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第2章 Eureka!!
02.折れない心
しおりを挟むキャスは聖騎士団のロバート・マンセル副団長に呼ばれ、そこで何が起こったのかを説明した。その後で宿舎の管理人にも呼ばれ、案の定クビを宣告された。
「君が悪い訳じゃないって、わかってるよ。わかってるんだけどね……」
管理人は申し訳なさそうに告げる。キャスは頷くしかなかった。
騎士たちとの間に男女のいざこざが起こらないように、基本的にはある程度年齢を重ねている人しか雇ってはいけないのだ。キャスが若い女性だと騎士たちに知られた以上は、このまま雇い続ける訳にはいかない。そういうことだ。
「君はよく働いてくれていた。本当に残念なんだけど……」
「はい、わかってます。管理人さんにも迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
キャスの年齢をごまかして雇っていたとなると、管理人も責任を問われることになる。クビほど重くはないが、減給や、厳重注意くらいは食らうだろう。
キャスは今日までの給料を受け取ると、従業員控室へ入った。着替えを済ませた後は、家に帰る前に私物を纏めなくてはならない。もうここには来ないのだから。
大切な給料を鞄の奥にしまい込もうとしたが、それがやたらと重たい気がしてキャスは袋の中身をちらりと覗いてみる。今月はまだ半ばにも差し掛かっていないというのに、そこには約ひと月分の給料が入っていた。『少ないけど、薬代の足しにして』と記されたメモも入っている。キャスには病気の母親がいることになっているから、管理人が入れてくれたものだろう。嘘をついていた申し訳なさと、管理人の心遣いに涙が出そうになった。
でも今涙を溢してしまったら、このまま頽れて、そして立てなくなってしまうだろう。キャスは涙をこらえて従業員の控室を後にした。
自分は悪くない。あの不良騎士たちが悪い。でも……元はと言えば、嘘をついて雇ってもらっていた自分が、やっぱり悪いことになるのだろうか。それに、アンドリューにどう説明しよう。仕事を終えて疲れて帰ってきたところに、キャスが「仕事をクビになった」なんて告げたら彼はがっくりと肩を落とすだろう。
現在食い詰めている訳ではないが、収入の当てがないと夜会に出席する準備を整えるのが厳しい。今所持しているドレスと小物でどんな組み合わせが出来るかを、頭の中に思い浮かべる。
大きな通りに出てしばらく歩くと、店が開くのは昼過ぎになるがその代わり遅くまでやっている「タスカー食料品店」の看板の近くに、背が高くてスタイルの良い男性が立っているのが見える。その男性は身長のわりに身体の厚みはないが、綺麗な逆三角形をしているのが少し離れたところからでもわかった。それに、手足がすごく長い。まるでモデルみたいだ。
両親が生きていた頃は、有名デザイナーの新作を身に着けたモデルが、優雅に舞台の上を歩き回るショーを見に連れて行ってもらったものだ。ぼんやりとそんなことを考えながら食料品店の前を通り過ぎようとした時、
「ねえ」
どこかで聞いたことのある声がした。だがキャスは考え事に忙しかった。華々しい過去を思い浮かべたり、次の仕事を探すことを考えたり、どうやって弟に説明しようかと悩んだりして、見えるものや聞こえる音にはそれほど集中していなかった。
「ぼくのこと、怒ってるんだろう? でも、聞いてほしいんだ」
アンドリューに説明するのは、夕食後の方がよいだろうか。食べる前に話してしまうと、気が重くなってせっかくの食事が台無しになってしまうかもしれない。
「……キャスリーン!」
「えっ」
名前を呼ばれて、キャスはようやく立ち止まった。同時に、グレンがキャスの目の前に回り込んできた。
「えっ。あら? ……グレン様?」
彼は元からどこか不機嫌そうな顔をしているが、今はキャスをちょっと怒ったように見下ろしている。そこでキャスは思い当たった。ついさっき「スタイルがいい、モデルさんみたい」と思った男性は、グレンだったのではないかと。
「や、やだ! ごめんなさい。ぼうっとしていて気づかなかったわ!」
「……。」
彼は一瞬だけ唇を引き結んだが、すぐに言葉を紡いだ。
「それより。ごめん。ぼくのせいで、君は……」
*
一番悪いのは、もちろんキャスリーンに無礼な振舞いをした騎士たちだ。でも、彼女は身元をごまかして働いていたというし、規則に反して若い娘を雇った宿舎の管理人もそれなりに悪いと思う。
だがグレンがブライス伯爵邸の書斎で彼女をからかったりしなければ、再会した折にキャスリーンが声を荒げることも、注目を浴びることも無かった。不良騎士たちが彼女の顔も見てみたいと行動を起こすのだって、もっとずっと先のことだったかもしれない。
グレンは幼い頃の自分に起こった出来事を、思い浮かべずにはいられなかった。
それは、姉弟三人で暮らしていたボロボロの小屋を追い出された時のことだ。その下地は充分すぎるほどあった。まずは、親がおらず若い娘と子供だけで暮らしていたこと。姉は薬草を採取してそれをお金に換えていたが、「妙な薬を作って売り捌いている」という噂が立っていたこと。家を追い出される下地はもう整っていたのだ。そこに若い騎士──後の義兄となるランサムだ──が現れたので、姉は売春の疑いまでかけられてしまった。それで小屋を貸してくれていた大家に、風紀を乱す人間は出て行ってくれと告げられてしまったのだ。
あの時、ランサムは責任を感じたらしく自分を責めていた。でも彼の存在は単なるきっかけにすぎない。遅かれ早かれ、グレンたちは住まいを追い出されていただろうから。
当時のランサムも、今の自分と同じ気持ちだっただろうか。若い娘が、ずっと積み重ねてきた大きなものを失ってしまった……その責任の一端は自分にある、と。
「別に……グレン様のせいではないわ」
キャスリーンは目を伏せたまま答えた。
「でも、なんだか責任を感じるよ。ぼくに出来ることがあったら言ってほしい」
かつてグレンたち姉弟が住まいを失った時……ランサムは一晩で大金を用意し、ジェーンに持たせようとした。だが姉は受け取ることを拒否した。それが賭場でイカサマをして稼いだ金であったことはさておき、姉は「自分たちは物乞いではない」と言ってランサムの作った金を受け取らなかったのだ。
でもグレンは今ならばランサムの気持ちがわかる。自分が一枚噛んだことで職や住まいを失った女性がいたなら……当面の生活費を渡すくらいしかできそうにない。ここが王都であったなら新しい仕事の紹介をしてやれたかもしれないが、残念ながらルルザではまだそのような人脈がない。
しかし金を渡されて傷ついた姉の気持ちも、やはり今ならば分かるような気がした。
当面の生活費のことを口にしようかどうか迷っていると、
「……それより、貴方は大丈夫だったの? 一緒に怒られたりしてないわよね?」
「うん。君が副団長に説明してくれたから……ありがとう」
「そう……なら良かったわ。それで、あいつらは?」
「君に失礼な振舞いをしたやつらは、五日間の謹慎だって聞いてる」
「ふうん……」
彼女はこちらを責めるような事を言わないどころか、グレンの身を案じている。もしかしたら、本当にグレンには何一つ責任がないと考えているのかもしれない。しかし、彼女はさっきから目を伏せたままで、グレンを見ようとしない。その様子や声のトーンからも、キャスリーンは深く落ち込んでいるのだと窺えた。
さらに悪いことに、グレンはこれから気の進まないことを彼女に告げなくてはならない。
「さっき、君に話すことがあってあの廊下まで行ったんだ」
「話……? 私に?」
「うん。落ち着いて聞いてほしいんだけど……ブライス伯爵は、本が無くなったことに気づいたみたいだ」
グレンの予想に反して、キャスリーンは驚いたそぶりを全く見せなかった。ただ、ゆっくりと瞬きを何度か繰り返した。
「そう……わかったわ」
まるでこうなる事を予想していたかのような落ち着きぶりだ。
「分かったって……どうするの、これから。ぼくは君のことを話すつもりはないけど……でも、」
キャスリーンが持ち出したのだと告発するつもりはない。が、キャスリーンに疑いの目が向かったその時は、庇いきれない。グレンはそう告げた。
「ええ、そうよね。だから、返すわ。伯爵様に」
「え? 返すって……あの日記を?」
そこでようやくキャスリーンは顔を上げた。
「ええ。今回のブライス伯爵の件、貴方が担当しているのね?」
「うん、調査チームに入ってる。一番下っ端だけど」
「じゃあ、これからお返ししに行くから、貴方がついて来て」
キャスリーンは自分の住まいへ向かって歩き出す。彼女は歩きながら今後の計画を話した。あの日、書斎に入ったキャスリーンは例の日記に興味を持ち……その辺を行き来している使用人に借りても良いかを訊ねた。そして持ち帰ったのだと、伯爵に説明するつもりらしい。
「あの夜は大勢の使用人がいたから……たぶん、伯爵までの伝達が上手くいかなかった。そういうことにするわ」
「……それで伯爵が納得してくれたら、ぼくからは何も言わないよ。報告書を纏めて上に提出するだけだ」
「ええ、そうしてもらえると助かるわ」
家に着くと、キャスリーンはグレンを待たせ、家の中へ入っていった。しばらくすると、彼女は先ほどとは別の服を纏って家から出てきた。夜会に出るような洒落たドレスではないが、ちょっと落ち着いた雰囲気の外出用のドレスだった。伯爵家に向かうのだから、相応しいものに着替えたのだろう。そして腕には包みを抱えていた。
もう一度大通りへ戻り、グレンはそこで辻馬車をつかまえた。二人は馬車に乗り込み、ブライス伯爵邸へと向かったのだった。
紛失したはずの日記が持ち込まれて伯爵は驚いていたが、キャスリーンの説明で納得したようだった。なんでも、あの夜は屋敷にいる使用人だけでは人手が足りず、臨時でも雇っていたらしい。屋敷の勝手がよく分からない者もいたから、それでキャスリーンの申し出は上手く伝わらなかったのだろうと彼も言った。
帰り際に伯爵の娘であるリフィアがやって来て、今日こそは一緒に夕食を、とグレンを誘った。グレンはキャスリーンを家まで送った後、騎士団の詰所へ行って報告書を作らなくてはならない。そう言ってリフィアの申し出を断ったのだが──気が進まなかったのは本当のことだし、仕事が詰まっているのも本当のことだった──グレンが断った途端、彼女はものすごい目でキャスリーンを睨んでいた。
リフィアの誘いに乗るつもりはないし、キャスリーンを家まで送るのは当たり前のことである。ちょっと気を重くしながら帰りの馬車に乗り込んだが、ふと考えた。
もしもヒューイが恋愛結婚ではなく、冷静な「家と家の結婚」をしていたら。彼はブライス伯爵家との繋がりを重要視して、グレンに「リフィアとの交際も考えてみたらどうだ」と助言していたのではないだろうか。
馬車が動き出して、グレンは遠ざかっていくブライス邸を窓から覗いた。
かつてのヒューイは「自分はバークレイ家のために良い家柄の娘と結婚する、そしてこの国でのし上がっていく」と目標を立てていた。彼がそうしていたら、きっと、グレンもヒューイに倣っていただろう。けれどもヒューイは……。
ヒューイはもう、グレンの道標ではない。
では自分はこれからどうする。ヒューイの元を逃げるようにして去り、ルルザにやって来たは良いが、グレンの思い出の家はメイトランド姉弟のものになっていた。当面の目標も見つからない。
「……。」
気持ちがどんどん沈み始めたところで、馬車が止まった。キャスリーンの家についたのだ。
馬車を下りると、今日の仕事を終えたらしいアンドリューが先に帰宅しており、キャスリーンを出迎えた。
「アンドリュー。もう仕事終わったの? 今日は早かったのね」
「うん。姉さんこそ、グレン様とどこに行ってたの」
「ああ。ええと……それがね……色々あったのよ。どこから話したらいいのかしら」
彼女は言いよどんだ。仕事を失ったこと。先祖の日記を手放してしまったこと。今日のキャスリーンはまったくついていない。さすがに気の毒になってきた。
しかし、キャスリーンは弟の手を取って、ちょっと嬉しそうに言った。
「悪いこともあったんだけど……でもね。あんたのアレ! さっそく伯爵家にお返ししてきたわ」
「ええっ? 返してきたって……」
「そうなの。無くなったって騒ぎになっちゃったみたいで。グレン様が教えてくれたのよ。それでたった今、お返ししてきたところ!」
「それで? 伯爵の反応は?」
「絶対にばれてないわ。完璧よ」
彼らはいったい何の話をしているのだろうと不思議に思っていると、キャスリーンはグレンを振り返り、弟にそっくりな顔で笑って見せた。二人が手招きするので、グレンはそのまま家の中へ向かう。
先日夕食をごちそうになったテーブルに着くと、アンドリューが何かを持って来てグレンの前に置いた。
それは、先ほど伯爵に返したはずの日記であった。
「えっ……?」
常に冷静でいるように心がけてはいるが、これはさすがに混乱する。伯爵に返したはずの日記がここにある……キャスリーンはいったい何をしたのだろう、と。
グレンは日記を手に取り、ページを捲ってみた。さっきブライス伯爵が日記を確認した時、グレンも立ち会っていて、ざっとではあるが中身を目にしている。そしてグレンはざっと見ただけでもかなり細かな内容を記憶することが出来た。
今手元にある日記も、グレンの目には伯爵に返したものと全く同じものに見えた。筆跡も、紙やインクの劣化具合も、古くなった革表紙の手触りも。
「これは……いったい……?」
「こっちが本物。伯爵様に返したものは、アンドリューが作った複製品よ」
キャスリーンの言葉に、グレンはページを捲る手を止めた。それからアンドリューの部屋の様子を思い浮かべた。大きな作業台に、あらゆる種類の紙とインク……彼は両親が生きていた頃は美術学校に通っていたとも言っていた。アンドリューは日記の複製を行っていたのだ。
「複製……つまり、偽物を伯爵に返したってこと?」
「んんー……まあ、そうとも言うわね」
そうとしか言わないと思うのだが。
グレンは再びページを捲る作業に戻る。それにしても驚きだ。グレンの目には、先ほど伯爵邸で確認したのとまったく同じものにしか見えない。出来れば二つの日記を並べて比較してみたいくらいだ。
ただ、引っかかることがある。
「こんなにそっくりなものが作れるなら……本物を伯爵に返したって良かったんじゃないの」
以前キャスリーンは「借りるのではだめ、取り戻したいのだ」と言っていたが……こんなものを作れるのならば、自分たちが「複製品」を持っておけばよい。そして伯爵に本物を返してしまえば……さきほどの一件落着はほぼ真実となっていたのだ。
それが、伯爵に返したのは偽物だったとなれば、キャスリーンが泥棒をしたことには変わりないではないか。この先もしも伯爵が「日記が入れ替わっている」などと気づくことがあれば、そして聖騎士団が動くようなことがあれば、グレンはまた良心の呵責に苦しむことになるではないか。
するとアンドリューが胸を張って言う。
「大丈夫だよ。絶対にばれない。俺の自信作だからね」
「自信作って……」
「俺、美術学校に通ってた頃、先生に言われたんだ。『創造』のセンスがないって。でも……」
アンドリューの模写や複製の才能は、誰よりも抜きんでていたようだった。手本さえあれば、絵でも彫刻でも素人目には判断のつかない複製品を作ることができたのだ。
ブライス伯爵邸でパーティーが開かれた夜にキャスリーンが日記を拝借し、今回のような場合に備えてアンドリューは偽物を作ってあった。そういうことらしい。
「それに、私たちには『写し』ではなくて、『本物』を持っておきたい理由があるの」
「理由……?」
「ええ。念のため」
「念のため……?」
どうやらキャスリーンにはまだまだ秘密があるようだ。
知っておきたい気もするが、聞いた後で「聞かなきゃよかった」と後悔する羽目に陥りはしないだろうか。例えば、伯爵に返した日記が偽物だと分かった今みたいに。
聞くべきかこのまま帰るべきか迷っていると、
「グレン様!」
キャスリーンが声を張り上げた。
「さっき、自分に出来ることはないかって、言ってくれたでしょう?」
「え? う、うん」
なんだか嫌な予感がした。
このまま逃げ帰りたい気もしたが、自分の身元は知れてしまっている。それに、キャスリーンの解雇について責任を感じているのも本当のことだ。
「ルルザ聖騎士団の団員なら、夜会に招待されることがたくさんあるんでしょう?」
「全部出席するとは限らないけど……たぶん」
「そこでお願いがあるのよ!」
キャスリーンは身を乗り出した。
「ブライス伯爵邸で君がやったみたいに、日記を盗めって言うんだろう。それはさすがにできないよ」
「違うわ。パーティーに、私を一緒に連れて行ってほしいの!」
「……パーティーに?」
「ええ」
キャスリーンが頷き、弟を見る。アンドリューは懐から折りたたんだ紙を取り出し、姉に差し出した。キャスリーンはそれをテーブルの上で広げ、グレンに中身が見えるようにする。
そこには、二十数人ほどの名前が記してあった。中にはグレンの知っている貴族の名前もある。それから「スミッソン」という名前の上には棒線が引かれていた。さらに「ブライス伯爵」の名前の脇には二重丸が書き込まれている。
「これは……?」
「この人たちは、古い書物や日記の蒐集家だという話なの。だから、もしかしたら私たちの曾祖母の日記を持っているかもしれない」
「つまり、この紙に書かれた名前の人たちの家を、君は調べたい訳か」
「ええ。叔父は細々と投資家をやっているけれど……貴族のパーティーに呼ばれる機会は滅多にないの。でも、ルルザ聖騎士団のグレン様なら、たくさん招待を受けるんでしょう!?」
「う。う、ん……」
グレンはちょっと言葉に詰まる。
彼女はグレンに盗みを働けと言っている訳ではない。お目当ての日記を持っているかもしれない人物の屋敷に連れて行けと言っているのだ。当人がパーティーを計画しないことにはどうにもならないが。
リストの名前をもう一度よく見てみると、現時点ではこの中の数人からグレンは招待状を受け取っている。
「君は……結局はぼくに盗みの片棒を担がせたいわけだ」
「まあ! 盗むなんてとんでもないわ! えーと、拝借はするかも、しれないけど……」
そして拝借した後は念のために贋作も用意しておくのだろう。
キャスリーンの解雇劇に責任を感じてはいるが、さすがにそれは騎士としてどうなのだろう。当面の生活費を請求されていた方がまだ良かった気がする。
グレンが気の進まぬ素振りを見せると、キャスリーンはテーブルの向かい側からさらに身を乗り出してきて、グレンの手を掴んだ。
「グレン様、お願いします! ぬす……拝借するとも限らないわ! そのお宅に『無い』と分かれば、私にとってはそれだけで収穫になるんだもの!」
「え。あ、ああ……」
手を掴まれたことよりも、キャスリーンの胸のボリュームに動揺していた。腋を締めたことでぎゅっと押し出されてますます盛り上がっている。自分は大きな胸の女にこだわりがある訳ではないのに、どうしても目が吸い寄せられるのだ。
「『無い』って分かったら、それでいいの! グレン様、お願い!」
「ちょ、ちょっと、待ってよ」
「ほら、アンドリュー。あんたからもお願いして!」
「ね、姉さん。あんまり無理言っちゃだめだよ。グレン様にも立場ってものがあるんだし。ブライス伯爵の件に協力してもらっただけでも、良しと思わなきゃ」
「ええー!」
最初の盗みについて黙っていただけで、偽物を返却したことについては後になって知らされたのだ。ブライス伯爵の件に協力したつもりはないのだが。
「弟さんの言うとおり、これ以上協力したり口を噤んでいたりするのは難しいよ」
グレンはそう言って椅子から立ち上がった。
しかし、
「待って、待って! 日記が揃ったら、私たちこの家を引き払うつもりなの!」
キャスリーンの言葉に、椅子に座り直す羽目になった。
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