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112.サーシャが瘴気の洞窟に魔力を取りに来ました

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いよいよ、サーシャが魔力を取りに来るんだわ。ルーサ様は完璧だからばれないとは思うけど分身がばれないかちょっとだけ不安よね。いまは魔道具の映像を皆様と一緒に私とアーサーまで見ているの。本当に大勢で見ているの。ルーサ様のご両親とルナのご両親でしょ、それにルーサ様に国王陛下にルド、それからブロッサに宰相様にシルバーにルナ。まだいるわよ、リック様にレッドにそして、お父様と、お兄様まですごい人数よね。
「来たわ。」
ブロッサの声にみんなの緊張が高まったわ。サーシャはやっぱり、体の調子が良くないんじゃないかしら?青白い顔をしているわ。
「半年ぶりだね。さぁ、魔力を私に渡しな。魔力が少なくてつらいんだよ。」

サーシャがそう言った途端、魔力が魔道具からサーシャに流れていくのが私にもはっきり見えた。なんで目で見えるのかしら?首を傾げているとお兄様が、僕が水晶に魔道具のカバーをかけたんだよ。このほうが分かりやすいでしょうって小さな声で答えてくださったわ。お兄様は本当になんでもできるのね。四体の分身からすべての魔力を吸収すると、
「流石、ルナの魔道具だ、いい仕事をしてくれる。これなら、あと一回貯めれば十分だね。半年後また来るよ。そうしたら、ブロッサの魔力を奪ってやろうじゃないか。多くの人質をとって、数人見せしめに殺せば、あの子も動けやしないだろうよ。人間のくせに、予言の女神だなんて生意気なんだよ。その次はマリーだったかね。あの生意気な小娘の魔力もそのうち奪ってやるよ。いまは魔力の道が狭まっているから無理だけどね。みんな後悔すればいいんだよ。」
そう言って転移魔法で消えてしまったわ。

「なにを好きかって言っているのよ。むかつくおばさんね。許さないんだから…。」
ブロッサがものすごく怒っているわ。私だって許さないんだから。あら、お兄様の頭から湯気が出ているわね。
「お兄様の頭から湯気が出ています。」
「マリー危ない。ルーサ殿。」
「あいよ。隔離結界。」
どかん!
「えっ?お兄様大丈夫ですか?お兄様、返事をして下さい。」
「マリー、マルクは自分の身は自分で守れるから安心しな。」
「ルーサ様、本当ですか?相当な衝撃でしたけど。結界の中はいまだに煙でなにも見えませんし不安です。」
「じゃあ、結界を解除するよ。」
私は慌てて煙の中に入って行った。
「お兄様、大丈夫ですか?」
「ああ、マリーびっくりさせちゃったね。ごめんよ。すごく腹が立ってしまったから、魔力暴走しちゃったよ。いつものことだから安心してね。ルーサ殿ありがとうございました。」

「ああ、構わないよ。サーシャの考え方も変えられるといいんだけどね。 まあ、裁判にかけられて首輪をかけられたら、魔力は人間の平民くらいしか出なくなるし、姿も子供の頃に戻る。そうなったら魔力の弱い者の気持ちや、暴走してしまう者の気持ちが少しでも分かってくれるといいんだけどね。ちなみにマルク、この程度の魔力暴走なら魔族では赤子より少ないから誰も傷つきもしないから安心しな。」
「そうなんですね。それは安心しました。サーシャに首輪を付けた後はどこで暮らしてもいいんですか?」
「ああいいよ。」
「では僕が助手として雇います。悪いことは悪いと僕が教えます。」
「えっ?お兄様にそれはちょっと無理じゃないかしら?」
「なにを言っているんだい?マリーをこんな天使に育てたのは僕だよ。僕にできない訳がないだろう?」
「お兄様、私を育てて下さったのはお母様とお父様ですわ。お兄様は私の我がままをすべて聞いてくださっていましたよ。」
「そうだったかな?でも大丈夫だよ。だめなことはだめってそれくらい僕だって言えるから…。」
「そうでしょうか…。」
絶対に言えないと思う私は間違っているのかしら?お兄様は本当にお優しいから。

そのあとはまた、例の魔道具を回収して、お兄様とルナとシルバーが壊れていないか確認し、ルーサ様たちが魔力と瘴気の混ざった物を魔道具に詰め込んで、分身につけて戻していたわ。その間ルドやブロッサ、国王陛下は卒業パーティーに備えて打ち合わせをしていたわ。私は邪魔にならないようにルーサ様のお父様にお話を聞きに行ったわ。
「お久しぶりです。ルーサ様のお父様。お兄様が卒業したら霧の谷に行きたいと言っておりました。そちらの魔力暴走を止めたいのだとか?私はお兄様がずっといないのは淋しいので転移陣でブラックリリー公爵家を繋いでもらうことは可能ですか?」
「もちろんだよ。その話はマルク君からも聞いているからね。安心して欲しい。三千人近くいても魔力をきちんと扱える者が十人ではどうすることもできなかったんだよ。結界を張るにも広すぎるし、だからと言って家と家がくっついて生活すれば魔力暴走がおきた時に大変なことになるし、かかわりを持てばどうしても感情の起伏が生まれるしね。だから魔族はできるだけ孤独に生きるんだよ。目立って魔力暴走に会うのも怖いからおしゃれな服も着ないし、店屋で気楽に食べることもできないんだよ。これが静かに暮らす本当の理由だよ。でも多くの魔族がそれを隠している。だから病気で亡くなったと嘘をつくんだ。魔力暴走は魔族の恥だと思っている者も多いしね。それに魔力暴走は魔族でも怖がられるしね。それは人間の世界でも同じみたいだね。」

私はちらっとアーサーの方を見た。アーサーは平気そうな顔をしていたけど、絶対心を痛めているわよね。お兄様はきっとアーサーの小さい頃と魔族の人が被って見えたのね。どこまでも優しいお兄様だわ。
「そして、その十人というのが私と妻と、ルーサ、それから、サーシャの家族の四人と長老の家族の三人だけだよ。」
「だから、私にも責任があるんだよ。きちんとサーシャの家族にも話しておけばよかったのかもしれない。でも、その当時は魔力の強さがすべてだと思っているのは知っていたから、魔族の仲間に何かするのではないかと思うと、恐ろしくてとても言えなかったんだよ。いまは言っておくべきだったと後悔しているよ。」
「そういう事だったんですね。よく分かりました。」
なんとなく、もやもやしていたことが分かってすっきりしたわ。とりあえず、誰も怪我せずにサーシャを捕まえてからね。


  
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