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幼馴染とデートしながらダベるだけのお話
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「久しぶりの再開を祝って……乾杯!」
「いきなり飲みすぎだ理沙。ただでさえ酒癖悪いんだから」
「わかっとるちゅうの。優作は口うるさいんやから」
「どうだか。学生時代に何度介抱したことか」
「ぐ……そういうのは思い出さんでもええ!」
「理沙の弱みだ。死ぬまで覚えてる自信があるぞ?」
「ま、ええわ。それより久しぶりの日本はどうや?」
「スイス、フランス、ドイツと色々回ったけど日本が一番だな」
「その『国際人です』て言いたげな物言いがムカつくわ」
「事実を言っただけだろ。悔しいなら今度一緒に海外旅行しようぜ」
「考えとくわ……英語でけへんから通訳は頼むわあ」
「了解。ま、英語だけで全部いけるわけじゃないけどな」
「そうなん?」
「フランスだと仏語しかしゃべらん人も多いし、ドイツも地方によるな」
「さすが国際人。英語だけだと駄目なんやね」
「ま、英語出来ればだいぶ楽になるのは確かだけどな」
「そういえば工業機器メーカーってどういう事やっとるん?」
「色々だな。マザーマシンって知ってるか」
「なんか横文字だけでわからんことはわかる」
「ふっ」
「なんか鼻で笑われた気がするんやけど」
「自意識過剰だな。要は機械を作るための工作機械だ」
「はしょり過ぎやっつうの」
「理沙だって普段から色々機械使ってるだろ」
「まあ、今もスマホ持っとるしな」
「そういう機械がどうやって作られるか考えたことあるか」
「言われてみれば考えたことなかったわ」
「正解は、そういうのも機械が作ってるんだ」
「ウチには縁が遠い世界やっつうのははっきりわかったわ」
「お前が使ってるスマホの部品にくらいは関わってると思っといてくれ」
「よーわからんけど、優作が凄いことはわかったわ」
「理沙だって十分凄いと思うけどな」
「理沙はユニシロから独立して、フリーランスやってるんだよな」
「そうなんよ。ウチにはどうも大企業はあっとらんみたいでなあ」
「なんかの服を作って確か売ってたんだっけ」
「お人形さん用の服やね。ああいうのこだわる人おるねん」
「あー、想像だけど、たしかにこだわりそう」
「で、手先が器用なウチの技術を生かして完全受注生産っちゅうわけや」
「何気なく言ってるけど、割と凄くないか?」
「言うても、ミシンで適当に縫い合わせてるだけよ」
「裁縫苦手な俺にしてみれば、異次元の世界だよ」
「今度ウチくればわかるで」
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「しかし、紅葉狩りのお誘いとか驚いたが、なかなかいいな」
「そやろ。ウチはこの公園の紅葉お気に入りやし」
「景色をしみじみと楽しめる辺り、お互い歳食ったよな」
「言うてもまだお互い32歳。まだまだいけるっちゅうもんやで」
「もう32歳と言いたい気分だけどな。でも、会社の中では俺も若造だしな」
「前に昇進したって言っとらんかった?」
「まだ課長クラスだしな。ようやく中間管理職の仲間入り」
「上からも下からも色々言われて板挟みっちゅうイメージあるけど」
「大体当たってる。上はいいんだけど、下は案外好き勝手言ってくれるし」
「優作も大人になったんやなあ」
「なんで頭撫でてるんだよ」
「偉い偉いのつもり?」
「ありがたく受けとっておくよ」
「そういえば、小学校の頃の事思い出したんだけどさ」
「うん?」
「いや、理沙はその頃から裁縫が好きだったなって。だから天職なのかもな」
「そこまで好きやったかなあ……」
「放課後、家庭科室でいつも熱心になんか作ってたぞ」
「あ、そういえば。時々優作が顔だしてたんよね。懐かしいわあ」
「無言でミシンでなんか縫い続けてたのは、妙な凄みがあったな」
「花の乙女捕まえて凄みとか……」
「アラサーで花の乙女とか……やめとくか」
「そやね。歳を意識する会話は良くない!」
「ところでさ。理沙は付き合ってる男とか居ないのか?」
「お生憎様。ユニシロ時代ならともかく、フリーランスだと出会いもないんよ」
「お得意様とかに惚れられた経験ないのか?外見年齢が-10歳くらいだろ」
「微妙におだててくるのがキモいんやけど。たまにあることはあるわ」
「お。やっぱりあるんじゃないか。そこんとこ詳しく」
「気まずい話よ。ウチの場合完全受注生産やから、直接お宅訪問するんやけど」
「それはそれで苦労しそうだな。普通に発送すればいいんじゃないか?」
「お得意様と懇意にするんも次の仕事取ってくるために必要なんよ」
「フリーランスだとそういう苦労もあるんだな。で?」
「お得意様も独り身の人多くてやな。お茶でもどうぞとかよー引き止められるんよ」
「場合によっては身の危険感じそうなシチュエーションだな」
「ウチもお客様は選んどるから。ただ、ラインで毎朝『おはよう』とかは……」
「それ、明らかに気がある反応だな。どう返してるんだ?」
「変なこと言ってくるわけやないし、『おはようございます』のスタンプ返しとる」
「変に過激な行動に出たら俺に相談しろよ?」
「お?優作なりに心配してくれとるん?嬉しいわあ」
「長年の友だしな。そのくらいお安い御用さ」
「そういうのさらっと言えるから高校の頃とかモテたんやろな」
「別に言うほどモテたとは思ってないけどな」
「ケッ。女子に誘われてよく遊びに行っとった癖に」
「何不貞腐れてるんだよ」
「別にー?モテモテなお方は羨ましいですなあっていうだけよ」
「いやいや。別に二人っきりになったこととかないし」
「別に付き合ったことはないとでも?」
「マジで無いぞ。好いてくるのがどうにも合わない子ばっかりだったし」
「出た―。やっぱりモテてるの自覚しとるんやないの!」
「待て待て。話を聞け。こっちが好きになれなかったら困惑するだけなんだって」
「持てる者の悩みっちゅうやつやな。これだから上流階級の方々は」
「逆に聞くけど、理沙だって高校時代とか結構モテてた方だろ」
「言うても好いてくる男は大体合わん奴やったけどな」
「どっちにしても、理沙がモテてた事実には変わらないだろ」
「その言葉そっくりそのまま返すわ」
「正直な話。俺らも結婚考える歳になったけど、そこんとこどうなんだ?」
「……ええ人がおったらなあ」
「なんか微妙に動揺してないか?」
「動揺なんかしとらん!」
「だから痛いって。やっぱり動揺しまくってるだろ」
「だから動揺しとらん!」
「わかったって。でも、見た目だけ若いボディを前面に出せば色々イチコロだろ」
「『見た目だけ若い』とか喧嘩売っとる?」
「イテっ。だって、肉体は女子大生並でも心がなあ……」
「まあ、否定はせえへんけどな。とにかく、ええ人がおればな」
「なんでこっちを見てくる?」
「なんでもないわ!」
「ちゅーか、優作の方こそ結婚考えとらんの?海外とか現地妻作りまくりやろ」
「なんだそのロクでもない発想。ないない」
「金髪碧眼の美女に迫られたりとかありそうやん」
「ないない。金髪碧眼の美女とか街中にそんなにいなかったし」
「ほんまにー?」
「なんで疑うんだよ。欧州の人らにはあんまり日本男性は好まれないぞ」
「ウチの目から見ても、優作はソコソコ顔の作りはイケてると思うんやけど」
「美醜の基準が違うんだろう。逆にあっちだと日本女性はモテたりするけど」
「それこそ意味不明やねんけど」
「どうも日本はエキゾチックなイメージがあるらしくてな」
「ああ。サムライとかニンジャとかそういうん?」
「そうそう。日本女性は自己主張が強くないのがいいらしい」
「別に日本でも大和撫子とか絶滅危惧種やと思うけどなあ」
「いやいや。実感したけど、欧州に比べると断然、まだまだ大人しい女性多いぞ」
「そういうもんなん?」
「俺もよくわからんけどな」
「話戻すんやけど。結婚は考えとらんの?今は日本に帰って来とるやん」
「海外飛びまくりだったからな。そんな付き合いの女性社員はいないって」
「職場結婚に限った話やなくて、結婚相談所とか。金はいっぱい貯めとるやろ?」
「そこまでして結婚したいわけじゃないからなあ。なんか妥協したみたいだし」
「そういう見栄張ってるといつまでも結婚でけへんで」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
「……」
「……」
「止めよか。不毛やね」
「ああ、それが一番だ」
「そういえば、今日の理沙、どうも様子が変じゃないか?」
「……気のせいやって」
「やたら、男女の話題にもって来たがるし」
「そ、それは。ウチらもええ歳やし、考える事やろ」
「なーんか怪しいんだよな。あ、書類が落ちてるぞ」
「え?え?ちょい待って……えーと、まさか……」
「やっぱり。露骨にうろたえてるのが怪しい」
「カマかけたつもりなん?」
「言いたいことあるなら早めに言おうぜ」
「微妙に予想されてるのがムカつくわ。ま、元々切り出すつもりやったし」
「……婚姻届ねえ。証人さんとか、誰に頼んだんだ?」
「ウチのお得意様に、『今度、結婚するんですけど』ってな」
「俺が承諾するとも限らないのに。自信あったのか?」
「自信はないんやけど。結局、海外に行っとる間もずっと優作の事考えとったし」
「……訂正するな。中身も結構、まだ乙女だな」
「わかっとるよ。30過ぎたとは思えない程、少女趣味やってことくらい」
「別にいいんじゃないか?少女趣味」
「生暖かい目で見てくるのがやっぱりムカつくんやけど」
「いやー、男冥利に尽きるっていうかな」
「で、ニヤニヤするんはええけど。返事は?」
「うーん」
「OKなら記入。駄目なら突っ返してくれればええから」
「もし、突っ返したらどうなるんだ?」
「どうにも。後で枕を涙で濡らしとるかもしれへんけどな」
「また妙な脅しを」
「優作の方こそ気があるんかないんかはっきりせんのが悪い!」
「そ、それは……。転勤族だったから、次にいつ会えるかわからなかったし」
「やったら、今は?」
「ずっと国内に居られる約束になってる」
「なら、この機会にはっきりして欲しいんやけど?」
「でも、告白ならともかく、いきなり婚姻届はな」
「ウチの家に何度も泊まっといて何言っとるか」
「いやいや。別に手は出してないだろ」
「それこそ、ウチとしては手を出して欲しかったんやけど?」
「それこそ、恋人同士でもないのに出来ないだろ」
「ヘタレ」
「告白出来なかった理沙もヘタレだな」
「やから、今、こうして婚姻届突きつけてるやん」
「ま、いいか。ちゃんと記入したぞ」
「え?ほ、ほんまにええの?ウチなんかで」
「結婚迫っといて何動揺してるんだよ」
「やって。海外に居る時、あんまり連絡してくれへんかったし」
「時差あるし、理沙だって仕事あるから気を遣ってたんだよ」
「妙なところで律儀なんやから。でも……あんがとさん」
「もう。泣くなよ、もう」
「泣いとらん!」
「住居はどうする?俺の家は2LDKだから、二人暮らし、行けるけど」
「ウチは1LDKやしなあ。優作がかまへんのやったら、転がりこみたいけど」
「じゃあ、新居は俺の家な」
「でも、疑問があったんやけど」
「どうかしたか?」
「帰って来た時に、なんで2LDKの物件選んだん?」
「……気分だよ、気分」
「なんか露骨に怪しいんやけど」
「気の所為、気の所為」
「吐かへんのなら、ウチにも考えがあるけど?」
「お、おい。って、くすぐったい。やめろってば」
「優作が本当の事吐くまで続ける」
「……わかった。わかったから」
「最初からそう言えばええんよ。で?」
「理沙と二人で住めればと思ってたんだよ」
「それやったら、優作もさっさと言ってくれたら良かったやろ」
「だって、理沙が彼氏作ってたらと思うと言えないだろ」
「やっぱりヘタレや」
「しかし、まさかいきなり既婚者になるとはなあ」
「ウチはここが勝負やと思っとったからね。必死やったんよ」
「俺も今日、お付き合い申し込もうと思ってたんだけな」
「あ、優作も様子が変やと思ってたら。そういうオチ?」
「で、そろそろ切り出そうと思ってたら先制攻撃食らった」
「ふふーん。おしとやかなウチの魅力にメロメロやろ」
「おしとやかに、メロメロ、ねえ……」
「なに。その含みありそうな言い方」
「だって。おしとやかとか、理沙に全然似合わないし」
「やったら、同居したら目にもの見せたるから」
「どうやって?」
「とことん優作に尽くしたるから」
「おー、おー。三日坊主にならないのを祈ってるよ」
「……本当に目にものみせたるからね」
「ところで、理沙はいつから俺の事好きだったんだ?」
「……高校の頃には」
「一途過ぎるだろ」
「逆に優作はいつからなん?」
「……高校の頃くらいには。たぶん」
「優作の方こそ一途やろ。ああ、なんか思い出したら腹立ってきた」
「こっちこそ言いたいぞ。バラ色の高校・大学生活があったかもしれないのに」
「……」
「……」
「止めとこか。不毛やし」
「だな。未来指向で行こう」
こうして、30を過ぎても続いた俺達の恋愛模様に終止符が打たれたのだった。
しかし、もうちょっとロマンチックな雰囲気でプロポーズされたかった。
「いきなり飲みすぎだ理沙。ただでさえ酒癖悪いんだから」
「わかっとるちゅうの。優作は口うるさいんやから」
「どうだか。学生時代に何度介抱したことか」
「ぐ……そういうのは思い出さんでもええ!」
「理沙の弱みだ。死ぬまで覚えてる自信があるぞ?」
「ま、ええわ。それより久しぶりの日本はどうや?」
「スイス、フランス、ドイツと色々回ったけど日本が一番だな」
「その『国際人です』て言いたげな物言いがムカつくわ」
「事実を言っただけだろ。悔しいなら今度一緒に海外旅行しようぜ」
「考えとくわ……英語でけへんから通訳は頼むわあ」
「了解。ま、英語だけで全部いけるわけじゃないけどな」
「そうなん?」
「フランスだと仏語しかしゃべらん人も多いし、ドイツも地方によるな」
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「ま、英語出来ればだいぶ楽になるのは確かだけどな」
「そういえば工業機器メーカーってどういう事やっとるん?」
「色々だな。マザーマシンって知ってるか」
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「ふっ」
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「まあ、今もスマホ持っとるしな」
「そういう機械がどうやって作られるか考えたことあるか」
「言われてみれば考えたことなかったわ」
「正解は、そういうのも機械が作ってるんだ」
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「お前が使ってるスマホの部品にくらいは関わってると思っといてくれ」
「よーわからんけど、優作が凄いことはわかったわ」
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「あー、想像だけど、たしかにこだわりそう」
「で、手先が器用なウチの技術を生かして完全受注生産っちゅうわけや」
「何気なく言ってるけど、割と凄くないか?」
「言うても、ミシンで適当に縫い合わせてるだけよ」
「裁縫苦手な俺にしてみれば、異次元の世界だよ」
「今度ウチくればわかるで」
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「しかし、紅葉狩りのお誘いとか驚いたが、なかなかいいな」
「そやろ。ウチはこの公園の紅葉お気に入りやし」
「景色をしみじみと楽しめる辺り、お互い歳食ったよな」
「言うてもまだお互い32歳。まだまだいけるっちゅうもんやで」
「もう32歳と言いたい気分だけどな。でも、会社の中では俺も若造だしな」
「前に昇進したって言っとらんかった?」
「まだ課長クラスだしな。ようやく中間管理職の仲間入り」
「上からも下からも色々言われて板挟みっちゅうイメージあるけど」
「大体当たってる。上はいいんだけど、下は案外好き勝手言ってくれるし」
「優作も大人になったんやなあ」
「なんで頭撫でてるんだよ」
「偉い偉いのつもり?」
「ありがたく受けとっておくよ」
「そういえば、小学校の頃の事思い出したんだけどさ」
「うん?」
「いや、理沙はその頃から裁縫が好きだったなって。だから天職なのかもな」
「そこまで好きやったかなあ……」
「放課後、家庭科室でいつも熱心になんか作ってたぞ」
「あ、そういえば。時々優作が顔だしてたんよね。懐かしいわあ」
「無言でミシンでなんか縫い続けてたのは、妙な凄みがあったな」
「花の乙女捕まえて凄みとか……」
「アラサーで花の乙女とか……やめとくか」
「そやね。歳を意識する会話は良くない!」
「ところでさ。理沙は付き合ってる男とか居ないのか?」
「お生憎様。ユニシロ時代ならともかく、フリーランスだと出会いもないんよ」
「お得意様とかに惚れられた経験ないのか?外見年齢が-10歳くらいだろ」
「微妙におだててくるのがキモいんやけど。たまにあることはあるわ」
「お。やっぱりあるんじゃないか。そこんとこ詳しく」
「気まずい話よ。ウチの場合完全受注生産やから、直接お宅訪問するんやけど」
「それはそれで苦労しそうだな。普通に発送すればいいんじゃないか?」
「お得意様と懇意にするんも次の仕事取ってくるために必要なんよ」
「フリーランスだとそういう苦労もあるんだな。で?」
「お得意様も独り身の人多くてやな。お茶でもどうぞとかよー引き止められるんよ」
「場合によっては身の危険感じそうなシチュエーションだな」
「ウチもお客様は選んどるから。ただ、ラインで毎朝『おはよう』とかは……」
「それ、明らかに気がある反応だな。どう返してるんだ?」
「変なこと言ってくるわけやないし、『おはようございます』のスタンプ返しとる」
「変に過激な行動に出たら俺に相談しろよ?」
「お?優作なりに心配してくれとるん?嬉しいわあ」
「長年の友だしな。そのくらいお安い御用さ」
「そういうのさらっと言えるから高校の頃とかモテたんやろな」
「別に言うほどモテたとは思ってないけどな」
「ケッ。女子に誘われてよく遊びに行っとった癖に」
「何不貞腐れてるんだよ」
「別にー?モテモテなお方は羨ましいですなあっていうだけよ」
「いやいや。別に二人っきりになったこととかないし」
「別に付き合ったことはないとでも?」
「マジで無いぞ。好いてくるのがどうにも合わない子ばっかりだったし」
「出た―。やっぱりモテてるの自覚しとるんやないの!」
「待て待て。話を聞け。こっちが好きになれなかったら困惑するだけなんだって」
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「逆に聞くけど、理沙だって高校時代とか結構モテてた方だろ」
「言うても好いてくる男は大体合わん奴やったけどな」
「どっちにしても、理沙がモテてた事実には変わらないだろ」
「その言葉そっくりそのまま返すわ」
「正直な話。俺らも結婚考える歳になったけど、そこんとこどうなんだ?」
「……ええ人がおったらなあ」
「なんか微妙に動揺してないか?」
「動揺なんかしとらん!」
「だから痛いって。やっぱり動揺しまくってるだろ」
「だから動揺しとらん!」
「わかったって。でも、見た目だけ若いボディを前面に出せば色々イチコロだろ」
「『見た目だけ若い』とか喧嘩売っとる?」
「イテっ。だって、肉体は女子大生並でも心がなあ……」
「まあ、否定はせえへんけどな。とにかく、ええ人がおればな」
「なんでこっちを見てくる?」
「なんでもないわ!」
「ちゅーか、優作の方こそ結婚考えとらんの?海外とか現地妻作りまくりやろ」
「なんだそのロクでもない発想。ないない」
「金髪碧眼の美女に迫られたりとかありそうやん」
「ないない。金髪碧眼の美女とか街中にそんなにいなかったし」
「ほんまにー?」
「なんで疑うんだよ。欧州の人らにはあんまり日本男性は好まれないぞ」
「ウチの目から見ても、優作はソコソコ顔の作りはイケてると思うんやけど」
「美醜の基準が違うんだろう。逆にあっちだと日本女性はモテたりするけど」
「それこそ意味不明やねんけど」
「どうも日本はエキゾチックなイメージがあるらしくてな」
「ああ。サムライとかニンジャとかそういうん?」
「そうそう。日本女性は自己主張が強くないのがいいらしい」
「別に日本でも大和撫子とか絶滅危惧種やと思うけどなあ」
「いやいや。実感したけど、欧州に比べると断然、まだまだ大人しい女性多いぞ」
「そういうもんなん?」
「俺もよくわからんけどな」
「話戻すんやけど。結婚は考えとらんの?今は日本に帰って来とるやん」
「海外飛びまくりだったからな。そんな付き合いの女性社員はいないって」
「職場結婚に限った話やなくて、結婚相談所とか。金はいっぱい貯めとるやろ?」
「そこまでして結婚したいわけじゃないからなあ。なんか妥協したみたいだし」
「そういう見栄張ってるといつまでも結婚でけへんで」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
「……」
「……」
「止めよか。不毛やね」
「ああ、それが一番だ」
「そういえば、今日の理沙、どうも様子が変じゃないか?」
「……気のせいやって」
「やたら、男女の話題にもって来たがるし」
「そ、それは。ウチらもええ歳やし、考える事やろ」
「なーんか怪しいんだよな。あ、書類が落ちてるぞ」
「え?え?ちょい待って……えーと、まさか……」
「やっぱり。露骨にうろたえてるのが怪しい」
「カマかけたつもりなん?」
「言いたいことあるなら早めに言おうぜ」
「微妙に予想されてるのがムカつくわ。ま、元々切り出すつもりやったし」
「……婚姻届ねえ。証人さんとか、誰に頼んだんだ?」
「ウチのお得意様に、『今度、結婚するんですけど』ってな」
「俺が承諾するとも限らないのに。自信あったのか?」
「自信はないんやけど。結局、海外に行っとる間もずっと優作の事考えとったし」
「……訂正するな。中身も結構、まだ乙女だな」
「わかっとるよ。30過ぎたとは思えない程、少女趣味やってことくらい」
「別にいいんじゃないか?少女趣味」
「生暖かい目で見てくるのがやっぱりムカつくんやけど」
「いやー、男冥利に尽きるっていうかな」
「で、ニヤニヤするんはええけど。返事は?」
「うーん」
「OKなら記入。駄目なら突っ返してくれればええから」
「もし、突っ返したらどうなるんだ?」
「どうにも。後で枕を涙で濡らしとるかもしれへんけどな」
「また妙な脅しを」
「優作の方こそ気があるんかないんかはっきりせんのが悪い!」
「そ、それは……。転勤族だったから、次にいつ会えるかわからなかったし」
「やったら、今は?」
「ずっと国内に居られる約束になってる」
「なら、この機会にはっきりして欲しいんやけど?」
「でも、告白ならともかく、いきなり婚姻届はな」
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「それこそ、ウチとしては手を出して欲しかったんやけど?」
「それこそ、恋人同士でもないのに出来ないだろ」
「ヘタレ」
「告白出来なかった理沙もヘタレだな」
「やから、今、こうして婚姻届突きつけてるやん」
「ま、いいか。ちゃんと記入したぞ」
「え?ほ、ほんまにええの?ウチなんかで」
「結婚迫っといて何動揺してるんだよ」
「やって。海外に居る時、あんまり連絡してくれへんかったし」
「時差あるし、理沙だって仕事あるから気を遣ってたんだよ」
「妙なところで律儀なんやから。でも……あんがとさん」
「もう。泣くなよ、もう」
「泣いとらん!」
「住居はどうする?俺の家は2LDKだから、二人暮らし、行けるけど」
「ウチは1LDKやしなあ。優作がかまへんのやったら、転がりこみたいけど」
「じゃあ、新居は俺の家な」
「でも、疑問があったんやけど」
「どうかしたか?」
「帰って来た時に、なんで2LDKの物件選んだん?」
「……気分だよ、気分」
「なんか露骨に怪しいんやけど」
「気の所為、気の所為」
「吐かへんのなら、ウチにも考えがあるけど?」
「お、おい。って、くすぐったい。やめろってば」
「優作が本当の事吐くまで続ける」
「……わかった。わかったから」
「最初からそう言えばええんよ。で?」
「理沙と二人で住めればと思ってたんだよ」
「それやったら、優作もさっさと言ってくれたら良かったやろ」
「だって、理沙が彼氏作ってたらと思うと言えないだろ」
「やっぱりヘタレや」
「しかし、まさかいきなり既婚者になるとはなあ」
「ウチはここが勝負やと思っとったからね。必死やったんよ」
「俺も今日、お付き合い申し込もうと思ってたんだけな」
「あ、優作も様子が変やと思ってたら。そういうオチ?」
「で、そろそろ切り出そうと思ってたら先制攻撃食らった」
「ふふーん。おしとやかなウチの魅力にメロメロやろ」
「おしとやかに、メロメロ、ねえ……」
「なに。その含みありそうな言い方」
「だって。おしとやかとか、理沙に全然似合わないし」
「やったら、同居したら目にもの見せたるから」
「どうやって?」
「とことん優作に尽くしたるから」
「おー、おー。三日坊主にならないのを祈ってるよ」
「……本当に目にものみせたるからね」
「ところで、理沙はいつから俺の事好きだったんだ?」
「……高校の頃には」
「一途過ぎるだろ」
「逆に優作はいつからなん?」
「……高校の頃くらいには。たぶん」
「優作の方こそ一途やろ。ああ、なんか思い出したら腹立ってきた」
「こっちこそ言いたいぞ。バラ色の高校・大学生活があったかもしれないのに」
「……」
「……」
「止めとこか。不毛やし」
「だな。未来指向で行こう」
こうして、30を過ぎても続いた俺達の恋愛模様に終止符が打たれたのだった。
しかし、もうちょっとロマンチックな雰囲気でプロポーズされたかった。
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ちょっと大人な体験談です。
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※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
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佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
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