世界緑化大戦

百舌鳥

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邂逅

二話

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俺が居た施設で樹木種の連中は
その大半が人間をモルモットとしてしか見ていなかった。

こんなに気さくに話しかけてくれる木は当然いないし、同種の人間でさえここまで明るいやつはいなかった。

仕方のない事ではある。

木にとっては仕事であって友達ではない、それでも世間話をしてくれたのはカッさんぐらいのもんだった。

人間なんて悲惨なもんだ。

人生の終わりは最初から見えていて、ある程度の自由はあっても施設の外の景色を見れることなんてまずない。

カゴの中の鳥とさして変わらないし
そんな生活が続けば次第に個々の個性は消えて、平均化される。

自己主張はせず、指示に従い、段々内気になっていく。

そんな人達を見てたせいか
反骨心で明るく振る舞おうと努めていた自覚はある。

木に対して恨みの様な想いがないわけじゃない。

だからこそこんなに開けっぴろげに親しく距離を詰められるのは正直慣れていない。

椿「あーあの朝のは違うからね!いつもはもっとお淑やかだから!」

シマトネ「よく言うよ」

椿「あんたは黙ってて!」

シマトネ「おー怖っ」


最初に見た華奢な美しさとは裏腹に
力強さを感じさせる女の子の視線は
隠された鬱屈とした想いを
見抜いてるかの様でつい目を逸らしたくなってしまった。



昼休みにもなると転入生への過度な
興味は薄れてきて、教室の木達は
まばらに散っていた。

あまり過度に干渉されるのはストレスに
なるし、ようやく一息つけそうだった。



シマトネ「あ~疲れた!数学苦手なんだよなぁ、あれ?次郎どこいくの?」

次郎「えっ食事だけど」

シマトネ「そっか、人間みたいな生き物は常に食事が必要だから不便だよなぁ」

次郎「まぁね」


植物の種類にもよるが基本的に数日に
一回の水とたまにの肥料で済む植物は
口から食べ物を取り入れ、栄養を摂取
するという形での食事と言う概念が
あまりない。

もちろん人型な為口からの食事も可能だが、人間と違い光合成により体内で糖を
生成出来、過度な運動をしない限りは
口腔摂取を必要としない。

姿形は人間そっくりに進化しているのに不思議なもんだ。
人間にとっては数少ない娯楽の一つではある。


次郎「はぁ~、やっと一人になれた。この学校ってやつはどこ行っても誰かしらいるから落ち着かないよ。授業の合間も質問攻めだったし」


人間の食事は昔は様々な種類や国によって特徴的な文化をもっていたみたいだが、現代では必要性のなさからずっと退化してしまっている。

植物が繁栄しているとはいえ、
基本的に知性があり劇的に進化を遂げたのは年々幹を太くし【形成層】を持ち、細胞を蓄積する【木】にほぼ限定される。

逆に1~数年程度で枯れる【草】についてはそのサイクルの早さから進化する事はなかった。まぁまさにそのサイクルの早さこそが彼らの生存戦略ではあるのだが・・・

中には【形成層】を持たずして【木】の様に進化を遂げた者もいるみたいだ。

どちらにせよ現代においても人間の食べ物として野菜が残っていることは健康維持の観点から非常に助かる。

野菜等の植物も人間と同レベルの知性を
持っていたら、殺して食べるなんて事が
出来るのだろうか・・・


次郎「とは言え・・今日もジャガイモを蒸したヤツと、硬っっいライ麦パンかぁ・・まぁ味があるだけいいけどな」


ヒィぃぃぃッッッッ!!!!

次郎「なんだ?・・悲鳴?」


いじめられっ子「ヒっ!!や、やめてくださいよぉ~~、持ち合わせなんて全然ないんですぅ」

いじめっ子「うるせぇっっっっ!!!いいから金出せよっっ!!テメぇなんぞ金運んで来る以外能ねぇだろ!まじ形成層削んぞ??」

いじめられっ子「勘弁してください~、癒合剤を使っても傷が残ってお母さんに心配かけちゃいますぅ」

ドカッッッッ バキッッッッ

いじめられっ子「うっうぅ」


おいおい、やばくないか? 木同士でこんなイジメなんてあるのか? 
だいぶ物騒な発言も聞こえたし、助けに行くか、先生を呼んできた方が良さそうだな。

バッサァァァア~


は?・・・

突如いじめっ子の前に赤い絨毯が
敷かれ、場に不釣り合いな優雅な
BGMが流れだした。

あまりに突拍子もない展開に先生を
呼びに行くのを忘れ、
つい見入ってしまっていた。

?「やめなさいっ!!ただでさえ下々の身の上、更に弱い者から搾取する事しか能のないドブネズミ風情が!
恥を知りなさい!私の目が黒いうちはこの学園においてそんな下等で下衆な行いは許しません!」

sp「お嬢様・・少し口汚いのでもう少し丁寧にお願いします・・」

えぇ・・・口悪・・・

いじめっ子「出やがったな
エセ成金野郎・・
テメェの事ぶっちめてこいつ共々有り金巻き上げてやるよ!」

いじめられっ子「ヒィっっっ」

いじめられっ子の悲鳴が聞こえたのと
ほぼ同時に、縦に巻かれた髪を揺らし
その子は走り込みながら右ストレートを放った。
とても女の子とは思えないスピードで
左前足に適度に荷重を置き、
腰、肩、拳を捻り込みながら放たれた拳
は本来有しているであろう体格による
力の差をものともしない一撃であった。

バキィィィィ

いじめっ子「ちぃぃぃいッ」

sp「危ないっ!お嬢様!!」

?「甘い!!」

男は辛うじて女の子の第一撃を防ぎ、
2メートル程距離を取った。
女の子は綺麗にスタンスを広げ、ファイティングスタイルを取り挑発している。

男の方もそれなりに心得があるのか
フェイントを入れつつ、女の子の懐に
入り左ボディを狙うが、右肘により軽々ディフェンスされた。
左時計周りに周った女の子はすかさず
右フックで男のチン【下顎】を鮮やかに捉えた。

いじめっ子「グっがはぁっ」
くっまずい・・・脳が揺れやがる・・
距離を取って回復しねーと・・・



あら?・・以外と持ちますわね。 
踏み込みが甘かったかしら。
重心は乗せたつもりでしたけど・・
でも回復に時間がかかるでしょうから距離を取られる前に詰めて連打ね。

いじめっ子「くそがぁぁぁあぁ」


脳からの伝達が遅くなり
鈍る足に喝を入れ、男はすぐさま
バックステップした。
追う女の子、殴る殴る殴る。
恐ろしい程にガードを無視した連打。
徐々に男のガードが剥がされていく。

?「あらぁ?どうされました?
ガードがお留守になってきてるわよ?
もっとガチガチにインファイトしましょうよ??」

モブ「くっうるっっせぇえ!・・
元々足を使うのが俺のスタイルなんだよ・・」



そういうと、男は左フックを引っ掛けて周り、体制を整え直した。いや、正直あの男も中々なもんな気がするが。

すると遠くから大声で叫びながら誰かが
走ってくる音が聞こえた。



先生「こらぁ!あんた達何してんのぉ~!やめなさぁ~い!」

いじめっ子「やべっ!おいテメェ覚えとけよ!」

?「いつでも仕掛けて来なさい。受けて立つわ。」

先生「はぁはぁはぁ・・全く。
正義感があるの結構なことだけど、まず先に先生を呼ぶようにしなさい!

フェイ!
あと何度も言ってますけど
spの方も一緒に学校に来るのは控えてください。」

sp「失礼しました。ではお嬢様またお帰りの際お迎えに上がります。」

フェイ「えぇ、頼むわ。・・・あと、
そこで見ている方、出て来なさい。」



あーまさか俺の事言ってる? 
周りを見ても他に人がいないので多分俺の事だろう・・先生は誰か他のやつが呼んだのか?

次郎「はい・・」

フェイ「あら、貴方人間?・・
とは言え、貴方男なんだから何故もっと早く出てきてカツアゲを止めなかったの?」



えぇ、いや行動はしようとしたけど、
アンタの手が早すぎるんだよ・・・
とは言えないなぁ。

いじめられっ子「あっあのぉ、ありがとうございましたぁ。」

フェイ「いいのよ、ただ貴方も少しはやり返しなさい。」

男の子は無言で下を向きながら走って行ってしまった。

フェイ「で・・貴方は誰かしら?」

先生「武道大会で午前中欠席していたから知らないでしょうけど、その子は今日転入してきた子よ。
同じクラスなんだから仲良くしてね・・特にフェイ貴方は良くも悪くも火種になりやすいんだから、もう少し事を穏便に済ませなさい。」

フェイ「私は正しい事をしただけです。そこの貴方名乗りなさい。」

次郎「あー名前はGー・・」

シマトネ「次郎だよな!!」

次郎「うおっどっから出て来たんだよ!!」

シマトネ「いやぁ、人間の食事が気になって来てみたらカツアゲ見かけたから先生を呼んできたんだよ。」

フェイ「次郎?・・随分変わった名前ね。まぁ良いわ、よろしくね。」


ダメだ、次郎がどんどん浸透していく・・まぁ本名に愛着があるわけでもないし、いいか。

キーン・・コーン・カーンコーン

シマトネ「はぁ~終わった終わった!
次郎~帰りはどこ方面に帰んの?」

次郎「えっ秋町方面だけど・・」

シマトネ「おっ途中まで一緒じゃん!
一緒に帰ろうぜ!」

椿「ダメだよ~次郎君はアタシと校内散策でしょ?」

シマトネ「え~なんだよ。もう大体わかったんじゃないの?」

次郎「いやぁ、一応そういう話だったし、わからない所も多いから案内してもらうよ」

シマトネ「ちぇ~明日からは一緒に帰ろうぜ!」

次郎「わかったよ。じゃあ椿さんお願いします。」

椿「椿さんなんて他人行儀やめてよ~、椿でいいよ!」

案内してくれている椿の後を少し離れて歩く。

椿が色々と説明してくれながら案内してくれているが正直あまり頭に入らない。

今日は緊張したし、初めての経験が多すぎた。
学校という所は本当に多くの木がいて、個性があり実に多種多様だった。

俺には刺激がかなり強い。
しかし、人の順応性というのは馬鹿に出来ない。
刺激が強くはあるが、一日もすればそれなりに慣れてきている自分がいる。

こんな経験施設に居たらする事なかっただろうなぁ。 

あいつ・・俺が居なくて上手くやれているかな・・・・

そんな事を思いながら後をついていたら
クルッと体を反転させ椿がこちら見た。

夕日に照らされた椿は綺麗で、
つい見とれてしまった。

椿「もう!!次郎君ちゃんと聞いてるの??・・・何よ?そんなに人の顔を
ジロジロ見て。」

次郎「綺麗だな」


椿「はっ?何言ってるの!?
やっぱり聞いてないじゃん!
ていうかよくそんな恥ずかしいこと言えるね!」

椿はそう言いながら少しだけ顔を赤くした。

疲れてぼーっとしていたせいか、つい思ったことがそのまま出てしまった。

まぁ良いか。
本当の事だし・・
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