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【番外編】媚薬騒動
グレンを起こす方法
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ある冬の日。
窓の外では雪が積もっているが、天気は回復して午後の陽光が差し込んでいる。ソファで座っているグレンが、読みかけの本を開いたままうつらうつらしていた。洗い物をしていたシリルはそんな光景を見て幸せだな、と思う。
「なにか羽織らないと風邪引くよ、グレン」
そう言って、近くにあったセーターを掛けてやろうとして、完全に寝落ちたことに気付いた。気持ち良さそうな寝息を立て、目の前にいるシリルにも気付かない。
「仕方ないなぁ……」
そのとき、日光を燦々と浴びている白い毛が、銀色に光っているように見えた。
グレンは雪豹だから、日にあたると綺麗なんだよね。光を弾いて、輝いている……。猫は日光浴でビタミンの吸収率を上げて骨や筋肉を強くするっていうから、猫科の獣人も必要なのかな。
それにしても、フワフワの獣毛は誘惑だ。キラキラと光を放ち、ときどき動くたびに靡くさまは誘っているようだ。特に首のあたり、服からはみ出した獣毛を見ているとさわりたくなってしまう。
「ちょっとだけ、グレンが気付かないあいだにやめるから……」
隣に座りそうっと手を伸ばし、顎のモフモフしたところをさわってみた。
「柔らかい……。気持ちいい」
布地でいうと絹だろうか、滑らかでほどよくあったかい。手の感触にうっとりしていると、グレンの喉音がグルル……と鳴り出した。
撫でられている側も心地良いんだ。よし、じゃあ猫みたいだけど顎を撫でていこう……!
シリルが撫でると、グレンがゴロゴロといいながら顎を擦りつけてくる。そうやってグルーミングを続けているうちに腕がだるくなってきた。
「疲れてきちゃった。ごめんねグレン、もう終わり。お茶でも入れようっと」
席を立つと同時に、ゴロゴロ音が消えた。まさか……、とソファを見ると、雪豹の夫があくびをしている。
「なんだ、もう終わりか。気持ちよかったのにな」
悪びれる風でもなく、手で顔を毛繕いしている。
「え……。グレン、もしかして起きてた?」
いやな汗が出てくる。麗しい獣毛目当てで撫でていたと分かったら、獣人のプライドが許さないのではないだろうか。
「ご、ごめんね、寝てるあいだにさわっちゃって。……怒った?」
おそるおそる振り向くと、グレンがふっと微笑んだ。
「夢を見ていた。日だまりで寝ていたら、お前が来てブラシを掛けてくれる夢だった。顎を中心に擦ってくれるから、ブラシに負けないように押しつけたんだが、途中から目が覚めた。ブラシだと思っていたのはお前の手で、温かくて気持ちよかったからやめられなかった」
寝惚けてたのか、と思うと同時に、顎をグイグイ押しつけてきたのは気持ちよかったんだ、と安堵した。たしかに、鳴っていたのはご機嫌な喉音だった。
「お、怒ってない?」
「こんなふうに起こされるのは嬉しい。……今度またやってくれ」
そう言った後、髭まで整えはじめたのを見て、グレンが照れているのだと理解した。陽の光に照らされた夫が銀色に光っている。幸せを描くとしたら今の状況だ。
「うん、また寝てたらやってあげる。グレン、大好きだよ」
窓の外では雪が積もっているが、天気は回復して午後の陽光が差し込んでいる。ソファで座っているグレンが、読みかけの本を開いたままうつらうつらしていた。洗い物をしていたシリルはそんな光景を見て幸せだな、と思う。
「なにか羽織らないと風邪引くよ、グレン」
そう言って、近くにあったセーターを掛けてやろうとして、完全に寝落ちたことに気付いた。気持ち良さそうな寝息を立て、目の前にいるシリルにも気付かない。
「仕方ないなぁ……」
そのとき、日光を燦々と浴びている白い毛が、銀色に光っているように見えた。
グレンは雪豹だから、日にあたると綺麗なんだよね。光を弾いて、輝いている……。猫は日光浴でビタミンの吸収率を上げて骨や筋肉を強くするっていうから、猫科の獣人も必要なのかな。
それにしても、フワフワの獣毛は誘惑だ。キラキラと光を放ち、ときどき動くたびに靡くさまは誘っているようだ。特に首のあたり、服からはみ出した獣毛を見ているとさわりたくなってしまう。
「ちょっとだけ、グレンが気付かないあいだにやめるから……」
隣に座りそうっと手を伸ばし、顎のモフモフしたところをさわってみた。
「柔らかい……。気持ちいい」
布地でいうと絹だろうか、滑らかでほどよくあったかい。手の感触にうっとりしていると、グレンの喉音がグルル……と鳴り出した。
撫でられている側も心地良いんだ。よし、じゃあ猫みたいだけど顎を撫でていこう……!
シリルが撫でると、グレンがゴロゴロといいながら顎を擦りつけてくる。そうやってグルーミングを続けているうちに腕がだるくなってきた。
「疲れてきちゃった。ごめんねグレン、もう終わり。お茶でも入れようっと」
席を立つと同時に、ゴロゴロ音が消えた。まさか……、とソファを見ると、雪豹の夫があくびをしている。
「なんだ、もう終わりか。気持ちよかったのにな」
悪びれる風でもなく、手で顔を毛繕いしている。
「え……。グレン、もしかして起きてた?」
いやな汗が出てくる。麗しい獣毛目当てで撫でていたと分かったら、獣人のプライドが許さないのではないだろうか。
「ご、ごめんね、寝てるあいだにさわっちゃって。……怒った?」
おそるおそる振り向くと、グレンがふっと微笑んだ。
「夢を見ていた。日だまりで寝ていたら、お前が来てブラシを掛けてくれる夢だった。顎を中心に擦ってくれるから、ブラシに負けないように押しつけたんだが、途中から目が覚めた。ブラシだと思っていたのはお前の手で、温かくて気持ちよかったからやめられなかった」
寝惚けてたのか、と思うと同時に、顎をグイグイ押しつけてきたのは気持ちよかったんだ、と安堵した。たしかに、鳴っていたのはご機嫌な喉音だった。
「お、怒ってない?」
「こんなふうに起こされるのは嬉しい。……今度またやってくれ」
そう言った後、髭まで整えはじめたのを見て、グレンが照れているのだと理解した。陽の光に照らされた夫が銀色に光っている。幸せを描くとしたら今の状況だ。
「うん、また寝てたらやってあげる。グレン、大好きだよ」
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