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37.ブロッサside

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【ブロッサside】~前世を思い出して~

村で唯一のお祭りの日、私は仮病をつかって家にいた。みんな、よく働くわね。私の母さんも、父さんが魔獣に殺されてから一人で私を育ててくれているから感謝はしているけど、ほんとに口うるさくて。でも本当は、私が病気した時とかすごく優しいから、普段は文句ばかり言っているけど大好きなのよね。シングルマザーって本当に大変よね。あれ?ちょっと待って、シングルマザーって何だっけ?ああ、そういう事。色々と納得だわ。ずっと違和感があったのよね。ピンクの髪とか、魔法とか。私は突然前世の日本人の記憶を思い出した。そしてすんなり受け入れた。

前世の私は日本の高校三年生の女の子だった。そこまでしか記憶がないから、たぶんあの大地震で死んじゃったのね。私には一つ下の妹がいて、美少女姉妹何て言われてたけど、私にとって、唯一心を許せるのが妹だった。前世も家はシングルマザーで、ママは忙しかったから、私は散々告白されてモテまくっていたけど正直あんまり男の子と遊んだ記憶はない。いつも私は妹と二人で家事を分担して生活していた。妹はちょっと変わっていて、テレビも見ずにいつも家でゲームばかりしていた。それもママの友達が作ったとかいう乙女ゲーム。お金がないからゲームなんてそれくらいしかなかったけど、『ラブリー魔法学園のハッピーマジック』一回目は一緒にやったわ。流石に何回もやる気にはなれなかったけど。あみちゃん(妹)は飽きずにいつもやってたわね。

だけど、あみちゃんは攻略対象者に興味がなくて、何故かヒロインの肩にいつも乗っていた金色の小りすが好きで。あみちゃんに会いたいな。お姉ちゃん大好きっていつも言ってくれて、どんなにご飯を失敗しても美味しいって食べてくれてた。何回もお姉ちゃんはヒロインみたいに優しいねって言ってくれたけどそんなことないんだよ…。他の友達みたいに遊びに行って、家事なんてしたくないっていつも思っていたし、男の子に微笑んで掃除当番何回も変わってもらって早く帰ってきてたし、昼ご飯も何度もご馳走してもらったっけ。本当は結構ずるいお姉ちゃんだったんだよ。それでもあみちゃんなら許してくれそうだけど。

そのゲームのヒロインの名前がブロッサだったわ。どう見たって、私がブロッサじゃない。見た目そのものだもの。ふわふわのピンクの髪に、ピンクの瞳…。ゲームの内容もイベントもバッチリ覚えているわ。母さんには適当に説明して、平民街に行かなくっちゃ。私はもう十五歳だから、はやり病が流行っているはず。早く治しに行って、攻略対象者に会って、母さんをお金持ちにしてあげるわ。村長さんが貴族の人は何もしてくれないって言ってたからその人たちからお金を取ってきて、この村の人にも贅沢をさせてあげるわ。だってここの村の人達は本当にいい人達なんだもの。父さんが死んでからもすごくよくしてくれて…。そうと決まれば急がないと。

何だか外がうるさいわね。
「ブロッサ、大変だ。魔獣が出て、お前の母さんが重傷だぞ!」
私は慌てて母さんのところまで行った。初めてだけど、光魔法を使おうと思ったのに、間に合わなかった。
母さんは私にいつもうっとうしいくらいの愛情をいっぱいくれた。死なないでよ。
最後に母さんは、
「必ず、幸せになるのよ。ブロッサが生まれてきてくれて嬉しかったよ。」
って笑顔で私に言って息絶えた。

母さんと一緒に幸せになりたかったのに。母さんの葬式が終わって、私は母さんのお墓の前で誓った。
「母さん、安心して、私はヒロインのブロッサなの。だからあなたの娘は必ず幸せになれるのよ。どれだけでも贅沢できるし、愛情だってもらいたい放題よ。母さん、私出かけるね。幸せになって、必ず母さんに報告するから待っててね。」
私は平民街の中にある救護院を目指して歩き出した。


ゲームで見たことのある建物の前にきた。今まで字なんて読めなかった気がするけど、今は、はっきり分かる。
「救護院…ここだわ。」
中に入ろうとすると、門番のおじさんに止められた。

「お嬢さん家族に会いたいのかい?中には入れないんだよ。」
「違うわ。私は光魔法が使えるから、お手伝いに来たの?」
「お嬢さん、嘘はいけないよ。」
「本当よ。おじさん、これを見ていて。」

もともと簡単に信じてもらえるなんて思っていなかったから、ちゃんと花を摘んで、用意してきた。いい具合に萎れているわ。花に手をかざすときらきらと光って、花が元気をとりも出した。
「すごい。」
練習してきて良かったわ。
「これで信じてくれます?」
「ああ、すまなかった。ちょっと待っていておくれ。」

ここに来るまでに、何度か練習してみた。一度目から成功していたけど、最初よりも輝きが強くなっているわ。
その後はとんとん拍子に話が進んで、その日のうちに治療が開始になった。二日目にはなんと王太子殿下と宰相の息子が救護院に来たと聞いた。本当にこの世界はゲームの中なんだと確信した。とりあえず、はやり病が終息してくれないと、ラブ学での話は始まらないから光魔法を頑張った。三日目には私に王太子殿下と宰相の息子が会いに来た。
王宮にでも行くのかと少し浮かれたけど、まぼろしの薬?を作るように言われた。ゲームで出てきた偶然できたとかいう薬を思い出した。やっぱり、ゲームの世界なんだわ。

そう言えば昨日おばあさんがこんな感じの液体を飲ませていたわね。ご丁寧に一人ずつ声をかけて。薬が足りないのかしら。まぁいいわ。私はヒロインなんだから作れるに決まっているじゃない。一滴、手のひらに垂らして、同じものを作りたいって思っただけで薬は簡単にできてしまった。本当に何でもありね。
すぐに作ってあげたのに、お礼だけ言って帰ってしまった。ゲームだから一つずつクリアーしないと進まないのかしら?ゲームでもこんなに早く王宮には行ってなかったしね。

えーと、まずは治療をして、薬を作って、次はチェリー男爵に会って、養女になるのよね。ちょっと面倒くさいわね。とっとと王宮に連れて行ってよ。まぁシンデレラストーリーって分かっているんだからすべてのイベントを楽しまないと損かしら?大変なのは最初だけだしね。ラブ学入っちゃえば、あとは楽しいイベントだらけだったわよね。だってゲームはそこから始まるんですもの。いまはまだプロローグの内容だもの、我慢ね。母さん、私、うーんと贅沢できる人と結婚して、母さんが愛した村もよくしてあげるからね。

本当は苦労知らずの、裕福な貴族の令嬢や令息なんて大っ嫌いだけど仕方ないわ。前世でも、ちょっと私が微笑めば大抵の男の子は優しくしてくれたし、私はヒロインなんだから簡単よね。貧しいあの村の人たちを助けてあげたら、絶対に天国の母さんは喜んでくれるもの。私頑張るから母さん天国から見ていてね。

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