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お茶目で純情な後輩カノジョとのバレンタインデー兼誕生日
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「ふう……今日の準備はこれでよし、かな」
部屋で制服に着替えて今日の忘れ物がないか一通りチェック。
鞄良し。
逆チョコよし。
プレゼントよし。
(ちょこはどんな顔してくれるだろう)
ちょここと佐々木千代子。
僕の一年後輩の幼馴染で一か月前からお付き合いしてる最愛の人。
お茶目で、でも純情なちょこに愛情表現をすると本気で照れてくれるので最近は毎日が楽しい。
ピンポーン。ピンポーン。
「千代子ちゃん来てるわよー」
リビングから母さんの声。
「わかった。もう準備出来てるから行くよー」
「はいー。今日は楽しんで来なさいねー」
さてさて。今日はどんな一日になるだろう。
「おはよう、ちょこ」
「おはようございます、ハル先輩」
セーターの下から見える、
赤紺の冬用セーラー服がいつも映えるなあなんて思う。
ハル先輩は僕、赤山陽翔の愛称。
「愛してるよ」
言いながら背中に手を回して抱きしめる。
朝彼女が迎えに来たらだいたいこんなことをするのだけど。
「ハル先輩……ちょっと恥ずかしいですよ」
もうそろそろ慣れてもいいのにと思うのにちょこはあたふた。
元々赤面症なところがある彼女だからこういう変化も人一倍だ。
「毎朝の儀式のようなものでしょ。もう」
なんていいつつ背中を撫でさすっていると、次第にちょこの方も落ち着いてきて、僕の背中に手を回してくる。ちなみに、ちょこは僕の肩を撫でるのがお気に入りらしい。
「それでも朝いちばんにこれはなかなか慣れないです……」
「じゃあ、やめる?」
ちょっと声のトーンを上げてあえて意地悪さを演出。
「先輩、わかってていってますよね」
「言ってもらわないとわからないんだけど!?」
「それは嬉しいに決まってるじゃないですか」
「そうそう。素直になればいいんだよ、素直に」
「私は慎み深い日本人です。先輩みたいなラテン系日本人とは違うんです」
「僕も別にラテン系なんて出自はないけど?」
「きっと前世はイタリア人です」
マンションの3階、玄関を出たところで抱きしめあいながらそんな朝の会話を交わしているわけだから、当然のごとく周りの住人は僕たちの仲を知っている。
今もマンションの階段を下に降りていると、
「ちょこちゃんもハル君も青春してるわねー」
などと、ご近所のおばさんが微笑ましそうに声をかけてきた。
「こういうのが青春なのかな」
「センパイ、それ本気で言ってます?」
「冗談、冗談」
と、登校路に出てすぐのところで、
「そこの陰に移動したいんですけど」
何故か死角になっているところを指差してくる。
「うん?いいけど」
何か人に聞かれたくない話だろうか。
「手作りは初めてなんですが。本命チョコです」
鞄から何やらラッピングされた小箱が出てきて差し出された。
さっき抱きしめた時より何やら顔があかくてよっぽど恥ずかしいんだなと微笑ましくなる。
「何笑ってるんですか」
「いや、ちょこは可愛いなあって」
言いながら髪をなでるとチョコも気持ち良さそうに目を細めるがまま。
「ふー。なんだか落ち着きます……じゃなくて!」
普段はこうやって髪をなでてると数分間ぼーっとするのが彼女の常なのだけど、さすがにそうはいかなかった模様。
「美味しいかは自信ないですけど、食べてくださいね」
「もちろん食べるって。一個だけつまんでもいい?」
「どーぞ」
というわけでラッピングを外すと出てきたのは一口サイズのハート型チョコが10個くらい入った箱。多少形が崩れているのはまさに手作り故か。
「おお。美味しい。みかんの味がする」
「普通のチョコも味気ないかなって。どうです?」
「美味しいよ。すっきりさわやかって感じ」
「良かったです」
僕の方もチョコを渡さないと。
「こっちもチョコ用意してきたんだよ」
はいとラッピングされた円形の箱を手渡す。
「逆チョコっていうやつですか?ありがとうございます」
「そうそう。僕としても愛情表現したくて」
「わざわざ言わないでください!」
「そんなことで恥ずかしがらなくてもいいのに」
「とにかく。私も一口だけ食べていいですか?」
「どうぞ」
するすると手慣れた手つきでラッピングを外すと一口サイズの、一見8の字にも見える一口サイズのチョコが10個ほど。
「なんか変わった形ですね……美味しい!」
顔が一気に綻んだのを見て心の中でガッツポーズ。
「でしょ?」
「悔しいけどハル先輩の逆チョコ、私のより全然上です」
「別に上とか下とか考えなくても」
「彼女としては少しは凹むんです」
なんだかダウナー気味になってしまった。
「ところで、これ、8の字ですよね?チョコにしては変わってるような」
「よくぞ聞いてくれました!」
「ああ、やっぱり意図的だったんですね」
「横にしてみると数学の∞記号に見えてこない?」
「ああ、それで。つまりその……」
「ずっと愛してるよの意味のつもり」
言った瞬間、またちょこの顔が面白いことになっている。俯いてみたり、うー、だの、あー、だの言ってみたり。
「まだ朝なのに、羞恥心が限界を突破しそうです……」
「しないでよ。放課後はデートでしょ」
「これ以上恥ずかしがらせることしませんよね?」
「しない……とおもう。たぶん」
「これ以上はほんとーにやめてくださいね!?」
恥ずかしがり疲れたのだろうか。放課後のデートではちょっと彼女で遊ぶのを控えた方がいいかもしれない。
高校一年のちょこと二年の僕は当然教室も違う。
というわけで二階で別れて三階のCクラスへ。
「ハルトさあ。今日はいつもより幸せさ3倍って顔だな」
隣の席の友人である平岩が話しかけて来た。
「ちょこが彼女になっての初めてのバレンタインデーだからね」
「まーたのろけが始まった」
「のろけというか素直な気持ちを言ったつもりで……」
「それがのろけっていうんだよ」
「ごもっとも」
「俺なんかクラス女子の義理チョコに期待するしかないっていうのに」
「平岩も今日だから逆にアタックするのはありなんじゃない?」
「準備なしでやっても玉砕するのが関の山だよ」
「いやいや。案外平岩のこと憎からず思ってる女子もいるかも」
「ないない。でも、言われると玉砕覚悟でってのも悪くない気がしてくるなー」
思わないところで影響を受けてしまったらしい。
「まあその。僕も応援してるからね?」
「勝ち組の声援より虚しいものはないさ」
僕はといえば、放課後のデートが楽しみで授業がロクに手につかない始末。
授業で当てられたのにも気づかずに、
「赤山が珍しいな。大丈夫か?」
と教師に心配されることまであった。
「先生。ハルトは出来たばかりの彼女とデートで浮かれてるだけっすよー」
「最近、毎日のように見せつけてくれるもんね」
授業中にも関わらず野次が飛んだのだった。
そして放課後。いよいよ、デートだ。
二人でショッピングモールまで歩いていると、ふと、マフラーをしているのが目に付いた。いつもしてるのとは少し違う、小さくてどこか形も歪な代物。
「そういえばそのマフラーってさ。もしかして……」
確か小学校の実習で作った覚えがある。
「「ちょこに似合いそうだから」なんて女ったらしな言い方でプレゼントしてくれた代物です」
「あの時は本当に似合いそうだって思ったんだけど」
「ハル先輩はそーいうところが性質悪いですね」
「正直に誉めて別に悪いことはない思うけど?」
「そういうのを繰り返すから、私はセンパイに堕とされてしまったんですが」
「ごめんごめん。最近は反応見るのが楽しいからっていうのもあるけど」
「男子なのに小悪魔属性とか止めて欲しいです」
「嫌ならやめるけど?」
でも、彼女の答えはわかりきっている。
「嫌じゃないから困るんですよ……」
恥ずかしそうに、ニマニマとしながら溜め息をついたちょこは普段よりいっそう可愛らしい。
「今日はデート、楽しもうね」
「はい。イジメるのはほどほどにして欲しいですが」
「ごめん。そこは保証できない」
「えー……」
デートでは色々なところを見て回った。衣料品店でまだ早いけど春物をそろえたいというチョコの要望にしたがって色々な服を見て回ったり。
「センパイはちょっと服のバリエーションが少ないと思うんです」
ということで何故か着せ替え人形にされたり。
あるいは、小物類を買うわけでもなく、あーだこーだ言い合いながら眺めたり。
そんな、他愛なくも楽しい3時間くらいのデートはあっという間に過ぎて。
今、僕らはマンションへの帰路についていた。
「デートももうすぐ終わりなんですね……」
マンションまであと数分というところで寂しげにちょこがつぶやいた。
◇◇◇◇ちょこ視点◇◇◇◇
「デートももうすぐ終わりなんですね……」
気が付けば夕方の6時30分。
朝からいつものようにハル先輩に抱きしめられたり抱きしめ返したり。
チョコを渡し合ったり。
放課後は色々おしゃべりしながら楽しく過ごせた、と思う。
ただ、ここに来て私は一つの迷いを抱いていた。
勢いでハル先輩を家に誘っちゃうかどうか。
タイミングのいいことに今日はとーさんもかーさんも居ない。
そこはかとなく両親の作為を感じるのだけどありがたく受け取っておこう。
「ああ。少し寂しいね……」
繋いで来る手の力が少し強くなった気がしてドキドキしてくる。
センパイとは一回だけだけど「そーいうこと」をしたことがある。
まだまだ慣れていないけど、「そーいうこと」になってもいいかなとも思う。
でも。
「……」
切り出すのが恥ずかしくて、私の部屋の前まで無言で歩いたのだった。
「今日は色々ありがとうございました。ハル先輩」
部屋でもっとイチャイチャしたいという気持ちはある。
でも、今日は恥ずかしくて。そんなひよった言葉。
「僕もちょこを弄れて楽しかったよ」
憎たらしくも思える一言だけど、私もそういうのが嫌いじゃない。
ハル先輩に弄られるのが好きとか変態じゃないだろうか。
「私も……楽しかったです。ほどほどにしてくれるともっといいんですけど」
とはいえ、あんまり弄られると恥ずかしさが限界を突破するのも事実。
少しの抗議の意味を込めて言ったのだった。
「そこは善処するから。っと忘れるところだった」
鞄をごそごそして取り出したのは……アクセサリー?
「誕生日おめでとう、ちょこ。危うく渡し忘れるところだったよ」
誕生日。そういえばそうだった。
時々忘れそうになるけど私の誕生日は2月14日。
千代子という名前の元であるチョコがバレンタインデーに由来するというどうしようもない命名の仕方だ。
私は自分の誕生日は忘れがちで、両親も以前から日が変わってから誕生日プレゼントを渡したりするので意識から抜けていた。
「その。このタイミングで渡すの、色々反則ですよ」
ちょうど、離れたくないなって思っていたところなのに。
やっぱりもうちょっと居たいっていう気持ちが強くなってくる。
「ネックレスなんだけど試しにつけてもらえる?」
「は、はい……」
あ、やっぱりそういうのだったんだ。
ラッピングをほどくと。
出て来たのは銀色に輝くネックレスと先端についたロケット。
これ、似合うかな?
いそいそとネックレスを首からさげてみる。
鏡がないからちょっと自信が持てない。
「うん。似合ってる、似合ってる」
なのに、先輩はやっぱり笑顔でそう誉めて来る。
「本当にその……似合ってます?」
「似合ってるよ。ほんとに」
駄目押しとばかりに抱きしめられてしまう。
先輩、狙ってやってるの?と思いたくなるけど。
昔からこんなんだからきっと違うんだろうなあ。
「あの。凄く。凄く恥ずかしいお誘いなんですが……」
意識し過ぎ、私。と正直思う。
別に「そーいうこと」をされると決まったわけじゃないし。
そもそも一回は経験しているのだ。
それに「そーいうこと」をされるかどうかはともかくとして、私から夜にもう少し一緒に居たいなどと言うお誘いは初めて。
「うん?どうしたの?ちょこ」
こんなにもいっぱいいっぱいなのに先輩はいつも通り。
「実は今日、とーさんもかーさんもいないんですけど。寄って行きません?」
言ってて顔から湯気が出るかという思いだ。
「あー、それでさっきから……」
心を読まないで欲しい。
「大丈夫。こっちは今日、泊まりあるかもって言ってあるし」
「センパイの家は色々緩いですけど。22時までですよね」
「今日はこういう日でしょ?流れ次第では、ね」
珍しく少しだけ照れた先輩がそこに居た。
なんだろう。これは胸キュンというのだろうか。
普段、ポーカーフェイスな先輩だからこそ、照れ顔が貴重だ。
「じゃ、じゃあ。今夜はよろしくお願いします」
もういいや。このまま流れに任せてしまおう。
元々はあとちょっと居られればというものだった。
それがお泊りになるのは想定外もいいところだったけど。
「こちらこそ今夜はよろしく」
少し照れた笑顔のハル先輩。
私たちは、こうして誰も居ない、でも今夜いっぱいは二人の家に帰ったのだった。
でも……お泊りとか全く想定外だったよ。どうしよう?
一人、今後の展開に備えて色々頭を悩ませる私だった。
部屋で制服に着替えて今日の忘れ物がないか一通りチェック。
鞄良し。
逆チョコよし。
プレゼントよし。
(ちょこはどんな顔してくれるだろう)
ちょここと佐々木千代子。
僕の一年後輩の幼馴染で一か月前からお付き合いしてる最愛の人。
お茶目で、でも純情なちょこに愛情表現をすると本気で照れてくれるので最近は毎日が楽しい。
ピンポーン。ピンポーン。
「千代子ちゃん来てるわよー」
リビングから母さんの声。
「わかった。もう準備出来てるから行くよー」
「はいー。今日は楽しんで来なさいねー」
さてさて。今日はどんな一日になるだろう。
「おはよう、ちょこ」
「おはようございます、ハル先輩」
セーターの下から見える、
赤紺の冬用セーラー服がいつも映えるなあなんて思う。
ハル先輩は僕、赤山陽翔の愛称。
「愛してるよ」
言いながら背中に手を回して抱きしめる。
朝彼女が迎えに来たらだいたいこんなことをするのだけど。
「ハル先輩……ちょっと恥ずかしいですよ」
もうそろそろ慣れてもいいのにと思うのにちょこはあたふた。
元々赤面症なところがある彼女だからこういう変化も人一倍だ。
「毎朝の儀式のようなものでしょ。もう」
なんていいつつ背中を撫でさすっていると、次第にちょこの方も落ち着いてきて、僕の背中に手を回してくる。ちなみに、ちょこは僕の肩を撫でるのがお気に入りらしい。
「それでも朝いちばんにこれはなかなか慣れないです……」
「じゃあ、やめる?」
ちょっと声のトーンを上げてあえて意地悪さを演出。
「先輩、わかってていってますよね」
「言ってもらわないとわからないんだけど!?」
「それは嬉しいに決まってるじゃないですか」
「そうそう。素直になればいいんだよ、素直に」
「私は慎み深い日本人です。先輩みたいなラテン系日本人とは違うんです」
「僕も別にラテン系なんて出自はないけど?」
「きっと前世はイタリア人です」
マンションの3階、玄関を出たところで抱きしめあいながらそんな朝の会話を交わしているわけだから、当然のごとく周りの住人は僕たちの仲を知っている。
今もマンションの階段を下に降りていると、
「ちょこちゃんもハル君も青春してるわねー」
などと、ご近所のおばさんが微笑ましそうに声をかけてきた。
「こういうのが青春なのかな」
「センパイ、それ本気で言ってます?」
「冗談、冗談」
と、登校路に出てすぐのところで、
「そこの陰に移動したいんですけど」
何故か死角になっているところを指差してくる。
「うん?いいけど」
何か人に聞かれたくない話だろうか。
「手作りは初めてなんですが。本命チョコです」
鞄から何やらラッピングされた小箱が出てきて差し出された。
さっき抱きしめた時より何やら顔があかくてよっぽど恥ずかしいんだなと微笑ましくなる。
「何笑ってるんですか」
「いや、ちょこは可愛いなあって」
言いながら髪をなでるとチョコも気持ち良さそうに目を細めるがまま。
「ふー。なんだか落ち着きます……じゃなくて!」
普段はこうやって髪をなでてると数分間ぼーっとするのが彼女の常なのだけど、さすがにそうはいかなかった模様。
「美味しいかは自信ないですけど、食べてくださいね」
「もちろん食べるって。一個だけつまんでもいい?」
「どーぞ」
というわけでラッピングを外すと出てきたのは一口サイズのハート型チョコが10個くらい入った箱。多少形が崩れているのはまさに手作り故か。
「おお。美味しい。みかんの味がする」
「普通のチョコも味気ないかなって。どうです?」
「美味しいよ。すっきりさわやかって感じ」
「良かったです」
僕の方もチョコを渡さないと。
「こっちもチョコ用意してきたんだよ」
はいとラッピングされた円形の箱を手渡す。
「逆チョコっていうやつですか?ありがとうございます」
「そうそう。僕としても愛情表現したくて」
「わざわざ言わないでください!」
「そんなことで恥ずかしがらなくてもいいのに」
「とにかく。私も一口だけ食べていいですか?」
「どうぞ」
するすると手慣れた手つきでラッピングを外すと一口サイズの、一見8の字にも見える一口サイズのチョコが10個ほど。
「なんか変わった形ですね……美味しい!」
顔が一気に綻んだのを見て心の中でガッツポーズ。
「でしょ?」
「悔しいけどハル先輩の逆チョコ、私のより全然上です」
「別に上とか下とか考えなくても」
「彼女としては少しは凹むんです」
なんだかダウナー気味になってしまった。
「ところで、これ、8の字ですよね?チョコにしては変わってるような」
「よくぞ聞いてくれました!」
「ああ、やっぱり意図的だったんですね」
「横にしてみると数学の∞記号に見えてこない?」
「ああ、それで。つまりその……」
「ずっと愛してるよの意味のつもり」
言った瞬間、またちょこの顔が面白いことになっている。俯いてみたり、うー、だの、あー、だの言ってみたり。
「まだ朝なのに、羞恥心が限界を突破しそうです……」
「しないでよ。放課後はデートでしょ」
「これ以上恥ずかしがらせることしませんよね?」
「しない……とおもう。たぶん」
「これ以上はほんとーにやめてくださいね!?」
恥ずかしがり疲れたのだろうか。放課後のデートではちょっと彼女で遊ぶのを控えた方がいいかもしれない。
高校一年のちょこと二年の僕は当然教室も違う。
というわけで二階で別れて三階のCクラスへ。
「ハルトさあ。今日はいつもより幸せさ3倍って顔だな」
隣の席の友人である平岩が話しかけて来た。
「ちょこが彼女になっての初めてのバレンタインデーだからね」
「まーたのろけが始まった」
「のろけというか素直な気持ちを言ったつもりで……」
「それがのろけっていうんだよ」
「ごもっとも」
「俺なんかクラス女子の義理チョコに期待するしかないっていうのに」
「平岩も今日だから逆にアタックするのはありなんじゃない?」
「準備なしでやっても玉砕するのが関の山だよ」
「いやいや。案外平岩のこと憎からず思ってる女子もいるかも」
「ないない。でも、言われると玉砕覚悟でってのも悪くない気がしてくるなー」
思わないところで影響を受けてしまったらしい。
「まあその。僕も応援してるからね?」
「勝ち組の声援より虚しいものはないさ」
僕はといえば、放課後のデートが楽しみで授業がロクに手につかない始末。
授業で当てられたのにも気づかずに、
「赤山が珍しいな。大丈夫か?」
と教師に心配されることまであった。
「先生。ハルトは出来たばかりの彼女とデートで浮かれてるだけっすよー」
「最近、毎日のように見せつけてくれるもんね」
授業中にも関わらず野次が飛んだのだった。
そして放課後。いよいよ、デートだ。
二人でショッピングモールまで歩いていると、ふと、マフラーをしているのが目に付いた。いつもしてるのとは少し違う、小さくてどこか形も歪な代物。
「そういえばそのマフラーってさ。もしかして……」
確か小学校の実習で作った覚えがある。
「「ちょこに似合いそうだから」なんて女ったらしな言い方でプレゼントしてくれた代物です」
「あの時は本当に似合いそうだって思ったんだけど」
「ハル先輩はそーいうところが性質悪いですね」
「正直に誉めて別に悪いことはない思うけど?」
「そういうのを繰り返すから、私はセンパイに堕とされてしまったんですが」
「ごめんごめん。最近は反応見るのが楽しいからっていうのもあるけど」
「男子なのに小悪魔属性とか止めて欲しいです」
「嫌ならやめるけど?」
でも、彼女の答えはわかりきっている。
「嫌じゃないから困るんですよ……」
恥ずかしそうに、ニマニマとしながら溜め息をついたちょこは普段よりいっそう可愛らしい。
「今日はデート、楽しもうね」
「はい。イジメるのはほどほどにして欲しいですが」
「ごめん。そこは保証できない」
「えー……」
デートでは色々なところを見て回った。衣料品店でまだ早いけど春物をそろえたいというチョコの要望にしたがって色々な服を見て回ったり。
「センパイはちょっと服のバリエーションが少ないと思うんです」
ということで何故か着せ替え人形にされたり。
あるいは、小物類を買うわけでもなく、あーだこーだ言い合いながら眺めたり。
そんな、他愛なくも楽しい3時間くらいのデートはあっという間に過ぎて。
今、僕らはマンションへの帰路についていた。
「デートももうすぐ終わりなんですね……」
マンションまであと数分というところで寂しげにちょこがつぶやいた。
◇◇◇◇ちょこ視点◇◇◇◇
「デートももうすぐ終わりなんですね……」
気が付けば夕方の6時30分。
朝からいつものようにハル先輩に抱きしめられたり抱きしめ返したり。
チョコを渡し合ったり。
放課後は色々おしゃべりしながら楽しく過ごせた、と思う。
ただ、ここに来て私は一つの迷いを抱いていた。
勢いでハル先輩を家に誘っちゃうかどうか。
タイミングのいいことに今日はとーさんもかーさんも居ない。
そこはかとなく両親の作為を感じるのだけどありがたく受け取っておこう。
「ああ。少し寂しいね……」
繋いで来る手の力が少し強くなった気がしてドキドキしてくる。
センパイとは一回だけだけど「そーいうこと」をしたことがある。
まだまだ慣れていないけど、「そーいうこと」になってもいいかなとも思う。
でも。
「……」
切り出すのが恥ずかしくて、私の部屋の前まで無言で歩いたのだった。
「今日は色々ありがとうございました。ハル先輩」
部屋でもっとイチャイチャしたいという気持ちはある。
でも、今日は恥ずかしくて。そんなひよった言葉。
「僕もちょこを弄れて楽しかったよ」
憎たらしくも思える一言だけど、私もそういうのが嫌いじゃない。
ハル先輩に弄られるのが好きとか変態じゃないだろうか。
「私も……楽しかったです。ほどほどにしてくれるともっといいんですけど」
とはいえ、あんまり弄られると恥ずかしさが限界を突破するのも事実。
少しの抗議の意味を込めて言ったのだった。
「そこは善処するから。っと忘れるところだった」
鞄をごそごそして取り出したのは……アクセサリー?
「誕生日おめでとう、ちょこ。危うく渡し忘れるところだったよ」
誕生日。そういえばそうだった。
時々忘れそうになるけど私の誕生日は2月14日。
千代子という名前の元であるチョコがバレンタインデーに由来するというどうしようもない命名の仕方だ。
私は自分の誕生日は忘れがちで、両親も以前から日が変わってから誕生日プレゼントを渡したりするので意識から抜けていた。
「その。このタイミングで渡すの、色々反則ですよ」
ちょうど、離れたくないなって思っていたところなのに。
やっぱりもうちょっと居たいっていう気持ちが強くなってくる。
「ネックレスなんだけど試しにつけてもらえる?」
「は、はい……」
あ、やっぱりそういうのだったんだ。
ラッピングをほどくと。
出て来たのは銀色に輝くネックレスと先端についたロケット。
これ、似合うかな?
いそいそとネックレスを首からさげてみる。
鏡がないからちょっと自信が持てない。
「うん。似合ってる、似合ってる」
なのに、先輩はやっぱり笑顔でそう誉めて来る。
「本当にその……似合ってます?」
「似合ってるよ。ほんとに」
駄目押しとばかりに抱きしめられてしまう。
先輩、狙ってやってるの?と思いたくなるけど。
昔からこんなんだからきっと違うんだろうなあ。
「あの。凄く。凄く恥ずかしいお誘いなんですが……」
意識し過ぎ、私。と正直思う。
別に「そーいうこと」をされると決まったわけじゃないし。
そもそも一回は経験しているのだ。
それに「そーいうこと」をされるかどうかはともかくとして、私から夜にもう少し一緒に居たいなどと言うお誘いは初めて。
「うん?どうしたの?ちょこ」
こんなにもいっぱいいっぱいなのに先輩はいつも通り。
「実は今日、とーさんもかーさんもいないんですけど。寄って行きません?」
言ってて顔から湯気が出るかという思いだ。
「あー、それでさっきから……」
心を読まないで欲しい。
「大丈夫。こっちは今日、泊まりあるかもって言ってあるし」
「センパイの家は色々緩いですけど。22時までですよね」
「今日はこういう日でしょ?流れ次第では、ね」
珍しく少しだけ照れた先輩がそこに居た。
なんだろう。これは胸キュンというのだろうか。
普段、ポーカーフェイスな先輩だからこそ、照れ顔が貴重だ。
「じゃ、じゃあ。今夜はよろしくお願いします」
もういいや。このまま流れに任せてしまおう。
元々はあとちょっと居られればというものだった。
それがお泊りになるのは想定外もいいところだったけど。
「こちらこそ今夜はよろしく」
少し照れた笑顔のハル先輩。
私たちは、こうして誰も居ない、でも今夜いっぱいは二人の家に帰ったのだった。
でも……お泊りとか全く想定外だったよ。どうしよう?
一人、今後の展開に備えて色々頭を悩ませる私だった。
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