人も、物も、嫌いなもの、どうでもいいもの、俺らが作りたい世界の邪魔になるものは、何もかも全て、跡形もなく消してやる」
 

 底冷えするような、抑揚も感情もない声音で告げた答え。
 それを聞いたステラの全身に、これ以上ない程の悪寒が駆け巡る。
 当然のように恐ろしい事を口にしたオルダルシアの黒瞳からは、光と温度が消えている。
 どこまでも深く、吸い込まれそうな闇が続いている瞳。その不気味さに心を蝕まれながら、ステラは恐る恐る反論する。

「そんな事……許されると思ってるの? そんな身勝手な願いを叶える事も、その為に、誰かを傷付ける事なんて」

 震える声で、ステラは思っている事を伝えた。
 真っ向からの否定は、相手の怒りに火をつけかねない行為。今のステラが行うにはあまりに危険すぎる行いだ。
 一秒後には肉片になっていてもおかしくなかったが、傷だらけになっている事への哀れみか、あるいは余裕からか、オルダルシアはその否定を口元に再び笑みを浮かべて聞き入れ、その上で答えを返した。

「許されるかどうかなんて関係ない。俺らと俺らの好きなもの以外の事なんて知った事か。願いを叶える為なら、誰でも、何人でも、殺し尽くしてやる」

 その答えもまた、冷酷無比かつ傍若無人の最悪という他ない暴論だった。
 その答えを聞いた時、ステラの頭に、何故だか『眠らぬ月』と『無色の牙』、『海鳴騎士団』についての記憶が駆け巡った。

 『眠り姫』ルナ=リブレールや、かつてのアルジェントの相棒である吸血鬼ルシフ=テンペストを始めとした名のある強者が所属する、かつての五大ギルドの一角『眠らぬ月』。
 十七年前まで存在した、かつてレアルを死の淵に追い込み、間接的にではあるがユナを殺害した暗殺者アノニムが長を務めた、『イヴォール国』の暗部中枢を担った暗殺組織『無色の牙』。

 これらの組織はそれぞれ世界を壊すため、当時の『イヴォール国』の国王が『月帝の五剣』を倒し、『かぐや姫』が持つとされる不死の霊薬ーー『月魄げっぱくの雫』を手に入れられるようにするためと、どちらも『幻夢楽曲』を手に入れて身勝手な願いを叶える為に、誰彼構わず傷付け、多くの人の大切なものを壊した。
 その点は今のオルダルシアと変わらないが、かつて、客観的に見てこれらの者達と全く変わらない行いをしていた組織が、もう一つあった。

 その組織の名は『海鳴騎士団』。
 『人魚姫』リーベ=メールが団長を務める、人魚のみで構成されたこの騎士団は、リーベによる主導の元、いつまでも戻ってこないリーベの恋人、ルドルフ=グリムがリーベを見つけられるよう、ちゃんとリーベの元に辿り着けるようにするためという名目で、百年もの間、数え切れない程の魔導士を殺して魔法を奪い、奪った魔法を宝石にして星空を作った。

 それは、心のどこかで恋人の死を悟っていながらも、受け入れる事ができなかった事により引き起こされた、悲しい動機の凶行であったが、殺された者とその家族や友人にとっては、『眠らぬ月』や『無色の牙』が引き起こしたものと変わらない理不尽極まりない蛮行だ。
 ステラ達によって倒され、諭されたリーベ達はその事を深く痛感し、心の底から過ちを悔い、改心して光の道を歩み始めた。
 今度こそ誰も傷付けず、誰かの為に生きると、そう決意した。

 三者三様の理由で、身勝手に他者を傷付けた三つの組織。
 一つは未だに凶行に及ぼうとしていて、一つは跡形もなく滅び、一つは悔い改め正しい道を進み始めた。
 いつの時代、どんな場所でも、『幻夢楽曲』で身勝手な願いを叶えるべく、他人を傷付ける者は現れる。
 だが、その全てが同じ末路を辿る訳ではない。
 かなり稀有な例ではあるのだろうが、『海鳴騎士団』のように罪を償おうとする者達だっている。

 だから、ステラは心のどこかで、ほんの僅かにではあるが、期待をして、いくつかの問いを投げかけたのかもしれない。
 具体的な目標やオルダルシアの考え次第では、『夜天の箱舟』も『海鳴騎士団』と同じように、倒して止めた後に変える事ができるのではないかと期待して。
 しかし、その期待は、オルダルシアの答えと表情に見事に打ち砕かれた。
 オルダルシアが返してきた答えを聞いて、瞳の色を見て、ステラは悟った。

 ――こいつは、きっと、何を言っても、どんなに言葉を尽くしても変わらない……

 ――こいつは、自分達の願いを叶える為なら、一切の罪悪感も躊躇いもなく、何人でも殺して誰の大切なものだろうと簡単に踏みにじれる。

 ――ある意味、ヘルハウンドよりも余程悪辣な、真正の怪物……‼

 ステラの目には、もはやオルダルシアが人間ではない別の何かに見え始めていた。
 自分達の好きなものだけの世界にする為、言い換えれば、好きなもの以外を消す為なら誰であろうと殺せる人間性が、到底理解できなかった。
 理解も共感もできないが故に、恐ろしい。恐ろしくてたまらない、が

「自分達の都合だけを考えて、誰かを殺して、大切なものを奪ってまで願いを叶えようとするなんて、間違ってる……‼」

 それでもステラは退かない。
 立ち向かう姿勢だけは崩さない。

「間違ってる、ねぇ……なら、どうする?」

 自分が正しいと思う事を吠えるステラに、オルダルシアは人の悪い笑みを浮かべながら、具体的にどう動くつもりなのかを問いかける。

「決まってる。あんたらをぶっ飛ばして、あんたらに奪われた『幻夢楽曲』を全部取り戻」

「それで終わるかねぇ?」

「何ですって?」

 迷いなく口にした答えを遮られ、更なる問いを発してきたオルダルシアに、ステラは眉を吊り上げる。

「『幻夢楽曲』を狙ってるのは、何も俺達だけじゃねぇ。国内にも国外にも、『幻夢楽曲』を狙う犯罪者や犯罪ギルドは五万とある。仮に俺らをぶっ倒して、とっ捕まえて、『人魚姫』と『白雪姫』の『幻夢楽曲』を取り戻せたとして、それでめでたしめでたしになんのか……」

「何が、言いたいの?」

「ただの独り言だ。気にすんな。俺らをぶっ飛ばして、持ってる『幻夢楽曲』を全部奪い返すつもりってんなら精々頑張れよ。は手中にある。急がねぇと、すぐにチェックメイトをかけちまうぞ?」

「三分の、一……?」

 挑発じみたオルダルシアの言葉の一部分に、ステラは引っかかりを覚える。
 全て集めれば願いを叶える事ができるとされる特別な力を宿す魔法である『幻夢楽曲』。
 その数は全部で九つ。
 『夜天の箱舟』に奪われた『幻夢楽曲』は、『人魚姫』の『海鳴の交響曲アクアシンフォニー』と、『白雪姫』の『雪月の輪舞曲ニクス・ルナ・ワルツ』の二つ。
 三分の一を手中に収めているのなら、三つ手に入れている事になるがーー

 ――まさか……‼

 ステラは、ある可能性に行き着き、思わず息を呑む。
 それは、一番有力ではあるが、一番そうであって欲しくない可能性だ。
 だが、それ以外あり得ない。
 何故なら、それがただの魔法なら、あまりにも強大すぎる力を持っているし、何より

 普通の魔法の使い手なら、ライゼさんが絶対に通す筈がない‼︎ だって、それなら、魔法以外は普通の人間と変わらなそうなこいつに負ける筈がない‼︎

 その力により、オルダルシアはライゼらの妨害を単独で潜り抜ける事ができた。
 その時点で、考えるべきだった。
 ライゼの、魔神の特性である魔法無効化の力は、一部の例外を除いて、ほぼ全ての魔法を無効化できる。その例外は 


 「『叛逆の聖譚曲リベリオン・オラトリオ』。『灰被り姫』の、『シンデレラ』の『幻夢楽曲』。それが俺の力だ」

 『幻夢楽曲』。
 楽曲の名を冠する九つの魔法の内の一つを、オルダルシアは有していた。
 その事実を知ったステラとレアルは絶望の底に叩き落とされる。

 全ての攻撃のダメージを無効化し、それを反射する力。
 突破口があるとすれば、魔法を無効化できる魔神の特性だけだと、二人はそう考えていたが、それが『幻夢楽曲』の力とあれば、魔神であるライゼにも撃ち破る事はできない。
 誰も、オルダルシアに傷を付ける事はできない。

「いつか奪りに来るってんなら、その時を、もう一度会えるのを楽しみにしてる。お前は……『紅玉姫』ルージュの実の娘だ。あいつ並み、いや、あいつ以上に強い『赤ずきん』になる可能性は十二分にある。期待してるぞ」

「……」

「さて、顔も見れたし、そこそこ話せたし、俺は今度こそ帰るとするぞ――アル」

 やりたい事をやり終え、今度こそその場を去ろうとしたオルダルシアは、自分の頭上、クレーターの縁に立つアルジェントの目を見ながらそう言った。

 右半身を氷で包まれ、左半身に火傷を負った状態で立つアルジェントは、オルダルシアの姿を目にした途端、目を大きく見開き、唇を震わせ、そして

「オルッ」

「お前も、ずいぶんと大きくなったな」

 名前を叫ぼうとしたが、その直前に、遠く離れた位置にいる魔女――ペトロニーラが瞬間転移を発動した事で、その場からオルダルシアの姿が消える。
 突然現れて、嵐のように消えていったオルダルシア。
 その場に取り残されたステラとレアルは先の絶望的な事実を噛み締め、アルジェントは

「オルにぃ……」

 ステラとレアルには聞こえない程度の声量で、敵である筈のオルダルシアの事を、愛称で呼んだ後、その場に膝を着いた。
 ライゼが『プリエール』で『祈望の星玻璃』の操作を行い、青い光が『サルジュの森』の大地を包み込んだのは、丁度その時だった。





 王都『トラオム』にひっそりと佇む、猫の看板を掲げる魔道具専門店『ストラーノ』にて。
 薄暗い店内のテーブルに、オルダルシアとペトロニーラは向かい合って座っていた。

 ペトロニーラ「悪かったねぇ、まだ話したい事があったろうにぃ。けど、あれ以上長引かせたら、セルドア達がキツくなるだろうし、最悪、こっちにツルギが来る可能性だって考えられたぁ。あれでぎりぎりだったぁ。許しておくれぇ」

「分かってる。問題ない。久しぶりに会いたい奴に会えて、顔を見れた。それに、ステラを焚き付ける事もできた。十分すぎる位だ」

 口では申し訳なさそうにしながらも、顔にはいつもの不敵な笑みを浮かべるペトロニーラに対し、オルダルシアは満足そうな口調でそう返す。
 その晴れやかな表情を目にしたペトロニーラは怪訝な面持ちを浮かべ

「一体、どうゆう気持ちなんだぃ?」

 オルダルシアに今の心情を問いかけた。
 それを聞いたオルダルシアは「ん?」と目を丸くする。

「どうゆう気持ち……ってのは?」

「あの『赤ずきん』、いや、『赤ずきん』だけじゃなくて、『魔神の庭』全体に言える事だけどさぁ、かなり思い入れがあるんだろぅ? それなのにヘルハウンドをぶつけるなんて、とても正気の沙汰とは思えなぃ」

「まさか、お前に引かれる日が来るとは……」

 ペトロニーラの物言いにショックを受け、思わず肩を落とすオルダルシア。
 思いの外落ち込みやすいリーダーに、ペトロニーラは「別に引いちゃいないよぉ」と半分本音のフォローをして、自身が思った事の続きを述べる。

「単なる好奇心さぁ。あんたとあのギルドの繋がりは、あんたからも聞いたし、色々調べたりもしたからねぇ。『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』のレベルを上げるためってのと、本当の目的を隠すための陽動とはいえ、下手したら全滅してたよぉ。創設時のメンバーと『赤ずきん』辺りには死んでほしくないと思ってるもんだと思ったがぁ……」

「あれで死ぬ程、『魔神の庭』はやわじゃない。ステラの方は賭けだったが、まぁ、どうにかなるとは思ってた」

 前半は力強く、後半は根拠がないながらも同じように自信あり気な様子で、オルダルシアはペトロニーラにそう返す。
 その答えを聞いたペトロニーラは胸中では相変わらず楽観的な事だねぇと半ば呆れつつも、それを口には出さず、ただ一言、「そうかぃ」と口にして、別の問いをなげかける。
 
「なら、『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』を奪った後は殺すつもりなのかぃ? あの『赤ずきん』、かなり気骨があるから、『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』を奪われても、生きてる限り絶対に立ち向かってくるぅ。絶対に面倒だよぉ。殺した方が安全だとは思うがぁ……」

「いいや、ステラは、嫌いなものだらけのこの世界で心から愛せる数少ない存在の一つだ。だから、殺しはしない。生まれ変わらせるんだ」

「生まれ変わらせるぅ?」
 
「あぁ。好みにな。そしたら、きっと、あいつは喜んでくれるだろ」

「ふーん……という事は、やっぱり、ステラを殺すのはきついんだねぇ……」

 予想通り、面白みのない返答を聞いたペトロニーラは頬杖をつき、退屈そうに呟く。それに対してオルダルシアは「きついに決まってるだろ」と返し



だぞ。どこの世界に実娘を自分の手でぶち殺したいって父親がいると思うよ」



 と、ステラを殺す事への抵抗感が、父親なら誰しもが持って当然のもの、父性から来るものである事を告白する。
 そこだけ切り取れば、至極真っ当な父親としてのオルダルシアの言動に、ペトロニーラは「いやぁ」と呆れる。

「実娘に『魔王』あてがう父親だっていやしないよぉ。で? 『赤ずきん』にはいつ自分が父親だって打ち明けるんだぃ?」

「特に考えてねぇな。どうせいつかバレるだろうし、俺から言っても信じねぇだろうし……まぁ、その辺は成り行きに任せる事にするさ」

「そうかぃ。あんたがそれでいいなら、あたしもそれで構わなぃ。好きにしなぁ」

 オルダルシアとステラの関係について、ペトロニーラはあまりあれこれ口を出すつもりはない。
 軽口を叩き、辛辣な物言いをしたりもするが、オルダルシアには一応恩義があり、リーダーとして慕ってはいる。
 それ故、確実に波乱があるであろう親子関係を静かに見守る事に決め、ペトロニーラは質問攻めを一度止める事にする。 
 そして、会話が途切れた後、オルダルシアは窓に、『サルジュの森』がある方向に顔を向け

 ――最優先すべきは、あいつが、ルージュが叶えたかった願いを叶え、掴むべきだった幸せを掴ませる事。その実現の為には、ステラにはもっと強くなって、『紅血の協奏曲スカーレットコンチェルト』の力を伸ばしてもらわないといけない。長く、険しい道のりになるだろうが……

「頑張れよ」
 
 必死に立ち向かってきた時のステラの顔を思い浮かべながら、オルダルシアは優しく、穏やかな声色で、娘の、ステラの成長を強く願った。
 
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