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追憶に浸る 中 2 ≪せせらぎ視点≫
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≪せせらぎ視点≫
光希君とこの奇妙な生活を始めて分かったことがある。
この子はかなり成長が早い。最初のころは、強すぎる力を制御できずに、祠の1部を壊してしまっていたのが、1か月たった今は壊してしまうことが減りだいぶ力を制御できるようになっていた。
「おねぇさん。見て、見て。」
「あら、すごいきれいな鳥ですね。」
彼は水の陰陽術を応用して、きれいな鳥を作り出していた。水の陰陽術は力の形を表現したりするのに非常に便利だ。それでも、この短期間でその技術を身に付けたことは賞賛すべきことだ。
そして、この子の家庭環境が本当に良くないことも知った。この子の両親はすでに亡くなっていて、血縁者があの夜子供を探しに来た男しかいないという。男はまだ若すぎるから、子供を育てるのは無理だという理由で、遠縁の人間に引き取られたらしい。
でも、光希君は喋ることが苦手だった。それゆえに不気味がられて、石を投げられることもあったのだとか。そして、家では放置されているみたいだった。なので、彼が喋りやすくなるように二人で会話をするようになった。彼のペースに合わせてゆっくりと。
「いろいろな道具を使っても、びくともしない。どうすればいいんだろう」
「ねぇ、ずっと聞きたかったんですけど、どうして私なんかのためにそんな一生懸命壊そうとしてくれるんですか?私、ただ話してもらえるだけでもうれしいのですが……」
「……それは、君と一緒にいろんなことをしたいから。初めての友達だから、一緒にこんなところ出て自由に生きたいって思ったんだ。」
彼は今日も私の鎖を壊そうと頑張っていた。鎖を付けられている本人である私がどこか諦めているというのに。それでも、彼は諦めなかった。ならば、私が諦めたままでいるのはなんだか情けないと思った。
それからと言うもの、自分でも解けないかどうかを探ってみた。そこで分かったことがある。中側の干渉ではなく外側の干渉がないと、解けないということ。まぁ、よく考えてみれば、神である私が自分で解けない時点でおかしいのだ。それに、仮に破壊するとして、神を封ずる類のものだから、かなりの代償を支払うことになる。
「もしかして、……うん、やってみよう」
「光希君、……何しようとしてるの!!」
キュイイン!!
気づくと光希君は私の足についている鎖に触れていた。ただ触れるのではなくそこに魔力を流しているようだった。必死になって彼を引きはがそうとしたが、できなかった。
「光希君、やめなさい!!このまま続けてしまうと、あなた自身が死んでしまいます!!お願いやめて!!」
バキィ!!
どうやら私の足についていた鎖は壊れたようだった。光希君は力が霊力切れを起こしたのか、そのまま気絶してしまっていた。
彼に言いたいことは山ほどある。なぜいきなりこんな暴挙に出たのか、下手したら死ぬところだったとか。言いたいことはいっぱいあるけど、何よりも言いたい言葉がある。
私を解放してくれてありがとう。
「それで、どうしてこんなに危ないことをしたんですか?私言っていましたよね?力を使うときは私に言ってからにしなさい。そう言いましたよね?自分でどうにもできなかった私が一番悪いのはわかっています。だけど、自分の身を削ってまで頑張るのはまた別の話です。自分の体をもう少し大切にしてください!!」
「だって、……おねぇさんに自由になってほしかったんだもん。その鎖がなくなれば、どこにだって行けるようになるでしょ?だから、やったの。ごめんなさい。」
あぁ、やはりこの子は優しすぎる。優しさは長所となりえるけど、その優しさは自分を殺す牙となりえる。ただそんな事実に無性に悔しさを感じて、気づいたら抱きしめていた。
「外は、こんな世界だったのですね。」
きらめく青葉に、そこから滴り落ちる雫、透き通った泉はどこか幻想的で気づいたら見入ってしまった。外の世界は私には少しまばゆくてもったいないけれど、なんだか嫌いにはなれなかった。
「外の世界はどう?気に入った?」
「そうですね。暖かいです。」
「ヨッシャー!」
「まぁ、自分の身を犠牲にしすぎるのはいただけませんけどね。」
私が彼に少しからかったように言うと、彼は子供らしい表情を見せた。何はともあれ、私は彼に助けられた。なら、このできぞこないなりにもできることをしよう。
「でも、ありがとうございます。私のような出来ぞこないにできることがあれば言ってください。」
「それなら、名前。名前を教えて!名前呼び合うと、友達?って感じがするんだ!」
「名前……、私には名前がありません。……ならば、名前を付けていただけませんか?」
「俺でいいの?本当に?」
「えぇ、あなたがいいのです。」
今まで大体の人には神様としか呼ばれていなかったので、自分の名前を知らない。もしかしたら元からなかったのかもしれない。
「せせらぎって名前はどう?」
「せせらぎですか。いい響きですね。……今日から私はせせらぎです。光希君、ありがとう」
私が光希君の付けた名前を自分のものだと認識した瞬間、彼の瞳の色が黒から青に変わった。
よく、彼のことを見て見ると、私たちには確かに霊力によるつながりができていた。私自身も少し、体が軽くなったように感じる。
「光希君、その目はどうしても村では目立ってしまうでしょう。ちょっとこちらに来てください。……できました。これで元の姿のままです。」
彼の眼の色を元に戻すと彼はどことなく不満そうだったが、頭をなでると満足げな顔に変わった。なにはともあれ、私はここから自由に動ける。
「光希君」
「なぁに?せせらぎ。」
「あなたのおうちまで案内していただけませんか?」
光希君はどことなく怯えたような表情をしていた。少し拍を置いてから、了承した。彼は時々けがをしていた。軽い擦り傷から血を大量に流すような大けがまで様々だった。
だから、どうしてこうなったか知るためにも村へ行く必要があった。正直不安はあった。異端のものである私は受け入れられるのか?私のせいで光希君が傷つかないのか?懸念はいっぱいあるし、正直怖い。
だけど、私は彼女に光希君を託されたから。私にできるせめてものことだから。
光希君を守り抜く。
光希君とこの奇妙な生活を始めて分かったことがある。
この子はかなり成長が早い。最初のころは、強すぎる力を制御できずに、祠の1部を壊してしまっていたのが、1か月たった今は壊してしまうことが減りだいぶ力を制御できるようになっていた。
「おねぇさん。見て、見て。」
「あら、すごいきれいな鳥ですね。」
彼は水の陰陽術を応用して、きれいな鳥を作り出していた。水の陰陽術は力の形を表現したりするのに非常に便利だ。それでも、この短期間でその技術を身に付けたことは賞賛すべきことだ。
そして、この子の家庭環境が本当に良くないことも知った。この子の両親はすでに亡くなっていて、血縁者があの夜子供を探しに来た男しかいないという。男はまだ若すぎるから、子供を育てるのは無理だという理由で、遠縁の人間に引き取られたらしい。
でも、光希君は喋ることが苦手だった。それゆえに不気味がられて、石を投げられることもあったのだとか。そして、家では放置されているみたいだった。なので、彼が喋りやすくなるように二人で会話をするようになった。彼のペースに合わせてゆっくりと。
「いろいろな道具を使っても、びくともしない。どうすればいいんだろう」
「ねぇ、ずっと聞きたかったんですけど、どうして私なんかのためにそんな一生懸命壊そうとしてくれるんですか?私、ただ話してもらえるだけでもうれしいのですが……」
「……それは、君と一緒にいろんなことをしたいから。初めての友達だから、一緒にこんなところ出て自由に生きたいって思ったんだ。」
彼は今日も私の鎖を壊そうと頑張っていた。鎖を付けられている本人である私がどこか諦めているというのに。それでも、彼は諦めなかった。ならば、私が諦めたままでいるのはなんだか情けないと思った。
それからと言うもの、自分でも解けないかどうかを探ってみた。そこで分かったことがある。中側の干渉ではなく外側の干渉がないと、解けないということ。まぁ、よく考えてみれば、神である私が自分で解けない時点でおかしいのだ。それに、仮に破壊するとして、神を封ずる類のものだから、かなりの代償を支払うことになる。
「もしかして、……うん、やってみよう」
「光希君、……何しようとしてるの!!」
キュイイン!!
気づくと光希君は私の足についている鎖に触れていた。ただ触れるのではなくそこに魔力を流しているようだった。必死になって彼を引きはがそうとしたが、できなかった。
「光希君、やめなさい!!このまま続けてしまうと、あなた自身が死んでしまいます!!お願いやめて!!」
バキィ!!
どうやら私の足についていた鎖は壊れたようだった。光希君は力が霊力切れを起こしたのか、そのまま気絶してしまっていた。
彼に言いたいことは山ほどある。なぜいきなりこんな暴挙に出たのか、下手したら死ぬところだったとか。言いたいことはいっぱいあるけど、何よりも言いたい言葉がある。
私を解放してくれてありがとう。
「それで、どうしてこんなに危ないことをしたんですか?私言っていましたよね?力を使うときは私に言ってからにしなさい。そう言いましたよね?自分でどうにもできなかった私が一番悪いのはわかっています。だけど、自分の身を削ってまで頑張るのはまた別の話です。自分の体をもう少し大切にしてください!!」
「だって、……おねぇさんに自由になってほしかったんだもん。その鎖がなくなれば、どこにだって行けるようになるでしょ?だから、やったの。ごめんなさい。」
あぁ、やはりこの子は優しすぎる。優しさは長所となりえるけど、その優しさは自分を殺す牙となりえる。ただそんな事実に無性に悔しさを感じて、気づいたら抱きしめていた。
「外は、こんな世界だったのですね。」
きらめく青葉に、そこから滴り落ちる雫、透き通った泉はどこか幻想的で気づいたら見入ってしまった。外の世界は私には少しまばゆくてもったいないけれど、なんだか嫌いにはなれなかった。
「外の世界はどう?気に入った?」
「そうですね。暖かいです。」
「ヨッシャー!」
「まぁ、自分の身を犠牲にしすぎるのはいただけませんけどね。」
私が彼に少しからかったように言うと、彼は子供らしい表情を見せた。何はともあれ、私は彼に助けられた。なら、このできぞこないなりにもできることをしよう。
「でも、ありがとうございます。私のような出来ぞこないにできることがあれば言ってください。」
「それなら、名前。名前を教えて!名前呼び合うと、友達?って感じがするんだ!」
「名前……、私には名前がありません。……ならば、名前を付けていただけませんか?」
「俺でいいの?本当に?」
「えぇ、あなたがいいのです。」
今まで大体の人には神様としか呼ばれていなかったので、自分の名前を知らない。もしかしたら元からなかったのかもしれない。
「せせらぎって名前はどう?」
「せせらぎですか。いい響きですね。……今日から私はせせらぎです。光希君、ありがとう」
私が光希君の付けた名前を自分のものだと認識した瞬間、彼の瞳の色が黒から青に変わった。
よく、彼のことを見て見ると、私たちには確かに霊力によるつながりができていた。私自身も少し、体が軽くなったように感じる。
「光希君、その目はどうしても村では目立ってしまうでしょう。ちょっとこちらに来てください。……できました。これで元の姿のままです。」
彼の眼の色を元に戻すと彼はどことなく不満そうだったが、頭をなでると満足げな顔に変わった。なにはともあれ、私はここから自由に動ける。
「光希君」
「なぁに?せせらぎ。」
「あなたのおうちまで案内していただけませんか?」
光希君はどことなく怯えたような表情をしていた。少し拍を置いてから、了承した。彼は時々けがをしていた。軽い擦り傷から血を大量に流すような大けがまで様々だった。
だから、どうしてこうなったか知るためにも村へ行く必要があった。正直不安はあった。異端のものである私は受け入れられるのか?私のせいで光希君が傷つかないのか?懸念はいっぱいあるし、正直怖い。
だけど、私は彼女に光希君を託されたから。私にできるせめてものことだから。
光希君を守り抜く。
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