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第三話
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難しい言葉が並んでいますが、アルマスは興奮気味にこの内容をミルッカへと伝えます。
「それで、エリヴィラ王女様の婚約者を新しく探すことになって、王侯貴族だけじゃなく平民でもいいって! で、その条件がこの下にあって」
ミルッカは文章の下に目を向けます。そこには十分に余白を空けて、一文だけ記載されていました。
「条件は……ただ一つ。『エリヴィラ王女殿下にふさわしいお茶会の品を持ってくること』。アルマス、これって」
アルマスは大きく頷きます。
「俺がそれを持っていけば、エリヴィラ王女様に気に入られるかも、ってことだよ!」
なるほど、立身出世にはもってこいの話です。
アルマスは平民ながら王立高等学校に入学する秀才です。しかし、この国においては王侯貴族と平民の間に大きく深い溝があり、どう足掻いてもその溝は埋められません。それがひょっとすると埋められるかもしれないチャンス、そう考えると逃すべきではないかもしれません。
ですが、十歳のミルッカでもそれにはいくつも高い高いハードルがあると分かります。
「王侯貴族の用意する一級品を押し除けて?」
「うっ、それは」
「何を用意するつもりなの?」
「それは、お茶っ葉くらいしか」
「どこで? アルマスが買えるような安い値段の品は、殿下が気に入ることはないと思うわ」
ズバズバと切り込んでくるミルッカに、アルマスはそこまで無策だったわけではないらしく、我が意を得たりと答えます。
「それだよ! ミルッカ、協力してくれ!」
「協力?」
「お前の植物の知識で、王女様にぴったりの花で作ったハーブティーを出すんだ!」
ミルッカの植物の知識——宮廷医師の父と宮廷薬師の母を持つミルッカ・トゥルトゥラへ、アルマスは何とかしてくれるに違いない、という期待の視線を向けます。物心ついたときから植物に囲まれ、文字を覚えてすぐに医学書を開いてきたようなミルッカです。確かに植物の知識だけなら温室の管理を任されるくらいにはありますが——。
ミルッカは顎に手を当てて、うつむきます。
「それは」
ミルッカは分かっていました。アルマスは優秀で、きっと将来王城に就職し官僚になれるでしょう。しかし、そこまでです。平民のアルマスには何の後ろ盾もなく、家柄も財産もない。よくて各部署の長の代理くらいにはなれるでしょうが、何とか長官だとか大臣、宰相といった高位の官職には絶対に就けません。おまけに、もし運悪く陰謀に巻き込まれれば守ってくれるもののいないアルマスはあっという間に政争で負けてしまい、職を追われるかあるいは牢屋に入る羽目になることは容易に想像できます。
それに対し、ミルッカは違います。宮廷医師か宮廷薬師にならなれるでしょう、王族の信頼厚いその専門職は代々受け継がれてきたからです。何かあれば世話をしている王族が後ろ盾になってくれますし、実際ミルッカの母エイダはエリヴィラ王女に何度も助けてもらっていると聞きます。
将来をほぼ約束されているミルッカは——理不尽に憤慨し、幼いころからの友人に手を差し伸べたいと思いました。
言いたいことをグッと堪え、ミルッカは不敵な笑みを作ります。
「それで、エリヴィラ王女様の婚約者を新しく探すことになって、王侯貴族だけじゃなく平民でもいいって! で、その条件がこの下にあって」
ミルッカは文章の下に目を向けます。そこには十分に余白を空けて、一文だけ記載されていました。
「条件は……ただ一つ。『エリヴィラ王女殿下にふさわしいお茶会の品を持ってくること』。アルマス、これって」
アルマスは大きく頷きます。
「俺がそれを持っていけば、エリヴィラ王女様に気に入られるかも、ってことだよ!」
なるほど、立身出世にはもってこいの話です。
アルマスは平民ながら王立高等学校に入学する秀才です。しかし、この国においては王侯貴族と平民の間に大きく深い溝があり、どう足掻いてもその溝は埋められません。それがひょっとすると埋められるかもしれないチャンス、そう考えると逃すべきではないかもしれません。
ですが、十歳のミルッカでもそれにはいくつも高い高いハードルがあると分かります。
「王侯貴族の用意する一級品を押し除けて?」
「うっ、それは」
「何を用意するつもりなの?」
「それは、お茶っ葉くらいしか」
「どこで? アルマスが買えるような安い値段の品は、殿下が気に入ることはないと思うわ」
ズバズバと切り込んでくるミルッカに、アルマスはそこまで無策だったわけではないらしく、我が意を得たりと答えます。
「それだよ! ミルッカ、協力してくれ!」
「協力?」
「お前の植物の知識で、王女様にぴったりの花で作ったハーブティーを出すんだ!」
ミルッカの植物の知識——宮廷医師の父と宮廷薬師の母を持つミルッカ・トゥルトゥラへ、アルマスは何とかしてくれるに違いない、という期待の視線を向けます。物心ついたときから植物に囲まれ、文字を覚えてすぐに医学書を開いてきたようなミルッカです。確かに植物の知識だけなら温室の管理を任されるくらいにはありますが——。
ミルッカは顎に手を当てて、うつむきます。
「それは」
ミルッカは分かっていました。アルマスは優秀で、きっと将来王城に就職し官僚になれるでしょう。しかし、そこまでです。平民のアルマスには何の後ろ盾もなく、家柄も財産もない。よくて各部署の長の代理くらいにはなれるでしょうが、何とか長官だとか大臣、宰相といった高位の官職には絶対に就けません。おまけに、もし運悪く陰謀に巻き込まれれば守ってくれるもののいないアルマスはあっという間に政争で負けてしまい、職を追われるかあるいは牢屋に入る羽目になることは容易に想像できます。
それに対し、ミルッカは違います。宮廷医師か宮廷薬師にならなれるでしょう、王族の信頼厚いその専門職は代々受け継がれてきたからです。何かあれば世話をしている王族が後ろ盾になってくれますし、実際ミルッカの母エイダはエリヴィラ王女に何度も助けてもらっていると聞きます。
将来をほぼ約束されているミルッカは——理不尽に憤慨し、幼いころからの友人に手を差し伸べたいと思いました。
言いたいことをグッと堪え、ミルッカは不敵な笑みを作ります。
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