32 / 39
女子大生な幼馴染とラーメン食べて帰ったら後輩女子な幼馴染が嫉妬してたんだけど「嫉妬したくないです」とはこれいかに
しおりを挟む
うー、ほんと寒い。空を見るとちらちらと雪が降りている。
今夜は積もるかもなあ。明日は土曜日だからまあいいけど。
ともあれ、家に帰れば澄子が居ると思うと寂しくはない。
澄子こと伊勢澄子。
小学校三年からの付き合いでなんだかんだで先輩後輩として長く付き合って来た。
なんでも俺を追ってはるばる関東の外れの大学を受験したらしい。
俺が大学三年生の春に告白されて交際歴半年以上。
昔から物静かで気遣いの細かい礼儀正しい子だったけど、彼女の性格もあって良好な関係を築けている。
「ただいまー、澄子」
玄関の明かりをつけて靴を脱ぐと、
「おかえりなさい、正和先輩」
あったかそうなフワモコなパジャマで出迎えてくれた澄子が可愛らしい。
深夜1時を周りそうな時間だからか目元がしょぼしょぼしている……が、あれ?
「ひょっとして疲れてるか?」
表情が優れない。
「疲れてないです」
ん?いつもなら「疲れてないですよ」と柔らかく返事が返って来るのに。
言い方が微妙にそっけない。不機嫌そうにすら感じる。
「えーとさ。間違ってたら悪いんだけど……不機嫌にさせちゃったか?」
澄子はいい子なんだけど色々ストレスをため込む癖がある。
むしろ、いい子だからこそストレスをため込んでしまうといえようか。
「別に不機嫌じゃないです」
やっぱり不機嫌だ。
しかし、理由は……と考えて思い当たるところがあった。
あー、そういうことか?
◆◆◆◆二時間前◆◆◆◆
「もしもしー、カズ。ちょっとラーメン食べに行かない?」
電話越しに元気な声が聞こえてきた。声の主は美濃由紀。
澄子より少し付き合いが古く、俺が小一の頃から見知っている。
奴とは本当に偶然志望校が一致して今まで仲良く友達をやっている。
長身でやや胸は大きめで、澄子が可愛いとするなら由紀は美人系と言ったところ。
昔から男子人気がある奴で当然のごとく彼氏がいる。
快活な性格なので男としても付き合いやすい。
「いいけど。ちょっと待ってくれ」
いかに昔からの付き合いといえど男と女。
最愛のカノジョにちゃんと大丈夫かは聞いておかないと。
「澄子ー、ちょっといいか?」
トントンと彼女の部屋の扉をノックする。
2DKのマンションに同棲していて別々の部屋で寝ている。
「どうしたんですか?正和先輩」
扉の向こうから鈴を鳴らしたような声が返って来る。
「久しぶりに由紀の奴からラーメン食べに行かないかって誘いがあって」
「毎回気を遣わなくても大丈夫ですよ。気を付けて行って来てくださいね」
「ああ。最近寒いからな」
「それと、由紀先輩にもよろしく言っておいてください」
「ああ。言っておくよ」
澄子にとっても姉貴分だから、こういうことだってよくある。
澄子も一緒に行きたいんだろうけど、ラーメン苦手だし小食だしなあ。
(コンビニでアイスの一つでも買ってこよう)
そう思って家を飛び出ていつものラーメン屋へ自転車を走らせる。
「いやー、やっぱり「ごうや」のラーメンは美味い」
由紀と隣立って麺をずるずるとすする。
深夜の寒さに暖かいラーメンのスープは最高。
「背油ちゃっちゃ系なのにあっさりなのがいいよねー」
俺よりも少し大人しめに麺をすする由紀はなんだかんだ言って女性だ。
いや、なんだかんだという言葉も少し失礼だけど。
「そういえば、澄子が「由紀先輩にもよろしく」だとさ」
澄子からの言伝。
「そうそう。それも聞きたかったの。澄ちゃんとうまくやってる?」
由紀は昔から少々お姉さんぶるというか、こういう世話の焼き方をしてくる。
「うまくやってるって。性格の良さは折り紙付きだし」
時々その辺が心配になる原因でもあるのだけど。
「そこはわかってるの。あの子にストレス溜めさせるようなことしてない?」
微妙に疑わしげな眼つきで見つめられる。
俺、信用ないのね。
「さすがに澄子の性格はわかってるって。俺なりには気を遣ってるつもり」
澄子はいい子でいようとする余り、人間関係で色々我慢することが多い。
影でも誰かのことを悪く言いたくないタイプで、そのせいで昔から人知れず泣いてることも多かった。
昔から「お兄さん」「お姉さん」として彼女の話を聞くことが多かった。
そんな俺を慕ってくれたのが好きの始まりだとか昔聞いたことがある。
「だったら、今日は澄ちゃんに言ってから出てきた?」
「それは当然だろ。そっちこそ彼氏にちゃんと言って来たんだろうな」
逆に由紀の方が俺が男と忘れてるんじゃないかと時々心配だ。
「もちろんよ。トッキーはその辺寛容だし」
「ならいいんだけどな。意外と裏で嫉妬心をメラメラと燃やしてるかもよ」
「それ言うなら澄ちゃんも裏で嫉妬してるかもしれないよ?」
「ない……と言い切れないのが辛いとこだな」
過去に友達と一緒に遊んだ時のことだった。
その時は他の面子が男1, 女2という感じで二人っきりではなかったのだけど。
遊んで帰ってきたら微妙に不機嫌そうだったのを覚えている。
だからといって何か出来るわけじゃなくて、お土産買うのが関の山なんだけど。
「澄ちゃんも割り切れたら楽なんだろうけどね」
「由紀も分かってるだろ。なまじいい子だから、嫉妬を悟られたくないんだろ」
「男子的にはそういう嫉妬はむしろ大歓迎でしょ?」
「お前が男子を語るか。まあ否定できないけど」
浮気を疑われるのは困るけど、妬いてくれるくらいならむしろ嬉しい。
だって、それだけ好きな証でもあるし、独占欲のあらわれでもあるわけだし。
さて、そうこうしているうちにラーメンを食べ終えた俺たち。
長居するわけにもいかないので、さっさと外を出たら解散。
「またねー」
「ああ、またなー」
お互い自転車で別の家に向かって帰る。
こういうさっぱりしたのが俺たちの関係。
◇◇◇◇現在◇◇◇◇
(ひょっとして、由紀に嫉妬した?)
家を出る時の声は普通だったように見えたけど。
あの時も抑えてたのかもしれないし、あるいは一人になったとたんに妙に寂しくなって色々考えてしまったのかもしれない。
「そうそう。アイス買って来た。一緒に食べようぜ」
コンビニ袋に入ったアイス二つを見せてダイニングへ一緒に歩いて行く。
これで機嫌治してくれればいいんだけど。
「……由紀先輩とどんなお話してました?」
言葉だけだと普通の話なんだけど、いつもよりトーンが低い。
まだ不機嫌らしい。
「ちょっとした世間話と澄子のことかな」
「私のことですか?」
「俺がなんか無神経なことやらかしてないか姉貴分として心配だってさ」
ちょっとおちゃらけてみる。
「先輩は……別に無神経なんて。むしろ昔から気を遣ってくれますし」
あれ?なんだか落ち込み始めた。
嫉妬して怒っていたんじゃないのか?
「私の方が色々ダメダメだなあって……なんか情けなくなって来ます」
ちょっと待て。なんだか目から涙がポロポロこぼれてくるんだけど。
嫉妬じゃないとすると自己嫌悪の方か?
でもなんで自己嫌悪する必要が?
「あのさ……嫉妬してたんじゃないのか?」
「嫉妬したくないです」
また出た。澄子のややこしい癖だ。
自分の中の感情を認めたくなくてこういう言い方をすることがある。
「別に嫉妬してくれていいんだって」
「でも……どう考えても勝手に嫉妬する私が悪いです」
「断りは入れたけど二人で会って欲しくないならやめるし」
あいつとの友達付き合いも大事だけど、澄子を悲しませてまでやることじゃない。
「それも嫌なんです!」
「理由聞こうか」
「だって……由紀先輩も私にとってはお姉さんみたいなものですし」
「それで?」
「私のせいで不仲になるとか嫌です。二人には仲良くしてほしいです」
「別にそれくらいで不仲になったりしないって」
こういう面倒くさい面は昔からだった。
だから、今更戸惑ったりはしないんだけど、どうしたものか。
「……すいません。ちょっと頭冷やして来ます」
「ちょっと待てって」
「2時間くらいふらついたら帰りますから」
「ほら。せめてコート羽織っていけ」
「……ありがとうございます」
泣き顔に少しだけ嬉しそうな顔をして出て行ってしまった。
ほとぼりが冷めるまで……というには外は寒いし、俺も後を追うか。
こんな性格もわかってて付き合い始めたんだし今更か。
もう何度やってるのかと自嘲しそうになるけど。
(さて、どこに行ったのやら)
いつもの場所だろうか。
◇◇◇◇
「はあ。またやっちゃった……」
最寄りの公園のベンチで私は一人俯いて凹んでいた。
内心ではわかっている。私は結構嫉妬深いんだって。
でも、先輩は私にはもったいないくらいのいい人だし、それに由紀先輩も。
元々、お兄さんお姉さんのようなものだからなおさら二人には仲良くして欲しい。
嫉妬しないように出来ればいいんだけど、いつもうまく行かない。
そして、毎回のようにこうして先輩に心配をかけてしまっている。
「なんで嫉妬なんて感情があるんだろう」
由紀先輩と遊びに行く先輩を笑って送り出してあげられれば一番いいのに。
どうにもうまく行かない。
「しかも、先輩が探しに来てくれるの期待しちゃってるし」
超絶面倒くさい女だ。私。
拗ねて、先輩に構ってもらおうとするムーヴを無意識にやってる気がする。
なんで先輩はこんな私を好きでいてくれるんだろう。
先輩は私が「いい子」だって言ってくれるけど全然そんなことない。
素直に「今日は行かないで欲しい」って言える方がよっぽどいい子だ。
(そして……)
きっと、いつものように先輩はここに来てくれるんだろう。
どれだけ先輩に手間かけさせてるのかといつも自己嫌悪だけど。
そうしてくれた時には嬉しくなってしまうんだろう。
「そろそろこの無駄なループから抜け出さないとって思うんですよ、先輩」
ベンチの後ろから徐々に近づいてきた足音。いつもの先輩のだ。
「別にいいんじゃないか?昔からそういう面倒くさいところあっただろ?」
少し笑った声でそんな事を言われてしまった。
面倒くさい、か。でも、そう言ってもらってほっとしたかも。
「そうですね。私、たぶん面倒くさい子なんですよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
まだぐずぐずと泣きながら、でも少しだけ笑ったような声がかえってきた。
「そうそう。面倒くさい子だ。本当に」
ベンチの隣に静かに腰を下ろす。
「でも、先輩に面倒くさい子とか言われると少しイラっと来ました」
イラっと来た、か。
「いいじゃないか。そうそう。俺にイラっとしてもいいんだぞ」
少し噴きそうになった。
「え?何かおかしいですか?」
「いや、澄子さ。初めて俺に「イラっとした」って言っただろ」
「あ。言われてみれば。でも、なんで?」
「澄子は俺になかなか感情ぶつけて来てくれないだろ」
「好意はその……いつも伝えてるつもりですけど」
少し赤い顔が可愛らしい。
「それはもちろんだけど。不機嫌だってぶつけて来てくれていいんだぞ」
「でも……先輩を傷つけたくないですし」
「それくらい受け止めてやるから。もう何年の付き合いだと思ってるんだ」
それも本当に今更なんだけど。
誰に対しても怒れない澄子が初めて怒りをぶつけてくれたのなら嬉しい。
「ああ……そうか。私、イラっと来てたんですね」
「それでいいんだって。世の男女でちょっとした諍いくらいよくあるだろ」
「なんか。そういう事自体がいけないんだって思い込んでました……」
はっと何かに気づいたような声。
「澄子もさ。頭ではわかってたんだろうけど。ちょっとすっきりしたか?」
「むう。先輩に何もかも見透かされてる気がするのヤです」
「いやー。澄子の事は昔から見てるし。そういう厄介なところも知ってるから」
「私。もっとスマートな女性になりたいなーって思ってるんですよ」
「澄子には無理だから諦めろ。そういうのも含めて好きになったんだぞ?」
本当に可愛らしいなと思いながら髪の毛をそっと撫でてやる。
「あの……しばらく撫でて欲しいです」
ようやく機嫌が治ったのか、甘ったるい声でこちらにもたれかかって来た。
割とコロっと機嫌が治るのもいいところだ。
内心、チョロいと思ってるのは言わないでおこう。
というわけで、しばらくして公園を後にしようとしたところ。
「あの……家に帰ったらお願いがあるんですが」
「うん?どうした?」
「今夜はその……ちょっと色々して欲しいなと」
やけに潤んだ瞳で見つめられる。ああ、そういうこと。
「澄子も妙な性癖があるんだから」
こうやって不機嫌になって宥めた後、澄子からこう言ってくることがある。
「喧嘩の後のなんとかは燃える……というやつかもしれないです」
と以前に言われたことがある。
「性癖とか言わないでください!」
「はいはい。性癖、性癖」
「もー、いくら先輩でも怒ります!」
「そうそう。怒っていいんだぞ」
こうして、よくある痴話喧嘩ですらない一幕が終わったのだった。
その夜は……まあ、色々激しかったけど、それは別のお話。
今夜は積もるかもなあ。明日は土曜日だからまあいいけど。
ともあれ、家に帰れば澄子が居ると思うと寂しくはない。
澄子こと伊勢澄子。
小学校三年からの付き合いでなんだかんだで先輩後輩として長く付き合って来た。
なんでも俺を追ってはるばる関東の外れの大学を受験したらしい。
俺が大学三年生の春に告白されて交際歴半年以上。
昔から物静かで気遣いの細かい礼儀正しい子だったけど、彼女の性格もあって良好な関係を築けている。
「ただいまー、澄子」
玄関の明かりをつけて靴を脱ぐと、
「おかえりなさい、正和先輩」
あったかそうなフワモコなパジャマで出迎えてくれた澄子が可愛らしい。
深夜1時を周りそうな時間だからか目元がしょぼしょぼしている……が、あれ?
「ひょっとして疲れてるか?」
表情が優れない。
「疲れてないです」
ん?いつもなら「疲れてないですよ」と柔らかく返事が返って来るのに。
言い方が微妙にそっけない。不機嫌そうにすら感じる。
「えーとさ。間違ってたら悪いんだけど……不機嫌にさせちゃったか?」
澄子はいい子なんだけど色々ストレスをため込む癖がある。
むしろ、いい子だからこそストレスをため込んでしまうといえようか。
「別に不機嫌じゃないです」
やっぱり不機嫌だ。
しかし、理由は……と考えて思い当たるところがあった。
あー、そういうことか?
◆◆◆◆二時間前◆◆◆◆
「もしもしー、カズ。ちょっとラーメン食べに行かない?」
電話越しに元気な声が聞こえてきた。声の主は美濃由紀。
澄子より少し付き合いが古く、俺が小一の頃から見知っている。
奴とは本当に偶然志望校が一致して今まで仲良く友達をやっている。
長身でやや胸は大きめで、澄子が可愛いとするなら由紀は美人系と言ったところ。
昔から男子人気がある奴で当然のごとく彼氏がいる。
快活な性格なので男としても付き合いやすい。
「いいけど。ちょっと待ってくれ」
いかに昔からの付き合いといえど男と女。
最愛のカノジョにちゃんと大丈夫かは聞いておかないと。
「澄子ー、ちょっといいか?」
トントンと彼女の部屋の扉をノックする。
2DKのマンションに同棲していて別々の部屋で寝ている。
「どうしたんですか?正和先輩」
扉の向こうから鈴を鳴らしたような声が返って来る。
「久しぶりに由紀の奴からラーメン食べに行かないかって誘いがあって」
「毎回気を遣わなくても大丈夫ですよ。気を付けて行って来てくださいね」
「ああ。最近寒いからな」
「それと、由紀先輩にもよろしく言っておいてください」
「ああ。言っておくよ」
澄子にとっても姉貴分だから、こういうことだってよくある。
澄子も一緒に行きたいんだろうけど、ラーメン苦手だし小食だしなあ。
(コンビニでアイスの一つでも買ってこよう)
そう思って家を飛び出ていつものラーメン屋へ自転車を走らせる。
「いやー、やっぱり「ごうや」のラーメンは美味い」
由紀と隣立って麺をずるずるとすする。
深夜の寒さに暖かいラーメンのスープは最高。
「背油ちゃっちゃ系なのにあっさりなのがいいよねー」
俺よりも少し大人しめに麺をすする由紀はなんだかんだ言って女性だ。
いや、なんだかんだという言葉も少し失礼だけど。
「そういえば、澄子が「由紀先輩にもよろしく」だとさ」
澄子からの言伝。
「そうそう。それも聞きたかったの。澄ちゃんとうまくやってる?」
由紀は昔から少々お姉さんぶるというか、こういう世話の焼き方をしてくる。
「うまくやってるって。性格の良さは折り紙付きだし」
時々その辺が心配になる原因でもあるのだけど。
「そこはわかってるの。あの子にストレス溜めさせるようなことしてない?」
微妙に疑わしげな眼つきで見つめられる。
俺、信用ないのね。
「さすがに澄子の性格はわかってるって。俺なりには気を遣ってるつもり」
澄子はいい子でいようとする余り、人間関係で色々我慢することが多い。
影でも誰かのことを悪く言いたくないタイプで、そのせいで昔から人知れず泣いてることも多かった。
昔から「お兄さん」「お姉さん」として彼女の話を聞くことが多かった。
そんな俺を慕ってくれたのが好きの始まりだとか昔聞いたことがある。
「だったら、今日は澄ちゃんに言ってから出てきた?」
「それは当然だろ。そっちこそ彼氏にちゃんと言って来たんだろうな」
逆に由紀の方が俺が男と忘れてるんじゃないかと時々心配だ。
「もちろんよ。トッキーはその辺寛容だし」
「ならいいんだけどな。意外と裏で嫉妬心をメラメラと燃やしてるかもよ」
「それ言うなら澄ちゃんも裏で嫉妬してるかもしれないよ?」
「ない……と言い切れないのが辛いとこだな」
過去に友達と一緒に遊んだ時のことだった。
その時は他の面子が男1, 女2という感じで二人っきりではなかったのだけど。
遊んで帰ってきたら微妙に不機嫌そうだったのを覚えている。
だからといって何か出来るわけじゃなくて、お土産買うのが関の山なんだけど。
「澄ちゃんも割り切れたら楽なんだろうけどね」
「由紀も分かってるだろ。なまじいい子だから、嫉妬を悟られたくないんだろ」
「男子的にはそういう嫉妬はむしろ大歓迎でしょ?」
「お前が男子を語るか。まあ否定できないけど」
浮気を疑われるのは困るけど、妬いてくれるくらいならむしろ嬉しい。
だって、それだけ好きな証でもあるし、独占欲のあらわれでもあるわけだし。
さて、そうこうしているうちにラーメンを食べ終えた俺たち。
長居するわけにもいかないので、さっさと外を出たら解散。
「またねー」
「ああ、またなー」
お互い自転車で別の家に向かって帰る。
こういうさっぱりしたのが俺たちの関係。
◇◇◇◇現在◇◇◇◇
(ひょっとして、由紀に嫉妬した?)
家を出る時の声は普通だったように見えたけど。
あの時も抑えてたのかもしれないし、あるいは一人になったとたんに妙に寂しくなって色々考えてしまったのかもしれない。
「そうそう。アイス買って来た。一緒に食べようぜ」
コンビニ袋に入ったアイス二つを見せてダイニングへ一緒に歩いて行く。
これで機嫌治してくれればいいんだけど。
「……由紀先輩とどんなお話してました?」
言葉だけだと普通の話なんだけど、いつもよりトーンが低い。
まだ不機嫌らしい。
「ちょっとした世間話と澄子のことかな」
「私のことですか?」
「俺がなんか無神経なことやらかしてないか姉貴分として心配だってさ」
ちょっとおちゃらけてみる。
「先輩は……別に無神経なんて。むしろ昔から気を遣ってくれますし」
あれ?なんだか落ち込み始めた。
嫉妬して怒っていたんじゃないのか?
「私の方が色々ダメダメだなあって……なんか情けなくなって来ます」
ちょっと待て。なんだか目から涙がポロポロこぼれてくるんだけど。
嫉妬じゃないとすると自己嫌悪の方か?
でもなんで自己嫌悪する必要が?
「あのさ……嫉妬してたんじゃないのか?」
「嫉妬したくないです」
また出た。澄子のややこしい癖だ。
自分の中の感情を認めたくなくてこういう言い方をすることがある。
「別に嫉妬してくれていいんだって」
「でも……どう考えても勝手に嫉妬する私が悪いです」
「断りは入れたけど二人で会って欲しくないならやめるし」
あいつとの友達付き合いも大事だけど、澄子を悲しませてまでやることじゃない。
「それも嫌なんです!」
「理由聞こうか」
「だって……由紀先輩も私にとってはお姉さんみたいなものですし」
「それで?」
「私のせいで不仲になるとか嫌です。二人には仲良くしてほしいです」
「別にそれくらいで不仲になったりしないって」
こういう面倒くさい面は昔からだった。
だから、今更戸惑ったりはしないんだけど、どうしたものか。
「……すいません。ちょっと頭冷やして来ます」
「ちょっと待てって」
「2時間くらいふらついたら帰りますから」
「ほら。せめてコート羽織っていけ」
「……ありがとうございます」
泣き顔に少しだけ嬉しそうな顔をして出て行ってしまった。
ほとぼりが冷めるまで……というには外は寒いし、俺も後を追うか。
こんな性格もわかってて付き合い始めたんだし今更か。
もう何度やってるのかと自嘲しそうになるけど。
(さて、どこに行ったのやら)
いつもの場所だろうか。
◇◇◇◇
「はあ。またやっちゃった……」
最寄りの公園のベンチで私は一人俯いて凹んでいた。
内心ではわかっている。私は結構嫉妬深いんだって。
でも、先輩は私にはもったいないくらいのいい人だし、それに由紀先輩も。
元々、お兄さんお姉さんのようなものだからなおさら二人には仲良くして欲しい。
嫉妬しないように出来ればいいんだけど、いつもうまく行かない。
そして、毎回のようにこうして先輩に心配をかけてしまっている。
「なんで嫉妬なんて感情があるんだろう」
由紀先輩と遊びに行く先輩を笑って送り出してあげられれば一番いいのに。
どうにもうまく行かない。
「しかも、先輩が探しに来てくれるの期待しちゃってるし」
超絶面倒くさい女だ。私。
拗ねて、先輩に構ってもらおうとするムーヴを無意識にやってる気がする。
なんで先輩はこんな私を好きでいてくれるんだろう。
先輩は私が「いい子」だって言ってくれるけど全然そんなことない。
素直に「今日は行かないで欲しい」って言える方がよっぽどいい子だ。
(そして……)
きっと、いつものように先輩はここに来てくれるんだろう。
どれだけ先輩に手間かけさせてるのかといつも自己嫌悪だけど。
そうしてくれた時には嬉しくなってしまうんだろう。
「そろそろこの無駄なループから抜け出さないとって思うんですよ、先輩」
ベンチの後ろから徐々に近づいてきた足音。いつもの先輩のだ。
「別にいいんじゃないか?昔からそういう面倒くさいところあっただろ?」
少し笑った声でそんな事を言われてしまった。
面倒くさい、か。でも、そう言ってもらってほっとしたかも。
「そうですね。私、たぶん面倒くさい子なんですよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
まだぐずぐずと泣きながら、でも少しだけ笑ったような声がかえってきた。
「そうそう。面倒くさい子だ。本当に」
ベンチの隣に静かに腰を下ろす。
「でも、先輩に面倒くさい子とか言われると少しイラっと来ました」
イラっと来た、か。
「いいじゃないか。そうそう。俺にイラっとしてもいいんだぞ」
少し噴きそうになった。
「え?何かおかしいですか?」
「いや、澄子さ。初めて俺に「イラっとした」って言っただろ」
「あ。言われてみれば。でも、なんで?」
「澄子は俺になかなか感情ぶつけて来てくれないだろ」
「好意はその……いつも伝えてるつもりですけど」
少し赤い顔が可愛らしい。
「それはもちろんだけど。不機嫌だってぶつけて来てくれていいんだぞ」
「でも……先輩を傷つけたくないですし」
「それくらい受け止めてやるから。もう何年の付き合いだと思ってるんだ」
それも本当に今更なんだけど。
誰に対しても怒れない澄子が初めて怒りをぶつけてくれたのなら嬉しい。
「ああ……そうか。私、イラっと来てたんですね」
「それでいいんだって。世の男女でちょっとした諍いくらいよくあるだろ」
「なんか。そういう事自体がいけないんだって思い込んでました……」
はっと何かに気づいたような声。
「澄子もさ。頭ではわかってたんだろうけど。ちょっとすっきりしたか?」
「むう。先輩に何もかも見透かされてる気がするのヤです」
「いやー。澄子の事は昔から見てるし。そういう厄介なところも知ってるから」
「私。もっとスマートな女性になりたいなーって思ってるんですよ」
「澄子には無理だから諦めろ。そういうのも含めて好きになったんだぞ?」
本当に可愛らしいなと思いながら髪の毛をそっと撫でてやる。
「あの……しばらく撫でて欲しいです」
ようやく機嫌が治ったのか、甘ったるい声でこちらにもたれかかって来た。
割とコロっと機嫌が治るのもいいところだ。
内心、チョロいと思ってるのは言わないでおこう。
というわけで、しばらくして公園を後にしようとしたところ。
「あの……家に帰ったらお願いがあるんですが」
「うん?どうした?」
「今夜はその……ちょっと色々して欲しいなと」
やけに潤んだ瞳で見つめられる。ああ、そういうこと。
「澄子も妙な性癖があるんだから」
こうやって不機嫌になって宥めた後、澄子からこう言ってくることがある。
「喧嘩の後のなんとかは燃える……というやつかもしれないです」
と以前に言われたことがある。
「性癖とか言わないでください!」
「はいはい。性癖、性癖」
「もー、いくら先輩でも怒ります!」
「そうそう。怒っていいんだぞ」
こうして、よくある痴話喧嘩ですらない一幕が終わったのだった。
その夜は……まあ、色々激しかったけど、それは別のお話。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件
木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか?
■場所 関西のとある地方都市
■登場人物
●御堂雅樹
本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。
●御堂樹里
本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。
●田中真理
雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる