幼馴染たちは恋をする

久野真一

文字の大きさ
上 下
30 / 39

癒し系幼馴染の二人は大晦日をのんびりイチャイチャと過ごして誕生日を共に祝う

しおりを挟む
「もう年末とは早いもんだなあ。かなでちゃん」
「そうねえ。今年一年、楽しかった?除夜じょや君」

 急な坂の上に立つ二階建てで和風建築の一軒家の広間にて。
 明日十七歳になる・・・・・・二人がこたつに入って仲良く談笑していた。

 余人が見れば長く連れ添った夫婦ではないかと思う光景。
 しかし、その実態は交際歴一年の出来立てほやほやカップルである。
 坂上の一軒家に住む坂上除夜さかうえじょや
 坂を下ったやはり一軒家に住む坂下奏さかしたかなで

 二人の家は郊外にあるが、不幸か幸いか近所の同年代が他に居なかった。
 そんなちょっと特殊な環境もあって二人仲良く姉弟あるいは兄妹のように育った。
 思春期を過ぎても特に気にせず親密な関係が続くかと思われたのんびり屋二人。
 ただ、昨年の大晦日に少しだけ二人の関係は変わった。
 すなわち、仲の良い家族のような関係から、恋人としての関係を加えたものに――

■■■■一年前■■■■

「ふぅ。やっぱり大晦日の夜は寒いもんだなあ」

 寂れた小さな小さな神社にて。
 ネイビーブルーのコートを羽織った少年とベージュのコートを羽織った少女。
 除夜と奏は二人だけの深夜の初詣をしていた。
 いつからか儀式になった二人の恒例行事。

「そうねえ。でも、それも大晦日の夜の良さだよ」

 活発な印象を与えるショートカットと正反対にのんびりとした口調で応じる奏。
 この年頃の女子にしてはやや小柄な150cm未満の身長で可愛らしい容姿と、話に加わるや会話をスローペースにしてしまう事から学年随一の癒し系として可愛がられている少女でもある。

「この神社に二人で参拝するのも何回目だろう」

 隣にいる少女をちらと見て、除夜は思う。
 奏ちゃんはやはり癒されるなあと。

「そうねえ。たぶん8回目……かなあ?」

 ぽわぽわとして応じる奏は隣の少年を見て思う。
 除夜君と一緒にいると癒されるなあと。
 
 二人は同クラで癒し系カップルとして有名なのだけどそれはさておいて。
 とても相性が良い二人なのは間違いなかった。

「今年一年、ありがとう。奏ちゃん」
「こちらこそありがとう。除夜君」

 傍から見ると「素直か!」と言ってしまいそうな光景。
 しかし、この二人にとってはそれが日常だった。

「さて、そろそろお参りしようか」

 除夜が手元の腕時計を見れば午後11時55分。
 あと5分で年が変わる。

「除夜君は何をお願いする?」

 さて、年齢に似合わずのんびりとした二人だけど。
 しかしやっぱりそれは年頃の男女。
 お互いに恋人になれたらと思っていたのだった。
 だから、少し期待を込めての質問。

「奏ちゃんは何をお願いするんだい?」

 それをわかってか質問を質問で返す除夜。

「いじわる」

 少し頬を膨らませて、でも上機嫌そうに抗議の声をあげる奏。

「いやあ。純粋に何をお願いするのか聞いただけだよ」

 傍からみれば何を言っているのだと思いそうな光景。
 実のところ二人はこの神社に来るまで二人で手を繋いでいた。
 これは習慣ではなくて今日初めてしたこと。
 故にお互いがお互いを意識してることをなんとなく察していた。

「こういう時は男の子から気持ちを言ってくれるものだと思うの」

 私の気持ちにはもう気づいているでしょう?とばかりの言葉。

「それは時代錯誤だよ。今は男女平等の時代」

 さっさと告白しろと暗に言っている奏に、
 ならそっちがさっさと告白して欲しいと躱す除夜。
 似た者同士であった。

「ふぅ。除夜君はこういう時は頑固だね」

 仕方ないんだからと溜息。
 似た者同士の二人だけどここぞという時に頑固なのは除夜の方。
 だから、と。

「除夜君の事、最近はよく気になるようになってた」
「うん。僕も」
「だから、これからは恋人としてお付き合いして欲しい」

 恋人として、ではなく、恋人としても。
 その意味合いを少しばかり思案した除夜はといえば。

「親戚としても、恋人としても。そんな意味で良いのかな?」

 実は二人は遠い親戚筋ではとこ同士にあたる。
 付き合いの深さはそれによるところもあるのだった。

「親戚じゃなくて家族だと思ってるよ?」

 そんな寂しいことを言わないで欲しいと少し咎めるような声色。

「ごめんな。そういうのは少し照れくさくて」

 下手をしたら実の家族以上に家族として過ごして来た二人。
 だからこそ、逆に口に出すのは少し照れくさかったのだ。
 本人は気づいていないが少し頬が赤らんでいる。

「除夜君がときどき照れ屋さんなのはわかってるから」

 除夜君は可愛いなあと、そう奏は思う。
 つい口元が緩んでしまう。

「奏ちゃんも照れ屋さんだと思うけど?」

 繋いだ手から伝わって来る汗を感じながら除夜は思う。
 緊張しちゃって奏ちゃんは可愛いなあと。

「む……それじゃあ、お互い照れ屋ということにしない?」

 いかにのんびり屋の二人といえども内心は結構緊張していたのだった。
 さっさとこの恥ずかしいやりとりを終えて帰りたいのが本音。

「そうだなあ。じゃあ、そうしようか」

 午前0時ちょうど。二人は神様の前で願ったのだった。
 今年は恋人としても仲良くしていけますようにと。

「あ、そういえば。誕生日おめでとう。奏ちゃん」
「除夜君も誕生日おめでとう」

 二人の誕生日は一月一日。
 元旦に生まれた二人はこうして誕生日を祝うのも常だった。
 
□□□□現在□□□□

「それはやっぱり楽しかったよ。奏ちゃんが恋人になるとあんなになるなんて」

 今年一年を振り返りながら彼は思わずにやけているのを自覚していた。
 初めてのデートに初めてのキス。初めてのお泊り旅行に初体験。
 彼女には意外に嫉妬深い一面があることや、恋に恋する純情な一面があること。
 そんな色々を思い出していたのだった。

「除夜君はなーにを想像してるのかなあ?」

 きっと不埒な想像をしていたに違いないと頬を引っ張る奏。

「いひゃい、いひゃいって。変な想像は何もしてないよ」
「……私の目を見て誓える?」

 珍しく眼光鋭く見据える彼女。

「ごめん。嘘つきました」

 あっさり認めるがそれもそのはず。
 思い返していた中には思春期男子らしいあれこれもあったからだ。

「それならよろしい。ちなみに何を思い出してたの?」

 そもそも追及する気もなかったのであっさり引っ込めるものの、何を考えていたのかは知っておきたかった。

「……初めてキスしたときのこととか。それと……初めてした時のこととか」

 デリカシーがないと怒られても仕方ない告白である。

「……う。私も思い出してきちゃった」

 しかし、奏も年頃の女の子で純情でもある。
 思い出を振り返って恥ずかしくなってしまったのだった。

「ま、まあ。ところで、今年は初詣行かないでいいの?」

 時刻はもう11時30分。いつもの神社に初詣に行くならそろそろ出発しないと。
 そう思っての問いかけ。

「恋人としての初めての元旦だから。こたつでぬくぬく過ごしたい」

 何がだからなのか不明だが。とにかく寒い外よりも暖かい家。
 それが彼女の主張だった。

「二回目じゃないの?」

 確か日が変わった前後に告白しあったはず。
 なら二回目ではという疑問だったけど。

「だって。去年の元旦は色々どうしていいかわからなかったから」

 恋人になったばかりの元旦。
 嬉しいのと同時に恥ずかしい気持ちがあって、二人はあんまり恋人らしく過ごせていなかった。お互いにカチコチに緊張していたくらいだ。

「奏ちゃんもよくわからないところにこだわるよね」

 彼もたいがいよくわからないところにこだわるのだけど。
 自分のことを棚にあげてそう言ったのだった。

「ところで。おじさんたちも妙なところに気を利かせるんだから」

 11時50分現在。坂上家にいるのは除夜と奏の二人だけ。
 本来ならいるはずの両親や祖父母は不在。

「まあいいじゃないか。二人でのんびり年越し。僕たちらしいよ」

 どこか世間のペースからずれている二人。
 そんな二人を幼い頃から見ていた両家の両親は、
 「今年は二人きりにしてやろう」
 と妙な気を利かしたのだった。

「そうかもね。あ、蕎麦がもう茹で上がってる」

 台所にパタパタと駆けて行く奏。
 年越し蕎麦をこれから二人で食べるところなのだ。

「奏ちゃんと結婚したらこんな風に過ごしてるのかな」

 最愛の恋人を眺めながら除夜はといえばそんな事を考えていた。
 色々なところをすっ飛ばし過ぎである。

 11時58分。
 二人の手元には出来立てほやほやの掛け蕎麦。
 余計な具がないシンプルなものを。
 そんな事も二人の間のルールだった。

「よし、それじゃ食べようか」

 橋を割っていただきますをしようとする除夜。

「その前に。恒例の挨拶がまだだよ?」

 食いしん坊なんだからとばかりにいう奏。

「ああ、そうだったね。それじゃあ……」

 二人で息を合わせて、

「「あけましておめでとう。それと、誕生日おめでとう」」

 新年と誕生日の両方を祝う言葉を送りあったのだった。

 こんなのんびりとした二人の関係はこれからもきっと続いていく。
 誰かが見ればそう思うような光景だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】天上デンシロック

海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより   『天まで吹き抜けろ、俺たちの青春デンシロック!』    成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!  しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!  ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。   ---   ※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。   ---   もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。実直だが未熟な響介と、博識だがトラウマを持つ律。そして彼らの間で揺れ動くもう一人の“友人”──孤独だった少年達が、音楽を通じて絆を結び、成長していく物語です。   表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。pixivでは作者( https://www.pixiv.net/users/59166272 )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。   ---   5/26追記:青春カテゴリ最高4位、ありがとうございました!今後スピンオフやサブキャラクターを掘り下げる番外編も予定してるので、よろしくお願いします!

透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。 表紙イラスト aki様

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...