5 / 8
追憶に浸る 中 1 ≪せせらぎ視点≫
しおりを挟む
≪せせらぎ視点≫
「あ、あぁと、だ、だ大丈夫……あぁ、ありが、とう」
子供は喋るのが苦手だったみたいだ。それでも一生懸命感謝を伝えようとしているところに彼女の面影が見えた。
改めて、子供を見てみると今までで見た人間の中でもかなり強い部類の力を持っていることが分かる。恐らく、これが原因でうまく喋ることができないのだろう。
「あなた、いきなり私の前に転がり落ちてきたのです。他にも何人もいましたが、生きていたのはあなただけでした。」
「そ、その人たちは、ど、どうして、そう、なったの?」
「まぁ、1つ言えることとしてあなたには素質があったから、あなたは私が直せる程度で済んだのですよ。」
母親のことはできるだけ伏せて敬意を伝えた。彼の眼には警戒心があったが、それと同じくらい好奇心が旺盛だったみたいだ。だから、彼に彼が理解できるぐらい言葉をかみ砕いて、彼が持っている力のことについて教えた。
彼は興味を持ったのかさらに質問してきた。陰陽術についてもっと詳しく知りたいと言ったので陰陽師について教えた。
彼にいろいろと教えているうちに外が暗くなりそうな時間帯になっていた。子供をこのままここにいさせていいのか悩んでいた。ふと、子供を見ると私の鎖のついた足元をのぞき込んでいた。
この鎖だけはどんなことをしても壊れなかった。子供を守ると約束したから、これを壊さないと何も始まらないと考えていた。
「お姉さん、それ、痛くないの?」
「それって、……ああ、これのことですね。これは、ずっとつけているので慣れました。」
「ずっとって、お姉さん、ここから離れたことないの?」
「えぇっと、まぁそういうことになりますね。人と話したのももういつか覚えていないくらいには……」
「そんなぁ……」
子供の顔を見てみると、なぜだかすごく悲しそうな顔をしていた。目には涙がたまっていて、今にも泣きだしそうな感じがした。だけど、よほど疲れていたのか、緊張の糸が切れたのかそのまま寝落ちてしまった。
「――おーい‼光希ぃ、どこだぁ‼」
外を覗いていると男が一人大声を出しながら誰かの名前を呼んでいる。そういえば、彼女も子供のことを光希と呼んでいた。もしや、男が探しているのはこの子のことなのではと考え付いた。
「あのぅ、おにぃさん。」
「ワッ!……いきなりびっくりさせんな‼今あんたみたいなのにかまっている暇はねぇから‼……って光希‼」
男は私の姿を見たときに一瞬驚いたが、抱きかかえている子供のことを認識した瞬間、子供に抱き着いた。どうやら、相当いろんな場所を探していたみたいで、体中擦り傷だらけになっていた。
「さっきはすまなかった。こいつがなかなか見つからなくて焦ってあんたにひどいこと言っちまった。こいつを助けてくれてありがとな。」
「……おにぃさんはこの子とはどんな関係ですか?」
「こいつは俺の甥だ。……俺の妹の忘れ形見だ。」
男は悲しそうにそう語った。この男は本当に子供のことを大切に思っているのだろう。これが家族というものなのかと、そう感じた。
「では、なぜこの子は崖から落ちてきたのですか?」
「は?それってどういう」
「この子を見つけたとき、この子は頭から血を流して倒れていました。その場所は崖下だったので崖から落ちたということは想像にたやすいでしょう。なぜ、こんな幼い子供が、こんな目に合うのです‼」
自分でも驚くほど言葉がスラスラと出てきた。ただ、言わなくちゃいけない、伝えないといけないという謎の使命感が私を突き動かした。男とは言うと、ただただ愕然として、そのままその場に座り込んでしまった。
「こいつは、死にかけったってことか?痛い思いをして一人ぼっちで?……あいつみたいに?」
男は泣いていた。そして、ずっと子供に対し、謝り続けていた。
「なぁ、あんた……人ならざるものなんだろ?こいつを守る術とかはねぇのか?」
「ど、どうして……気づいたんですか?」
「俺の家に伝わっている話に、あんたに似たやつが出てくるんだよ。黒い髪に青い瞳、極めつけはその足についている鎖なんだが。勘は当たったようだな。それで、どうにもならないのか?」
「そうですn「おじ、さん…………」どうやら起きてしまったみたいですね。」
男が私の正体を見破っていたことに驚いた。それと同時に腑に落ちた。彼女が初対面の私に自分の我が子を託したのは私を信じてたからだということに気づいた。
話し声が大きかったのか子供が起きてきてしまった。どうやら寝ぼけているようで完全に起きているとは言えないけれど。男のことを認識したのか少しうれしそうな顔をしていた。
「お、おじさん。ぼく、ね、ともだち……できたんだ。やさ、しくて、いろんなこと、しってるの。」
「そっか……。そいつぁ、良い奴なんだな」
「でもね、そのこ、じゆうに、ここから、うごけないみたい。だから、ぼく、あのこ、たすけたい」
子供は満足したのか眠ってしまった。男は何か思案しているみたいだった。その後、男は驚きの提案をしてきた。
「日中だけ、私にこの子を預ける……。正気ですか?」
「無茶な提案なのはわかっている。でも、あの村はこの子に優しくない。だから、こいつまだまだガキなのにいっちょ前に警戒心を立派につけてよぉ。でも、今だけはガキンチョらしく無邪気に笑ってたんだ。……こいつを無垢な子供のままでいさせてくれ。頼む」
男は必死だった。その姿を見ていると男が言っていることが、事実であることがよく理解できた。私も、彼女と約束したから、その約束を守るために1つ決意した。
「分かりました。この子を日中だけ預けます。」
「本当か!」
「ただし、1つだけ条件があります。」
「自分を犠牲にしないでください。あなたは、この子のためなら何でもやってあげそうな、そんな危うさがあります。でも、それはやめてください。それはあの子を守ることにはなりませんから。」
男は俯いていた。私が言ったことは事実だったのだろう。男は私が掲示した条件を飲み、子供を抱いて去っていった。
翌日、子供が男とともに祠にやってきた。子供は楽しそうだった。
こうして、私は子供、光希とともに奇妙な生活を始めた。
「あ、あぁと、だ、だ大丈夫……あぁ、ありが、とう」
子供は喋るのが苦手だったみたいだ。それでも一生懸命感謝を伝えようとしているところに彼女の面影が見えた。
改めて、子供を見てみると今までで見た人間の中でもかなり強い部類の力を持っていることが分かる。恐らく、これが原因でうまく喋ることができないのだろう。
「あなた、いきなり私の前に転がり落ちてきたのです。他にも何人もいましたが、生きていたのはあなただけでした。」
「そ、その人たちは、ど、どうして、そう、なったの?」
「まぁ、1つ言えることとしてあなたには素質があったから、あなたは私が直せる程度で済んだのですよ。」
母親のことはできるだけ伏せて敬意を伝えた。彼の眼には警戒心があったが、それと同じくらい好奇心が旺盛だったみたいだ。だから、彼に彼が理解できるぐらい言葉をかみ砕いて、彼が持っている力のことについて教えた。
彼は興味を持ったのかさらに質問してきた。陰陽術についてもっと詳しく知りたいと言ったので陰陽師について教えた。
彼にいろいろと教えているうちに外が暗くなりそうな時間帯になっていた。子供をこのままここにいさせていいのか悩んでいた。ふと、子供を見ると私の鎖のついた足元をのぞき込んでいた。
この鎖だけはどんなことをしても壊れなかった。子供を守ると約束したから、これを壊さないと何も始まらないと考えていた。
「お姉さん、それ、痛くないの?」
「それって、……ああ、これのことですね。これは、ずっとつけているので慣れました。」
「ずっとって、お姉さん、ここから離れたことないの?」
「えぇっと、まぁそういうことになりますね。人と話したのももういつか覚えていないくらいには……」
「そんなぁ……」
子供の顔を見てみると、なぜだかすごく悲しそうな顔をしていた。目には涙がたまっていて、今にも泣きだしそうな感じがした。だけど、よほど疲れていたのか、緊張の糸が切れたのかそのまま寝落ちてしまった。
「――おーい‼光希ぃ、どこだぁ‼」
外を覗いていると男が一人大声を出しながら誰かの名前を呼んでいる。そういえば、彼女も子供のことを光希と呼んでいた。もしや、男が探しているのはこの子のことなのではと考え付いた。
「あのぅ、おにぃさん。」
「ワッ!……いきなりびっくりさせんな‼今あんたみたいなのにかまっている暇はねぇから‼……って光希‼」
男は私の姿を見たときに一瞬驚いたが、抱きかかえている子供のことを認識した瞬間、子供に抱き着いた。どうやら、相当いろんな場所を探していたみたいで、体中擦り傷だらけになっていた。
「さっきはすまなかった。こいつがなかなか見つからなくて焦ってあんたにひどいこと言っちまった。こいつを助けてくれてありがとな。」
「……おにぃさんはこの子とはどんな関係ですか?」
「こいつは俺の甥だ。……俺の妹の忘れ形見だ。」
男は悲しそうにそう語った。この男は本当に子供のことを大切に思っているのだろう。これが家族というものなのかと、そう感じた。
「では、なぜこの子は崖から落ちてきたのですか?」
「は?それってどういう」
「この子を見つけたとき、この子は頭から血を流して倒れていました。その場所は崖下だったので崖から落ちたということは想像にたやすいでしょう。なぜ、こんな幼い子供が、こんな目に合うのです‼」
自分でも驚くほど言葉がスラスラと出てきた。ただ、言わなくちゃいけない、伝えないといけないという謎の使命感が私を突き動かした。男とは言うと、ただただ愕然として、そのままその場に座り込んでしまった。
「こいつは、死にかけったってことか?痛い思いをして一人ぼっちで?……あいつみたいに?」
男は泣いていた。そして、ずっと子供に対し、謝り続けていた。
「なぁ、あんた……人ならざるものなんだろ?こいつを守る術とかはねぇのか?」
「ど、どうして……気づいたんですか?」
「俺の家に伝わっている話に、あんたに似たやつが出てくるんだよ。黒い髪に青い瞳、極めつけはその足についている鎖なんだが。勘は当たったようだな。それで、どうにもならないのか?」
「そうですn「おじ、さん…………」どうやら起きてしまったみたいですね。」
男が私の正体を見破っていたことに驚いた。それと同時に腑に落ちた。彼女が初対面の私に自分の我が子を託したのは私を信じてたからだということに気づいた。
話し声が大きかったのか子供が起きてきてしまった。どうやら寝ぼけているようで完全に起きているとは言えないけれど。男のことを認識したのか少しうれしそうな顔をしていた。
「お、おじさん。ぼく、ね、ともだち……できたんだ。やさ、しくて、いろんなこと、しってるの。」
「そっか……。そいつぁ、良い奴なんだな」
「でもね、そのこ、じゆうに、ここから、うごけないみたい。だから、ぼく、あのこ、たすけたい」
子供は満足したのか眠ってしまった。男は何か思案しているみたいだった。その後、男は驚きの提案をしてきた。
「日中だけ、私にこの子を預ける……。正気ですか?」
「無茶な提案なのはわかっている。でも、あの村はこの子に優しくない。だから、こいつまだまだガキなのにいっちょ前に警戒心を立派につけてよぉ。でも、今だけはガキンチョらしく無邪気に笑ってたんだ。……こいつを無垢な子供のままでいさせてくれ。頼む」
男は必死だった。その姿を見ていると男が言っていることが、事実であることがよく理解できた。私も、彼女と約束したから、その約束を守るために1つ決意した。
「分かりました。この子を日中だけ預けます。」
「本当か!」
「ただし、1つだけ条件があります。」
「自分を犠牲にしないでください。あなたは、この子のためなら何でもやってあげそうな、そんな危うさがあります。でも、それはやめてください。それはあの子を守ることにはなりませんから。」
男は俯いていた。私が言ったことは事実だったのだろう。男は私が掲示した条件を飲み、子供を抱いて去っていった。
翌日、子供が男とともに祠にやってきた。子供は楽しそうだった。
こうして、私は子供、光希とともに奇妙な生活を始めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる