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番外編
回顧録05~前代未聞の女
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時系列的には本編序盤のどこか。お互いに「なんだコイツ……」と思っている時期。
ヒューイによる、ヘザー(+ニコラス)観察記。
※※※
「ねえ、見て見て。このヘアピン」
雑談をしていたメイドが、話し相手に向かってキャップのフリルをぴらりと捲ってみせた。
「あっ、カワイー! なんかキラキラしたのついてる!」
「えへへ。買っちゃった」
「いいなあ~。あたしもそういうの欲しいー。それ、どこのお店で売ってるの?」
「南地区の商店街に、手芸店があるでしょ? そこのお店で作ってるんだって~」
「へー。今度の休みに行ってみようっと」
メイドたちの服装は統一されているから、目立ったアクセサリーは付けられない。特に手元の装飾──指輪やブレスレット、爪に着色することなど──は厳禁である。
そこで彼女たちは、ぱっと見ただけでは分からないところのお洒落を頑張っているようだった。
最近はキャップを留めるヘアピンに小さな飾りを付けるのが流行りらしい。
たまたまメイドたちの近くを通りかかったヒューイは思った。
くだらん、と。
ヘアピンの飾りと言っても、宝石ではなく安物の石やガラス玉だ。そんなゴミみたいなものについてきゃあきゃあ騒ぐだなんて、実にくだらない。
しかも仕事の手を止めて話す様な事柄か?
これだから女は嫌なんだ。
半ばイライラしながら司令部の扉を開け、自分の机に向かった。
そこで目に入った光景に、ヒューイは一瞬驚く。
隣のヘザーの机の上が、綺麗になっていたのだ。
彼女の机が汚いと注意したのは、ついさっきのことだ。
これまでにヘザーに渡した書類や参考書は、仕事で使うものと使い終ったものと紙屑と何だか良く分からないものが混ざり合った状態で机の上に積み上げられていき、終いには隣のヒューイの机を侵食し始めたのである。
ヒューイは「少しは整理したまえ」と彼女にきつく言った。
それが教官同士の打ち合わせを終えて戻って来てみれば、彼女の机は綺麗になっていた。
今、目に入るのはインク瓶と筆立て、午後の研修で使う資料とメモ用紙、ガラスの置物──ちょっと潰れたようなドーム型をしていて、見た感じ、ペーパーウェイトだ。彼女の私物だろうか?──ぐらいのものである。
「……ずいぶんと綺麗になったではないか」
「ええ。教官に言われてみて、そういえば汚いなって自分でも思ったの」
「……。」
ヘザーはちょっと誇らしげに胸を張った。
反対にヒューイは口を噤んだ。
普通は自分で気づくものである。その前に、汚くならないように注意を払うべきである。
「短時間でこんなに綺麗にできるならば、最初からそうしたまえ」
「はあい」
ちくりと嫌味を言ったものの、一瞬で片づけを済ませてしまったヘザーを少しだけ称賛してもいた。
……いや、最低の状態がヒューイにとっての普通になっただけで、これは褒めるようなことではないと考え直した。
整った環境があってこそ、仕事の効率も上がるというものだ。
「それから、ニコラスとアルドの学力測定の結果を記した紙は持っているかね。あれを、午後の研修で使うことになった」
原本はヒューイが持っているが、写しをヘザーに渡してあった。
「あ、はい」
ヘザーは机の上をきょろきょろと見渡したが、掃除した時に引き出しの方にしまったことを思い出したようだ。彼女は机の引き出しを開ける。
「……!!!」
ヒューイは目を見張った。
机の上の書類なのかゴミなのか良く分からないものは、ごっそりと引き出しの中に移動していただけだったのだ。
グッシャグシャの引き出しの中にヘザーは手を突っ込み、
「んー……」
手を彷徨わせてさらにグシャグシャにかき回し、
「あった!」
お目当てのものを引っ張り出した。
その際、引き出しの中にあった丸めた紙屑が、ぽとんと床に落ちた。
「ああ、見つかってよかった~」
「……。」
ヘザーは胸を撫で下ろしているが、ヒューイはわなわなと震えるしかない。
紙を取り出したヘザーはそのまま引き出しを閉めたが、落ちた紙屑は彼女の足元に転がったままである。
やけに片付けが早いと思ったら、そういうことか。
だがそれは「掃除した」とは言わない。
まったく、なんという女だ。
それから、ゴミは拾いたまえ。
君の足元だ。気づいていないのか?
「ヘザー君。ヘザーくん……」
色々と注意することがあり、ヒューイは彼女の名を口にしたが、呆れと驚きのせいで、吐息のような小さな声しか出てこなかった。
ヒューイがわなわなとしている間に、ヘザーが足元をちらりと見たように思えた。ゴミに気付いたのだろうか? さすがに拾い上げ、それはゴミ箱へ捨てるのだろう……と、ヒューイは当たり前のことを期待してしまった。
が、彼女はそれを机の下の見えないところへ蹴り飛ばした。
「!!!!」
ヒューイは絶句する。
普段からそうしているような、無意識の行動に見えた。視界に入らなければゴミじゃない、彼女の中ではそういうことなのだろうか。
ヒューイは亡くなった祖母のことを思い出した。
亡くなる前の数年間は部屋に閉じこもり、床に臥せっていることが多かったが、元気だった頃は使用人が掃除した後に屋敷中を見て回り、掃除の仕方が甘いと小言を言っていた。
祖母の部屋にしょっちゅう立ち入っていた訳ではないが、元気だった頃も臥せるようになってからも常に整然としていて、「誰かが使っている部屋」だという感じはあまりしなかった。
母の部屋も似たようなものだった。もっと言えば、バークレイの屋敷全体がだいたいそんな感じだ。
これまでのヒューイの世界は、必要なものだけが秩序を保って保管されていた。
預かっている従弟の少年、ロイドはよく部屋を散らかしているが、あれは「男の子だから」「子供だから」そういうこともあるのだと思っていた。
それが。
いい年齢をした大人の女が。
まさか、こんなことをするなんて。
「教官? そろそろ時間だけど」
「え? あ、ああ」
自分はどれくらい戦慄いていたのだろう。
ヒューイはこれまでの二十六年間で築いた「自分が思う女という生き物」、そう名付けられた壁画の表面がひび割れ、ぺりぺりと剥がれていくような感覚に陥っていたのだ。
ヒューイの中の壁画がさらに剥がれ落ちたのは翌日のことだ。
朝方に降った雨のせいか、やたらと蒸し暑い日であった。
剣の稽古を終えて、使った道具をしまうためにニコラスが物置小屋へ向かう。練習用の剣が詰まった木箱は、ニコラスの体躯には大きすぎた。
危なっかしい後姿が気になって、ヒューイも彼の後に続いた。
「あれ? わ、うわあ……」
小屋の中へ入ると、案の定、ニコラスは慌てふためいている。
持っている木箱を床に下ろしたいのに、その木箱のせいで視界も両手も塞がっており、どうにも出来なくなったのだ。
ニコラス一人では、足の上に木箱を落としてしまっていたかもしれない。
「貸したまえ」
「あっ。教官、助かりましたあ!」
そこでヒューイがニコラスから木箱を受け取り、下におろす。
「……!?」
その時、異臭に気付いた。
ただでさえ湿気のこもった薄暗い小屋の中に、なんとも不快な臭いが漂っているのだ。
「……?」
異臭の出どころを突き止めようと、ヒューイは鼻をくんくんとさせながら辺りを見渡し……方角的にはニコラスのいる辺りだと見当をつける。
それから小屋の中を再度見渡し、いかにも異臭を漂わせそうな革鎧の類はまったく別の場所に置いてあることを確認した。
もう一度ニコラスを見る。
……足だ。
異臭の発生源はニコラスのブーツだ。
「おい。ニコラス・クインシー」
「はいっ、なんでしょう?」
ニコラスが振り向いたところで、ヒューイは思い直した。
いくら相手がニコラスだからと言って「君のブーツがにおう」と伝えて良いのだろうか、と。
「……どうしたんですか?」
ニコラスは女みたいに小首を傾げて、言いよどんだヒューイを見上げている。
というか、小屋に充満するほど臭っているのに、彼は自分で気づかないのだろうか。
どう切り出そうか考えていると、
「ねえ。終わった? 鍵閉めるけど、いい?」
小屋の鍵を持ったヘザーがやって来る。
「……ん?」
彼女も悪臭に気付いたのか、小屋に半歩足を踏み入れた状態で鼻を動かした。
発生源が自分だと思われてはたまらない。ヒューイは驚異的な速さでニコラスから間を取った。
ヘザーはきょろきょろしながら臭いの原因を突き止めると、ヒューイが予想もしなかった行動に出た。
「あははは! ニコラス、足クサッ! 貴方、足臭いんだけど!!」
お腹を押さえてげらげら笑いだしたのだ。
「えっ? 俺ですかっ?」
「くさっ! くさーいー! あははは!」
「え? あれ……ほんとだ。臭いです……なんでだろ……」
「あははははは!」
「……。」
男ならばともかくとして、これまでのヒューイの人生において、ヘザーのようなあけっぴろげな女は存在しなかった。
それとも、出自が平民であればこんなものなのだろうか?
所詮は平民、デリカシーの無い女だと片づけるべきなのだろうか?
絶句しつつもなんとなく二人の動向を見守っていると、ヘザーはニコラスの足元にしゃがみ込んだ。
彼のブーツはそれなりに使い込まれていてつま先のあたりが黒ずんではいるものの、ツヤが出ており数日内に磨いた形跡がある。異臭がするほどボロボロには見えなかった。
「ニコラス。ブーツ、脱いでみなさいよ。もしかして中敷きが臭いんじゃない?」
ニコラスはヘザーの言うとおりにする。屈んで靴紐を解き、ブーツから足を抜くと、そこから中敷きを引き出した。
なんとニコラスのブーツの中敷きは、つま先の方が腐って溶けていた。
ヘザーはまた身体を二つに折って笑う。
「あははは! こんなの初めて見たあ! ちょっと、こっち近づけないでよ、クサッ! あははははは!」
笑い過ぎて涙が出たのか、ヘザーは目尻を拭いながら言う。
「もう、いつから中敷き替えてないのよー」
「えーと、いつだっけな……」
「もうー。私の中敷き、余ってるからあげるわよ。次の休憩時間に取り替えましょう」
「えっ? でも、ヘザー殿の中敷きだと俺には大きすぎるんじゃ……」
「ばかっ。シート状になってるやつよ。足の大きさに合わせて切り取るの!」
「ああ、それなら……」
二人のやり取りを呆然と見守るヒューイに、ヘザーは鍵を掲げて見せる。
「教官? 鍵閉めてもいい?」
「え? あ、ああ……」
彼女がキーリングを指先に収め、それをくるくるとする姿は自然で女々しくなくて、でも何かのポスターのようにとても様になっていた。
その後の休憩時、兵舎の入り口の辺りでニコラスの足の型を取っているヘザーを、ヒューイは見た。
シート状の中敷きにニコラスが足を乗せ、ヘザーがチョークのようなものでそれをなぞっている。
「できたわ。これを切り取ったら、貴方の中敷きの完成」
「うわあ。有難うございます!」
「でもニコラス。貴方の今履いてる靴下もなんか臭いわよ。たぶん、中敷きから臭いが移っちゃてるのよ」
「ええっ……ほんとですか」
「新しい中敷きにする前に、靴下も綺麗なものに替えた方がいいわね」
「はい、そうしまあす」
「……。」
なるほど。先ほどはニコラスのことを散々笑ってこき下ろしてはいたが、面倒見は良いようだ。解決に向けての協力はきちんと行っている。
だが、中敷きの臭う相手がアルドやヒューイであったなら──もっとも、このヒューイ・バークレイの足が臭いなどとあり得ないことではあるが──ヘザーはあんな風に笑い飛ばしたりはしなかっただろう。
あの二人は同じ近衛隊に所属していたこともあって、気兼ねなくものを言い合える関係なのだ。
第三王女の近衛隊にいた頃の彼らは、どんな風だったのだろう。
研修生だったニコラスを近衛隊に送り出したのは自分であるが、彼はかなり危なっかしい仕上がりであった。そのニコラスの面倒を、ヘザーが見ていたのであろうか……。
なんとなく思いを馳せていると、二人は立ち上がり、兵舎の入り口に設えてある手洗い場で手を洗いだした。
靴や中敷きに触れた後ならば、当たり前の行動ではある。
「うわっ。ヘザー殿、そのハンカチ、いつからポケットに入れっぱなしなんですか!?」
ニコラスが悲鳴に近い声を上げた。
ヘザーが稽古着のポケットから取り出したハンカチらしきものは、ぐしゃぐしゃの布の塊になり果てていたのだ。
「えー? これ? いつだっけ……」
「うわあ! 俺のブーツが臭いとか言っといて! 自分だって酷いじゃないですかあ!」
「え? そういう事言っちゃう? なによ、じゃあ、貴方のハンカチは……えっ? 何よそれ!!」
ニコラスは得意げに黒いハンカチを取り出して、ヘザーの前にぴらぴらと振って見せる。
「ほら。これなら汚れが目立たないんですよっ」
「ええっ? 何それ! 黒いハンカチなんて、どこで売ってるの!?」
「ええと、俺は南地区の雑貨屋さんで……ほら、可愛いケーキのイラストの看板が出てるお菓子屋さんの隣の……」
「あっ。あそこでそんなもの売ってるの!?」
「そうなんですよー。俺、このハンカチ、もうひと月くらいこのまま使ってるんですよねっ」
「ええー。じゃあ、私も黒いの買おうかなあ」
「はい! お勧めですよ!」
「……。」
ヒューイは、ヘアピンのことできゃあきゃあ騒ぐメイドたちのことを思い出していた。
くだらないことで必要以上に騒ぐ。そのノリは全く同じである。
しかし、この二人の会話は内容が最低過ぎる……。
ヒューイの中の壁画は剥がれ落ちるどころか、壁そのものが跡形もなく吹き飛んだ。そんな気がした。
今日の研修を終えて自分の机に戻ると、ヘザーが業務日報を記しているところだった。
彼女の机の上には早くも余計なものが増え始めているように見えたが、一応はまだ、ヒューイの許容範囲内であった。
その中でも、この前気づいた潰れたドーム型の小物は存在感があった。
「ヘザー君。それは……ペーパーウェイトか」
「え? あ。ええ、そうよ」
ヘザーはガラスのペーパーウェイトを持ち上げた。
それは透明なガラスと青色のガラスで出来ていて、中には星砂と小さな貝が閉じ込められていた。
「これ、綺麗でしょう?」
「それは私物なのか? 何故、備品を使わない?」
「あっ。私物、使ったらだめだった?」
「……そういう訳ではないが」
ペンや紙、インクなど、この司令部に文房具は全て取り揃えてある。もちろん、ペーパーウェイトも。
禁止されているわけではないが、何故わざわざ私物を持ち込むのか、ヒューイは不思議に思った。
「でも、ここの備品って……実用的だけど飾り気がないじゃない」
「文具に余計な装飾など必要ないではないか」
「そうなんだけど……こういう、綺麗で可愛いものがあると、なんとなく気分が上がるから」
「……。」
女みたいなことを言う。
ヒューイはそう思ったが、そういえばヘザーは女であった。
彼女は身長だけは規格外だが、声が野太い訳でも、筋骨隆々でも毛深い訳でもない。男を思わせるような要素は身長と手足の大きさ以外にないのだが、だからと言って「ヒューイの思う女」みたいでもなかった。
だから、今の彼女の言葉は意外であったのだ。
ヘザーは単なる文房具に「綺麗」とか「可愛い」とかを求めそうになかったから。
しかし彼女が普通の女みたいなことを言ったからと、失望したわけでもなかった。
ただ、あの時のメイドたちの会話と、ヘザーの言葉を照らし合わせた。
綺麗で可愛いものがあると、気分が上がる。
メイドの会話を耳にした当初は、くだらないと思ったが……仕事に臨む姿勢が変わるのならば、くだらなくはないのかもしれない。と。
「その程度の私物の持ち込みならば、いいだろう。僕が許可する。精進したまえ」
「……はあ。」
いまいち腑に落ちていないような、ヘザーの返事が聞こえた。
*
「教官。ぼく、前から思っていたんですけど……」
現在ヒューイの助手をしているエドウィンは、頼んでいたテストの採点を終えたようだった。
彼は採点の終わったテストを持って、ヒューイの机まで報告をしにやってきた。そして机の上を見ながらちょっと口ごもる。
「……どうした。何か、質問でもあるのか」
「あ、いえ。そういうんじゃないですけど……教官の、そのペーパーウェイト。すごく綺麗だと思ってたんです」
「ああ、これか」
ヒューイはエドウィンの言う、青と透明のガラスでできたペーパーウェイトを持ち上げた。中には星砂と小さな貝殻が入っている。
退職時にヘザーが置いていったものだ。
「誰かからのプレゼントなんですか?」
「……どうして、そう思うのかね」
「あ。いえ、その……あんまり教官っぽくない小物だから……すみません……」
どうして分かったのだろうと不思議に思ったのだが、エドウィンにはヒューイが凄んだように見えたらしい。彼は慌てて言い訳めいたことと謝罪の言葉を口にする。
ヒューイは件のペーパウェイトを持ち上げ、窓側に向かって翳した。
「君の言うとおりだ。僕が選んだものではない」
確かに自分が好んで購入するようなデザインではない。が、ヘザーっぽい感じもしない。彼女がこれを「綺麗で可愛い」「気分が上がる」と言って手元に置いていたのは、当時のヒューイにとっては本当に意外であったのだ。
「じゃあ、やっぱり贈り物なんですね」
「贈り物……いや、『おさがり』と言った方がしっくりくるかもしれんな」
「え? おさがり、ですか……」
エドウィンは驚いたような口調になった。彼の様子にも頷ける。ヒューイは誰かの使い古しを有り難がる性質ではないからだ。
過去にこの王国で名を馳せた偉大な騎士の使っていた武具や、価値ある家具や美術品ならばその限りではないが、このペーパーウェイトはどう見てもその辺の雑貨屋や土産物屋で売っていそうな安物である。
「でもそれ、すごく綺麗ですよね。ぼくも何か美しい小物を机に置いてもいいですか?」
「え? ああ。業務に支障のない範囲でなら構わん。好きにしたまえ」
「有難うございます! やっぱり、そういうものが手元にあると、気分が上がりますよね。ぼく、張り切って選んできます!」
エドウィンはぱっと顔を輝かせ、そして自分の机に戻っていった。
ヒューイはペーパーウェイトをもう一度陽に翳したり、手元でひっくり返したりしてみる。
これが「綺麗で可愛い」かどうかはともかくとして、「ヘザーっぽくない」部分がかえって彼女を思い起こさせた。あれは意外な一面だったなと、これを見るたびに思い出すのである。
「……。」
だから、手元にあると気分が上がるかどうかという部分は……否定しないでおこう。
青と透明のガラスでできたそれを、元あった場所に置くと、ヒューイも仕事に戻った。
(番外編:回顧録05~前代未聞の女 了)
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