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第11章 夏のはじまり

第42話 前期の終わり

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「これでよーやく前期も終わりか―」

 大学は高校の時と違って、4~7月までの前期。
 それに、10月~1月までの後期の二学期制だ。
 そして、今日は前期最終日。
 これから2か月近い夏休みかと思うと解放感でいっぱいだ。

「お前らは夏休み、どうやって過ごすんだ?」

 必修授業なので、小学校からの友人であるゆう
 高校からの級友である宗吾そうごも一緒だ。

「色々未定。百合とイギリスに新婚旅行行く予定だけどな」
「そうそう。ウナギのゼリー寄せとか楽しみー」

 まーたこいつは妙なことを。
 
「新婚旅行かー。そういえばお前たち夫婦だった」
「昔からの延長で考えちゃうわよね」

 うんうんと頷きあっている交際歴一年超のカップル。
 まあ、こないだまで食べさせ合いするにも苦労してたけど。

「それでロンドンだよ?羨ましくない?羨ましくない?」

 よっぽど浮かれてるのか百合も煽り気味だ。

「といっても俺も優さんも海外行ったことないし」
「そうそう。イメージが湧かないのよね」

 そして、思ったような反応が返ってこなかった百合はといえば。

「数々の小説や映画の舞台になって来たのに……」

 百合はゲーム好きではあるが、元来とても好奇心が旺盛なので小説や映画だってかなり色々見る方だ。メシマズもあるけどそういう文化的な要素だって楽しみなわけで、ちょっと肩透かしな反応と言ったところか。

「ま、まあ。フィッシュ&チップスだっけ?色々楽しんで来いよ」
「そうそう。お土産も期待してるから」

 百合がしょぼくれた反応をしたから慌ててフォローに入る二人。

「お土産かー。じゃあ、イギリスらしいお土産、買ってくるからね?」

 ちらりと横顔を見やれば何やら悪い笑顔。
 こいつ、ネタぽいお土産を買うつもりだ。間違いない。

「イギリスといえば紅茶のイメージがあるわよね」
「お菓子も美味しい印象があるな」

 俺もイギリスに詳しくはないけどなんとなくはわかる。
 しかし、百合はといえば全く別のことを考えてそうだけど。

「ところでさ。そちらのお二人はカップルで旅行行かないのか?」

 行くだろ?行くだろ?という視線を向けてみるも。

「それは……ねえ」

 何やら恥ずかしそうにちらちらと宗吾を見る優。そして。

「うん……行けると嬉しいけど」

 なんとまあ初々しい。カップルになって大学生になってるのに。
 お泊りもまだしていないのか。
 しかも、お互い気恥ずかしくて誘えていない様子。

(修ちゃん、修ちゃん)
(どした?)
(せっかくだし、二人の背中押してあげない?)
(まー、恥ずかしがって進展しないのももったいないよな)
(そうそう。初体験もまだな気がするし)

 完全に野次馬根性だ。

「つかさ。二人とも恋人なんだから行けばいいんじゃないか?」

 というわけで、いまいち気恥ずかしそうな二人に言ってみる。

「そうそう。二人が恥ずかしいのはわかるけど勿体ないよ!」

 百合もうでを振り上げて力説。

「ま、まあ。そりゃ、俺も行きたいとは思ってたけど……」
「その。宗吾君は嫌じゃない?」
「嫌なわけないって。優さんと行けるわけだし」
「じゃあその。連れて行って……くれる?」
「こちらこそ。その、よろしく」

 俺たちは一体何を見せつけられているんだろう。
 
(二人とも初々しくていいね)
(俺は見てて恥ずかしくなって来た)
(えー。楽しくない?)

 と二人でこそこそしていると。

「とにかく。旅行はおいといて。また四人で遊ぼうぜ」
「そうだな。その内ラインで連絡する」

 そんなこんなで前期最終日はこうして終わったのだった。

「しっかし、イギリス行きまであと一週間か」

 真夏の日差しを浴びてぐったりしながら隣に問いかける。
 早く家につかないもんか。

「修ちゃんすっごくだるそう」
「今日はいつにも増して暑いし」

 言葉も自然といつもより短くなる。

「だったら、帰ったら二人で水風呂に入らない?」

 水風呂か……確かにいいかもしれない。

「ちなみに、水着でか?」
「着なくてもいいけど……エッチな気分になりそうだし」
「確かに。つか、お義母さんにバレないようにしないとな」
「うん。また妙なこと言い出しそうだし」

 さすがに娘夫婦の部屋に入り込むようなことはしてこない。
 しかし、お風呂場に二人が入ってたらまあ色々勘繰られるだろう。
 そして、お義母さんはと言えば色々興味を持ちそうだし。

「お義母さん、いい人なんだけどなあ」

 孫欲しさゆえかそういう事を推奨してくるのはどうかと思う。

「修ちゃん、妙な慰めはいいから」
「いや。例のこと除けばいいお母さんだと思うぞ?」
「その事が最大の問題だよ」

 二人揃ってお義母さんにばれないようにと誓う俺たちだった。

◇◇◇◇

 そして、帰宅して、お互い水着に着替えての水風呂。
 少し手狭だけど向かい合わせでなんとか入れるくらいの広さはある。
 しかし、プールで水着を見るのとはまた違う良さ……がある。

「修ちゃん、なんか胸見てる」

 じーっと見つめられる。
 とはいえ、怒ってる様子はない。

「いや……お風呂だと目立つだろ」

 目線を逸らすのも妙だしつい見てしまうのだ。

「修ちゃんは可愛いねー」

 と思ったら、何故か髪を撫でられた。

「百合。何の真似だよ」

 あえて不機嫌を装ってみたのだが百合は上機嫌だ。

「だって恥ずかしそうなところが可愛いの」
「つっても、プールと風呂だと色々違うだろ」

 逆にお互い裸の方が良かったかもしれない。
 お風呂で水着、しかも露出が多すぎない、百合の健康的な肢体を強調するような水着で色々意識してしまう。

「したくなって来たなら、いいよ?」
「さすがに今だと雰囲気がな」

 意識してしまうから出来るという単純なものでもない。
 しかも、夜ならともかくまだお昼だと理性が勝ってしまう。

「じゃあ、夜は?」
「なんで百合がそんなに積極的なんだよ」
「だって……最近、暑さのせいか修ちゃんとする回数減ってるし」

 そんなところを不満に思っていたのか。
 しかし、百合は以前もこんな欲求不満気味だっただろうか?

「そのさ。百合、最近欲求不満気味になってないか?」

 この言葉選びは我ながらどうかと思うけど百合ならいいだろう。

「実は……少し」

 目を伏せつつ肯定の返事。

「なんでまた」
「だって。新婚旅行で海外って思うと色々考えちゃうし」
「旅の前から旅の解放感に浸ってどうするんだよ」
「そう思っちゃうんだから仕方ないでしょ?」

 確かにそういうのは理屈でなんとかなることじゃない。

「とにかく。夜なら……大丈夫、だと思う」
「ひょっとして、元気ない?」
「どこがだよ。とにかく、水着似合ってるから」

 無理やり話をそらしにかかるも。

「露骨に修ちゃんが話題逸らしに来た……」

 なおも百合は不満げだ。

「いやだって。夏バテというかなんというか」
「じゃあ、精のつくものがいいのかな?」
「ああいうのって都市伝説じゃないのか?」
「私もそこは疑ってるけど……試してもいいでしょ?」
「試す分にはいいけどな」

 ごく自然に真昼間にこういう会話してるのはどうなんだ。
 ふと、なんとなく百合の頬をツンツンと突いてみる。

「急にどうしたの?」
「いや。なんとなくしてみたくなっただけ」
「じゃあ、私も」

 なんて言いつつ同じように頬をつつかれる。

 こうして、水風呂でやっぱりイチャついてた俺たちだった。

◇◇◇◇

 四人での晩御飯。

「百合たちももうすぐ新婚旅行ね。気を付けて行ってらっしゃいね」
「ロンドンなんて都会だからたぶん大丈夫だよ」
「それでも海外だからね。気を付けるように」
「はーい」
「修二君も百合のこと改めてよろしく頼むよ」

 そう聞いた百合は「いつまでも子ども扱い」と少し膨れていた。
 まあまあと百合を宥めて部屋に戻ると。

「私も未成年だけど、もう立派にバイトだって出来る歳なのに」
「いいんじゃないか?百合は変なところが抜けてるし」
「修ちゃんの癖に生意気」
「いやいや。百合は頭いいけど、ちょっと抜けてるところあるだろ」

 言い合いをしている内にすっかりプロレスごっごになってしまったのだった。
 当然、性的な意味は無くて純粋なじゃれ合いだ。

「新婚旅行だし、俺がリードしないとな」
「別にそんなに気を張らないでいいのに」
「うお……聞いてたのか?」

 トイレに行ったと思ってこぼした独り言だったのだけど。

「手を洗ってたらなんかぶつぶつ言ってるのが聞こえてたよ」
「あー、聞かれてたとは。はずい」
「大丈夫、大丈夫。修ちゃんが頑張ってくれてるのはわかるから」
「嫌わないのはわかってるけど、恥ずかしいときもあるんだよ」
「変な修ちゃん」
「百合の方が変だろ」
「そうかもね」

 なんて肯定するから気が抜けてしまう。
 百合は意地を張らないから喧嘩にならずにこうしてよく終る。
 相性がいいという奴なんだろうか。
 なんて言っている内にもう就寝時間だ。

「お休み、百合」
「お休み、修ちゃん」

 先に控えた新婚旅行のことを考えながらお互いに静かに眠りについたのだった。
 さてさて、本当にどうなることやら。
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