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第一章

第一話

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 その日、大きな運命が交差する。

………

……



 そこは、現実世界のどこか。

 都心にも近く、交通網も物流もしっかりした理想的な立地。

 小・中・高一貫、シラユリ学園。校舎は別館

 その中等部生徒会室。

 そこでは、数人の生徒会メンバーが集まりいくつもの議題を議論していた。

「ふははは、さぁ皆の者~この会長様に意義がある者は申し出てこい。」

 中等部・生徒会会長、別名学園の支配者、姫様。
何故か学園のほぼ全てに影響力を持つ意味の分からない超人一般人だ。
名前は星宮・桜花ほしみや・おうか

「はいはい~!会長意見具申。」

「君に決めた!あーちゃん」

 元気よく手を上げて立ち上がったのは、活発そうな少女。
 生徒会臨時お助け係1号
吉野・茜よしの・あかね

「ふふふ、そんなもん決まってますよ、我が校のアイドル生徒会会計の冥ちゃんをなんとしてもコスプレさせるのです!!」

 この阿呆。

「はい、次の人~」

 会長は優しい笑顔で右から左に流す。
 悲痛な声が聞こえたが無視。

「と言うか何でコスプレ?、予算審議の会議じゃなかったっけ?」

 そう言ったのは、黒板の前に佇む少年、生徒会書記。
 渡辺・和希わたなべ・かずき

「はぁ…皆さん、変な議題を始めないでいただけますか?…ぁ会長、この書類終わりました。」

 そう言て机から目を離して話に加わるのは、この生徒会室の中で唯一の人外にして物語の主人公。

 現在は学生として人間社会に溶け込む、悪の組織の構成員、仮面の道化師や黒い影の姿をもつ、妹の幸せを願う(狂気)姉・夢月・冥ゆずき・めい
生徒会会計担当。

「あら、いつもながら冥ちゃんは優秀~っと。」

 会長はその書類を受け取ると長し見ていく。

「そういえば、生徒会雑用係は?」

 辺りを見回して、何かに気が付いたアカネが椅子の上でだらけながら疑問を感じカズキに問う。
 
「一人は遊び盛りのため逃走中、もう一人は風でお休み。」

「…また?」

 ジト目でそう言うと、書類を確認していた会長が話に加わる。

「まあ、それなら良いでしょう。」

 そんな和気あいあいとした生徒会に変わらず、まるで傍観者でも決め込むように、ボーッとそのやりとりを見つめる冥。

 ふと、時計を見つめ立ち上がる。

「あら?どうしたの。」

「帰ります。」

 冥はそう言って、マジで生徒会室を出て行った。

「「……」」
「……相変わらずのマイペース、優秀なんだけどねぇ…」




 冥は校舎の廊下を歩いて行く。
 貼り付けたような笑顔と、人形のような顔。

 だがすれ違う人にはまるでその存在感すら感じられていないように薄く、気づくそぶりすら無い。

 冥は時計を見つめ、妹は家に帰ったころかな…とか、遊びに行っちゃったかな~とか、考えることは妹のことばかり。

 そんなこんなで、ボーッと歩いていると、冥の目の前には誰かが横切る。

「…ぁ」

「ん?」

 それは、存在感の薄い冥に気が付いた様子で、にこりと笑うと近づいてくる。

「よ、今帰り?」

 そう問いかけてくるのは、冥の、化け物になる前、それこそ人であった頃の幼少期からの親友であり幼馴染みの一ノ瀬・雫いちのせ・しずく
 
「しずく…うん、帰り。」

 冥はうなずく、雫は歩幅を合わせて共に歩く。

 とくに言葉を交わすわけでも無く、互いに気心の知れた中の…筈。

 親を失い、壊れた私を人の側に止まらせてくれるそんな存在。

 でも、私は嘘つきで、化け物で、人殺しだ…。

「今日は…少し元気が無いね?冥…」

「…ん、大丈夫、まだ大丈夫だから……。」

 だからだろうか、互いに気にはかけるが、必要以上に踏み込まないようになったのは…。

「……そうか。」

 気まずい雰囲気で、互いに同じ道を歩む。

 私達は公共交通機関を使い遠くも無く近くも無い道を歩む。

 互いに何かを言おうとしては、辞め、手を伸ばそうとしては引っ込める。

「…あれは…?」
「…な?!」

 その時、空が瞬いた。

 空間そのものが一瞬で切り替わるような、何かが辺り一帯を包み込む。

 その空間が広がっていくごとに人が消えていく。

「な、なにが…っ!!…冥離れないで。」

 その光景を私は知っていた。

「ッ!…」

 見知っていると言ってもいい。

 裏の世界、悪意の化け物が人を襲う時の空間、魔法少女と戦うための世界。

コレは、かなり大規模な結界だ

 私達は裏の世界へと入り込んでしまったことを意味する。

 私は目を見開き焦った。

 それはそうだ、傍らには大切な親友…ただし一般人がいるのだから。

 対して私の正体は…化け物。

 どうする。

 どうすれば…

「「ッ!」」

 また空気が揺れた。

 戦いの音、衝撃と轟音。

 遠目に、数人の魔法少女達…そして空を覆い尽くすような化け物。

 なぜだ…?

 私達を取り囲むように近づいてくる、化け物…。

 何で、ここにいる。

 魔法少女たちは、空を大地を飛び回り戦っている。

 はやくここを離れなければ。

 だけど、いまの私は…

 そう、思考を回して、しずくの背中を見つめ、ついで辺りを見回……!?。

「「?!!!!!!」」

 その時、大地が爆ぜた。

ドゴーオォォォォォ!!

 閃光が駆け巡り、そして轟音の嵐が吹き荒れる。

 それは私達の元に飛来した流れ弾。

 私達は、魔法少女の力と悪意の化け物の…流れ弾により別々に吹き飛ばされる。

 私にとって、悪意の化け物ににとって致命傷たり得る力…肉体を魂を貫くような痛み、動けなくなるほどの衝撃と破壊。

 コレでは、友を、親友を失ってしまう。

 私は焦った、体から色が抜け、壁を突き破り大地を転がりどこかも分からない場所でやっと止まる。

 だが、意識は焦るばかりで、体が動かない。

 どうすれば。

 動け。

 動いて。

 大切な親友なんだ…。

 守らないと行けないんだ。

 地面に倒れ伏し、体の半分が崩れたような状態の私の顔を覗き込む何かがいた。

『…お前…死ぬのか?』

 それは、見たことも無い化け物……いや、妖精のような何かだった。

『…化け物の一匹が何で、心を輝かせる。

 その光は、魔法少女と同じものだ。』 

 妖精のような何かは、私に触れた。

『…魂…肉体…血、意思、材料は揃っている…さてどうするか……我はもう裏切り者…この者は…悪逆の化け物…契約を上書きすれば行けるか?』

 その瞬間、胸の内側を魂を握られた気がした。

 おかしい、私は…

 これは…

───聞こえるか?

 …だれ?

───汝、我と契約するか?

 …これは…同じ…

───否、我はガルーダ、ウロボロスとは対極にいつる魔法少女の側にある者なり。

 …敵?…

───どちらでも無し、汝、悪逆ウロボロスの呪縛から解放されたいか?

───そのために力がほしいか?

 …呪縛?…力?

───これは契約、もしも汝が我と共に歩のなら、善でも悪でも無い、何かとなるだろう。

 …私は…今、力がほしい…守る力を…奪われない力を。

───契約は成立だ。

───汝は…善悪、二つに一つの契約を結んだ、新たな魔法少女だ。

 …ゐ?

───さぁ、目を覚ませ。

………

……



 ぼんやりとした意識が段々と光を帯びていく。

 …ここは…何所?…私は…?!

 瓦礫の傍らで、冥は目を覚ました。

「…嘘。」

 体の中に、得体の知れない何かとても大きな力が渦巻いている。

 なぜ?

 そう考えたとき、瓦礫の向こう側から轟音が響く。

 魔法少女と悪意の化け物の戦闘が。

「!しずく。」

 私は駆け出した。

 崩れかけの体は、何事も無かったかのように元通りになっている。

 疑問を感じるが、それよりも…そう考えたとき。

 頭の中に、声が響く。

───汝…変身しないのか?。

「!?…何、コレ…」

 あまりの情報量に、頭が痛い。

 眩暈と共に体がふらつき、頭中に響く声がなんなのか、自分の体に何が起きたのかを理解した…理解させられた。

「…妖精…か。」

───不服か?

「いや、不愉快なだけ、私の本質は悪意に染まったまま。」

───だが、ウロボロスの呪縛が解けたぞ?

「でも、契約が残ってる。」

───真面目なことだ、この分なら期待できそうだ。

「…魔法少女…変身か…えっと…◆◆◆◆!。」

 その言葉は頭に浮かんできた。

 変身のキーワード。

 その瞬間、冥の体を影色の粒子が包み込む。

 来ていた服が粒子になって空中を漂い、冥の体の周囲を舞い踊っている。

───肝心なところが見えぬ。

 ちょっと気になる声が聞こえたが無視。

 光が収まったとき、そこに佇んでいたのは、何の変哲も無い白いワンピースを着た、何もかもが真っ白な見た目の少女だった。

 魔法少女と言うには、あらゆる意味で足りない。

「…なんか違う」

───我も、そう思うぞ?。

「ぁ!…しずく!!」

冥は駆け出す。

───うむ…色々な意味で想定外だ。
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