少女のこころは。

阿零

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記憶の断片 1

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「はーい。じゃあ次、棚野さん。自己紹介お願いしまーす」

担任の呑気な声が私の名前を呼ぶ。

新学期の自己紹介というごく、ありふれた行事。
1人あたりの所要時間は五分とないのに、私はこの時間を毎年毎年永遠のように感じてる。

私の心臓の拍動音がうるさくて、頭の中が真っ白になる。
せっかく昨日の夜から練習してた自己紹介は吹っ飛んだ。
あー、もういいや。
とにかく、今は立つしかない。
椅子から腰を浮かせてゆっくりと立ち上がる。
みんなの視線がいっせいに私の方を向く。
あー、もうダメだよ。これが嫌なんだから。
Tシャツの裾をぎゅっと握りしめる。
ゆっくりと息を吸う。…吐く。心臓は鳴り止まない。

「た、なの…」
あ、声が震えてる。
んんっと喉を整える。
「棚野つ、つきほです。えっと、好きな事は読書、です。え、あ。うんと、明るくて楽しい?クラスにしたいです。よろしく、お願いします」
なんとか言い終える。
逃げるように素早く席に座った。
パラパラとまばらな拍手が聞こえる。

…良かった。今年は茶化してくる人がいなかった!
去年は最後まで言い終えたのに
「 えー!なにー?聞こえませんでしたー。」
と言い出す輩のせいでやり直しになってしまったのだ。
安堵したのもつかの間。
次なる試練が待ち受けている。


お友達づくりという名の。

自己紹介タイムを終え、クラスメイトたちは周囲の人たちと楽しそうに談笑していた。
すごい。みんなもう輪を形成してるんだ。
焦る。手汗が滲む。
どうしよう。私には誰も話しかけられるような人がいない。

結局その時は誰にも話しかけられずに終わったと思う。

給食の前にトイレの列に並んでいると、後ろに同じクラスの女子が並んでいた。1人だったので勇気を出して話しかけた。
「あの、斜め後ろの席の、棚野月穂です。友達にならない?」

こんな感じだったかな。その時の私にしては上出来だったけど、あとから考えればありえないような挨拶だった。

その子は一瞬驚いたような顔をしたがすぐににっこりと笑い
「私はナツミ。よろしくね、月穂!」
って言ってくれた。
ナツミは笑うと左にだけ笑窪ができる可愛らしい女の子だ。
彼女はクラスの1軍女子グループのトップみたいなもので、いわゆるボスだ。
短時間でこの地位をきずけるのだからすごいものだな。
私には到底成せない至難の業だ。

その後ナツミについて行って、
教室に戻ると私の斜め前の席の派手めな子たちが作っているグループの会話の輪の中に入ることが出来た。

「月穂ちゃん?あたし、ミキだよ。あたしね、自己紹介の時からあなたとはいい関係を持てるような気がしてたのよ!よろしくね!」

最初に話しかけてくれたのはツインテールが印象的なミキ。

「わあ。嬉しい!ありがとう、ミキちゃん」

「ミキばっかり月穂と話しててずるい!うち、ナナコ。よろしくねー」

次に話しかけてくれたのはナナコ。ショートカットの元気な子だ。

「よろしくね!ナナコちゃん」

「みんな打ち解けるのはやくね?メイは…あ、言っちゃった!メイです。よろしくねー!月穂ちゃん!」

メイは一人称が自分の名前のポニーテールの子。

「最後になっちゃったよ。私、レイです。よろしくね」

ストレートヘアーの大人っぽいのがレイ。

ちなみにメイとレイは1卵生の双子。雰囲気は違うが顔はそっくりだ。

この時はまだ、楽しかった。




私たちはあの日までいつも一緒に行動していた。
私も最初は控えめだったものの、次第に活発になっていった。
全部あの日が変えてしまった。
彼女達はまだ、覚えているのかな。
私は思い出せるけど。
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