時間の限り

阿零

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仲葉瀬 真悠と幼馴染

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小学生最後の夏、私は泣いた。
クラスの真ん中で、みんなの視線を浴びながら。

原因は黒板に書かれた相合傘。私と幼馴染の佐竹 蒼太 そうたの名前が下手くそな字で書かれていた。
「誰?やめてよ!」
私が叫ぶ。
周りからは白い視線と嘲笑が聞こえてくるだけだった。
私は、恥ずかしさと何も出来ない自分の無力さを思い知って泣いた。

ガラリとドアが開いた。黒いランドセルを背負った蒼太は教室に入っていつもと違う空気と私の泣き顔を見て
「何これ」
と言った。
あの時の蒼太の表情と声は覚えている。
普段の朗らかな雰囲気は取り払われ、ドスの効いた声が教室を震わせた。
蒼太は黒板の文字を手でかき消すと私の服の袖を引っ張って教室から走って出た。
体育倉庫まで走ったのを覚えている。
倉庫の扉を閉めて電気をつけた。
中は薄暗くて埃っぽかった。
体操の無造作に積み上げられたマットの上にあぐらをかいて座る蒼太と六段積みの跳び箱の上で体育座りする私。
たしかその時もまだ私は泣いていて、蒼太は気まずそうにしていたと思う。
しばらくそうしていたけれど、なかなか私が泣き止まないので蒼太が私の座る跳び箱に腰掛けて私の背中をさすってくれた。
「ごめんね。そんなに泣かないで」
困ったような感じのいつもの優しい声で彼は言った。
私はどうしていいのかわからないから泣き続けていた。
涙は変わらず目からぽろぽろこぼれ落ちた。
「真悠は俺のこと嫌いだから泣いてるの?」
私は小さく首を振った。
「じゃあ、俺のこと好き?」
その質問で私の涙はぴたりとやんだ。
「蒼太は?私のことどう思ってるの?」
かすれた声で私は言った。
「質問を質問で返すのはずるいよ。答えて」
その言葉になんて返していいのかわからなかった。
実際私は蒼太のことが好きだった。
でも蒼太に振られるのが嫌で自分の想いを伝えるのが怖かった。
「ねぇ、真悠。きかせてよ」
私は俯いたまま言った。
「私、蒼太のこと好き。蒼太は?」
「俺も真悠のこと好きだよ。」
照れくさそうに蒼太は言った。
「両想いだね」
蒼太は言った。

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