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11.アーサーが言うには私は全属性の使い手だそうです

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「マリーは魔法の天才だと思うよ。たぶん、全属性使えるよ。」
「そうなの?!」
「無意識にピンチの時に使っているって感じだったけどね。」

「もちろん、自分でコントロールして使えないといけないけど。全属性の使い手であることは間違いないと思うよ。僕も天才なんて言われているけど、光魔法は使えないんだ。マリーは本当にすごいよ。」
「えーと、アーサー、私にも分かるように説明してくれる?なんで私が全属性の使い手って思ったの?」

「そうだよね。まずは一番知りたいと思う光魔法だけど、それに気付いたのはマリーと初めて会った時なんだ。マリーは生まれたばかりの赤ちゃんだったんだよ。僕はあの時小指に切り傷があったんだけど、マリーが小指をぎゅっと握ってくれたら急に温かくなってかすかに光ったの。とても優しい気持ちに包まれて、びっくりしてたら傷が無くなっていたんだよ。でもその後、マルクが怪我をした時にマリーの所に連れて行ったんだけど治らなくて…。」
「・・・なんだか、ごめんなさい。」
「違うよ、だから無意識でコントロールできないのかなって思ったんだよ。次は黒魔法だけど、マリーは家庭教師の人たちに無意識にかけちゃってたんだ。僕も使えるから分かるんだけど、これもまた出てるか出てないかくらいのゆるい魔法で、大抵一時間の授業が五十分になるくらいなんだよ。たぶん先生たちも気付いてないよ。」
「確かに家庭教師の先生たち、毎回疲れた顔して少し早めに帰って行ったわね。あれ、私が原因だったのね。」
 なんだか全属性って聞いた時の興奮が冷めていくわ。

「次は火魔法、これはちょっとびっくりしたんだけどね。前に三人で遊んでいて急に雨が降ってきて、一晩洞窟で過ごしたことがあったでしょ。」
「ええ、覚えてる。真っ暗で寒かったから。」
「そう、そう。真っ暗だったから、マルクが枝を集めに行って、僕がマリーのそばで待ってたでしょ。」
「ええ、アーサーの炎の玉がすごく綺麗だったわ。」
「そうだね、でも流石に一晩中は僕でも無理だし、明るいだけで温かくはならないからね。」


 アーサーが、なにかを思い出したように、くすりと笑った。
「マルクが枝を集めて戻ってきたんだけど、そこでマリーがくしゃみをして、一言、遅いって言ったんだ。そうしたらマルクの持っていた枝に火がついてね、マルクにアーサー危ないだろって言われたんだけど、あれ僕じゃないんだ。」
「えっ!そこの記憶がないわ!」
「うん、僕にもたれて、うとうとしだしてたからね。だから無意識に近いんじゃないかと思ったんだ。」
「えっ!あぶなっ!」
「うん、僕もあの時は驚いたよ。」
 アーサー…笑ってる場合ですか?!心が広いのにも限度があるわ。

「次は何だっけ?水かな?水魔法はカエルだよ。」
「カエル?」
 もう意味が分からなくなってきたわ。なんだか嫌な予感もするし…。
「うん、泳いでいるカエルなんて、そうそう捕まえられないよ。」
「たしかに。」

「あれね、一瞬凍らせて仮死状態にしているんだよ。それもたぶん心臓だけね。」
「こわっ!」
 私はすでに悪役令嬢だったのね。
「それもたぶん他の魔法と同じで弱い弱い出ているかどうかの魔法なんだけど、カエルの心臓だけだから十分なんだろうね。ある意味すごいコントロールだよ。」

「アーサー、よく私のこと怖いとか、気持ち悪いとか思わなかったわね。」
「なんで?マリーは僕が想像もできないことをいつもしてくれて、僕の心をあったかくしてくれたんだよ。本当だったら僕の方こそ、ずっと笑うことも、怒ることも、すべての感情を二歳で捨てていたんだから。」
許すまじ、アーサーのお母様。

「最後は風だね。風魔法は得意かもしれないよ。木登りして、上から飛び降りるでしょ。その時マリーだけ、なんの衝撃もなく音もなくふわりと降りるでしょ。あれ、風魔法を一瞬使ってふわっと降りてるから。」
「・・・・・・・。」
「ほらね、全部使えているでしょ。」
「そうみたいね。」
 とっても微妙な気はするけど、使えるということは希望が持てるわよね。

「たぶんマリーは、自分で使える魔力量を増やせたら、あとは感覚でできちゃう天才なんじゃないかと思うんだよね。」
「それは流石にないと思うんだけど。」
「そうかなぁ。無意識でコントロールできちゃうんだよ。僕はあり得ると思うんだけどね。」
「なんだか私って、天才なのか…天然なのか。」
「マリー、なんか言った?」
「なにも‥。」

「それじゃあ食堂に戻ろうか、魔力はものすごく体力を使うからね。しっかり食べて、しっかり寝て、明日に備えようね。」
「ええ、よろしくお願いします。」
「マリーに敬語で話されると変な気分だよ。」
「だって、しばらくの間は私の魔法のお師匠様でしょ。だから、遠慮なくビシビシ教えてくれないと困るのよ。私、絶対にお兄様を助けたいの。」

「そうだね、わかったよ。マリーの願いは必ず叶えなくっちゃ。僕も心を鬼にして、マリーのことは弟子だと思って頑張るよ。雑念は魔力を乱すものね。」
 そうだった。『雑念は魔力を乱す』魔法学の一番最初の言葉。私も恋心をしばらく封印します。
 絶対にお兄様を助けるんだから!

「でも、それは明日からだよ。今日はマリーをうんと甘やかしてあげたいんだ。僕がお姫様抱っこで食堂まで連れて行ってあげたいし、ご飯も僕が食べさせたい。できることなら、僕の膝の上で!ゲームのアーサー様に負けたくないんだ!」
「えっ!アーサーは負けてないから。そんなこと、ゲームのアーサー様もしていないし、それに、恥ずかしくて無理。二人だけの時で許して。」
結局、食事は部屋に運んでもらい、私はアーサーの膝の上で顔を覗き込まれながら食べさせてもらったの。たしかに二人っきりだったけど…。めちゃくちゃ恥ずかしくて本当に死ぬかと思ったわ。このままだと心臓がもちそうにないから、恋心を封印して命拾いしたかもしれないわね。




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