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§ メスお兄さんのひみつの気持ち【4】

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「ひどいです……あまねさん」

 甲斐甲斐しくるり花の身体からだを洗うあまねを、るり花は涙声になって責める。

「この部屋は、あまねさんの部屋だと思ってたのに……、あんな、人前で……っ」

 カメラで監視されていただけでも嫌なのに、他人のすぐ眼の前で達してしまうなんて。

「ごめん。でもああしたら、きっと未椰子が駆けつけてくると思って」

 るり花はきゅっとくちびるを噛み、さらにあまねに尋ねた。

「未椰子……さんて、なんなんですか。どうしてあまねさんが、彼女の部屋の鍵を持ってるんですか?」

 るり花としては、未椰子が自分たちを閉じ込めた理由よりも、そのことが気になった。
 ふたりは一体、どういった関係なのだろう。

 るり花の身体からだをシャワーで流しながら、あまねは静かに語り始めた。

「ぼくはセックス依存だって言ったでしょう?」
「……はい」
「濃厚なセックスを、毎日でもしないとぼくは仕事にならない。普段はなんとかなっても、締め切り前にセックスをしないでいることは、不可能に近かった」
「……」

 あまねは長い睫毛に彩られた目を伏せる。

「それに耐えられる女の子は、そう多くはないんだ。――未椰子は……」

 シャワーのお湯で温められているのに、るり花は手足が冷たく凍えてゆくような感覚を覚える。

「未椰子は、恋人じゃないけど寝る相手だった。……きみとこうなる、今日までは」
「――……っ」

 るり花の瞳が絶望に染まるのを見て、あまねは辛そうに表情を歪めた。

「ごめん、るり花さん。こんな形で知らせるのはひどいと思うけど、これが……偽らざるぼくの姿なんだ」
「そんな……」
「ごめんね。きみと恋人になれたからには、もうきみとしか寝ないと覚悟は決めているから、だから……」

 るり花は勢いよくかぶりを降った。飛び散るのは水飛沫か、それとも涙だろうか。

「るり花さん、聞いて。ぼくは、前からるり花さんのことが好きだったんだよ」
「……え?」

 あまねは裸の胸に、るり花を抱き寄せ告白する。

「たっちゃんが、大学で再会したるり花さんのことをいつも話してくれた。ぼくはそれで、子どもの頃に出逢った幼い少女を思いだし、そして大人になったるり花さんが気になり始めたんだ。写真だって盗み見て、たっちゃんの恋心を利用してるり花さんの話を沢山聞き出したんだよ」
「……それなら、どうして今日まで私に会いに来なかったんですか」

 るり花の問いに、あまねは自嘲を含ませた声音で答えた。

「……怖かったから。ぼくみたいなセックス狂いを、るり花さんが受け容れてくれなかったらって、拒絶されたらどうしようって思って……、怖くてたまらなかった。勇気を出さずに陰で想ってるほうが、ぼくはずっと楽だったんだ」
「そう、ですか……」

 るり花はあまねの胸に身体からだを預けながら、そっと息を吐き出す。

(私は、あまねさんを受け容れられるんだろうか。彼の事情は理解できても、感情がついてゆかない……)

「情けないよね。あんな部屋に閉じ込められて、未椰子にけしかけられて初めて、一歩踏み出せるなんて。だけど、きみを好きな気持ちだけは本当だから。ぼくが初めて本気で好きになったのは、るり花さん、きみなんだ……」

 るり花はぎゅっと目を瞑り、感情の奔流を堪えた。しばらくの沈黙ののち、ようやく瞼を上げる。
 そして、こう答えた。

「……少し、考えさせてください」

 るり花の出した結論は、あまねとの交際を保留にするというものだった。


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 シャワールームから出たふたりを、未椰子が苛立ちを隠せない様子で待っていた。

「遅いわよ。水道代、払いなさいよね」
「わかったよ。未椰子には何度も助けられたし、それくらいは。それから、これも返すから」

 あまねがボトムの後ろポケットから鍵を取り出し、未椰子に手渡した。三人の今居る、この部屋の鍵だ。

「当たり前よ。その子と恋人になったんでしょ、もうあんたの面倒を見る理由はないわ」

 吐き捨てるように言う未椰子に、あまねは曖昧な微笑みを浮かべた。何しろ、先ほどるり花に交際を保留されたばかりなのだ。

「未椰子はどうやってるり花さんを知ったの」

 あまねの問いに、未椰子は鼻白んで答える。

「見たのよ、あんたの手帳からその子の写真が落ちて。仕事の予定しか書かれてない手帳にそんなものが挟まれてたら、誰だって意味があると思うでしょ」
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