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イーザリア王国編

ワイバーンカツレツ

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 ワイバーンステーキは大成功だった。あの後とりとめのない話をして解散となったが、ミゲルは別れ際に何度もお礼を言っていた。
 僕のことを律儀と言っていたがミゲルも律儀なやつだ。
 春になると人が増えるというミゲルからの情報に兄さんは警戒している。
 何か揉め事が起きて収拾がつかなくなったら、即トリフェの街から離れると約束したので、兄さんも少しは安心してくれるといいのだけど。

 春のことも心配ではあるが、今現在僕はもっと悩んでいることがある。ワイバーン肉をどう料理するか、だ。
 ステーキはたしかに美味しかった。美味しかったがそれだけだと飽きる。肉自体が淡白な味だからね。ワイバーン肉は前世でいうところの仔牛肉に近い。仔牛肉の料理か……。前世の記憶から再現できそうなレシピを思い出す。

『カツレツに挑戦してみよう』
 そうと決まればさっそく行動だ。とりあえず必要なものを買いに商店に向かう。
「兄さん、今からワイバーン肉を料理したいから材料を買いに行きたいんだけど時間ある?」
「すぐ準備する」
 裏庭で鍛練中の兄さんに声をかける。春に向けて何があってもいいように鍛練を増やしているらしい。ちょうどキリがいいところだったのか、鍛練を止めて買い物に付き合ってくれるようだ。

 買い物を終えて拠点に戻った。食材以外に結構いろいろ買ってしまった。兄さんがいてくれて助かった。
「重かったでしょ?ごめんね」
「たいした重さではない。それより食事期待してる」
「うん、楽しみにしてて」
「俺は裏庭で鍛練の続きだ。何かあったら声をかけてくれ」
「頑張ってね」
「ああ」

 さて、期待されてるみたいだし頑張って作りますか。
 まずはワイバーン肉を2センチ程の厚さになるように切り分ける。切り分けた肉を綿棒で叩いて薄く伸ばす。
 次にパン粉を用意する。パンに乾燥の魔法をかけてカチカチにさせる。カチカチになったパンをおろし金で擦りおろす。その時パン粉ができるだけ細かくなるようにする。擦りおろしたパン粉にさらに乾燥をかけておく。
 パン粉に粉チーズを加えて混ぜる。チーズもおろし金で擦って粉チーズにするので結構大変だ。商店でチーズを見かけた時は嬉しかったが値段が高くて驚いた。
 全部擦りおろしてから魔法でやれば早かったのでは?と気づいてしまい、余計に疲れた。
 続いて薄くしたワイバーン肉に下味をつけて小麦粉をまぶし、溶き卵をからめる。そこにチーズを混ぜたパン粉をつける。
 フライパンにオリーブオイルを注ぎ、揚げ焼きにして衣がきつね色になったらひっくり返す。衣がカリッとしたらお皿に盛って付け合わせとレモンを添えて完成だ。
 付け合わせはマッシュポテトだ。あとはサラダとスープを用意したら立派な夕食になるだろう。

「いい匂いだ」
「ちょうど呼ぼうかなと思ってた。座ってて」
「ありがとう」
 テーブルにワイバーンカツレツとサラダとスープを置く。兄さんが待ちきれない様子でソワソワしてる。
「もう食べようか、乾杯」
「乾杯」
 乾杯が終わると兄さんがすぐワイバーンカツレツに手をつけた。僕も負けじとカツレツにナイフを入れると、衣の感触が手に伝わる。
 なるほど。カリッとした衣と柔らかく歯切れのいいワイバーン肉の食感が面白い。揚げたことにより肉の淡白さも気にならない。粉チーズの塩気と肉の旨みがよく合っていて、ソースをかけなくても味が完結している。レモンがなくても十分美味しい。

 感想が気になって兄さんのお皿を覗いてみるとカツレツがなくなっていた。僕は半分も食べてないのにものすごい速さだ。
「兄さんもう食べたの?」
「おかわりはないのか?」
「たくさんあるよ。エールもおかわり?」
「……!頼む」
 兄さんはカツレツがたくさんあると知って嬉しそうな顔をしてた。

 すごかった、というのが食事を終えた僕の感想だ。兄さんは夢中でカツレツを食べまくった。
 途中で僕がサラダとスープも食べてと促さなかったらずっとカツレツを食べていただろう。明日の分にと取っておいたものまで全て食べ尽くしてやっと満足したみたいだ。

「美味かった。やはり俺はルカの料理が好きだ。この前のステーキもよかったがこっちのカツレツ?の方が好みだ」
「カツレツで合ってるよ。すごい食べっぷりだったね。作りがいがあるな。嬉しい」
「実際美味いからな。ルカの料理のために家を借りたが正解だった」
「前に言ってたやつ?本気だったんだ」
「当たり前だ」
 兄さんの顔は真剣だ。こんなに喜んでもらえるともっと頑張ろうと思うから僕も案外単純だ。
 兄さんはいつも純粋に僕を褒めてくれる。それがたまらなく心地よい。
「もっと料理頑張るね。兄さんに食べてほしいものがたくさんあるんだ」
「それは楽しみだ。俺に出来ることがあったら言ってほしい。力仕事なら任せろ」
「言ったね?料理って力が必要なことが多いから頼りにしてるよ」
「ああ」

 結局今日は洗濯と料理をしたら1日が終わってしまった。たまにはこんな日があってもいいか。
 朝に干したシーツからお日様の匂いがする。その匂いに包まれながらとりとめのない話をしていたらいつの間にか眠ってしまった。

 深い眠りに入る前に兄さんが僕の頭を撫でた。壊れものを扱うような優しい優しい手つきだった。
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