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第十四話
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「交換?」
「はい。私はカルタバージュでワグノリス王国の本とアスタニア帝国の本、同一の内容のものをセットで販売することの多い書籍商です。なので、ワグノリス王国の本だけが入りすぎても、アスタニア帝国の本だけが手に入ってもいけません。今足りないアスタニア帝国の本をリストアップしますので、それを送っていただければ。もちろんこれはワーゲンティ男爵の小説の写しの他に、代金をお支払いします。その道筋をつけていただければ助かるのですが」
ジーベルン子爵はそれならば、と満足そうです。
「よし、いいだろう。そういうことならエンリシュ中の古書店にかけあって、本を調達してやる。何、これから先も翻訳の写しを送ってくれるなら代金などいらない。それでどうだ?」
「有り難いお話です。そのように取り計らってくださいませ」
私は嬉しくなりました。こんなに上手く話が進むなんて、思ってもみなかったからです。特別大きな本の流通ルートができて、しばらくは仕入れに困らないでしょう。その代わり翻訳にかける時間が多くなりそうですが、それは仕方がありません。精一杯、読み進めて書いていくしかなさそうです。
ジーベルン子爵もまた、私と同じでほくほくしていました。
「今日はいい日だな! 新しい本は入るわ次の本のあてができるわ。エミー、お前のおかげでしばらく楽しめそうだ! 礼を言う」
「もったいないお言葉ですわ」
「それはそうとだ。エミー、お前は」
ふと、ジーベルン子爵の視線が私の頭の上に来ました。何だろう、と思っていると、ジーベルン子爵は手を伸ばし、私のスカーフに指先を触れさせます。
「エミー、スカーフがずれている」
「え?」
私はそのとき、反射的に首を振ってしまいました。近くに手が来ていたから、避けようと本能的に体が動いてしまったのです。
それが悪かったのです。ジーベルン子爵の指先にスカーフが絡まり、私の顔から離れました。私の顔の右半分が、露わとなってしまったのです。
いくら白粉で隠しても、あざはうっすらと見えています。白粉で隠したなど見て分かります、だからスカーフで隠していたのに——。
ジーベルン子爵がすぐにスカーフから手を離し、謝りました。
「あ、いや、すまない。直すだけのつもりで」
ジーベルン子爵の視線が、私の顔から逸れました。
見てはいけないものを見てしまった、とばかりのジーベルン子爵の顔に、私は赤面します。こんなものを見られては、噂になってしまいます。あざのある娘、などと、またからかわれ、嫌がられることになれば、私は耐えられません。
私はスカーフを被り直し、そそくさと席を立ちます。
「も、申し訳ございません。それでは、失礼いたします!」
言うが早いか、私は応接間から早足で出ていきました。
宿の部屋に戻るまで、必死で顔を隠して、ただひたすら走ります。
先ほどまでの嬉しさなど、消し飛んでしまっていました。
「はい。私はカルタバージュでワグノリス王国の本とアスタニア帝国の本、同一の内容のものをセットで販売することの多い書籍商です。なので、ワグノリス王国の本だけが入りすぎても、アスタニア帝国の本だけが手に入ってもいけません。今足りないアスタニア帝国の本をリストアップしますので、それを送っていただければ。もちろんこれはワーゲンティ男爵の小説の写しの他に、代金をお支払いします。その道筋をつけていただければ助かるのですが」
ジーベルン子爵はそれならば、と満足そうです。
「よし、いいだろう。そういうことならエンリシュ中の古書店にかけあって、本を調達してやる。何、これから先も翻訳の写しを送ってくれるなら代金などいらない。それでどうだ?」
「有り難いお話です。そのように取り計らってくださいませ」
私は嬉しくなりました。こんなに上手く話が進むなんて、思ってもみなかったからです。特別大きな本の流通ルートができて、しばらくは仕入れに困らないでしょう。その代わり翻訳にかける時間が多くなりそうですが、それは仕方がありません。精一杯、読み進めて書いていくしかなさそうです。
ジーベルン子爵もまた、私と同じでほくほくしていました。
「今日はいい日だな! 新しい本は入るわ次の本のあてができるわ。エミー、お前のおかげでしばらく楽しめそうだ! 礼を言う」
「もったいないお言葉ですわ」
「それはそうとだ。エミー、お前は」
ふと、ジーベルン子爵の視線が私の頭の上に来ました。何だろう、と思っていると、ジーベルン子爵は手を伸ばし、私のスカーフに指先を触れさせます。
「エミー、スカーフがずれている」
「え?」
私はそのとき、反射的に首を振ってしまいました。近くに手が来ていたから、避けようと本能的に体が動いてしまったのです。
それが悪かったのです。ジーベルン子爵の指先にスカーフが絡まり、私の顔から離れました。私の顔の右半分が、露わとなってしまったのです。
いくら白粉で隠しても、あざはうっすらと見えています。白粉で隠したなど見て分かります、だからスカーフで隠していたのに——。
ジーベルン子爵がすぐにスカーフから手を離し、謝りました。
「あ、いや、すまない。直すだけのつもりで」
ジーベルン子爵の視線が、私の顔から逸れました。
見てはいけないものを見てしまった、とばかりのジーベルン子爵の顔に、私は赤面します。こんなものを見られては、噂になってしまいます。あざのある娘、などと、またからかわれ、嫌がられることになれば、私は耐えられません。
私はスカーフを被り直し、そそくさと席を立ちます。
「も、申し訳ございません。それでは、失礼いたします!」
言うが早いか、私は応接間から早足で出ていきました。
宿の部屋に戻るまで、必死で顔を隠して、ただひたすら走ります。
先ほどまでの嬉しさなど、消し飛んでしまっていました。
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