幼馴染たちは恋をする

久野真一

文字の大きさ
上 下
8 / 39

SNSで片想いの可愛い幼馴染についてつぶやいてたら本人にバレていた:「そんなに好きでいてくれたんだね」と彼女がニコニコな件

しおりを挟む
 僕は幼馴染の成神千佳なるかみちかのことが好きだ。滅茶苦茶好きだ。
 振られたらずっと引きずる自信がある。
 千佳と僕、坂道成明さかみちなるあきは小学校の頃からの付き合いだ。

 同じマンションでお隣さんの千佳とは親しい付き合いをずっと続けてきた。
 自分でいうのもなんだけど、距離感は他の男子どもと比べてもずっと近い。
 でも、そのせいか千佳からはちっとも男として見られてない。

 なんでかって?ある日、休み時間に千佳と友達の雑談を聞いてしまったのだ。

「千佳ちーってさ。坂道君といつも仲良いよね。実は付き合ってる?」

 金髪碧眼にショートで、背丈が170cmという高めの身長。
 彼女はクォーターでたまたま稀な容姿になったのだとか。
 日本人離れした容姿は子どもの頃はからかいの対象だったっけ。
 僕は身長165cmくらいで千佳より背が低い。

「別に付き合ってないよ。確かに仲はいいけどね」

 ある日、廊下で耳にした雑談に僕は釘付けだった。
 千佳に仲がいいと言ってもらえるのは嬉しいけど……。

「じゃあ質問変えよっか。坂道君のこと好き?」
「時々聞かれるけど、うーん。あえていうと弟みたいなもの、かな」

 人の恋路に興味津々な友達を苦笑いしながら躱すところも千佳らしい。
 いつも穏やかで、こういう質問に対応するときも冷静だ。

「弟ねえ。私は弟とはそんなに仲良くないから想像つかないけど」
「私も一人っ子だからね。もし居たらなる君みたいなのかなって思うだけだよ」
「でたー。「なる君」呼び。そんな風に呼ぶくらいなのに何とも思ってないの?」

 その友達は千佳とは前から大変親しい仲だった。
 うりうりとほっぺたを伸ばしながらからかう様子もちょっとほほえましい。

「なんとも思ってないわけじゃないよ。大事だけど恋愛感情とは違うっていうだけ」
「そっかー。ま、千佳ちーがそう言うならこのくらいにしておくか」
「別にからかうくらいいつでもいいけどね」
「もー。そういう大人ぶったところが気に食わないんだけどー」

 なんて言いながらやっぱりほっぺたをぷにぷにしている。仲いいなあ。
 しかし……。

「弟みたい、か……」

 少し胸が痛い。大事だと言ってくれるのは少し救われるけど。
 同時にそれは家族に対するみたいなもので異性へのものとは違うってことだ。

 でも……弟みたいと言われるのも仕方がないかもしれない。
 昔っから鍵っ子である僕を何くれとなく気にかけてくれたのが千佳なのだ。
 家で親が帰って来るまでの間を寂しそうにしてるとよく来てくれた。
 あっちの家の夕餉に呼ばれたのだって一度や二度じゃない。

◆◆◆◆

「なる君はお父さんお母さんが仕事で遅くてさみしい?」

 小学校のいつだったか。
 家で二人してゲームしているときにふと出た質問だったっけ。

「ちょっとはね。でも、千佳ちゃんがいてくれるし、今は寂しくないかな」
「もう。なる君は本当に寂しがりなんだから。私がついてあげないとダメだね」
「気にかけてくれるのは嬉しいけど、お姉さんぶらないで欲しいんだけど」

 ポチポチと協力型のアクションゲームをやりながら少し不機嫌になってしまう。
 千佳ちゃんとは同い歳なのに。

「だって、なる君見てるとなんだかほっておけないんだもん」
「ほっとけなんて言わないけど、その目はなんか嫌だ」
「ごめんごめん。からかい過ぎたね。でも、大事に思ってるのは本当だから」
「……」

 大事に思ってるのは本当だから。
 照れもなく言われて、身体中が何故だかわからず熱くなった。
 思えばあれが千佳ちゃんへの恋の始まりだったのかもしれない。

◇◇◇◇

 お昼休み。千佳は自分のグループの友達と和気あいあいとお食事中。
 僕は最近は一人で食べている。
 千佳のことを考え過ぎて皆で楽しくご飯を食べる気分じゃないから。
 
「しばらくは一人で食べるから」

 いつものグループの友達にはそう言ってある。
 皆、口々に大丈夫か、何か悩みがあったのか聞くものだから、

「ちょっと恋煩いで悩んでるだけ。いじめられてるとかじゃないから気にしないで」

 誤魔化さずあえて率直な理由を言ったところ、

「お前も青春してるなあ。相談したけりゃいつでも言えよ」
「そうそう。一人であーでもないこーでもない言ってても解決しないよ?」

 などと言ってくれたのだった。つくづくいい友達を持った。

 ともあれ、最近は千佳のことを考えてもやもやすることが増えた。
 親しいのにその先にとどかないのが辛い。

【なる君、今日も元気ないけど大丈夫?】

 千佳も千佳でそんな僕の様子を心配したのか、時々こんなことを書いてくる。
 その当人のことで悩んでるんだけど言っても仕方ない。

【ちょっと寝不足が続いて。そこまで心配しないでいいから】
【それなら。いつでも相談してね】

 千佳は本当にいい子過ぎる。
 窓側にいる千佳のグループを見ると、ポチポチと僕に向けてメッセージを打っている様子が見える。そんなことしてたらまたからかわれるだろうに。

 僕の幼馴染は可愛くて、優しくて思いやりがあって、でも姉のようでそれが辛い。
 うじうじ悩んでる僕に不釣り合いなくらいによく出来た女性だ。

『やっぱり僕とは釣り合わないのかなあ』

 Twitterに思ったことをつぶやく。
 愚痴を吐き出す用のアカウントで、当然学校の友達にも教えてない。
 アカウントに鍵もかけてて、一部の人しか僕の裏垢はフォローしてない。

『はじめてリプしますけど、恋の悩みですか?』

 ふと、唐突にリプがついた。idを見ると、nyaruch1kaと妙な感じだ。
 でも、Twitterでこのくらい妙なidは日常茶飯事で気にしても仕方ない。
 表示名は「なるちか」さん。プロフとかツイート見ると僕より少し年上くらい?
 それと全体的に明るそうな人。

 特に接点もないけどフォロー申請が届いていたので「まあいいか」
 と受理した覚えがある。

『恥ずかしながら。四年以上も前から片想いしてまして』

 これまでのフォロワーさんは皆いい人で、僕のくっだらない恋の悩みに対して生暖かい応援のメッセージをくれることが多い。

『なんかそういうのいいですね。恋に恋するって感じで』

 きっと年上目線で青春してるーって感じなんだろう。
 大人から見たらきっと、年頃らしい悩みなんだろう。

『なるちかさんはもうそういうのはきっと通り過ぎたんでしょうね』

 私もそういう時期があったよー。そんな返事がかえってくると思っていた。
 しかし、

『ううん。私もまさに恋に恋している真っ最中。だから、他人とは思えなくて』
 
 驚いた。ということは、

『ひょっとして、なるちかさんも高校生くらいですか?』
『同じくらいだし、タメでいいよ。うん。私も高校生で、最近好きな人がいるんだ』
『ちょっと同じ悩みがある人いて安心したかも。もしよければなんだけど、DMで続きしていい?』

 正体不明のフォロワーさんだけど、似た境遇なら色々話せる気がしたし。
 それに、いくら裏垢とはいえ深い話は皆が見てる前だと恥ずかしい。

『いいよー。私もついでに話聞いて欲しいかも』

 予想通りというべきか。なるちかさんは気さくな人だったみたいだ。

『『それでさ。僕の悩みなんだけど、同じ学校のクラスメートなんだ』』
『『すごい偶然。私の好きな人もクラスメートなの!』』

 なんと。世の中には偶然というのがあるんだなあ。

『『奇遇だよね。それで、そいつとは昔からの友達で、結構片想い拗らせてる』』
『『確か四年以上前って書いてたよね』』
『『うん。本当に昔っから』』

 不思議と他人という気がしなくて色々筆が乗って来る。

『『そっかー。じゃあ、まだ小学校の時に?』』
『『その通り』』
『『いいんじゃない?私も二年くらいは片想い続けてるし』』
『『なるちかさんは中学の時からその人のことを?』』

 ひょっとして、同中でそのまま同高に進学したのかな。

『『友達になったのは小学校の頃だけどね。その子は、寂しがり屋で、見てると何かしてあげたくなる感じで、よくお世話してたりしたんだ。でも、なんで私はお世話焼きたくなるんだろうって思ってたけど、中学の頃に「これって恋だ」って気づいた感じ』』

 うおお。自分が言えた義理じゃないけど甘酸っぱい。

『『凄いいいじゃない?なんか、なるちかさんの恋はうまく行きそうな気がする』』

 もちろん、僕が彼女(たぶん女性だろう)の何を知っているわけでもない。
 でも、世話を焼くのを受け入れてくれる間柄なわけだし、相手だってきっと悪く思っていないはず。

『『そうかなー。姉みたいに思われてる気はするんだけど、ちっとも女の子として見られてる気がしないの』』

 聞いてて本当に他人と思えなくなってきたな。

『『きっと大丈夫だって。それとも、その人―男性だよね―がそう見てくれてないって確信でもあるの?』』

 なんだか悩みが可愛らしくて不思議と僕の方が励ましたくなってしまう。

『『確信はないんだけどね。前に廊下で彼が話してるの聞いちゃったの。私は姉みたいなものだって』』

 そういえば、僕も友達に聞かれた時だったか。
 照れ隠しで「千佳は姉みたいなものだって」と言ったことがあったっけ。

『『僕の勘だけど、その人は単に照れ隠しだったんじゃないかな?男性心理的には、そこでからかわれるのが嫌だから、肯定するのは避けるし』』

 これは僕に限らずよくある話だ、と思う。

『『そうなのかなー。さかあきさんはどうやったら気持ち確かめられると思う?』』

 うむむ。ちょっと難しい相談が来たな。
 聞いている限り、なるちかさんとその男性は相当親しいらしい。
 照れ隠しで「姉みたい」という表現をするなんて距離感が遠いならありえない。
 で、脈ありかどうか確かめる方法、方法―

『『たとえば、二人っきりでデートに誘ってみるとか?』』
『『昔っから二人で遊ぶことはあるから、それだとわからないかも』』
『『ダメか―』』

 考えてみれば、僕も千佳と二人で遊ぶことは時々あるよな。
 発想を変えてみよう。もしその男性が僕として。
 千佳がどうしてきたら脈ありっぽいと思えるのかを考えてみよう。

 お弁当を作って来てくれる―ダメだな。
 たまに母さんが弁当作る余裕ないときに千佳が作ってくれることがある。
 
『『うーん。ちょっと発想を変えて、僕が相手―千佳って言う子だけど。その子がどうしてきたら脈ありと思えるかなーって考えたんだけど、ちょっとムードのあるところ誘ってくれたら、ひょっとして、とか思うかも。プラネタリウムとか、静かで景色が綺麗が見えるところとか。ちょっとした思い出の場所でもいいかも。って参考になるかわからないけどね』』

 しばらくの間、反応がなくて僕は失策に気が付いた。
 初対面の相手にちょっと饒舌にしゃべり過ぎた。
 ひょっとして色々まずった……?
 と思ったら、10分くらいして―あれ?千佳はどこに行ったんだ?
 いつの間にか教室から姿を消している。

『『ごめんね。時間空いちゃって。ちょっとトイレ行ってたの。それと、なんだか元気出たかも。頑張ってアタックしてみる』』
『『お役に立てたのなら何より。僕の方もちょっとだけ勇気出してみるよ』』
『『大丈夫。断言するけど、直球で告白してもうまく行く』』
『『なんで断言できるのさ(笑)』』

 彼女の方は何か思うところがあったんだろうし、実際うまく行くだろうけど僕がどうかと言えばまた話が別だ。

『『本当に大丈夫。1億円かけてもいいから(笑)』』

 なるちかさんなりに僕を励ましてくれようとしているのかな。なら。

『『うまく行かなかったら骨は拾ってよ。て初対面なのになれなれしかったかも』』
『『ううん。全然だよ。とっても嬉しかった。また後・・・でね』』
『『う、うん?じゃあ、また後で』』

 なんだろう。フォロワーさんとDMでちょっと深い話をすることは時々ある。
 にしても、大体は「また今度」だ。「また後で」というのもちょっと妙だ。
 特に初めて話をするフォロワーさんならなおさら。

(ま、そういうスタイルの人もいるか)

 ともかく、僕の方も頑張って行こう。
 そう元気を出してスマホをしまったところ、千佳が戻って来ていた。
 その表情は今までみたことがないほどに嬉しそうで、夢見心地と言ってもいい。
 なんていうか、浮かれてぼーっとしているというか。

(なんか嬉しい知らせでもあったのかな?)

 後で聞いてみよう。
 そう思って午後の授業に集中することにしたのだった。

 そして、放課後。
 
(まずは千佳を誘って一緒に下校してみよう)

 幸い、今日はどっちも部活がないはず。
 鞄に荷物を詰め込んで、さて誘いに行こうとしたところ―

「ねえねえ、なる君。今日は一緒に帰ろ?」

 千佳がこんなにも幸せそうな顔で誘ってくるのは初めてだ。
 煽られて僕の方まで照れてしまいそうだ。

「うん。それじゃ行こうか」

 隣に並んで一緒に帰ろうと横に並ぶと、右手に柔らかい感触。
 え?と思って隣を見ると、手がぎゅうっと握られていた。
 温かい。

「千佳。その……この手は」
「手、繋ぎたくなったの。ダメ?」

 可愛い。
 じゃなくて。
 千佳はこんな大胆なことをする子じゃなかったはず。
 
「別に全然ダメじゃない。でも、どうして……」
「好きな人と手を繋ぎたいのは不思議なこと?」

 首を傾げて微笑む金色の髪の少女。
 ああ、幸せだ。じゃなくて。
 あまりに唐突な告白に頭がついていかない。

「ええと。知佳が僕のことを好き?」

 馬鹿なことを言っている。
 告白してきた相手に言う言葉じゃないだろ。

「んふふ。そうだよ?さかあき・・・・君♪」

 瞬間、時が止まった気がした。
 そのハンドル名は、裏垢で使ってるもので、千佳は知らないはず。
 もしかして。なるちか。知佳。
 好きな相手に姉みたいに見られている。

「あああ。知佳が「なるちか」さんだったのか……」

 もう恥ずかしくて顔が見られない。死にたい。
 だというのに千佳はさらに積極的に二の腕を押し付けてくる。
 柔らかい感触が色々刺激強すぎる……。

「んふふ。そうだよ、なる君。すっごく私のこと好きでいてくれたんだね」
「……」
「最初から既視感あるなって思ってたんだよね」
「……」
「それで、なる君が千佳って書いちゃったから、やっぱりって気づいちゃった」

 それが決め手か。相手が本人なら下の名前を漢字で書けば気づくよな。
 人生で一番大きなポカミスだ。

「なる君、小学校の時から私が好きだったんだねー。もー、おませさんなんだからー」

 今度は照れ照れしながら胸をバンバン叩いてくる。
 うちの母さんかよ。

「痛い、痛いって。でも千佳も僕のこと昔から好きだったんだろ?」
「さすがになる君ほど早くはないよー。一体何がきっかけだったのかなー」

 千佳の奴、めちゃくちゃ調子乗ってる。
 でも、好物のスイーツ食べてる時以上に幸せそうだし怒る気にもなれない。卑怯だ。

「もう勘弁してよ」

 言ったらさらにからかわれること受け合いだよ。

「じゃあ、それは勘弁してあげる。代わりにー」

 気が付いたら横合いから抱きしめられていた。
 さらさらの金髪が頬に当たってくすぐったいし、いい香りもするし。
 二の腕の柔らかさとか色々まずいんだけど。

「ね、ねえ。千佳。ちょっと積極的過ぎない?」

 温和で優しくて、面倒見がいいけど、こういう甘え方は初めてだ。
 男としては嬉しいんだけどこいつ本当に千佳?

「私も女の子だから、恋がかなったらこういうことしたかったんだもん!」

 だもん、て。そういえば―

「ちょっと待って。その前に改めてちゃんとした告白をさ」

 なし崩し過ぎる。

「もう。さっき一度言ったのに。じゃあ……大好きだよ。なる君。お付き合いしてください」

 真っ直ぐこっちを見て告げた彼女の瞳はきらきらしていて。
 恥ずかしさにこっちは何もできなくなる。

「僕も千佳のこと、ずっと大好きだったよ。こちらこそお願いします」

 あー、もう恥ずかしい。

「ふふ。良かった。前に聞いた姉みたい、が本音じゃなくて」
「僕もだよ。前に言ってた、弟みたいっていうのは照れ隠しだったんだよね」

 幸せなのか恥ずかしいのか。そんな自分の感情ですらよくわからない。
 いや、どっちもなのか?

「うん?そっちは半分本音だよ?ちょっとだらしないなーってところも弟みたいだし」
「それは否定できないけど」
「だから、これからもいっぱいお世話してあげる。ちょっと遠慮してた分も、ね」
「ねえ。僕は恥ずかしい気持ちでいっぱいなのになんで千佳は堂々としてるのさ」
「私も恥ずかしいよ?でも、幸せないっぱいだから気にならない。なる君、こっち見て?」
「うん?」

 言われるままに首を少し横に向けると―ちゅ。冷たい唇の感触。
 目の前には彼女の目をつむった姿が。
 腕はいつの間にか背中に回されていた。
 僕も対抗して舌を差し込んでみる。
 すると千佳の方も舌を入れてくる。

 ああ。キスって、凄いドキドキするな……。
 恋人ってこういうことするんだ。

「ぷはっ。キスって初めてだけどなんかうれしーね」

 だというのに。千佳は―姉のような、今は恋人な彼女は。
 幸せですと顔に書いてあるような笑顔ときらきらとした瞳を向けてきたのだった。
 もう憎らしいほどに。

「僕はドキドキの方が強いんだけど。納得行かないよ」

 初めて同士だというのにこの差はなんだよ。

「やっぱりなる君は弟なのかも。背も私の方が高いしね」

 ドヤ顔で手のひらを僕の頭にあてる千佳である。
 少し見下ろす千佳の顔がほんっとに憎たらしい。

「……反論できない」

 もう色々敗北だ。

「なる君は幸せじゃない?」
「幸せだけど、それよりも恥ずかしいから」
「良かった。じゃあ、これからもずっと・・・よろしくね」
「うん。これからもずっと・・よろしくって……ずっと?」
「私の好きはそれくらい強いからね」
「わかった。僕もずっと一緒にいたいよ」

 でも、この調子だと僕が千佳をリードできる日は来ないんだろうな。
 なんだか少し情けない。
 
「じゃあ、今日から早速攻めていくからね?」
「攻めって何をする気だよ」
「まずは今日の晩御飯。なる君、今日は一人で夕食でしょ?」
「じゃあ、お願いします。ちなみに献立は?」
「カレーライス。おめでたいときはいつも作ってあげてたでしょ?」
「楽しみだけど……あーんとかしないよね?」
「もちろんするよ?」

 当然でしょと言いたげなこの姉のような幼馴染は一体どうすればいいのやら。
  
「なる君を朝起こしにも行きたいしー。お弁当も作ってあげたいしー」
「あの……」
「それと、膝枕とかもしてあげたいなー。小学校の時以来してあげていないし」
「そんな大昔のこと持ち出さないでよ」

 指折りやりたいことを数え上げてるけど、まさか全部するの?
 僕はもうちょっと普通がいいんだけど。

「千佳の気持ちは嬉しいけど、ほどほどにね?」
「やっと想いが通じたんだから。ほどほどになんてしてあげない!」

 千佳は元々世話焼きだったけど。
 恋人になった今はますます世話を焼く気満々らしい。
 これ絶対クラス中でからかわれる流れだぞ。
 今の様子だったら教室でもあーんとかしてきそうだ。

「ところで、なる君の他のつぶやきも見たんだけど」

 うぐ。まさか。

「あ……そういえばそのままだった」
「なる君、私のこと大好き過ぎるでしょ」
「ごめん」
「謝らないでよ。ちょっと暴走気味なのも幸せ過ぎるせいだから、そこだけはごめんね」

 千佳、暴走してる自覚あったのか。
 にしても、一連のつぶやきを全部見られていたということは。
 ことあるごとに千佳にいじられるじゃないか。
 
 憂鬱だ。
 でも、世界で一番大好きな、優しくて可愛くて姉のような子が傍にいてくれるなら。
 ちょっとくらい我慢してもいいか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】天上デンシロック

海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより   『天まで吹き抜けろ、俺たちの青春デンシロック!』    成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!  しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!  ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。   ---   ※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。   ---   もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。実直だが未熟な響介と、博識だがトラウマを持つ律。そして彼らの間で揺れ動くもう一人の“友人”──孤独だった少年達が、音楽を通じて絆を結び、成長していく物語です。   表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。pixivでは作者( https://www.pixiv.net/users/59166272 )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。   ---   5/26追記:青春カテゴリ最高4位、ありがとうございました!今後スピンオフやサブキャラクターを掘り下げる番外編も予定してるので、よろしくお願いします!

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。 表紙イラスト aki様

処理中です...