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追憶に浸る 後≪光希視点≫

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≪光希視点≫
 あの後、そのままの姿だと余計に攻撃されるので、元の髪色に戻してからせせらぎとともに村に戻った。村に戻ると、やはりいつも攻撃してきた5歳くらい年上のやつらが攻撃してきた。

 「やーい!!お化け野郎。外から来た女に守ってもらってよわっちーの!!あんたもこいつにかかわるのはやめたほうがいいぜ」
 「そうだそうだ!!こいつのせいでこいつの母ちゃん死んじまったんだぜ‼母ちゃんは惨めだな。お前なんて生まなければ、それなりに生きられただろうによぉ。だから、あんたも死にたくなかったらかかわるのはやめときな」

 本当にいい加減にしてほしかった。母さんが死んでから母さんの顔もほぼ忘れるぐらうまくしゃべれなくて2つだけ覚えている。母さんは優しい声で僕の名前を呼んで抱きしめてくれていたこと。うまくしゃべれなくても「ゆっくりでもいいから、光希は光希の速さで頑張ろう」っていってくれたこと。
 
 だからこそ、本当に、腹立たしくて煮えくり返りそうな気持だった。でもそれ以上に、ひどく悲しくなった。彼らが言っていたこともまた事実だったから。いつの間にか僕は顔が涙でぐしょぐしょになるぐらい泣いていた。

 「ぼ、僕だって、か、母さんに……生きていて、欲しかった。ぼ、僕がいなけりゃ、よかった。って思ったこと……ある。けど、母さんに、生きてって、言われ、たんだ。だから、そ、そんなこと……言うな」
 「不気味なだけじゃなくて、こいつ泣き虫かよ。本当にお前、死んだほうがましじゃね。」
「それは、あなたたちにも言えることではありませんか?」

 今まで、傍観に徹していたせせらぎが突如として冷たい口調でそう言った。いつも見せていた優しい表情とは違い、明らかに彼らを敵視していることを読み取れる表情をしていた。ただ、彼女は僕をかばうように立っていた。その背中はすごく大きいものに感じられた。

 「あなたは生まれたときから今のように喋れましたか?あなたは1度も泣いたことがなかったのですか?あなたは化け物と呼ばれたことはありますか?」
 「きっとどれもないでしょう。歩けば化け物と罵倒されたり、不吉なものだと嫌煙される。少しつたない喋り方で喋るだけで気味が悪いという。極めつけはそこにいるだけで存在を否定する。実に滑稽ですね。」

 彼女はひどく優しげな顔でそう言った。優しそうな顔とは裏腹に凍てつくような視線をやつらに向けていた。彼らは急激に表情を変えたせせらぎに恐怖を抱いていた。
 
 「な、何がだよ。」
 「自分よりも、いくつも年下の子供をよってたかっていじめて楽しいんですか?しかも、その子供は身寄りがないという。私からすればあなたたちの方が気味が悪い」
 「お、俺らは間違ってねぇもん。こいつが喋れないのが悪い。」
 「そ、そうだ。こいつがいると不幸しか呼ばないってみんな言ってたもん。だから、こいつは化け物なんだ。」

 せせらぎやつらに対し、諭すような言葉をかけていたが、ついに堪忍袋の緒が切れたのか圧のある言葉でそう言い放った。それでも彼らは彼女に対し、自分たちは間違っていないという口調を崩さなかった。

 やつらの中の1人が続けて言う。

 「化け物を化け物って言ったら何がいけないの?そこにいるだけで害があるんだし。正直崖から落ちたときもとっとと死んじまえばよかったのに、なのになんで生きているんだよ」

 ヒュン‼

 この言葉が聞こえた瞬間何かが高速で横切った。横にいるせせらぎを見ると、彼女が陰陽術で何かを放ったらしい。やつらはというと全員が座り込んでいる。中には気絶しかけていたやつもいた。その後ろを見ると小さな水たまりができている。
 彼女は自分の手に水を集め始めた。それを槍の形にし、その矛先がやつらに向くようにしていた。
 
 「化け物、ねぇ。化け物ってこういうことを指すんですよ」
 「ひ、ひぃ」
 「光希、行きましょう。」
 「う、うん。……ありがとう」

 彼女は僕の手を引いてその場を共に後にした。彼女の手は少しひんやりとしていたけど、どこか暖かい手をしていた。

 彼女が来てから僕を取り巻く環境は大きく変わった。彼女と出会う前は自分のことをみんなが攻撃すると思っていた。だけど、もう僕は一人じゃないと思えたからか、新しい友達をつくることができた。友達曰く、彼女と出会う前の僕は「否定的な声しか聞こえてない」という印象でふさぎこみがちだったらしい。

 友人と出会えたことで、僕は違う人生を選ぶことができた。閉鎖的で保守的な村を出て、新しい家族を得ることができた。

 彼女と過ごしていくうちに彼女のことをいろいろと知った。彼女がかなりネガティブであること、実はかなり不器用であること、人ではなく神様だったこと。中には衝撃的な事実も少なくはなかった。だからと言って、彼女と離れる理由にはならなかった。それ以上に僕は彼女からたくさんのものをもらっていたから。

 それでも、彼女とたまに喧嘩して、すれ違った。そして、最後には2人仲直りして一緒に過ごす。
 
 どこかくだらないありふれた日々が僕はずっと続くと思っていた。本当はどこかで分かっていた。そんなことあるわけないと。
 
 3年前のあの日、曲野と現実世界の境目が一部崩壊し、まだ中学生だった僕も戦いに出なければならなかった。正直、怖かった。いくら実践技術を学んでいるからと言って、その技術を十全に扱えるかが不安だった。不安で手が震えていた時も彼女は僕を励ましてくれた。

 「いきなり、戦うことになって怖いのはすごく分かります。私だってすごく怖いって思っているんですよ。下級とはいえ、神様なのに。あなたよりも長く生きているのに。でも、あなたは逃げたっていい。絶対に勝てる保証なんてない。逃げたいときには逃げてもいい。私はたぶん、これからもいっぱいあなたに迷惑をかけるでしょう。だから、あなたも自分に少しだけ甘くていいんですよ。」

 すべてが変わってしまうと思っていた。変わってしまった世界の中でも、何1つ変わらない日常がまだそこにはあった。それをつかみ取ることは1人じゃきっとできなかった。

 彼女は自分には何もできないってよく言うけど、僕は彼女からたくさんのものをもらっている。

 「俺のほうこそ、いつもありがとう。今日も、頑張ろう。」
 「……そうですね。……よし!いけます。いきましょう。」
 
 だから、次は僕が彼女に返す番だ。
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