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8.すれ違う想い

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 わたしは悶々として数日を過ごした。
 相変わらず夕謡ゆうたはクリフェラ奉仕の際に、わたしに触れさせてはくれない。くちびるへのキスもさせてくれない……。
 思い悩んだ末にわたしは結局、依里子よりこに相談することにしたのだった。



「あら、ってことは夕謡さんとはSEXしていないの?」

 依里子は目を丸くして言った。

「えっ、も、もちろんだよ……。依里子たちとは違って、恋人……じゃないし」
「そうなの? 私はてっきり、恋人なのかと思ってたわ……。でも、SEXは私たちもしていないけれど」
「えっ」

 今度はわたしが驚く番だった。恋人同士で、昼のクリフェラもあんなに濃厚にしているのに?

蓮路れんじさんは、私を世界一エロい処女にしたいって言うのよ」
「な、なにそれ?」
「言葉どおりよ。だから、ナカもおもちゃでは馴らされてるけれど、蓮路のをれてもらったことはないわね」
「そう、なんだ……」

(そういう関係もあるんだ……)

「だから夕謡さんも、詩菜しいなに触れさせてくれないのには、何か理由があるのかもしれないわ」
「そうなのかな……」
「ええ。私から見たら、夕謡さんはすごく詩菜を大切にしてるもの。だから、信じてあげたらどうかしら?」

 そうなのだろうか。
 わたしたちは依里子と蓮路と違い、恋人同士というわけじゃないのだ。

「ねぇ、詩菜はちゃんと夕謡さんに気持ちを伝えてるの?」
「え?」
「好きだって、伝えてる?」
「……っ」

 わたしは瞳を泳がせた。そもそも、夕謡のことを好きなのかどうかということさえ、考えたことがなかったのだ。

「詩菜。自分の気持ちも伝えず、相手にばかり求めるのはいけないわ」
「自分の気持ち……」

 わたしは夕謡を好きなのだろうか。

(――ううん。答えなんてきっと、前から決まってる……)

 夕謡を好きだって認めるのを、自分の気持ちに向き合うのを、わたしは後回しにしてきたのだ。
 認めてしまったら、夕謡も同じ想いではなかった時に傷ついてしまうから。――それが怖くて、わたしは気持ちを認めずにいたんだ……。

「……ありがとう、依里子。夕謡にちゃんと好きだって、伝えてみるよ」

 わたしがそう言うと、依里子は微笑む。そして、頼もしく言ってくれたのだった。

「きっと、詩菜の気持ち、夕謡さんに伝わるわよ。頑張ってね」



 体をふるわせて荒い息をくわたしの頭を、夕謡がやさしく愛撫してくれる。
 今夜もわたしは、夕謡にクリフェラを施されたのだ。

「気持ちよかったね、詩菜。今夜も可愛かったよ」
「夕謡……」

 夕謡はわたしのパジャマを整えると、部屋を出て行こうとする。わたしは彼の服を掴んで引き留めた。

「……詩菜?」
「夕謡……わたし」

 夕謡は足を止め、振り返ってくれた。

「わたしね、夕謡が好き……。好きなの」

 瞳をぎゅっと閉じて、言葉を絞りだす。わたしはついに夕謡に自らの気持ちを伝えた。

「詩菜、僕は……」
「だから、わたしも……夕謡に触れたい。気持ちよくなって欲しい。キスだって……くちびるにして欲しい」

 膝の上でこぶしを握りしめる。怖くて夕謡の表情を見ることができない。

「詩菜――僕は」

 夕謡はそこで言葉を止める。わたしは固唾を呑んでその先を待った。

「僕は、詩菜のクリフェラ係だ……」

 夕謡は何かをこらえるかのように、言葉を絞りだす。

「詩菜のことはとても大切だ。でも僕は、クリフェラ係なんだよ、詩菜」
「どういう、こと……」

 心の中を、すっと冷たい手で撫でられたような気がした。
 夕謡はわたしを好きなわけではない――そういうことなのだろうか。

「僕は、詩菜を気持ちよくさせてあげたい。でも僕はクリフェラ係だから、僕が詩菜に気持ち良くさせてもらうわけにはいかないよ」
「どうして……どうして!」

 わたしはついに顔を上げて叫んだ。感情が渦巻いて、止められない。

「好きじゃないなら、こんなことしないでよ! クリフェラ係なんて、辛すぎるよ……!!」
「……っ」

 少し間をおいて、わたしは言った。

「――出てって」

 夕謡がわずかに口を開きかけた。わたしはその先を聞くのが怖くて、さらに言い募る。

「出てって、出てってよ……!」

 手元の枕を掴んで、思い切り投げつけた。

「し――」
「出てって! はやく出ていってよ……!!」

 わたしは耳をふさいでベッドの上でうずくまる。もう、何も見たくない。聞きたくない。
 やがて。
 足音もなくそっとドアを開け、夕謡はわたしの部屋から出ていったのだった。
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