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第四章 祈りを繋ぐ道
第五十六話 もう折れない
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「あなたを倒して、『プリエール』を解放する為に、五大精霊の皆とエードラムを解放する為に来た。もう、あなたの好きにはさせない」
精霊術師マリ=ガーネットは毅然とした顔で、態度で、『万象の精霊術師』パラケルススに宣言した。
パラケルススを打ち倒し、パラケルススがその魔の手の内に握る何もかもを取り返すと。
真正面からの宣戦布告に、パラケルススは
「何言ってんだ。てめぇ・・・」
烈火の如き憤怒を抱く。
パラケルススにとって、マリの一言は、千の罵詈雑言よりも耐え難く、不快極まるものだった。
「てめぇはこの俺、パラケルススに負けただろうが」
パラケルススの言う通り、マリはパラケルススに手も足も出せずに惨敗した。
醜態も、無様も晒し、心を粉々に砕かれた。
「てめぇじゃ俺に一生勝てねぇよ」
確かにそうかもしれない。
「てめぇじゃ俺には届かねぇ」
パラケルススとマリの間には彼我の力の差がある。
知識も、経験も、パラケルススの方が圧倒的に上だ。
「てめぇと俺は違うんだよ」
地力も、戦いに対する心構えも、パラケルススとマリでは大きく異なる。
パラケルススに比べれば、マリは甘く弱くまだまだ未熟だ。
「てめぇはただのゴミ。俺は『万象』を司る精霊術師だ。ゴミが俺を超えられるかよ」
ゴミと、そう言われても仕方ない。
逆立ちしても今の自分ではパラケルススを超えらない事を、マリは分かっていた。でも
「てめぇが何をした所で無駄なんだよ。てめぇじゃ」
それでも
「てめぇじゃ何も、誰も救えねぇ」
「――救って、みせるよ」
そうだとしても、今度は折れない。
勝てるまで戦い続けると、マリは心に決めた。
「エードラムも、五大精霊も、『プリエール』が閉ざされたままで困っている人達も、あなたを倒して、救ってみせる」
救いたいものがあるから。
今度こそ、次こそ、傷付けられた自分の為に本気で怒ってくれた仲間と、弱い自分を必要だと言ってくれた仲間と、優しさを強さと認めてくれた精霊の為に、自分の為すべき事を為したいから。
高い壁に、恐怖の象徴に、マリは立ち向かうと決めた。
マリの決意が固いと理解したパラケルススは、それならばと歪んだ笑みを浮かべて、揺さぶりをかける事にする。
「一番最後のもんは無理だろうな」
「どうしてそんな事」
「今、『サルジュの森』にヘルハウンドが来てる」
「え?」
聞き間違いかと思った。
パラケルススが口にした名前は、口にするのも憚られる怪物の名前だった。でも、その怪物は
「『終曲戦争』で死んだ筈じゃ・・・」
「俺が嘘を言っていると思うなら、後ろのクソ女に聞いてみろよ」
パラケルススに促され、マリが後ろにいるニンフの顔を見ると、ニンフは苦々しい顔をしていた。その表情が答えのようなものだった。
「外にいる微精霊の視界を通じて、『サルジュの森』の現況を確認した。残念ながら事実だ」
「そんな・・・」
かつて『レーヴ』を恐怖に陥れた厄災の化身が、『サルジュの森』にいる。
それはつまり、ステラやリオ、ユナにローザに『白雪の森』のメンバー、『サルジュの森』の住人が、ヘルハウンドに襲われている可能性が、その中の誰かが既に死んでしまっている可能性があるという事だ。
この事実を突きつけてやれば、マリの心は揺れる。
生意気な目をする事も、言葉を口にする事もできなくなるだろうとパラケルススは踏んでいたが
「それなら、早く勝って、戻らないと」
逆だった。
動揺を生み、集中力を乱すつもりが、マリの決意はより強固なものになる。
「なんだてめぇ? 救う気か? 助ける気か? この俺に勝って?」
「うん、勝つよ。あなたに勝って、必ず、救ってみせる。あの娘も、何もかも、全部、全部」
「私も共にね」
震えながらも目を逸らさず啖呵を切るマリを見て、パラケルススは恐喝も揺さぶりも無意味である事を悟る。
言葉の刃で斬りつけても意味はない。ならば
「ぶっ殺すしかねぇな」
物理的に傷付けて、命を奪うしかない。
本気で戦う事を決めたパラケルススだが、その前に
「お前らどっか行ってろ」
サラマンダーとノームにこの場から去るように命令する。
下された命令に対して二人は
「え? 裏切り者を、消せって命令、じゃ・・・」
「儂はまだ戦えるぞ」
疑問を呈し、反発して共に戦おうとする。
一人が負傷しているとはいえ、大精霊二人が戦力に加わろうとする事にマリとニンフは強い不安を抱くが
「馬鹿か。ずたぼろの竜と魔力が枯れきった年寄りが加わった所で足手纏いになるだけだ。いいから早くどっか行け」
その不安は杞憂に終わる。
パラケルススが指を鳴らすと、サラマンダーとノームはその場からいなくなった。
「傷だらけの雑魚のメスガキ一匹と手負いの精霊なんざ、俺一人で十分なんだよ。たわけ共が」
消えた二人に対して悪態をつくと、パラケルススはさてとマリとニンフを見据えて
「殺す。骨も残さず消してやるよ。ゴミカス共」
殺意を口にし、『錬成』の能力で自身の周囲に無数の鋭利な形状の銀の弾丸を作り出す。
パラケルススの圧倒的な気迫に、マリは思わず足が震えるが
「大丈夫」
ニンフの声を聞いた途端に、震えは止まった。
そうだ。自分は一人じゃない。だから、大丈夫だとマリは自分に言い聞かせて、パラケルススに杖の先を向ける。
「もう、負けない‼︎」
「何度やっても結果は同じだ。爆裂弾雨」
弾丸の群れが、マリとニンフに襲いかかる。
音もなく飛ぶ弾丸。それらは二人のすぐ傍までやってくると、赤橙色に輝き
「吹き飛べ」
一斉に爆発した。
重なる爆音は雷鳴のように轟き、爆風は竜の息吹の如く激しく吹きすさぶ。
爆発の余波で硝子の花々は散り、『プルメザ』のステンドグラスもがたがたと音を立てて揺れる。
「もう少し加減するべきだったか・・・」
『プルメザ』が、正確にはその内部にある『プリエール』の核である硝子の結晶――『祈望の星玻璃』が壊れてしまったら、『プリエール』内にいる全ての生物、漂う魂と精霊は永久に魔法空間に閉じ込められ、やがて朽ち果てる事になる。
『祈望の星玻璃』に傷一つ付くだけで『プリエール』には災害が発生する。
『プルメザ』付近で魔法を使うなら、加減を考え、威力を調整しなければならない。
「・・・俺はお前らみたいなクズアマと心中するのは御免だ」
「酷い事を言ってくれる」
パラケルススの低い声の呟きに、凛々しさを宿す声が応えた。
硝煙が晴れると、掌を前に突き出し、水の盾を展開するニンフの姿があった。
その傍らには目を見開くマリと、いつの間にか作られた薄い水の膜で作られた球体に包まれたシルフがいる。
全員無傷。パラケルススの攻撃をニンフは完璧に防ぎ切っていた。
「君が改心してくれさえすれば、私は君と心中する事もやぶさかではないよ。もっとも、君が死を望んだなら、私は全力で説得するがね」
「分かっていたが、やっぱり駄目か」
パラケルススは大きく舌打ちすると、瞳孔が開ききった瞳でシルフを睨みつける。
「シルフ。てめぇはメスガキとニンフを殺した後に必ず殺す」
「テオ、やめ、るんじゃ。もう」
「うるせぇ。場所を変えるぞ」
シルフの言葉を遮り、パラケルススは再度指を鳴らす。
するとパラケルスス、マリ、ニンフの三人のみがその場から消えた。
一人残されたシルフは、唇を強く噛み
「ニンフ、マリちゃん。どうか、勝って、生きて帰ってきてくれ。テオを、止めてくれ・・・」
二人の勝利と無事を、心の底から、強く、強く祈った。
「ここでなら思い切り魔法が使える。てめぇらを確実にぶち殺せる」
『プルメザ』から遥か遠くの地。
『プルメザ』の周囲と同じように硝子の花々が咲き乱れる場所に、パラケルススはマリとニンフを連れて移動した。
ここからが本当の戦い。マリとニンフは即座に臨戦態勢に入り、魔法を発動しようとする
「遅ぇよ」
が、それより速くパラケルススの魔法が発動する。
マリとニンフの周囲の地面が黄金に変化。
変化した地面から大量の棘が伸び、下方からマリとニンフを貫かんとする。
突然の事に反応できなかったマリに反して、ニンフはすぐに動く事ができた。マリに棘が突き刺さる前にニンフはマリを抱いて飛んだ。
二人共かろうじて串刺しの未来を回避する事はできたが、この戦場に安地などどこにもない。
「圧殺してやる」
パラケルススがそう言うと、虚空に無数の鉄塊が錬成され、それらが凄まじい速度でマリとニンフに襲いかかる。
ニンフはマリと共に鉄塊の暴力から逃れるべく、棘の一本を足場にして跳躍
「なんっーー⁉︎」
できなかった。
その場から離れるどころか、何かに背中を引っ張られ、ニンフは棘に背中から激突して動けなくなる。
一体何が起きているのか分からない。分からないが、鉄塊は今も無慈悲にも迫ってきて、ニンフとマリを押し潰そうとしている。
どうにかしなければ二人共致命傷を負う。それだけは確かだ。
ニンフはマリを抱く力を少しだけ強めると
「大丈夫。君は私が守る」
そう呟き、自身の中にある魔力を一気に解放して
「蒼波の円蓋」
水の半球を作り出し、自分達を包み込んだ。
鉄塊は半球にぶつかる度に硬い音を生じさせ、弾かれて地面に落ちてゆく。
ひとまずは安全だが、鉄塊の威力が想定よりも高い。たった数秒で半球に亀裂が生じ始めた。その上、鉄塊はまだ半分以上残っている。
「早く、ここから離れなければ・・・‼︎」
次々と半球に激突してくる鉄塊。
広がる亀裂を目にして、ニンフは強い焦燥感を覚えると同時にある事に気付く。
ーー背中が、熱い。黄金、熱・・・
「そうか‼︎ 岩砕きの乙女の激流‼︎」
確信と共にニンフは背から超高圧の水流を放ち、黄金の棘を撃ち砕く。
自由に身動きが取れるようになり、ニンフが背後を見ると、黄金の破片の他に鉄の破片が転がっていた。
「やはりか・・・」
黄金は熱を流すと磁力を帯びる。
サラマンダーの力で黄金を熱し、薄い鉄板をニンフの背中に貼り付ける事で、磁力を帯びた黄金に鉄板ごとニンフを接着させたのだ。
「金属の持つ性質をよく熟知している。流石は錬金術師だ」
ニンフが賞賛を述べた直後、半球が音を立てて壊れた。
二人のすぐ傍に、鉄塊がやってくる。
当たる。マリもパラケルススもそう思った時、突如として巨大な噴水が立ち上った。
「あぁ?」
地面の下から上がった噴水。
その上にパラケルススが視線を向けると、ニンフとマリが立っていた。
高い位置から見下ろされている事にパラケルススが苛立ちを覚えると同時、水の矢がパラケルススの左足を貫いた。
「ぐっ‼ あの野郎・・・‼」
貫かれた左足に鋭い痛みを感じながら、パラケルススはニンフを睨む。
目を凝らすと、ニンフが水の弓矢を持ち、矢をつがえているのが見えた。
「波紋を描く彗星の弓」
ニンフは矢を放った。
放たれた矢は疾く、一直線にパラケルススへと向かっていき、その途中で百本に分裂する。
「多いな。だが、無駄だ」
パラケルススは躱そうとはせず、百本の矢に向けて掌を向け、掌にエードラムの光の魔力を溜める。
「消しとばして終わりだ」
そう言いながら、光の波動を放ち、矢を全て消滅させようとした時、矢が突き刺さった左足を中心に、パラケルススの全身に鋭い痛みが走った。
「ぐあっ‼︎」
全身を内側から焼れるような強すぎる痛み。
それによって魔力が乱され、波動は不発に終わる。結果、防御も回避もできず、パラケルススは多くの矢をその身に受ける事となる。
「ぐっ・・・‼︎」
この矢はまずい。
抜くか消すかしなければ、とパラケルススが考えると同時だった。
またしても同じように、矢が刺さった場所から身体中に痛みが伝播した。
パラケルススに突き刺さった矢は二十本。先の二十倍の痛みにパラケルススは膝をつきそうになるが、痛みに抗って大きく跳躍する。
空中に錬成した鉄の円盤に飛び乗ると、パラケルススは全身から白光を放ち、刺さっていた矢を全て消し飛ばした。
それから下を見たパラケルススは、成る程なと呟く。
「矢が刺さった所から水の魔力を流して、それに触れた相手の水分を沸騰させるか。恐ろしい技だな」
「よく分かったね」
「食らえば流石に分かる。馬鹿にしてんのか」
「馬鹿にはしてないよ。君は凄い子だ。言うのが遅れたが、君がこれまでの事を悔い、『プリエール』を解放する気になったら攻撃をやめる。決断をするなら早くする事を推奨する」
そう言うとニンフはまたしても矢をつがえ、勢いよく発射した。
風を纏い、無音で進む矢は、先と同じように百本に分裂する。
パラケルススは既にいくつかの臓器に損傷を負っている。これ以上矢を受ける訳にはいかない。
「同じ攻撃が通じると思うな。浄化の光閃‼」
パラケルススは人差し指と中指を前に突き出し、その先から光の波動を放って、全ての矢を蒸発させる。
矢を消し飛ばした波動はそのまま突き進み、噴水の頂上に立つニンフとマリをも消滅させようとする。
エードラムと全く同じ技。その威力を把握しているニンフは、真っ先に防御の選択肢を除外し、弓矢を消して、もう一度マリを抱きかかえる。
闇を祓う光の牙に喰い殺される前に、ニンフは高く飛ぶ。あと僅かの所で死を免れた二人。引きつった顔のマリを見て、パラケルススは確信する。
――予想通りだ。メスガキにはもうまともに戦う力は残ってねぇ。さっきから汚水精霊に庇われ続けているのが良い証拠だ。
マリは一度目のパラケルススとの戦いで魔力を使い果たしている。
アゾット剣は傷は治せても魔力の回復はできない。マリの魔力は未だ枯れ切ったままなのだろう。
戦いが始まる前は随分と威勢が良い事を口にしていたが
――所詮は弱虫の小娘。強がった所で、メッキはすぐに剥がれ落ちる。それがてめぇの限界、本性だ。
「てめぇは百回生まれ変わっても、俺には勝てねぇよ。メスガキ」
怒りを滲ませるように、失望したようにそう言うと、パラケルススは円盤を操作して二人の頭上に移動する。
二人を見下ろしながら、右腕に光を纏わせたパラケルススは、マリに狙いを定め
「死んじまえ」
光の剣と化した腕を勢いよく薙いで、光の刃を飛ばす。
空中に浮かんでいるニンフは、移動する事ができなかった。
パラケルススが飛ばした光刃は、マリの顔を無惨にも斜めに両断した。
「ーーーーッ、マリ‼︎」
ニンフの悲痛な叫びが、夜色の空に響き渡る。
両断されたマリの顔。その上半分がずり落ちるのを見て、パラケルススは醜悪な笑みを浮かべる。
殺せた
「ーーと、思ったかい?」
さっきの悲しみに染まっていた声から一転。悪戯っぽい声でニンフが問いかけると、マリの死体が霧のように消えた。
「まさか・・・っ‼︎」
いつの間にか、周囲には霧が立ち込めていた。
霧る世界の幻夢。ニンフの幻。そう気付いた時には遅かった。
「私だけなら百回じゃ足りないかもしれない」
マリはパラケルススのすぐ後ろにいた。
パラケルススが振り返ろうとした瞬間、杖の先から瞬いた極光が
「五霊の耀弾‼︎」
爆裂する波動となり、パラケルススを飲み込んだ。
極彩色に煌めく波動。一筋の光と共にパラケルススは地面に激突した。
倒れるパラケルススを見て、マリは一言。
「でも、私は一人じゃないから。だから、負けない」
マリ=ガーネットは、もう折れない。
倒れたパラケルススは、血塗れの姿で痛みに呻く。
「ぐ、うぅ、クソ、がぁ・・・」
背中が、頭が、身体中がとにかく割れるように痛む。
予想外の瞬間、場所から、予想だにしなかった相手に、大打撃を与えられた。
よりにもよって、自分が散々嘲り、罵倒し、遥か格下だと思っていた相手から。
それはパラケルススにとって到底許せる事ではなかった。
「クソがよぉ。ふざけんなよ。ふざけてんじゃねぇぞ、クソが‼︎ ゴミの分際で‼︎ 情けないカス低脳のメスガキの癖に‼︎」
怒りは容易に沸点を突破し、パラケルススはその口から罵詈雑言を吐き散らす。
今すぐにマリも、ニンフも、どちらも惨殺してやりたいとパラケルススは強く思う。
「まさか、魔力を回復させていたとは・・・だが、一体どうやって・・・あぁ、そうか」
マリはニンフの微精霊とも契約している。
ニンフの微精霊を介して、ニンフ本人から魔力を受け取り、魔力を回復したのだろう。
「大精霊はやろうと思えば、微精霊を介しての魔力供給も可能だからな・・・本当に腹立つメスガキだ。弱ぇ癖に、精霊に好かれやがって・・・」
ーー絶対に殺してやる。だが、その前に
霧を晴らさなければならない。
霧が立ち込めている限り、ニンフは自由に幻を生み出し、対象の認識を狂わせる事ができる。このままではパラケルススが圧倒的に不利だ。
「ちっ、あれをやるか・・・」
パラケルススが痛む身体を動かし、ゆっくりと立ち上がった時、霧の向こう側から数十人のニンフが現れた。
一斉に向かってくるニンフ。その中に本物は一人もいないと即座に見抜き、パラケルススは空を見上げる。
マリとニンフの姿は見えない。霧に紛れて隠れているのだろう。
偽物は無視したいというのが本音だが
「そうもいかねぇんだよな。うざってぇ」
偽物のニンフも本物と同じく優先して対処しなければならない脅威だ。
偽物のニンフ達は人差し指と親指を立て、手で拳銃を作る。
全く同じタイミングで同じ動きをしたニンフ達は、指先に小さな水球を作り出し
「深愛の雫」
水球を同時に発射する。
放たれた水球は弾丸より軽く、速く、そして
「ちぃっ・・・‼」
貫通力が高い。
パラケルススは光を纏い、光速移動する事で全ての水球をかろうじて躱す。
パラケルススに当たらなかったいくつもの水球は、地面の奥深く、底の底まで突き進み、ようやく止まって消えた。
地面に開いた穴の数々から白煙が上がっているのを見てパラケルススは戦慄する。当たり所が悪ければ間違いなく死んでいた。
「まだまだいくよ」
同じ音色の声が重なって聞こえた直後、倍以上の数の水球がパラケルススに襲い掛かる。
鋼を穿つ雨。碧色の弾丸の一斉掃射の隙間を掻い潜りながら、パラケルススはニンフと同じように指先から光の弾丸を放ち、ニンフ達を一人ずつ撃ち抜いて消していく。
一人、二人、三人、十、二十。順調にニンフを消していくが、パラケルススは自分がしている事は無駄だとすぐに悟る。
一人二人と消す度に、また一人二人と新たなニンフが生まれる。消しては生まれ、生まれては消し、完全ないたちごっこだ。
――飛びやすくなるまで何人か消すつもりだったが、無理だな。仕方ねぇ。
パラケルススは被弾を覚悟で足を止め、十数発の弾丸が身体を貫通した次の瞬間に、全力で跳躍した。
弾丸が貫通した箇所からは大量の血が流れ、視界が点滅するが、怒りと憎しみの力で意識を強く保ち、パラケルススは掌を地面に向ける。
「『錬成』」
ありとあらゆるもの、空気中の分子までも金属に変える固有の魔力を発動して、パラケルススは巨大な銀色の金属の塊を作り出す。
作り出した銀色の金属塊を、パラケルススはシルフの風の力で弾いて地面に落とした。
金属塊が地面に激突すると、硝子が割れる甲高い音が響き、強風が吹き荒れる。
巻き込まれたニンフが何人か消えたが、やはり、またすぐに消えた数と同じ数のニンフが現れる。しかし
「準備は整った。サラマンダー」
問題はない。
パラケルススはサラマンダーの力で金属塊が発火し、溶けるまで熱する。金属塊をどろどろに溶かしたその後は
「ニンフ」
ニンフの力で掌から放出した水流を、燃え盛る金属塊に浴びせた。
その瞬間、鎮火とは真逆の現象、全てを無差別に吹き飛ばす水と炎の暴力、水蒸気爆発が巻き起こった。
まるで核爆発のような威力の爆発は、霧も、偽物のニンフも、硝子の大地と花畑までもを消し飛ばした。
銀色の金属塊の正体。それはアルミニウムだ。
アルミニウムの融点は六百度以上。溶けるまでに高温になったアルミニウムに大量の水をかけると、水は急激に水蒸気に変わり、水蒸気爆発が巻き起こる。
「さて、どこにいるかな。腐れ女共は」
赤い爆炎と黒い硝煙が立ち上る大地を見下ろし、パラケルススはマリとニンフを探す。
しばらくの間、顔を動かしながら二人の姿を探していると
「いやがったな」
パラケルススはマリとニンフを見つけた。
ニンフはマリの前に立ち、自身の前面に水の盾を展開している。
マリには傷一つ付いていなかった。しかし、ニンフは
「ニンフ‼」
「よかっ、た。無事、で・・・」
「私は無事だけど、でも、ニンフが・・・」
無傷ではなかった。
左腕と左顔面に著しい火傷を負い、爛れた二ヶ所から血を滲ませている。
マリを守り切る事はできたようだが、自分を守る余裕はなかったらしい。
傷だらけのニンフを見て焦るマリだが、ニンフは笑っている。マリを心配させたくないというのもあるが
「大丈夫だ。『アゾット剣』がある」
回復の手段を持っていたからだ。
ニンフは懐から刺した者の傷を治せる魔法剣――『アゾット剣』を取り出し、自身を刺して回復を図ろうとするが
「させねぇよ」
白銀の刃はパラケルススが指を鳴らすとぼろぼろと錆びて朽ち、柄頭に埋め込まれていた伝説の赤い魔石ーー『賢者の石』も色を失い風化してしまう。
唯一の回復の手段を失い、動揺するニンフとマリの前にパラケルススは舞い降りて
「てめぇみたいな盗人に悪用されねぇように、俺は俺が作り出した全ての魔道具、鉱物に自壊機能を付与してる。知らなかったのか?」
『アゾット剣』が自ずと壊れ、その機能を喪失させた理由を口にする。
「もっと早くに盗まれた事に気付いてたら、誰も回復させなかったんだが。まぁ、過去の結果を悔やんだ所で仕方ねぇ。未来に目を向けて」
と、一旦言葉を区切ると、パラケルススは閃光の如き蹴りで水の盾、その後ろにいるニンフの肋骨を粉砕する。
光を纏った蹴りをその身に受けたニンフは、胸の中で何かが折れるこもった音を聞きながら、遥か彼方へと吹き飛んでいった。
「てめぇらをぶち殺す事にする」
「――ッ、風霊の」
「うぜぇなてめぇはよぉ‼」
ニンフが吹き飛ばされた後、即座にパラケルススを攻撃しようとしたマリだったが、マリの魔法発動よりパラケルススの蹴りが速い。
右顔面を渾身の力で蹴り飛ばされ、マリは首が千切れたと錯覚する程の衝撃を受ける。
滑るように地面を転がっていくマリ。その頭をパラケルススは容赦なく踏みつけた。
「弱ぇ癖に精霊に好かれて、一人じゃ何もできねぇ癖に粋がって、歯向かってきやがってよぉ・・・‼」
「う、ううぅう・・・」
「誰かの手を借りなきゃ戦えもしない虫けらが。一人じゃ何もできない能無しが。ヒーロー気取りでしゃしゃってんじゃねぇぞ‼︎」
マリを激しく罵倒しながら、パラケルススはマリを踏む足の力を強める。
頭蓋骨を潰されそうになり、底無しの恐怖を感じながら、それでもマリは
「・・・雷精の裁き」
抗った。
グロームの力でパラケルススに頭上から雷を落とし、パラケルススに雷を直撃させる。
まともに雷を受けたパラケルススの身体は、ほんの一瞬だけ痺れと痛みで硬直する。その隙にマリはパラケルススの脚を払い除けて立ち上がり、パラケルススと距離を取る。
「とことんムカつくなてめぇはよ。結果が分かってるのに抗いやがって・・・すぐに殺してやるよ」
パラケルススは地を蹴り、マリに飛びかかった。
首に全力の蹴りを叩き込み、頚椎をへし折る。それで終わりだ。
パラケルススが繰り出した、殺意が乗った全力の蹴り。受ければ肉が弾け飛ぶ一撃は、盛大に空振りした。
「は?」
マリが避けられた事が信じられず、パラケルススは強く驚愕する。
ニンフでも避けられなかった一撃を、何故マリ如きがーーと考えていると、パラケルススはマリが身体に薄い水色の燐光を纏っている事に気付く。
ーー水色の光‼︎ そうだ。こいつはサポート魔法も使える。速度上昇と動体視力上昇の魔法を重ねがけしやがったな‼︎
サポート魔法は重ねがけする事でその効果が倍増する。
中級か上級のサポート魔法を重ねがけしたのだろうが、そのようなサポート魔法の使い方をすれば魔力の消費は大きくなる。
ーー避け続けるのにも限度がある。魔力だって半分以上使ったろ? すぐに詰ませてやる。
効果は遠からず切れる。それまで攻め続ければマリは終わる。
パラケルススは空中に浮いたまま、連続でマリに蹴りを放つ。
槍の連続突きのような風を裂く蹴りが、マリの顔、喉、胸を貫こうとする。
次々に急所を狙ってくる突きを、マリはかろうじて避け続けている。
「うっ、くっ、はっ、ふっ、うわっ・・・‼︎」
「ちょこまかと・・・とっとと死ね‼︎」
何度も蹴りを避けられて、堪忍袋の尾が切れたパラケルススは、掌をマリに向ける。それに合わせてマリは後ろに下がって杖を突き出し、杖の先に五色の極光を灯す。
その光を目にした瞬間に
「おぉらっ‼︎」
パラケルススは即座に杖を蹴り上げた。
その直後、杖の先から極光の弾丸が上空に打ち上げられる。
蹴りの衝撃が杖を通して腕に伝わり、腕に痺れを覚えるマリに、パラケルススは再度掌を向ける。
「その光には懲りてる。もう食らわねぇよ。浄化の」
そのまま光の波動でマリを消し炭にしようとした時だった。
パラケルススの腹部に、何かに貫かれたかのような激痛が生じた。
「ーーーーっ、ぐぅ‼︎」
一体何に攻撃されたのかを確認すべくパラケルススが己の腹を見ると、腹を水の矢が突き破っていた。
「殺させないよ。君には、絶対に、誰一人」
強い想いを感じさせる、静かな熱を宿す声にパラケルススが思わず振り向くと、パラケルススは自身の後方、数十メートル以上離れた場所に、水の弓を持つニンフが立っているのを見た。
この弓矢は、ただの弓矢ではない。
「抜かねぇ、とがっっっ‼︎」
刺したものの水分を沸騰させる水魔の死矢。その権能が、存分に振るわれる。
内臓、筋肉、骨、身体の至る所の熱を、無理矢理上げられる苦痛に、パラケルススは声を上げる。
その次の刹那、パラケルススの頭上で五色の光が瞬いた。
光に照らされている事に気付いたパラケルススが顔を上げると
「何だ? ありゃあ・・・」
空に、巨大な光球が浮かんでいた。
それが自分が軌道を逸らさせたマリの光弾だとパラケルススが理解すると
「五霊の月閃‼︎」
光弾の中から飛び出した色彩豊かな雷光が、曲がって、パラケルススの胸を貫いた。
全ての契約精霊と、マリ自身の全力が込められた雷槍。煌びやかな雷光に貫かれた胸から煙を上げながら、パラケルススは地面に落ち、倒れる。
ようやく、届いた。マリの意地がパラケルススを穿った。
精霊術師マリ=ガーネットは毅然とした顔で、態度で、『万象の精霊術師』パラケルススに宣言した。
パラケルススを打ち倒し、パラケルススがその魔の手の内に握る何もかもを取り返すと。
真正面からの宣戦布告に、パラケルススは
「何言ってんだ。てめぇ・・・」
烈火の如き憤怒を抱く。
パラケルススにとって、マリの一言は、千の罵詈雑言よりも耐え難く、不快極まるものだった。
「てめぇはこの俺、パラケルススに負けただろうが」
パラケルススの言う通り、マリはパラケルススに手も足も出せずに惨敗した。
醜態も、無様も晒し、心を粉々に砕かれた。
「てめぇじゃ俺に一生勝てねぇよ」
確かにそうかもしれない。
「てめぇじゃ俺には届かねぇ」
パラケルススとマリの間には彼我の力の差がある。
知識も、経験も、パラケルススの方が圧倒的に上だ。
「てめぇと俺は違うんだよ」
地力も、戦いに対する心構えも、パラケルススとマリでは大きく異なる。
パラケルススに比べれば、マリは甘く弱くまだまだ未熟だ。
「てめぇはただのゴミ。俺は『万象』を司る精霊術師だ。ゴミが俺を超えられるかよ」
ゴミと、そう言われても仕方ない。
逆立ちしても今の自分ではパラケルススを超えらない事を、マリは分かっていた。でも
「てめぇが何をした所で無駄なんだよ。てめぇじゃ」
それでも
「てめぇじゃ何も、誰も救えねぇ」
「――救って、みせるよ」
そうだとしても、今度は折れない。
勝てるまで戦い続けると、マリは心に決めた。
「エードラムも、五大精霊も、『プリエール』が閉ざされたままで困っている人達も、あなたを倒して、救ってみせる」
救いたいものがあるから。
今度こそ、次こそ、傷付けられた自分の為に本気で怒ってくれた仲間と、弱い自分を必要だと言ってくれた仲間と、優しさを強さと認めてくれた精霊の為に、自分の為すべき事を為したいから。
高い壁に、恐怖の象徴に、マリは立ち向かうと決めた。
マリの決意が固いと理解したパラケルススは、それならばと歪んだ笑みを浮かべて、揺さぶりをかける事にする。
「一番最後のもんは無理だろうな」
「どうしてそんな事」
「今、『サルジュの森』にヘルハウンドが来てる」
「え?」
聞き間違いかと思った。
パラケルススが口にした名前は、口にするのも憚られる怪物の名前だった。でも、その怪物は
「『終曲戦争』で死んだ筈じゃ・・・」
「俺が嘘を言っていると思うなら、後ろのクソ女に聞いてみろよ」
パラケルススに促され、マリが後ろにいるニンフの顔を見ると、ニンフは苦々しい顔をしていた。その表情が答えのようなものだった。
「外にいる微精霊の視界を通じて、『サルジュの森』の現況を確認した。残念ながら事実だ」
「そんな・・・」
かつて『レーヴ』を恐怖に陥れた厄災の化身が、『サルジュの森』にいる。
それはつまり、ステラやリオ、ユナにローザに『白雪の森』のメンバー、『サルジュの森』の住人が、ヘルハウンドに襲われている可能性が、その中の誰かが既に死んでしまっている可能性があるという事だ。
この事実を突きつけてやれば、マリの心は揺れる。
生意気な目をする事も、言葉を口にする事もできなくなるだろうとパラケルススは踏んでいたが
「それなら、早く勝って、戻らないと」
逆だった。
動揺を生み、集中力を乱すつもりが、マリの決意はより強固なものになる。
「なんだてめぇ? 救う気か? 助ける気か? この俺に勝って?」
「うん、勝つよ。あなたに勝って、必ず、救ってみせる。あの娘も、何もかも、全部、全部」
「私も共にね」
震えながらも目を逸らさず啖呵を切るマリを見て、パラケルススは恐喝も揺さぶりも無意味である事を悟る。
言葉の刃で斬りつけても意味はない。ならば
「ぶっ殺すしかねぇな」
物理的に傷付けて、命を奪うしかない。
本気で戦う事を決めたパラケルススだが、その前に
「お前らどっか行ってろ」
サラマンダーとノームにこの場から去るように命令する。
下された命令に対して二人は
「え? 裏切り者を、消せって命令、じゃ・・・」
「儂はまだ戦えるぞ」
疑問を呈し、反発して共に戦おうとする。
一人が負傷しているとはいえ、大精霊二人が戦力に加わろうとする事にマリとニンフは強い不安を抱くが
「馬鹿か。ずたぼろの竜と魔力が枯れきった年寄りが加わった所で足手纏いになるだけだ。いいから早くどっか行け」
その不安は杞憂に終わる。
パラケルススが指を鳴らすと、サラマンダーとノームはその場からいなくなった。
「傷だらけの雑魚のメスガキ一匹と手負いの精霊なんざ、俺一人で十分なんだよ。たわけ共が」
消えた二人に対して悪態をつくと、パラケルススはさてとマリとニンフを見据えて
「殺す。骨も残さず消してやるよ。ゴミカス共」
殺意を口にし、『錬成』の能力で自身の周囲に無数の鋭利な形状の銀の弾丸を作り出す。
パラケルススの圧倒的な気迫に、マリは思わず足が震えるが
「大丈夫」
ニンフの声を聞いた途端に、震えは止まった。
そうだ。自分は一人じゃない。だから、大丈夫だとマリは自分に言い聞かせて、パラケルススに杖の先を向ける。
「もう、負けない‼︎」
「何度やっても結果は同じだ。爆裂弾雨」
弾丸の群れが、マリとニンフに襲いかかる。
音もなく飛ぶ弾丸。それらは二人のすぐ傍までやってくると、赤橙色に輝き
「吹き飛べ」
一斉に爆発した。
重なる爆音は雷鳴のように轟き、爆風は竜の息吹の如く激しく吹きすさぶ。
爆発の余波で硝子の花々は散り、『プルメザ』のステンドグラスもがたがたと音を立てて揺れる。
「もう少し加減するべきだったか・・・」
『プルメザ』が、正確にはその内部にある『プリエール』の核である硝子の結晶――『祈望の星玻璃』が壊れてしまったら、『プリエール』内にいる全ての生物、漂う魂と精霊は永久に魔法空間に閉じ込められ、やがて朽ち果てる事になる。
『祈望の星玻璃』に傷一つ付くだけで『プリエール』には災害が発生する。
『プルメザ』付近で魔法を使うなら、加減を考え、威力を調整しなければならない。
「・・・俺はお前らみたいなクズアマと心中するのは御免だ」
「酷い事を言ってくれる」
パラケルススの低い声の呟きに、凛々しさを宿す声が応えた。
硝煙が晴れると、掌を前に突き出し、水の盾を展開するニンフの姿があった。
その傍らには目を見開くマリと、いつの間にか作られた薄い水の膜で作られた球体に包まれたシルフがいる。
全員無傷。パラケルススの攻撃をニンフは完璧に防ぎ切っていた。
「君が改心してくれさえすれば、私は君と心中する事もやぶさかではないよ。もっとも、君が死を望んだなら、私は全力で説得するがね」
「分かっていたが、やっぱり駄目か」
パラケルススは大きく舌打ちすると、瞳孔が開ききった瞳でシルフを睨みつける。
「シルフ。てめぇはメスガキとニンフを殺した後に必ず殺す」
「テオ、やめ、るんじゃ。もう」
「うるせぇ。場所を変えるぞ」
シルフの言葉を遮り、パラケルススは再度指を鳴らす。
するとパラケルスス、マリ、ニンフの三人のみがその場から消えた。
一人残されたシルフは、唇を強く噛み
「ニンフ、マリちゃん。どうか、勝って、生きて帰ってきてくれ。テオを、止めてくれ・・・」
二人の勝利と無事を、心の底から、強く、強く祈った。
「ここでなら思い切り魔法が使える。てめぇらを確実にぶち殺せる」
『プルメザ』から遥か遠くの地。
『プルメザ』の周囲と同じように硝子の花々が咲き乱れる場所に、パラケルススはマリとニンフを連れて移動した。
ここからが本当の戦い。マリとニンフは即座に臨戦態勢に入り、魔法を発動しようとする
「遅ぇよ」
が、それより速くパラケルススの魔法が発動する。
マリとニンフの周囲の地面が黄金に変化。
変化した地面から大量の棘が伸び、下方からマリとニンフを貫かんとする。
突然の事に反応できなかったマリに反して、ニンフはすぐに動く事ができた。マリに棘が突き刺さる前にニンフはマリを抱いて飛んだ。
二人共かろうじて串刺しの未来を回避する事はできたが、この戦場に安地などどこにもない。
「圧殺してやる」
パラケルススがそう言うと、虚空に無数の鉄塊が錬成され、それらが凄まじい速度でマリとニンフに襲いかかる。
ニンフはマリと共に鉄塊の暴力から逃れるべく、棘の一本を足場にして跳躍
「なんっーー⁉︎」
できなかった。
その場から離れるどころか、何かに背中を引っ張られ、ニンフは棘に背中から激突して動けなくなる。
一体何が起きているのか分からない。分からないが、鉄塊は今も無慈悲にも迫ってきて、ニンフとマリを押し潰そうとしている。
どうにかしなければ二人共致命傷を負う。それだけは確かだ。
ニンフはマリを抱く力を少しだけ強めると
「大丈夫。君は私が守る」
そう呟き、自身の中にある魔力を一気に解放して
「蒼波の円蓋」
水の半球を作り出し、自分達を包み込んだ。
鉄塊は半球にぶつかる度に硬い音を生じさせ、弾かれて地面に落ちてゆく。
ひとまずは安全だが、鉄塊の威力が想定よりも高い。たった数秒で半球に亀裂が生じ始めた。その上、鉄塊はまだ半分以上残っている。
「早く、ここから離れなければ・・・‼︎」
次々と半球に激突してくる鉄塊。
広がる亀裂を目にして、ニンフは強い焦燥感を覚えると同時にある事に気付く。
ーー背中が、熱い。黄金、熱・・・
「そうか‼︎ 岩砕きの乙女の激流‼︎」
確信と共にニンフは背から超高圧の水流を放ち、黄金の棘を撃ち砕く。
自由に身動きが取れるようになり、ニンフが背後を見ると、黄金の破片の他に鉄の破片が転がっていた。
「やはりか・・・」
黄金は熱を流すと磁力を帯びる。
サラマンダーの力で黄金を熱し、薄い鉄板をニンフの背中に貼り付ける事で、磁力を帯びた黄金に鉄板ごとニンフを接着させたのだ。
「金属の持つ性質をよく熟知している。流石は錬金術師だ」
ニンフが賞賛を述べた直後、半球が音を立てて壊れた。
二人のすぐ傍に、鉄塊がやってくる。
当たる。マリもパラケルススもそう思った時、突如として巨大な噴水が立ち上った。
「あぁ?」
地面の下から上がった噴水。
その上にパラケルススが視線を向けると、ニンフとマリが立っていた。
高い位置から見下ろされている事にパラケルススが苛立ちを覚えると同時、水の矢がパラケルススの左足を貫いた。
「ぐっ‼ あの野郎・・・‼」
貫かれた左足に鋭い痛みを感じながら、パラケルススはニンフを睨む。
目を凝らすと、ニンフが水の弓矢を持ち、矢をつがえているのが見えた。
「波紋を描く彗星の弓」
ニンフは矢を放った。
放たれた矢は疾く、一直線にパラケルススへと向かっていき、その途中で百本に分裂する。
「多いな。だが、無駄だ」
パラケルススは躱そうとはせず、百本の矢に向けて掌を向け、掌にエードラムの光の魔力を溜める。
「消しとばして終わりだ」
そう言いながら、光の波動を放ち、矢を全て消滅させようとした時、矢が突き刺さった左足を中心に、パラケルススの全身に鋭い痛みが走った。
「ぐあっ‼︎」
全身を内側から焼れるような強すぎる痛み。
それによって魔力が乱され、波動は不発に終わる。結果、防御も回避もできず、パラケルススは多くの矢をその身に受ける事となる。
「ぐっ・・・‼︎」
この矢はまずい。
抜くか消すかしなければ、とパラケルススが考えると同時だった。
またしても同じように、矢が刺さった場所から身体中に痛みが伝播した。
パラケルススに突き刺さった矢は二十本。先の二十倍の痛みにパラケルススは膝をつきそうになるが、痛みに抗って大きく跳躍する。
空中に錬成した鉄の円盤に飛び乗ると、パラケルススは全身から白光を放ち、刺さっていた矢を全て消し飛ばした。
それから下を見たパラケルススは、成る程なと呟く。
「矢が刺さった所から水の魔力を流して、それに触れた相手の水分を沸騰させるか。恐ろしい技だな」
「よく分かったね」
「食らえば流石に分かる。馬鹿にしてんのか」
「馬鹿にはしてないよ。君は凄い子だ。言うのが遅れたが、君がこれまでの事を悔い、『プリエール』を解放する気になったら攻撃をやめる。決断をするなら早くする事を推奨する」
そう言うとニンフはまたしても矢をつがえ、勢いよく発射した。
風を纏い、無音で進む矢は、先と同じように百本に分裂する。
パラケルススは既にいくつかの臓器に損傷を負っている。これ以上矢を受ける訳にはいかない。
「同じ攻撃が通じると思うな。浄化の光閃‼」
パラケルススは人差し指と中指を前に突き出し、その先から光の波動を放って、全ての矢を蒸発させる。
矢を消し飛ばした波動はそのまま突き進み、噴水の頂上に立つニンフとマリをも消滅させようとする。
エードラムと全く同じ技。その威力を把握しているニンフは、真っ先に防御の選択肢を除外し、弓矢を消して、もう一度マリを抱きかかえる。
闇を祓う光の牙に喰い殺される前に、ニンフは高く飛ぶ。あと僅かの所で死を免れた二人。引きつった顔のマリを見て、パラケルススは確信する。
――予想通りだ。メスガキにはもうまともに戦う力は残ってねぇ。さっきから汚水精霊に庇われ続けているのが良い証拠だ。
マリは一度目のパラケルススとの戦いで魔力を使い果たしている。
アゾット剣は傷は治せても魔力の回復はできない。マリの魔力は未だ枯れ切ったままなのだろう。
戦いが始まる前は随分と威勢が良い事を口にしていたが
――所詮は弱虫の小娘。強がった所で、メッキはすぐに剥がれ落ちる。それがてめぇの限界、本性だ。
「てめぇは百回生まれ変わっても、俺には勝てねぇよ。メスガキ」
怒りを滲ませるように、失望したようにそう言うと、パラケルススは円盤を操作して二人の頭上に移動する。
二人を見下ろしながら、右腕に光を纏わせたパラケルススは、マリに狙いを定め
「死んじまえ」
光の剣と化した腕を勢いよく薙いで、光の刃を飛ばす。
空中に浮かんでいるニンフは、移動する事ができなかった。
パラケルススが飛ばした光刃は、マリの顔を無惨にも斜めに両断した。
「ーーーーッ、マリ‼︎」
ニンフの悲痛な叫びが、夜色の空に響き渡る。
両断されたマリの顔。その上半分がずり落ちるのを見て、パラケルススは醜悪な笑みを浮かべる。
殺せた
「ーーと、思ったかい?」
さっきの悲しみに染まっていた声から一転。悪戯っぽい声でニンフが問いかけると、マリの死体が霧のように消えた。
「まさか・・・っ‼︎」
いつの間にか、周囲には霧が立ち込めていた。
霧る世界の幻夢。ニンフの幻。そう気付いた時には遅かった。
「私だけなら百回じゃ足りないかもしれない」
マリはパラケルススのすぐ後ろにいた。
パラケルススが振り返ろうとした瞬間、杖の先から瞬いた極光が
「五霊の耀弾‼︎」
爆裂する波動となり、パラケルススを飲み込んだ。
極彩色に煌めく波動。一筋の光と共にパラケルススは地面に激突した。
倒れるパラケルススを見て、マリは一言。
「でも、私は一人じゃないから。だから、負けない」
マリ=ガーネットは、もう折れない。
倒れたパラケルススは、血塗れの姿で痛みに呻く。
「ぐ、うぅ、クソ、がぁ・・・」
背中が、頭が、身体中がとにかく割れるように痛む。
予想外の瞬間、場所から、予想だにしなかった相手に、大打撃を与えられた。
よりにもよって、自分が散々嘲り、罵倒し、遥か格下だと思っていた相手から。
それはパラケルススにとって到底許せる事ではなかった。
「クソがよぉ。ふざけんなよ。ふざけてんじゃねぇぞ、クソが‼︎ ゴミの分際で‼︎ 情けないカス低脳のメスガキの癖に‼︎」
怒りは容易に沸点を突破し、パラケルススはその口から罵詈雑言を吐き散らす。
今すぐにマリも、ニンフも、どちらも惨殺してやりたいとパラケルススは強く思う。
「まさか、魔力を回復させていたとは・・・だが、一体どうやって・・・あぁ、そうか」
マリはニンフの微精霊とも契約している。
ニンフの微精霊を介して、ニンフ本人から魔力を受け取り、魔力を回復したのだろう。
「大精霊はやろうと思えば、微精霊を介しての魔力供給も可能だからな・・・本当に腹立つメスガキだ。弱ぇ癖に、精霊に好かれやがって・・・」
ーー絶対に殺してやる。だが、その前に
霧を晴らさなければならない。
霧が立ち込めている限り、ニンフは自由に幻を生み出し、対象の認識を狂わせる事ができる。このままではパラケルススが圧倒的に不利だ。
「ちっ、あれをやるか・・・」
パラケルススが痛む身体を動かし、ゆっくりと立ち上がった時、霧の向こう側から数十人のニンフが現れた。
一斉に向かってくるニンフ。その中に本物は一人もいないと即座に見抜き、パラケルススは空を見上げる。
マリとニンフの姿は見えない。霧に紛れて隠れているのだろう。
偽物は無視したいというのが本音だが
「そうもいかねぇんだよな。うざってぇ」
偽物のニンフも本物と同じく優先して対処しなければならない脅威だ。
偽物のニンフ達は人差し指と親指を立て、手で拳銃を作る。
全く同じタイミングで同じ動きをしたニンフ達は、指先に小さな水球を作り出し
「深愛の雫」
水球を同時に発射する。
放たれた水球は弾丸より軽く、速く、そして
「ちぃっ・・・‼」
貫通力が高い。
パラケルススは光を纏い、光速移動する事で全ての水球をかろうじて躱す。
パラケルススに当たらなかったいくつもの水球は、地面の奥深く、底の底まで突き進み、ようやく止まって消えた。
地面に開いた穴の数々から白煙が上がっているのを見てパラケルススは戦慄する。当たり所が悪ければ間違いなく死んでいた。
「まだまだいくよ」
同じ音色の声が重なって聞こえた直後、倍以上の数の水球がパラケルススに襲い掛かる。
鋼を穿つ雨。碧色の弾丸の一斉掃射の隙間を掻い潜りながら、パラケルススはニンフと同じように指先から光の弾丸を放ち、ニンフ達を一人ずつ撃ち抜いて消していく。
一人、二人、三人、十、二十。順調にニンフを消していくが、パラケルススは自分がしている事は無駄だとすぐに悟る。
一人二人と消す度に、また一人二人と新たなニンフが生まれる。消しては生まれ、生まれては消し、完全ないたちごっこだ。
――飛びやすくなるまで何人か消すつもりだったが、無理だな。仕方ねぇ。
パラケルススは被弾を覚悟で足を止め、十数発の弾丸が身体を貫通した次の瞬間に、全力で跳躍した。
弾丸が貫通した箇所からは大量の血が流れ、視界が点滅するが、怒りと憎しみの力で意識を強く保ち、パラケルススは掌を地面に向ける。
「『錬成』」
ありとあらゆるもの、空気中の分子までも金属に変える固有の魔力を発動して、パラケルススは巨大な銀色の金属の塊を作り出す。
作り出した銀色の金属塊を、パラケルススはシルフの風の力で弾いて地面に落とした。
金属塊が地面に激突すると、硝子が割れる甲高い音が響き、強風が吹き荒れる。
巻き込まれたニンフが何人か消えたが、やはり、またすぐに消えた数と同じ数のニンフが現れる。しかし
「準備は整った。サラマンダー」
問題はない。
パラケルススはサラマンダーの力で金属塊が発火し、溶けるまで熱する。金属塊をどろどろに溶かしたその後は
「ニンフ」
ニンフの力で掌から放出した水流を、燃え盛る金属塊に浴びせた。
その瞬間、鎮火とは真逆の現象、全てを無差別に吹き飛ばす水と炎の暴力、水蒸気爆発が巻き起こった。
まるで核爆発のような威力の爆発は、霧も、偽物のニンフも、硝子の大地と花畑までもを消し飛ばした。
銀色の金属塊の正体。それはアルミニウムだ。
アルミニウムの融点は六百度以上。溶けるまでに高温になったアルミニウムに大量の水をかけると、水は急激に水蒸気に変わり、水蒸気爆発が巻き起こる。
「さて、どこにいるかな。腐れ女共は」
赤い爆炎と黒い硝煙が立ち上る大地を見下ろし、パラケルススはマリとニンフを探す。
しばらくの間、顔を動かしながら二人の姿を探していると
「いやがったな」
パラケルススはマリとニンフを見つけた。
ニンフはマリの前に立ち、自身の前面に水の盾を展開している。
マリには傷一つ付いていなかった。しかし、ニンフは
「ニンフ‼」
「よかっ、た。無事、で・・・」
「私は無事だけど、でも、ニンフが・・・」
無傷ではなかった。
左腕と左顔面に著しい火傷を負い、爛れた二ヶ所から血を滲ませている。
マリを守り切る事はできたようだが、自分を守る余裕はなかったらしい。
傷だらけのニンフを見て焦るマリだが、ニンフは笑っている。マリを心配させたくないというのもあるが
「大丈夫だ。『アゾット剣』がある」
回復の手段を持っていたからだ。
ニンフは懐から刺した者の傷を治せる魔法剣――『アゾット剣』を取り出し、自身を刺して回復を図ろうとするが
「させねぇよ」
白銀の刃はパラケルススが指を鳴らすとぼろぼろと錆びて朽ち、柄頭に埋め込まれていた伝説の赤い魔石ーー『賢者の石』も色を失い風化してしまう。
唯一の回復の手段を失い、動揺するニンフとマリの前にパラケルススは舞い降りて
「てめぇみたいな盗人に悪用されねぇように、俺は俺が作り出した全ての魔道具、鉱物に自壊機能を付与してる。知らなかったのか?」
『アゾット剣』が自ずと壊れ、その機能を喪失させた理由を口にする。
「もっと早くに盗まれた事に気付いてたら、誰も回復させなかったんだが。まぁ、過去の結果を悔やんだ所で仕方ねぇ。未来に目を向けて」
と、一旦言葉を区切ると、パラケルススは閃光の如き蹴りで水の盾、その後ろにいるニンフの肋骨を粉砕する。
光を纏った蹴りをその身に受けたニンフは、胸の中で何かが折れるこもった音を聞きながら、遥か彼方へと吹き飛んでいった。
「てめぇらをぶち殺す事にする」
「――ッ、風霊の」
「うぜぇなてめぇはよぉ‼」
ニンフが吹き飛ばされた後、即座にパラケルススを攻撃しようとしたマリだったが、マリの魔法発動よりパラケルススの蹴りが速い。
右顔面を渾身の力で蹴り飛ばされ、マリは首が千切れたと錯覚する程の衝撃を受ける。
滑るように地面を転がっていくマリ。その頭をパラケルススは容赦なく踏みつけた。
「弱ぇ癖に精霊に好かれて、一人じゃ何もできねぇ癖に粋がって、歯向かってきやがってよぉ・・・‼」
「う、ううぅう・・・」
「誰かの手を借りなきゃ戦えもしない虫けらが。一人じゃ何もできない能無しが。ヒーロー気取りでしゃしゃってんじゃねぇぞ‼︎」
マリを激しく罵倒しながら、パラケルススはマリを踏む足の力を強める。
頭蓋骨を潰されそうになり、底無しの恐怖を感じながら、それでもマリは
「・・・雷精の裁き」
抗った。
グロームの力でパラケルススに頭上から雷を落とし、パラケルススに雷を直撃させる。
まともに雷を受けたパラケルススの身体は、ほんの一瞬だけ痺れと痛みで硬直する。その隙にマリはパラケルススの脚を払い除けて立ち上がり、パラケルススと距離を取る。
「とことんムカつくなてめぇはよ。結果が分かってるのに抗いやがって・・・すぐに殺してやるよ」
パラケルススは地を蹴り、マリに飛びかかった。
首に全力の蹴りを叩き込み、頚椎をへし折る。それで終わりだ。
パラケルススが繰り出した、殺意が乗った全力の蹴り。受ければ肉が弾け飛ぶ一撃は、盛大に空振りした。
「は?」
マリが避けられた事が信じられず、パラケルススは強く驚愕する。
ニンフでも避けられなかった一撃を、何故マリ如きがーーと考えていると、パラケルススはマリが身体に薄い水色の燐光を纏っている事に気付く。
ーー水色の光‼︎ そうだ。こいつはサポート魔法も使える。速度上昇と動体視力上昇の魔法を重ねがけしやがったな‼︎
サポート魔法は重ねがけする事でその効果が倍増する。
中級か上級のサポート魔法を重ねがけしたのだろうが、そのようなサポート魔法の使い方をすれば魔力の消費は大きくなる。
ーー避け続けるのにも限度がある。魔力だって半分以上使ったろ? すぐに詰ませてやる。
効果は遠からず切れる。それまで攻め続ければマリは終わる。
パラケルススは空中に浮いたまま、連続でマリに蹴りを放つ。
槍の連続突きのような風を裂く蹴りが、マリの顔、喉、胸を貫こうとする。
次々に急所を狙ってくる突きを、マリはかろうじて避け続けている。
「うっ、くっ、はっ、ふっ、うわっ・・・‼︎」
「ちょこまかと・・・とっとと死ね‼︎」
何度も蹴りを避けられて、堪忍袋の尾が切れたパラケルススは、掌をマリに向ける。それに合わせてマリは後ろに下がって杖を突き出し、杖の先に五色の極光を灯す。
その光を目にした瞬間に
「おぉらっ‼︎」
パラケルススは即座に杖を蹴り上げた。
その直後、杖の先から極光の弾丸が上空に打ち上げられる。
蹴りの衝撃が杖を通して腕に伝わり、腕に痺れを覚えるマリに、パラケルススは再度掌を向ける。
「その光には懲りてる。もう食らわねぇよ。浄化の」
そのまま光の波動でマリを消し炭にしようとした時だった。
パラケルススの腹部に、何かに貫かれたかのような激痛が生じた。
「ーーーーっ、ぐぅ‼︎」
一体何に攻撃されたのかを確認すべくパラケルススが己の腹を見ると、腹を水の矢が突き破っていた。
「殺させないよ。君には、絶対に、誰一人」
強い想いを感じさせる、静かな熱を宿す声にパラケルススが思わず振り向くと、パラケルススは自身の後方、数十メートル以上離れた場所に、水の弓を持つニンフが立っているのを見た。
この弓矢は、ただの弓矢ではない。
「抜かねぇ、とがっっっ‼︎」
刺したものの水分を沸騰させる水魔の死矢。その権能が、存分に振るわれる。
内臓、筋肉、骨、身体の至る所の熱を、無理矢理上げられる苦痛に、パラケルススは声を上げる。
その次の刹那、パラケルススの頭上で五色の光が瞬いた。
光に照らされている事に気付いたパラケルススが顔を上げると
「何だ? ありゃあ・・・」
空に、巨大な光球が浮かんでいた。
それが自分が軌道を逸らさせたマリの光弾だとパラケルススが理解すると
「五霊の月閃‼︎」
光弾の中から飛び出した色彩豊かな雷光が、曲がって、パラケルススの胸を貫いた。
全ての契約精霊と、マリ自身の全力が込められた雷槍。煌びやかな雷光に貫かれた胸から煙を上げながら、パラケルススは地面に落ち、倒れる。
ようやく、届いた。マリの意地がパラケルススを穿った。
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