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25.まぼろしの薬に挑戦します

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馬車を降りた途端、甘い香りが漂ってきて、辺り一面カサブランカの花園だった。
「わぁ~素敵。すごくいい香り。」
夢と同じ香りだわ。それに白い絨毯みたい…。
荷物はサリーに任せて、私たちは、そのままシルバーの研究所に行った。そこにはシンプルな白い箱型の建物があって、私の夢とは違うような気がした。

「うーん、夢と何か違うような…お花畑の中にテーブルだけある感じで。」
「マリー大丈夫だよ。中に入れば分かるよ。」
「そうなの?」

シルバーの言う通りだった。中に入ると建物の壁、床、天井すべて中からは透明で、まるで外にいるみたいだった。そこには木の小さなテーブルが一つ。
「すごい。夢の通りだわ。」
「そうでしょ。話を聞いた時は、僕もびっくりしたんだよ。この建物のことは、ルドも知らないことだから。」
「俺も、びっくりしてるよ。本当に花畑の中に小さなテーブル一つだな。マリーの言ってた通りだ。」
「そしてこれがカラスの瓶。」

「これ、夢と全く同じ。こんな形の瓶が本当にあるなんて。」
「そうでしょ。だから、信じて当然なんだよ。」
シルバーが安心させるように優しく笑ってくれた。
ルドが何だか難しい顔しているけど、どうしたのかな?

「さぁ時間がないよ。まずはみんなでカサブランカの花びらを取りに行こう。」
「そうね。」
カサブランカの花はユリが大きくなったような感じの花で、その花びらに私がちょろちょろと魔法の水を添わせて、瓶の中に入れていたのよね。そんなことを考えながら、一人、二本ずつお花を摘んできた。

「花びらはどんな感じで瓶に入っていたの?」
「ほとんど瓶からはみ出して挿してある感じだったよ。そこに、私が、花びらを伝って、魔法の水をちょろちょろ入れていく感じ。」

「なるほどね。それで、まずはどんな塩水を想像するか決まっているの?」
「うーん、まずはルドの言っていた海水で、それでだめなら、水に塩を加えたイメージで濃度を変えてみようかと。」
「そうだね、とりあえず、そこまでやってみようか。」
「うん。まずは、海水ね。海の水、集中、集中。」
瓶自体は大きくないけど、私の方もちょろちょろしか出ないからこれは相当時間がかかりそうね…。

「結局ピンクになってくれなかったわね。海の水ではないのね。あっ、ルドなめちゃだめよ。」
ルドが失敗作なのに、舐めちゃった!
「しょっぱすぎ!海水じゃなかったみたいだ。子供の頃はすごくしょっぱいと思ったんだけどこんなにしょっぱくなかったな。」
私も舐めてみた。すごくしょっぱい。これよりもしょっぱくない水を想像すればいいのね。

私はこの後、少しずつ薄い塩水を、三種類作ったけど一つもピンクにはならなかった。
「結局、ピンクにならなかったわ。」
なんだかくらくらしてきたわね。これはまずいわ。
「マリーちょっと休もう、ほら、フルーツジュースだよ。」
「シルバーありが…………」
私はフルーツジュースを飲みながら、いつの間にか、シルバーにもたれかかって、眠ってしまった。

「おい、何でシルバーの横で寝ているんだよ。」
「折角寝ているんだから、起こしちゃ可哀そうだろう。」
「まぁな。シルバーちょっと聞いて欲しい話があるんだけど、いいか?」
「ああ、いいよ。丁度、動けないし、大体想像つくからね。」
「流石だな。確信が持てなかったんだけど、マリーは予言の女神なのか?」

「分からない。でも、もしそうだとしたら、これからこの国は千年に一度と言われる魔獣の襲来を受けちゃうんだろう?」
「ああ、『千年に一度の魔獣(ラムル)現る時、予言の女神現る』だったよなー。って言うかなんで、王族しか知らないはずの情報知っているんだよ。」
「そんなもん、ルドとよく王宮の図書室でかくれんぼしただろう?その時禁書の所でかくれてたんだよ。」
「隠れてたんじゃなくて、読んでたんだろうが…。まぼろしの薬のことも知ってたし。」

「大きな声出すなよ。起きちゃったじゃないか。」
「あれ?ごめんなさい。私寝ちゃったのね。」
「いいよ。気にしないで、すごく疲れたんだよ。そろそろ帰ろう。」
「もう一つだけ作ってみてもいい?ずっと気になっていることがあって。」
「もちろん、いいよ。」
「俺も、いくらでも付き合うよ。ただ、無理はするなよ。」
「二人ともありがとう。」


外が暗くなってきているのは知っていたけど、どうしても気になるものがあったから。
私は一生懸命想像した。悲しい悲しい涙を、夢の中で、ゲームの中のマリーがお兄様を救えなくて流していた、とても悲しい悲しい涙を…。
「あっ?!ピンク色になった!すごいよマリー!ルドこれかい、君が飲んだのは?」
少しずつ少しずつ花びらを伝って瓶の中に入っていく涙、その悲しい涙が半分を過ぎたころ、カサブランカの花が輝き始めた。とても優しく輝きながら涙に溶けて、鮮やかなピンク色に変わった。」

「「違う」」
私とルドの声が重なった。
「「色が濃い。」」
また二人の声が重なった。そう、色が濃すぎるのだ。ルドがまた勝手に舐めている。お腹壊しても知らないから。
「味はこれだと思う…。たぶんこれで間違いない。これは何を想像したんだ?」
「これは、悲しい、悲しい涙を想像したの。」

「「涙……。」」
私は手掛かりが掴めてほっとした。涙で合っていたのね。(ゲームの中のマリー)ヒントをくれてありがとう。私頑張るからね。



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