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追憶に浸る 中 1 ≪せせらぎ視点≫

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≪せせらぎ視点≫
 「あ、あぁと、だ、だ大丈夫……あぁ、ありが、とう」

 子供は喋るのが苦手だったみたいだ。それでも一生懸命感謝を伝えようとしているところに彼女この子の母親の面影が見えた。

 改めて、子供を見てみると今までで見た人間の中でもかなり強い部類の力を持っていることが分かる。恐らく、これが原因でうまく喋ることができないのだろう。

 「あなた、いきなり私の前に転がり落ちてきたのです。他にも何人もいましたが、生きていたのはあなただけでした。」
「そ、その人たちは、ど、どうして、そう、なったの?」
 「まぁ、1つ言えることとしてあなたには素質があったから、あなたは私が直せる程度大けがで済んだのですよ。」

 母親のことはできるだけ伏せて敬意を伝えた。彼の眼には警戒心があったが、それと同じくらい好奇心が旺盛だったみたいだ。だから、彼に彼が理解できるぐらい言葉をかみ砕いて、彼が持っている力のことについて教えた。

 彼は興味を持ったのかさらに質問してきた。陰陽術についてもっと詳しく知りたいと言ったので陰陽師について教えた。

 彼にいろいろと教えているうちに外が暗くなりそうな時間帯になっていた。子供をこのままここにいさせていいのか悩んでいた。ふと、子供を見ると私の鎖のついた足元をのぞき込んでいた。

 この鎖だけはどんなことをしても壊れなかった。子供を守ると約束したから、これを壊さないと何も始まらないと考えていた。

 「お姉さん、それ、痛くないの?」
 「それって、……ああ、これのことですね。これは、ずっとつけているので慣れました。」
 「ずっとって、お姉さん、ここから離れたことないの?」
 「えぇっと、まぁそういうことになりますね。人と話したのももういつか覚えていないくらいには……」
「そんなぁ……」

 子供の顔を見てみると、なぜだかすごく悲しそうな顔をしていた。目には涙がたまっていて、今にも泣きだしそうな感じがした。だけど、よほど疲れていたのか、緊張の糸が切れたのかそのまま寝落ちてしまった。

 「――おーい‼光希ぃ、どこだぁ‼」
 
 外を覗いていると男が一人大声を出しながら誰かの名前を呼んでいる。そういえば、彼女も子供のことを光希と呼んでいた。もしや、男が探しているのはこの子のことなのではと考え付いた。

 「あのぅ、おにぃさん。」
 「ワッ!……いきなりびっくりさせんな‼今あんたみたいなのにかまっている暇はねぇから‼……って光希‼」

 男は私の姿を見たときに一瞬驚いたが、抱きかかえている子供のことを認識した瞬間、子供に抱き着いた。どうやら、相当いろんな場所を探していたみたいで、体中擦り傷だらけになっていた。
 
 「さっきはすまなかった。こいつがなかなか見つからなくて焦ってあんたにひどいこと言っちまった。こいつを助けてくれてありがとな。」
 「……おにぃさんはこの子とはどんな関係ですか?」
 「こいつは俺の甥だ。……俺の妹の忘れ形見だ。」

 男は悲しそうにそう語った。この男は本当に子供のことを大切に思っているのだろう。これが家族というものなのかと、そう感じた。

 「では、なぜこの子は崖から落ちてきたのですか?」
 「は?それってどういう」
 「この子を見つけたとき、この子は頭から血を流して倒れていました。その場所は崖下だったので崖から落ちたということは想像にたやすいでしょう。なぜ、こんな幼い子供が、こんな目に合うのです‼」

 自分でも驚くほど言葉がスラスラと出てきた。ただ、言わなくちゃいけない、伝えないといけないという謎の使命感が私を突き動かした。男とは言うと、ただただ愕然として、そのままその場に座り込んでしまった。

 「こいつは、死にかけったってことか?痛い思いをして一人ぼっちで?……あいつみたいに?」

 男は泣いていた。そして、ずっと子供に対し、謝り続けていた。

 「なぁ、あんた……人ならざるものなんだろ?こいつを守る術とかはねぇのか?」
 「ど、どうして……気づいたんですか?」
 「俺の家に伝わっている話に、あんたに似たやつが出てくるんだよ。黒い髪に青い瞳、極めつけはその足についている鎖なんだが。勘は当たったようだな。それで、どうにもならないのか?」
 「そうですn「おじ、さん…………」どうやら起きてしまったみたいですね。」

 男が私の正体を見破っていたことに驚いた。それと同時に腑に落ちた。彼女が初対面の私に自分の我が子を託したのは私を信じてたからだということに気づいた。

 話し声が大きかったのか子供が起きてきてしまった。どうやら寝ぼけているようで完全に起きているとは言えないけれど。男のことを認識したのか少しうれしそうな顔をしていた。

 「お、おじさん。ぼく、ね、ともだち……できたんだ。やさ、しくて、いろんなこと、しってるの。」
 「そっか……。そいつぁ、良い奴なんだな」
 「でもね、そのこ、じゆうに、ここから、うごけないみたい。だから、ぼく、あのこ、たすけたい」

 子供は満足したのか眠ってしまった。男は何か思案しているみたいだった。その後、男は驚きの提案をしてきた。

 「日中だけ、私にこの子を預ける……。正気ですか?」
 「無茶な提案なのはわかっている。でも、あの村はこの子に優しくない。だから、こいつまだまだガキなのにいっちょ前に警戒心を立派につけてよぉ。でも、今だけはガキンチョらしく無邪気に笑ってたんだ。……こいつを無垢な子供のままでいさせてくれ。頼む」

 男は必死だった。その姿を見ていると男が言っていることが、事実であることがよく理解できた。私も、彼女と約束したから、その約束を守るために1つ決意した。

 「分かりました。この子を日中だけ預けます。」
 「本当か!」
 「ただし、1つだけ条件があります。」
 「自分を犠牲にしないでください。あなたは、この子のためなら何でもやってあげそうな、そんな危うさがあります。でも、それはやめてください。それはあの子を守ることにはなりませんから。」

 男は俯いていた。私が言ったことは事実だったのだろう。男は私が掲示した条件を飲み、子供を抱いて去っていった。

 翌日、子供が男とともに祠にやってきた。子供は楽しそうだった。

 こうして、私は子供、光希とともに奇妙な生活を始めた。
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