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最果ての鐘
11話
しおりを挟むトゴルゴの殻壁が眼前に迫っても、四輪車は速度を緩めることなく前進を続けた。
四輪車が目指すのは殻壁が崩壊した箇所、穴を塞ぐように石を積み上げている所だ。
雪が積もっているおかげで高さもそれほどないそこを、四輪車で強引に突破するのである。
荷台から半身を乗り出して殻壁を見据えたジャレドが手を挙げて叫ぶ。
「総員、衝撃に備えろ!」
おれはハンドルを強く握り直し、姿勢を低くして四輪車の後ろにまわる。
前を走る四輪車のエンジン音が一際甲高く響き、ぐんと加速した。
そしてその勢いを保ったまま、石垣に激突する。
岩石同士がぶつかっているような重い衝突音のあと、崩れたのは石垣の方だった。
四輪車は速度をほとんど失わないまま、崩れた石垣を踏み越えてトゴルゴの殻の中へ飛び込んでいく。
おれもその後に続き、速度を上げて瓦礫を乗り越えた。
一瞬前のスキー板が地面から離れ宙を飛ぶ。
無事に着地し、すぐに加速する。
四輪車の駆動音にも負けない甲高い音の後、後輪が激しく雪を巻き上げた。
あっという間に前を行く四輪車の隣に並び、追い越す。
先頭を走るおれは、真っ先にトゴルゴの市街に突入した。
昨日より人の姿が多い。
飛竜に気付いた人々が様子を見ていたのだろう。
おれは腹の底から声を振り絞る。
「道を開けろ!家の中に逃げ込め!戦いに巻き込まれたくなければ、隠れろ!」
おれの声とエンジンの駆動音、見たこともない大きな魔道具が突進してくる様子を見た人々は、悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。
おれは大通りを蛇行して進みながら、わざと雪を巻き上げて人々を追い立てた。
そのおかげで大通りからはあっという間に人の姿が消え、四輪車は速度を落とすことなくまっすぐ教会へ向かう。
途中、2台目と3台目の四輪車が大通りからそれて、地下通路の入り口方面に進んでいくのが視界の端に見えた。
ユリエたちとはここから別行動だ。
成功を祈る。
おれは視線を前に戻し、ぐっとハンドルを持ち上げる。
目の前には雪に覆われた階段。
その先は教会前の広場になっている。
勢いを殺すことなく階段を駆け上り、派手に雪を撒き散らしながら広場をぐるりと一周する。
教会の正面玄関からは異変に気付いた僧兵たちが次々と出てくる。
おれはその僧兵たちに見せつけるように自動二輪車を横向きに滑らせて停車すると、わざとゆっくり剣を抜いて掲げて見せた。
「聖殻教の奴隷共よ、我々にインゲルの福音など必要ない。大鐘はどこにある?即刻、道を開けて案内しろ。王家の血を引くこの私、セオドア・リオ・イングラムが、大鐘を破壊し、エレグノアの人々に自由を取り戻す!」
おれの宣言に、僧兵たちが一斉に武器を構えた。
その中の指揮官と思しき壮年の獣人が、槍を高く突き上げて吼えた。
「敵襲だ!神を冒涜する獣から、大鐘を守り抜くのだ!神の愛、福音のために!」
その声に僧兵たちの目つきが変わる。
動揺と混乱が消え、教会を守る善良な信者から、冷徹な戦士へ。
魔法の詠唱らしき声も聞こえ始め、おれは胸に手を押し当てた。
誰も死なないでくれ。
それを一心に願いながら、精霊に命じる。
「嵐よ!薙ぎ払え!」
おれの目の前が一瞬で真っ白に染まる。
雪を巻き上げた暴風と、地面を這う雷光が僧兵を襲う。
広場はまたたく間に混沌とした戦場と化した。
おれに続いて広場に突入してきた四輪車から次々と傭兵たちが飛び出し、突然の暴風と落雷で隊列を乱している僧兵たちに襲いかかる。
おれはその混乱に乗じて後ろに下がり、四輪車の影に身を隠した。
「良い働きをしてくれたな!奴らはお前に釘付けだったぞ!あとは任せておけ!」
ジャレドがおれの肩を叩き、巨大な棍棒を担いで前線へと駆け出していく。
おれはこのまま後ろに控えて、僧兵たちを引きつける餌としての役割を果たすつもりだった。
しかし、教会の右側の道から追加で僧兵が現れた。
正面玄関は傭兵たちに押され気味で動けないと察した別部隊が回り込んできたらしい。
傭兵たちは今相手している僧兵だけで手一杯だ。
おれはケイジュを振り返り、いいか、とだけ聞いた。
ケイジュは無言で背中の原動機付槍斧に手をかける。
おれは再びアクセルを握り込み、四輪車の影から飛び出した。
「吹き飛べ!」
おれが叫ぶと、再び雪を巻き上げた突風が僧兵たちを襲う。
しかし隊列はほとんど崩れない。
隊列の前に氷の壁が立ちはだかっていた。
魔法で防御壁を作られてしまったのだ。
おれはその壁を回り込むべく、自動二輪車の速度を上げる。
ハンドルから片手を離し、剣を抜いて僧兵の隊列に接近、すれ違いざまに剣を振り上げ武器を持つ手を狙う。
僧兵たちは甲冑を着ているわけではないが、分厚いローブを身にまとっている。
おそらくその下にも防具を仕込んでいるだろうし、刺突は効果が薄い。
唯一防具のない、手袋とローブの袖の隙間を狙ったのだが、運良く当たったようだ。
肉を切り裂く鈍い手応え。
雪の上に鮮血がほとばしる。
おれは反撃を避けるためそのまま隊列の横を走り抜け、距離をとった所で再びハンドルを切って反転、再び突進を開始する。
僧兵たちは次々と魔法の詠唱を始め、おれやケイジュめがけて炎や雷光が迫る。
しかしケイジュが氷の塊や石の礫でその魔法を的確に逸し、おれを守ってくれた。
それでも全てを防ぎきれたわけではなく、おれの膝の横を炎の鞭がかすめていく。
「しばらく離れていろ!おれが魔術師をやる!」
ケイジュはそう言うと、立ち上がり座席を蹴って自動二輪車から飛び降りた。
走行時の勢いを残したまま、ケイジュは原動機付槍斧で詠唱中の僧兵に斬りかかる。
キィィン、という甲高い音とともに、ケイジュの振るった槍斧が不自然な速度で振り上げられ、他の僧兵が突き出した槍を弾き返した。
ケイジュは何人もの僧兵相手に、一切遅れを取ることなく的確に斬り伏せていく。
原動機付槍斧とケイジュの技量が合わさったからこその、圧倒的な速度と威力。
分厚いローブを着ていようと、盾を構えようと関係ない。
槍斧の表面に浮かぶ青白い魔力の光が尾を引き、その度に雪の上の赤い染みが増える。
ケイジュの動きに一切迷いはない。
僧兵は原動機付槍斧の異様な動きに翻弄され、一人、また一人と倒れていく。
しかし、一向に隊列は乱れない。
切り伏せられた僧兵はすぐに他の僧兵に引きずられて後退し、魔法で治癒されているようだ。
これが僧兵が厄介と言われる所以。
彼らはしぶとい。
普通なら戦闘不能となる怪我も、魔法で治癒して復帰してくるのだ。
いくらケイジュが強くても、これではジリ貧だ。
けど、おれが下手に手を出したら攻撃に巻き込まれてしまう。
焦るおれの後ろから、ようやく傭兵が援護に来てくれた。
雷光をまとった弓が僧兵に降り注ぎ、ケイジュに振り下ろされようとしていた剣に直撃。
そのまま感電したらしい僧兵が崩れ落ち、ケイジュの薙ぎ払いでとどめを刺される。
ケイジュの横顔は険しい。
おれは剣を収め、自動二輪車のアクセルを強く握る。
僧兵と傭兵が放つ魔法をすり抜けながら、ケイジュに手を伸ばす。
「ケイジュ!」
また一人僧兵を屠ったケイジュが振り向き、おれの手を取る。
後部座席に飛び乗ったケイジュは肩で息をしていた。
血の匂いも濃い。
「大丈夫か?!一人でなんとかしようなんて無茶するな!」
おれが叫ぶと、ケイジュは荒い息の合間に笑った。
「……平気だ。確かにしぶといが、技量的にはそれほどでもない。治癒にも魔力が必要だ。消耗させればいずれ動けなくなる」
「根比べってことか」
おれは呟いて、一度広場の端まで走り抜ける。
広場は傭兵と僧兵が入り乱れる乱戦状態になっていた。
その中心で、ジャレドが棍棒を掲げて吼える。
返り血で真っ赤に染まった棍棒は、すぐさま別の僧兵に振り下ろされる。
怒号と、断末魔と、悲鳴。
巻き上がる魔法の炎と、降り注ぐ雷、それを弾いた氷の壁が砕ける轟音。
人間同士が戦う光景に、心臓が重苦しい痛みを発した。
それでも、止まるわけには行かない。
「一度ジャレドたちと合流しよう。真ん中突っ切っていくぞ!」
おれはハンドルの向きを変え、ぐっと足を踏ん張って戦場に飛び込んでいく。
すれ違う僧兵の肩を剣で切りつけ、何人かを自動二輪車で刎ね飛ばす。
ジャレドを背後から襲おうとした僧兵を、ケイジュが槍斧の一閃で斬り伏せる。
おれは胸に手を当て、残りの魔力を確かめる。
僧兵の隊列も崩れつつあるが、次々と増援が現れるのでなかなか押しきれない。
戦力を集めて引きつけておくという目的は達せているようだが、このままおれたちが押し負けてしまっても意味がない。
魔力の残量からして、使える精霊術はあと2、3発だ。
脱出にも自動二輪車を使うので、もう無駄遣いはできない。
退却時のために魔力は温存しておくべきか、それともここで蹴散らしておくべきか。
そう考えた直後、教会の方から爆発音が聞こえた。
教会の窓が割れ、ガラスの破片が広場に雨のように降り注ぐ。
ユリエたちが中庭に突入したのか?!
教会の中から僧兵たちが何人か駆け出してくるのも見える。
「中庭に侵入者だ!急げ!塔を守れ!」
僧兵の一人が叫びながら退却していく。
ジャレドは好機とばかりに棍棒を振り上げた。
「追え!中に攻め入るぞ!」
傭兵たちは背中を見せた僧兵に容赦なく追い打ちをかけながら、教会の扉に押しかけていく。
僧兵の動きは混乱していた。
広場で傭兵たちを食い止めようと戦い続ける者、中庭で侵入者を迎え撃つため退却する者、どちらに向かうべきかと逡巡した挙げ句、傭兵に斬り捨てられる者。
ジャレドは真っ先に扉に到達し、扉を閉めようとする僧兵を大振りな一撃で沈めた。
「おれに続けーーーッ!!!」
ジャレドの号令に傭兵たちが素早く反応し、次々に中になだれ込んでいく。
一度統制を失った僧兵たちはその勢いに押され、教会の中へ侵入を許してしまう。
おれとケイジュは外に取り残された僧兵たちからの追撃を防ぐため、入り口付近に陣取って戦った。
自動二輪車を扉の前に横倒しにし、簡易なバリケードとする。
傭兵たちがその奥から魔法を連発して、僧兵たちを蹴散らす。
そうして外にいる僧兵が減ったので、自動二輪車を入り口に寝かせたまま中庭に急いだ。
ユリエとフランはもう塔を登っているだろうか。
教会の正面扉の先は、広々としたホールになっていた。
ここから正面に抜ければ中庭、左側は聖堂だ。
あれだけ戦ったのに僧兵たちは聖堂から続々と出てくる。
その増援を迎え撃つジャレドが、一瞬おれたちに視線を向けて片手を動かした。
ここは任せて中庭の様子を見に行けということだろう。
何人かの傭兵と一緒にホールを突っ切り、中庭に出る。
ちょうど、その瞬間だった。
中庭の中央に置かれている噴水の上に、巨大な影が舞い降りる。
光沢のある薄灰色の翼と、鱗に覆われた蜥蜴の四肢。
飛竜だ!
陽光を受けて銀色に輝く飛竜は、白い息とともに悲鳴のような咆哮を迸らせる。
自動四輪車を凌ぐ巨体に、顎には無数の牙、鋭い鉤爪。
飛竜からの一撃が死に直結することを、嫌でもわからせてくる。
しかし、飛竜はおれたちの方ではなく、中庭の西側の角を見下ろしていた。
そこだけは雪が積もっておらず、地面が露出している。
あそこが地下通路の出口だ!
ユリエとフランの姿も見える。
しまった、ちょうど地上に出てきた瞬間だったのか!
角に追い詰められているユリエとフラン、そして何人かの工兵は飛竜の巨体に行く手を阻まれてしまい、動けないでいる。
おれが塔に向かうべきか?
いや、名乗りをあげておれに注目を集めるべきか?
おれは迷いながらも駆け出した。
どちらにせよ今はユリエたちを助けに行くべきだ。
飛竜の背中に乗っていた人影が、飛竜の前足を滑り降りて次々に中庭に降り立つ。
1、2、いや、5人も乗っていたのか!
そのうち一人は、見覚えのある華奢な少女だった。
「レオン!銀竜!その女を捕まえて!その女がスズカ家の長女よ!」
少女の甲高い声が響く。
アデルだ。
ユリエの素性を知っているだと?!
アデルの隣に控えていた男がユリエに一歩詰め寄る。
フランがユリエを後ろに庇うが、もう背後は壁だ。
ケイジュがおれを追い抜いて飛竜の後ろ足に迫り、斬りかかろうとしたのだが、アデルとともに飛竜に乗っていた人間に阻まれた。
「そちらのお方も、どうかそのまま大人しくしてください」
戦場に居るとは思えないほど、落ち着き払った穏やかな声。
ケイジュの前に立ちはだかる、二人の兵士、その奥にいる男が発した声だった。
おれは剣を構えたまま、ケイジュの横に並ぶ。
二人の兵士は、他の僧兵とは装いが違い、華美な装飾が施された甲冑を身にまとっていた。
隙のない構えで大剣をおれたちに向けている。
その切っ先はほんのわずかも揺れていない。
この二人、かなりの手練だ。
そんな二人に守られた男は、雪のように白い髪と、冬の空のような青い瞳をおれたちに向けていた。
顔立ちは若いが、表情や振る舞いが老成していて年齢が分かりづらい。
装飾の少ない灰色のローブを着ているが、顔立ちや立ち姿には気品が感じられた。
まさか、この男……!
「ここは神聖な場所です。エレグノアの第二の誕生の地を、血で穢したくはありません」
微笑みさえ浮かべておれたちを牽制する男を、おれは睨みつけた。
「リューエル……ランバルト・イム・リューエル……!」
「おや。ご存知ということは、あなたは……貴族ですね?貴族にこんなにも冒涜者が多いとは、嘆かわしいことです」
ついに対面した福音復活の首謀者は、慈悲を込めた眼差しでおれを見返す。
おれはこみ上げる言葉を抑えることが出来なかった。
「冒涜?人の意思を魔術で捻じ曲げる行為こそ、人間への冒涜だ!」
ランバルトはなおも悲しげに微笑み、白く長い指を胸の前で組んで見せる。
「ああ、なんということを……あなたは勘違いしておられます。亜人は、人間ではありませんよ」
幼子の間違いを訂正するような、酷く優しい口調に、おれの腸がカッと煮えくり返る。
「何を……!」
「よいですか、亜人は、我々人間が、在来生物に対抗するため創り出した生物です。いわば、家畜なのですよ。牛や鶏、犬や猫、羽トカゲのように、人間が生み出した家畜。我々はその家畜を有効に使い、そして行動を制御する義務があります。それが、創造主の責任というものでしょう?」
「家畜だと?!」
「ええ、人間と同等の知性があったとしても、人間とは違います。それは、わかりますね?」
ランバルトの口調は変わらない。
物分りが悪い生徒に言い聞かせるような、穏やかな声。
そもそも会話が成立しない相手だとおれが悟るまで、時間はかからなかった。
「……わからない。わかってたまるか。退け、おれは、大鐘を破壊する……!」
「そうですか……では、こんな問答は無意味ですね。片付けなさい」
ランバルトが片手を挙げ、二人の兵士が動いた。
おれが咄嗟に飛び退くと、おれの横を仲間の傭兵がすり抜けて代わりに剣を受け止める。
ケイジュの方は大剣を槍斧で受け止め、原動機の力で強引に弾き返した。
ランバルトはすでにおれたちへの興味を失ったように塔の方へ歩き出している。
おれはその背中を追おうとしたのだが、いつの間にか塔の上から降りてきていた鳥人僧兵がおれの前に立ちはだかった。
間髪をいれず突き出された槍の穂先を剣で受け止めた時、異様な咆哮が響いた。
巨木が軋んで倒れるような、耳の奥がじんと痺れるような轟音。
その直後、飛竜の巨体が中庭に倒れ込む。
その体に、植物の根のようなものが絡みついていた。
その根は波打ちながら中庭に凄まじい速度で広がり、おれとケイジュ以外のもの全てを絡みとっていく。
ランバルトや、鳥人僧兵、おれたちの援護をしていた傭兵たちも一緒くたに巻取り、地面に縫い付ける。
これは、フランの魔法か!?
おれがユリエたちの居た方向に目を向けると、パンッと軽い音が響いて赤い閃光が中庭の上空に打ち上がった。
ユリエはおれとケイジュを見て、行って、と叫んでいた。
フランは地面に手を付き、険しい顔で前を睨みつけている。
その体は半分ほど植物に変化し、開いた口からは人間の声ではないあの咆哮を吐き出していた。
ユリエとフランを追い詰めていたアデルたちは植物の波濤に飲まれて動けないでいる。
根は未だに蠢き続けランバルトたちを更に深く飲み込もうと動いたが、すでに甲冑の兵士二人は根の拘束から半分ほど抜け出していた。
おれとケイジュはのたうつ根の上に駆け上り、塔を目指して走った。
フランのおかげで、ランバルトにアデル、飛竜も鳥人僧兵もまとめて中庭に拘束できている今が好機だ。
根に足を取られて転びそうになったが、ケイジュに手を引かれてなんとか踏みとどまり、中庭を突っ切る。
塔の入り口にたどり着き、螺旋階段を駆け上る。
上から降りてきた僧兵とかちあい、おれは考える暇もなく剣を突き出した。
剣の切っ先が、ずぐ、と僧兵の首に突き刺さる感触におれは歯を食いしばる。
剣を引き抜きほとばしる血を顔に浴びながら、僧兵を蹴り倒す。
その体を踏み越え、更に登る。
塔は高く、延々と続く螺旋階段の終わりはまだまだ見えない。
僧兵は下からも追ってくる。
追いつかれる度にケイジュの槍斧が唸りをあげ、僧兵の血で階段が濡れていく。
段々と足が重くなり、剣を握る手も痺れてくる。
肺も痛い。
だけど、おれは今、這いずってでも進まないといけない。
また上から僧兵が降りてきて、剣が振り下ろされる。
おれはそれを避けたつもりだった。
しかし、肩がカッと熱くなる。
避け損なった!
おれは剣を持ち替え、下から上に剣を振り抜く。
しかしそれは僧兵の盾に防がれてしまう。
おれはその反動で倒れ込みそうになったが、ケイジュの背中がおれを支えてくれた。
ケイジュの背中が熱い。
おれは足を踏ん張り、体勢を低くして盾を構える僧兵に体当たりをした。
階段に足を引っ掛けて倒れ込んだ僧兵に馬乗りになり、腰のナイフで喉を切り裂く。
「ふーーっ、ふーーっ、くそ、肩が、」
「セオドア!」
「大丈夫だ、足は動く」
おれは再び立ち上がって階段を登る。
幸い傷はそれほど深くなかったが、もう右手で剣を振るうのは無理だ。
だが、もう上にいる僧兵はいないのか、足音は聞こえてこない。
ようやく階段の終わりも見えてきている。
もう少しだ。
そう思った時、ぐらりと塔自体が揺れた。
甲高い悲鳴のような音と、何かがのたうって暴れているような振動。
窓が小さいので下で何が起きているのかわからない。
おれは無視してひたすら上を目指す。
そうして、ついに、おれは塔の天辺に到達した。
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