幼馴染たちは恋をする

久野真一

文字の大きさ
上 下
24 / 39

お茶目で純情な後輩カノジョとのバレンタインデー兼誕生日

しおりを挟む
「ふう……今日の準備はこれでよし、かな」

 部屋で制服に着替えて今日の忘れ物がないか一通りチェック。
 鞄良し。
 逆チョコ・・・・よし。
 プレゼント・・・・・よし。

ちょこ・・・はどんな顔してくれるだろう)

 ちょここと佐々木千代子ささきちよこ
 僕の一年後輩の幼馴染で一か月前からお付き合いしてる最愛の人。
 お茶目で、でも純情なちょこに愛情表現をすると本気で照れてくれるので最近は毎日が楽しい。

 ピンポーン。ピンポーン。

「千代子ちゃん来てるわよー」

 リビングから母さんの声。

「わかった。もう準備出来てるから行くよー」
「はいー。今日は楽しんで・・・・来なさいねー」

 さてさて。今日はどんな一日になるだろう。

「おはよう、ちょこ」
「おはようございます、ハル先輩」

 セーターの下から見える、
 赤紺の冬用セーラー服がいつも映えるなあなんて思う。
 ハル先輩は僕、赤山陽翔あかやまはるとの愛称。

「愛してるよ」

 言いながら背中に手を回して抱きしめる。
 朝彼女が迎えに来たらだいたいこんなことをするのだけど。

「ハル先輩……ちょっと恥ずかしいですよ」

 もうそろそろ慣れてもいいのにと思うのにちょこはあたふた。
 元々赤面症なところがある彼女だからこういう変化も人一倍だ。

「毎朝の儀式のようなものでしょ。もう」

 なんていいつつ背中を撫でさすっていると、次第にちょこの方も落ち着いてきて、僕の背中に手を回してくる。ちなみに、ちょこは僕の肩を撫でるのがお気に入りらしい。

「それでも朝いちばんにこれはなかなか慣れないです……」
「じゃあ、やめる?」

 ちょっと声のトーンを上げてあえて意地悪さを演出。

「先輩、わかってていってますよね」
「言ってもらわないとわからないんだけど!?」
「それは嬉しいに決まってるじゃないですか」
「そうそう。素直になればいいんだよ、素直に」
「私は慎み深い日本人です。先輩みたいなラテン系日本人とは違うんです」
「僕も別にラテン系なんて出自はないけど?」
「きっと前世はイタリア人です」

 マンションの3階、玄関を出たところで抱きしめあいながらそんな朝の会話を交わしているわけだから、当然のごとく周りの住人は僕たちの仲を知っている。

 今もマンションの階段を下に降りていると、

「ちょこちゃんもハル君も青春してるわねー」

 などと、ご近所のおばさんが微笑ましそうに声をかけてきた。

「こういうのが青春なのかな」
「センパイ、それ本気で言ってます?」
「冗談、冗談」

 と、登校路に出てすぐのところで、

「そこの陰に移動したいんですけど」

 何故か死角になっているところを指差してくる。

「うん?いいけど」

 何か人に聞かれたくない話だろうか。

「手作りは初めてなんですが。本命チョコです」

 鞄から何やらラッピングされた小箱が出てきて差し出された。
 さっき抱きしめた時より何やら顔があかくてよっぽど恥ずかしいんだなと微笑ましくなる。

「何笑ってるんですか」
「いや、ちょこは可愛いなあって」

 言いながら髪をなでるとチョコも気持ち良さそうに目を細めるがまま。

「ふー。なんだか落ち着きます……じゃなくて!」

 普段はこうやって髪をなでてると数分間ぼーっとするのが彼女の常なのだけど、さすがにそうはいかなかった模様。

「美味しいかは自信ないですけど、食べてくださいね」
「もちろん食べるって。一個だけつまんでもいい?」
「どーぞ」

 というわけでラッピングを外すと出てきたのは一口サイズのハート型チョコが10個くらい入った箱。多少形が崩れているのはまさに手作り故か。

「おお。美味しい。みかんの味がする」
「普通のチョコも味気ないかなって。どうです?」
「美味しいよ。すっきりさわやかって感じ」
「良かったです」

 僕の方もチョコを渡さないと。

「こっちもチョコ用意してきたんだよ」

 はいとラッピングされた円形の箱を手渡す。

「逆チョコっていうやつですか?ありがとうございます」
「そうそう。僕としても愛情表現したくて」
「わざわざ言わないでください!」
「そんなことで恥ずかしがらなくてもいいのに」
「とにかく。私も一口だけ食べていいですか?」
「どうぞ」

 するすると手慣れた手つきでラッピングを外すと一口サイズの、一見8の字にも見える一口サイズのチョコが10個ほど。

「なんか変わった形ですね……美味しい!」

 顔が一気に綻んだのを見て心の中でガッツポーズ。

「でしょ?」
「悔しいけどハル先輩の逆チョコ、私のより全然上です」
「別に上とか下とか考えなくても」
「彼女としては少しは凹むんです」

 なんだかダウナー気味になってしまった。

「ところで、これ、8の字ですよね?チョコにしては変わってるような」
「よくぞ聞いてくれました!」
「ああ、やっぱり意図的だったんですね」
「横にしてみると数学のむげんだい記号に見えてこない?」
「ああ、それで。つまりその……」
ずっと愛してるよ・・・・・・・・の意味のつもり」

 言った瞬間、またちょこの顔が面白いことになっている。俯いてみたり、うー、だの、あー、だの言ってみたり。

「まだ朝なのに、羞恥心が限界を突破しそうです……」
「しないでよ。放課後はデートでしょ」
「これ以上恥ずかしがらせることしませんよね?」
「しない……とおもう。たぶん」
「これ以上はほんとーにやめてくださいね!?」

 恥ずかしがり疲れたのだろうか。放課後のデートではちょっと彼女で遊ぶのを控えた方がいいかもしれない。

 高校一年のちょこと二年の僕は当然教室も違う。
 というわけで二階で別れて三階のCクラスへ。

「ハルトさあ。今日はいつもより幸せさ3倍って顔だな」

 隣の席の友人である平岩ひらいわが話しかけて来た。
 
「ちょこが彼女になっての初めてのバレンタインデーだからね」
「まーたのろけが始まった」
「のろけというか素直な気持ちを言ったつもりで……」
「それがのろけっていうんだよ」
「ごもっとも」
「俺なんかクラス女子の義理チョコに期待するしかないっていうのに」
「平岩も今日だから逆にアタックするのはありなんじゃない?」
「準備なしでやっても玉砕するのが関の山だよ」
「いやいや。案外平岩のこと憎からず思ってる女子もいるかも」
「ないない。でも、言われると玉砕覚悟でってのも悪くない気がしてくるなー」

 思わないところで影響を受けてしまったらしい。

「まあその。僕も応援してるからね?」
「勝ち組の声援より虚しいものはないさ」

 僕はといえば、放課後のデートが楽しみで授業がロクに手につかない始末。
 授業で当てられたのにも気づかずに、

「赤山が珍しいな。大丈夫か?」

 と教師に心配されることまであった。

「先生。ハルトは出来たばかりの彼女とデートで浮かれてるだけっすよー」
「最近、毎日のように見せつけてくれるもんね」

 授業中にも関わらず野次が飛んだのだった。

 そして放課後。いよいよ、デートだ。
 
 二人でショッピングモールまで歩いていると、ふと、マフラーをしているのが目に付いた。いつもしてるのとは少し違う、小さくてどこか形も歪な代物。

「そういえばそのマフラーってさ。もしかして……」

 確か小学校の実習で作った覚えがある。

「「ちょこに似合いそうだから」なんて女ったらしな言い方でプレゼントしてくれた代物です」
「あの時は本当に似合いそうだって思ったんだけど」
「ハル先輩はそーいうところが性質悪いですね」
「正直に誉めて別に悪いことはない思うけど?」
「そういうのを繰り返すから、私はセンパイに堕とされてしまったんですが」
「ごめんごめん。最近は反応見るのが楽しいからっていうのもあるけど」
「男子なのに小悪魔属性とか止めて欲しいです」
「嫌ならやめるけど?」

 でも、彼女の答えはわかりきっている。

「嫌じゃないから困るんですよ……」

 恥ずかしそうに、ニマニマとしながら溜め息をついたちょこは普段よりいっそう可愛らしい。

「今日はデート、楽しもうね」
「はい。イジメるのはほどほどにして欲しいですが」
「ごめん。そこは保証できない」
「えー……」

 デートでは色々なところを見て回った。衣料品店でまだ早いけど春物をそろえたいというチョコの要望にしたがって色々な服を見て回ったり。

「センパイはちょっと服のバリエーションが少ないと思うんです」

 ということで何故か着せ替え人形にされたり。

 あるいは、小物類を買うわけでもなく、あーだこーだ言い合いながら眺めたり。
 そんな、他愛なくも楽しい3時間くらいのデートはあっという間に過ぎて。

 今、僕らはマンションへの帰路についていた。

「デートももうすぐ終わりなんですね……」

 マンションまであと数分というところで寂しげにちょこがつぶやいた。

◇◇◇◇ちょこ視点◇◇◇◇

「デートももうすぐ終わりなんですね……」

 気が付けば夕方の6時30分。
 朝からいつものようにハル先輩に抱きしめられたり抱きしめ返したり。
 チョコを渡し合ったり。
 放課後は色々おしゃべりしながら楽しく過ごせた、と思う。

 ただ、ここに来て私は一つの迷いを抱いていた。
 勢いでハル先輩を家に誘っちゃうかどうか。

 タイミングのいいことに今日はとーさんもかーさんも居ない。
 そこはかとなく両親の作為を感じるのだけどありがたく受け取っておこう。
 
「ああ。少し寂しいね……」

 繋いで来る手の力が少し強くなった気がしてドキドキしてくる。
 センパイとは一回だけだけど「そーいうこと」をしたことがある。
 まだまだ慣れていないけど、「そーいうこと」になってもいいかなとも思う。
 でも。

「……」

 切り出すのが恥ずかしくて、私の部屋の前まで無言で歩いたのだった。
 
「今日は色々ありがとうございました。ハル先輩」

 部屋でもっとイチャイチャしたいという気持ちはある。
 でも、今日は恥ずかしくて。そんなひよった言葉。

「僕もちょこを弄れて楽しかったよ」

 憎たらしくも思える一言だけど、私もそういうのが嫌いじゃない。
 ハル先輩に弄られるのが好きとか変態じゃないだろうか。

「私も……楽しかったです。ほどほどにしてくれるともっといいんですけど」

 とはいえ、あんまり弄られると恥ずかしさが限界を突破するのも事実。
 少しの抗議の意味を込めて言ったのだった。

「そこは善処するから。っと忘れるところだった」

 鞄をごそごそして取り出したのは……アクセサリー?

「誕生日おめでとう、ちょこ。危うく渡し忘れるところだったよ」

 誕生日。そういえばそうだった。
 時々忘れそうになるけど私の誕生日は2月14日。
 千代子という名前の元であるチョコがバレンタインデーに由来するというどうしようもない命名の仕方だ。
 私は自分の誕生日は忘れがちで、両親も以前から日が変わってから誕生日プレゼントを渡したりするので意識から抜けていた。

「その。このタイミングで渡すの、色々反則ですよ」

 ちょうど、離れたくないなって思っていたところなのに。
 やっぱりもうちょっと居たいっていう気持ちが強くなってくる。

「ネックレスなんだけど試しにつけてもらえる?」
「は、はい……」

 あ、やっぱりそういうのだったんだ。
 ラッピングをほどくと。
 出て来たのは銀色に輝くネックレスと先端についたロケット。
 これ、似合うかな?

 いそいそとネックレスを首からさげてみる。
 鏡がないからちょっと自信が持てない。

「うん。似合ってる、似合ってる」

 なのに、先輩はやっぱり笑顔でそう誉めて来る。

「本当にその……似合ってます?」
「似合ってるよ。ほんとに」

 駄目押しとばかりに抱きしめられてしまう。
 先輩、狙ってやってるの?と思いたくなるけど。
 昔からこんなんだからきっと違うんだろうなあ。

「あの。凄く。凄く恥ずかしいお誘いなんですが……」

 意識し過ぎ、私。と正直思う。
 別に「そーいうこと」をされると決まったわけじゃないし。
 そもそも一回は経験しているのだ。
 それに「そーいうこと」をされるかどうかはともかくとして、私から夜にもう少し一緒に居たいなどと言うお誘いは初めて。

「うん?どうしたの?ちょこ」

 こんなにもいっぱいいっぱいなのに先輩はいつも通り。

「実は今日、とーさんもかーさんもいないんですけど。寄って行きません?」

 言ってて顔から湯気が出るかという思いだ。

「あー、それでさっきから……」

 心を読まないで欲しい。

「大丈夫。こっちは今日、泊まりあるかもって言ってあるし」
「センパイの家は色々緩いですけど。22時までですよね」
「今日はこういう日でしょ?流れ次第では、ね」

 珍しく少しだけ照れた先輩がそこに居た。
 なんだろう。これは胸キュンというのだろうか。
 普段、ポーカーフェイスな先輩だからこそ、照れ顔が貴重だ。

「じゃ、じゃあ。今夜はよろしくお願いします」

 もういいや。このまま流れに任せてしまおう。
 元々はあとちょっと居られればというものだった。
 それがお泊りになるのは想定外もいいところだったけど。
 
「こちらこそ今夜はよろしく」

 少し照れた笑顔のハル先輩。

 私たちは、こうして誰も居ない、でも今夜いっぱいは二人の家に帰ったのだった。

 でも……お泊りとか全く想定外だったよ。どうしよう?
 一人、今後の展開に備えて色々頭を悩ませる私だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

処理中です...