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グレイセル王国からの逃亡

温かい手

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 夕飯を終えて家族全員分の食器を片付け終わった僕は、気まずい空気に叫び出しそうになった。
 アイザック兄さん10年ぶりの帰省だよね。話すことたくさんあるよね?何でこんなに静かなんだ。
 夕飯前もアイザック兄さんと母が少し話したくらいで父は全然話してないし。
  
 気まずさが空間を支配するが、誰もテーブルを離れようとしない。
 僕は耐え切れなかった。本当は父が話し始めるまで待っていたほうがよかったのかもしれない。でも話しかけてしまった。

「アイザック兄さん!10年ぶりの村はどう?」
「変わらないな。みんな昔のままだ」
「えー、そうかな?ブルーノ兄さんとニック兄さんなんてずいぶん見た目が変わったんじゃない?」
「そうだな。大きくなった」
「アイザック兄さんは収穫祭参加するの?」
「その予定だ」
「収穫祭といえば宴会があるよね。兄さんくらい身体が大きいとお酒強そう!たくさん飲めるの羨ましいな」
「兵士の中だとそこまで強くない。酒を水のように飲むやつがゴロゴロいる」
「兵士ってすごいんだね。ねぇ、今度剣術教えて!兄さんみたいに大きくなりたいんだ!」
「わかった」

 すんなり約束を取り付けた。目的を達成したのでもうこの空間から離脱したい。ちなみにリリアナは食事が終わってすぐ眠った。羨ましい。

「おい、ルカ。剣術を教わりたいってどういうことだ。絶対に許さんぞ」
 僕はまだまだ眠れそうにない。予想はしていたが、こんなに咎められるとは思わなかった。
「父さん、僕は別に兵士になりたいとか考えてないよ。どういったものか興味があるだけ」
「ふんっ。村のガキどもも剣剣剣。そんなにいいものかね」
 まずい。父がここまで拗れているとは思わなかった。
 申し訳なくてアイザック兄さんをチラリと見る。目が合って兄さんの口角が少し上がった。
 その顔は気にするなと言っているようで、口数は少ないけど優しい人だなと僕がひっそり兄さんの評価を上げていると、父がヒートアップした。

「だいたいな、アイザック!お前何しに来た。ろくに知らせもなかったくせにいきなりなんだってんだ!」
「この度魔物討伐の活躍で特別報奨金を頂いたから届けに来た。今までろくに仕送りもできなかったから」
「そうか、ならその金置いてさっさと帰れ!」
「ちょっと父さん!それは言い過ぎだよ!剣術のことなら謝るから落ち着いて」
 我慢出来ずに口を挟む。10年ぶりに帰省した息子に対してその態度はさすがに酷いと思ったから。

「ルカ!お前は口出しするな!剣術のことがなくてもあいつにはひと言言ってやろうと思ってたんだ!ブルーノ、ニック、ルカ!お前たちはもう寝ろ」
「アナ。俺とアイザックはカーターのところで話をしてくる。朝食はいらない」
 まさか剣術の話からこんなことになるなんて思わなかった。父が母と明日の予定を話してる隙にアイザック兄さんのそばに寄る。

「兄さんごめんなさい。僕のせいでこんなことに」
「お前のせいじゃないさ。庇ってくれてありがとな、嬉しかった。もう寝ろ」
 すれ違い様に頭をポンッと撫でられた。
 ベッドに入ったが父の拗れっぷりにモヤモヤする。こういう時はさっさと魔力を使い切って気絶してしまおう。
 気絶直前でぼんやりしていたら、去り際のアイザック兄さんを思い出した。

 頼もしい大きな手だったな。温かくて、くすぐったいけど悪くなかったな。
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