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第三十九話
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今頃は、宮殿で皇帝とアレクが公式には初めての対面をしているころでしょう。
私はアレクの母エステルの屋敷にいました。私が皇子の妃として公的な場に出ることはありません、それはアスタニア帝国の慣習で皇帝以下一族の配偶者は秘密とされるからです。配偶者には貴族としての爵位が新たに与えられるから、周囲が憶測することは可能ですが、アスタニア帝国の貴族の間ではそれを探ることは御法度となっています。もっとも、配偶者と直接的には特定されないようにさまざまな工夫がなされているから、私が貴族の陰謀などに巻き込まれることはないでしょう。
とはいえ、私がアスタニア帝国の貴族になることには変わりなく、家の当主として振る舞うことが義務付けられるので、これから社交界にデビューすることだってあります。そのためには、あざのある顔を何とかしなければならないのですが——。
「あらまあ、この白粉じゃだめね。ごめんなさいね、ちょっと取るから我慢して」
そう言って、アレクの母エステルは布と筆を使って丁寧に私の右額から頬にかけてを拭いてくれました。目の前の鏡台に私の顔のあざがはっきりと見えます、それを何とかするためにアレクの母エステルが化粧係を買って出てくれました。とても楽しそうに、真剣に、あれでもないこれでもないとたくさんの化粧品を取り出してきて、試しています。
「うーん、土台を作ってから、きめ細かい白粉をはたくほうがよさそうね。でもあんまり頑丈にしても、にっこり笑えないし……難しいわね、薄くできないかしら」
喋りながらも、手慣れた様子で私の右頬へ白粉を塗っていきます。途中、手を止めて、思い立ったように化粧箱からごく薄い紅のチークを取り出しました。そっと筆で私の頬に乗せます。
「あら、チークをちょっと広めに塗ればいいわ。ほら、笑って! 血色もよく見えるし、いい感じよ!」
「本当、すっかり見えなくなりました」
「まだ気になるようならスカーフを特注品にして、髪に絡ませて金細工を垂らすってこともしてみましょう。南の砂漠の国で流行っているのよ、そういうの」
あれがあったでしょう持ってきて、と侍女に言って、アレクの母エステルは化粧を続けます。私の右額だけはちょっと多めに白粉を塗って、出来上がった鏡に映った私の顔は、あざがあることをまったく感じさせない仕上がりとなっていました。
これには、私は大変驚きました。どんなに私が塗り固めてもどうしようもなかったあざが、アレクの母エステルの手にかかれば消え去ってしまったのです。感動さえ、覚えました。
満足げなアレクの母エステルに、私は感謝します。
「ありがとうございます、エステル様」
「あらいやだ、お母様って呼んでくれる? 私、娘が欲しかったのよ! でもあの人ったら息子が一人いれば十分だって」
「あの、では、お母様」
「なぁに?」
どう言えばいいのか、私はちょっと戸惑いつつも、思いついたことが謝罪しかありませんでした。
「すみません。こんな顔を見」
「いいのよ! だって可愛いんだもの!」
アレクの母エステルは、ぎゅっと私に抱きつきました。苦しいくらい力強く、化粧が取れないよう私の頭に頬擦りさえしています。そんなに積極的にスキンシップを取ることは実の家族でさえなかったので、私は強引さにされるがままです。
「可愛い……そんなこと、アレクにしか言われたことがありません」
「じゃあ、私が二人目なのね! 三人目はあの人よ、絶対に可愛いって言わせるわ!」
それは無理ではないだろうか、と私は思いましたが、アレクの母エステルはやる気です。いずれ、あのアスタニア帝国皇帝にも、私は可愛いと言われるのでしょうか。
ちょっと、想像がつきませんでした。
私はアレクの母エステルの屋敷にいました。私が皇子の妃として公的な場に出ることはありません、それはアスタニア帝国の慣習で皇帝以下一族の配偶者は秘密とされるからです。配偶者には貴族としての爵位が新たに与えられるから、周囲が憶測することは可能ですが、アスタニア帝国の貴族の間ではそれを探ることは御法度となっています。もっとも、配偶者と直接的には特定されないようにさまざまな工夫がなされているから、私が貴族の陰謀などに巻き込まれることはないでしょう。
とはいえ、私がアスタニア帝国の貴族になることには変わりなく、家の当主として振る舞うことが義務付けられるので、これから社交界にデビューすることだってあります。そのためには、あざのある顔を何とかしなければならないのですが——。
「あらまあ、この白粉じゃだめね。ごめんなさいね、ちょっと取るから我慢して」
そう言って、アレクの母エステルは布と筆を使って丁寧に私の右額から頬にかけてを拭いてくれました。目の前の鏡台に私の顔のあざがはっきりと見えます、それを何とかするためにアレクの母エステルが化粧係を買って出てくれました。とても楽しそうに、真剣に、あれでもないこれでもないとたくさんの化粧品を取り出してきて、試しています。
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喋りながらも、手慣れた様子で私の右頬へ白粉を塗っていきます。途中、手を止めて、思い立ったように化粧箱からごく薄い紅のチークを取り出しました。そっと筆で私の頬に乗せます。
「あら、チークをちょっと広めに塗ればいいわ。ほら、笑って! 血色もよく見えるし、いい感じよ!」
「本当、すっかり見えなくなりました」
「まだ気になるようならスカーフを特注品にして、髪に絡ませて金細工を垂らすってこともしてみましょう。南の砂漠の国で流行っているのよ、そういうの」
あれがあったでしょう持ってきて、と侍女に言って、アレクの母エステルは化粧を続けます。私の右額だけはちょっと多めに白粉を塗って、出来上がった鏡に映った私の顔は、あざがあることをまったく感じさせない仕上がりとなっていました。
これには、私は大変驚きました。どんなに私が塗り固めてもどうしようもなかったあざが、アレクの母エステルの手にかかれば消え去ってしまったのです。感動さえ、覚えました。
満足げなアレクの母エステルに、私は感謝します。
「ありがとうございます、エステル様」
「あらいやだ、お母様って呼んでくれる? 私、娘が欲しかったのよ! でもあの人ったら息子が一人いれば十分だって」
「あの、では、お母様」
「なぁに?」
どう言えばいいのか、私はちょっと戸惑いつつも、思いついたことが謝罪しかありませんでした。
「すみません。こんな顔を見」
「いいのよ! だって可愛いんだもの!」
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「可愛い……そんなこと、アレクにしか言われたことがありません」
「じゃあ、私が二人目なのね! 三人目はあの人よ、絶対に可愛いって言わせるわ!」
それは無理ではないだろうか、と私は思いましたが、アレクの母エステルはやる気です。いずれ、あのアスタニア帝国皇帝にも、私は可愛いと言われるのでしょうか。
ちょっと、想像がつきませんでした。
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