6 / 31
親に言えないこと※
しおりを挟む
三か月に一度の発情期を迎えるたびに、シリルは抑制剤を飲むようになった。これでフェロモンが外に洩れるのは抑えられるが、熱やだるさなどは緩和されず、抑制剤とは別に痛み止めや熱冷ましなどを飲まねばならない。特にひどい二日目までは、グレンに頼んで職場に連絡してもらい欠席にしてもらった。ほぼ同じ頃、グレンも食後に薬を服用しはじめた。黒豹の母に尋ねると「成長時によくある貧血で、血を増やすために増血剤を飲んでるのよ」と説明された。
そういえば、グレンはここ数か月でひときわ大きくなった気がする。背丈は母親の黒豹を抜いて、シリルより頭三つ分は大きいし、時々家の鴨居に頭をぶつけている。領主様の館でも、彼より大きく思えるのは領主側近のアルファ数人くらいだ。
「僕の背はもう伸びないのかなぁ」
グレンと並ぶと、まるで子供のような自分を鏡でひとしきり観察すると、寝台に転がりグレンに描いてもらった絵を眺める。父母が仲睦まじく笑っている、一番最初に描いてくれたものだ。
「僕はオメガだったよ、お母さん……」
母が生きていれば、黒豹の母と同じように励ましてくれただろうか。それとも嘆き悲しんだろうか。ため息をついたとき、シリルは体の異変に気が付いた。急に体が熱くなり、喉が渇き始めたのだ。―――この症状には覚えがある。
(……発情期! どうして、先月来たばかりなのに)
体の奥が疼きだして、尻からなにかヌルリとしたものが溢れてくる。気が付いた時には下着が濡れていた。慌てて新しいものに替えるとき、自分の粘液から発する果実のような甘い匂いで咽せそうになった。
「ゲホッ……」
咳をしてやり過ごすうちに、頭がいやらしいことで一杯になってゆく。セックスの知識は本で読んだり、聞きかじったことしかないのに、今すぐにそれをしたいという欲求に支配されたのだ。
(おかしい、なにか変だ。まるで欲求不満みたいに尻が寂しい。ここに長いなにかを挿れてしまいたくなる。……どうしたんだ、僕!)
「はっ……はぁっ」
たまらなくなってシャツの胸元を握り締める。オメガ性が出てくるまで、シリルには男性としての欲求しかなかった。だとすれば、これはオメガ特有の発情期によるものだろう。苦しい、汗が噴き出る、熱のせいで頭が朦朧とする。はぁはぁと口で呼吸をしながら、シリルはどうすればこの危機を乗り越えられるか考えた。
(そうだ、この部屋には僕しかいない。僕がなにをしても、皆に知られることはないんだ)
そう気付いたあとの行動は早かった。万が一扉を開けられた時の予防策として上掛けをかぶり、ズボンを下ろす。すでに勃ちあがった性器を擦り、同時にぬるぬるとした後孔に指を入れた。
「ん……っ」
指をやみくもに動かしていると、体がしなるほど気持のよい場所にあたった。そこを重点的に弄ると、性器もいっそう硬く大きくなる。だがしばらくして、尻の奥底がきゅうんと鳴くように締まった。これは切ないという疼きではないだろうか。こんな奥にシリルの指なんて届かない。もっと長い指でなければ。
(そうだ。グレンくらいの指なら……)
何度も指を行き来させ、口から唾液をこぼしてだれかに犯されることを想像する。きっと今、シリルは発情期でまともな思考が出来ていない。発情の波に飲まれてしまっている。その時。
「シリル、研究室長に頼まれてた絵を持って来たんだが……」
ノックもなしに、グレンが部屋に入って来た。スケッチブックを手に持っているところから見て、おそらく仕事絡みの雑用を頼みにきたのだろう。
「……っ、この匂い。お前、発情期か」
グレンが踵を返す。
「待って!」
スケッチブックを机に置き、すぐにでも立ち去ろうとする尻尾をぎゅっと掴む。
「尻尾はよせ」と睨まれたが、今は緊急事態だ。許してもらうしかない。
「ごめん。だって、こうでもしないとグレンが出て行っちゃうから。……僕がなにしてたか、分かるでしょう? グレンに手伝って欲しいんだ」
「手伝う? 自慰はひとりでするものだろう」
グレンが後退るが、シリルの体はベータの雄に反応したようで、またジュッと尻からなにかが流れ出る感触がした。
「……っ!」
気持ち悪い、また下着を替えねばならない。ぎゅっと目を瞑ると、幼なじみが心配そうに額に手をあててくれる。
「大丈夫か? ……熱が出てるな。氷嚢を持ってこよう」
グレンは発情期を単なる風邪かなにかのように思っているのだ。そんな簡単なものではない、熱っぽくて息が苦しくて、何より色欲に溺れそうだ。
(……まただ。また、お尻の奥がきゅうって締まった)
切なくて苦しい。この濡れた隘路に、なにかを突き立てたい衝動に駆られる。
「グレン……、苦しい」
柔らかな獣毛に覆われた手を取り、自分の置かれた窮状を分かりやすく口に出す。きっと今、シリルの瞳は熱で潤んでいる。
「今日の発情が来てから、自分が自分じゃないみたいなんだ。まるで雌猫になったみたいな気がする。だれでもいいから、お尻になにかを入れてほしいんだ」
「シリル」
ぎょっとしたようなグレンの顔が見える。単なる幼なじみにこんなことを言われたら当然だろう。
グレンは「ウウ……ッ」と唸ると、荒い呼吸のあとに枕に噛みついた。中に入っていた羽毛がバサバサと舞う中呆然としていると、鼻に皺を寄せたグレンと目が合った。
「シリル、お前は発情期でおかしくなってるんだ。軽はずみに子供を作ると、きっと後悔する。オメガの男が尻になにかを入れるというのはそういうことだ」
「でも、このまま耐えろっていうの? 薬だけじゃ抑えられない。長ければなんでもいいんだ、棒でも、指でも」
心からの声だった。この際無機物でもいい。疼く体を今すぐ鎮めてもらえるなら。
「指でいいんだな?」
そう囁いたかと思うと上掛けを剥がされ、尻があらわになった。カッと頬が熱くなる。だが羞恥よりも、グレンの指が押し入ってくる圧迫感のよさのほうが勝った。散々自分で弄った入口付近を過ぎ、シリルの届かなかった奥へと獣毛を纏った指に侵入される。狭隘な内壁にぴったりと沿う感触がたまらない。その長い指を、シリルでは届かなかった奥へと進めてほしい。
「もっと奥、奥がいい……」
目の前がぼんやりと揺らいでくる。もはやシリルは完全に発情に取り込まれてしまった。耳のどこかで「……くそっ!」というグレンの舌打ちが聞こえると同時に、意識を失った。
再び目を覚ましたときには、グレンはいなかった。いつもの抑制剤を飲むと、体の疼きは少しましになった。落ち着くと、なんてことを頼んだのだろう、と顔から血の気が引いて赤くなった。翌朝、グレンに会うと気まずそうに顔を逸らされ、なにも言うことが出来なかった。
「どうしたの? あなたたち」と黒豹の母に尋ねられたが、「なにもないです」と誤魔化すしかなかった。生まれて初めて、親に言えないことが出来てしまった。
そういえば、グレンはここ数か月でひときわ大きくなった気がする。背丈は母親の黒豹を抜いて、シリルより頭三つ分は大きいし、時々家の鴨居に頭をぶつけている。領主様の館でも、彼より大きく思えるのは領主側近のアルファ数人くらいだ。
「僕の背はもう伸びないのかなぁ」
グレンと並ぶと、まるで子供のような自分を鏡でひとしきり観察すると、寝台に転がりグレンに描いてもらった絵を眺める。父母が仲睦まじく笑っている、一番最初に描いてくれたものだ。
「僕はオメガだったよ、お母さん……」
母が生きていれば、黒豹の母と同じように励ましてくれただろうか。それとも嘆き悲しんだろうか。ため息をついたとき、シリルは体の異変に気が付いた。急に体が熱くなり、喉が渇き始めたのだ。―――この症状には覚えがある。
(……発情期! どうして、先月来たばかりなのに)
体の奥が疼きだして、尻からなにかヌルリとしたものが溢れてくる。気が付いた時には下着が濡れていた。慌てて新しいものに替えるとき、自分の粘液から発する果実のような甘い匂いで咽せそうになった。
「ゲホッ……」
咳をしてやり過ごすうちに、頭がいやらしいことで一杯になってゆく。セックスの知識は本で読んだり、聞きかじったことしかないのに、今すぐにそれをしたいという欲求に支配されたのだ。
(おかしい、なにか変だ。まるで欲求不満みたいに尻が寂しい。ここに長いなにかを挿れてしまいたくなる。……どうしたんだ、僕!)
「はっ……はぁっ」
たまらなくなってシャツの胸元を握り締める。オメガ性が出てくるまで、シリルには男性としての欲求しかなかった。だとすれば、これはオメガ特有の発情期によるものだろう。苦しい、汗が噴き出る、熱のせいで頭が朦朧とする。はぁはぁと口で呼吸をしながら、シリルはどうすればこの危機を乗り越えられるか考えた。
(そうだ、この部屋には僕しかいない。僕がなにをしても、皆に知られることはないんだ)
そう気付いたあとの行動は早かった。万が一扉を開けられた時の予防策として上掛けをかぶり、ズボンを下ろす。すでに勃ちあがった性器を擦り、同時にぬるぬるとした後孔に指を入れた。
「ん……っ」
指をやみくもに動かしていると、体がしなるほど気持のよい場所にあたった。そこを重点的に弄ると、性器もいっそう硬く大きくなる。だがしばらくして、尻の奥底がきゅうんと鳴くように締まった。これは切ないという疼きではないだろうか。こんな奥にシリルの指なんて届かない。もっと長い指でなければ。
(そうだ。グレンくらいの指なら……)
何度も指を行き来させ、口から唾液をこぼしてだれかに犯されることを想像する。きっと今、シリルは発情期でまともな思考が出来ていない。発情の波に飲まれてしまっている。その時。
「シリル、研究室長に頼まれてた絵を持って来たんだが……」
ノックもなしに、グレンが部屋に入って来た。スケッチブックを手に持っているところから見て、おそらく仕事絡みの雑用を頼みにきたのだろう。
「……っ、この匂い。お前、発情期か」
グレンが踵を返す。
「待って!」
スケッチブックを机に置き、すぐにでも立ち去ろうとする尻尾をぎゅっと掴む。
「尻尾はよせ」と睨まれたが、今は緊急事態だ。許してもらうしかない。
「ごめん。だって、こうでもしないとグレンが出て行っちゃうから。……僕がなにしてたか、分かるでしょう? グレンに手伝って欲しいんだ」
「手伝う? 自慰はひとりでするものだろう」
グレンが後退るが、シリルの体はベータの雄に反応したようで、またジュッと尻からなにかが流れ出る感触がした。
「……っ!」
気持ち悪い、また下着を替えねばならない。ぎゅっと目を瞑ると、幼なじみが心配そうに額に手をあててくれる。
「大丈夫か? ……熱が出てるな。氷嚢を持ってこよう」
グレンは発情期を単なる風邪かなにかのように思っているのだ。そんな簡単なものではない、熱っぽくて息が苦しくて、何より色欲に溺れそうだ。
(……まただ。また、お尻の奥がきゅうって締まった)
切なくて苦しい。この濡れた隘路に、なにかを突き立てたい衝動に駆られる。
「グレン……、苦しい」
柔らかな獣毛に覆われた手を取り、自分の置かれた窮状を分かりやすく口に出す。きっと今、シリルの瞳は熱で潤んでいる。
「今日の発情が来てから、自分が自分じゃないみたいなんだ。まるで雌猫になったみたいな気がする。だれでもいいから、お尻になにかを入れてほしいんだ」
「シリル」
ぎょっとしたようなグレンの顔が見える。単なる幼なじみにこんなことを言われたら当然だろう。
グレンは「ウウ……ッ」と唸ると、荒い呼吸のあとに枕に噛みついた。中に入っていた羽毛がバサバサと舞う中呆然としていると、鼻に皺を寄せたグレンと目が合った。
「シリル、お前は発情期でおかしくなってるんだ。軽はずみに子供を作ると、きっと後悔する。オメガの男が尻になにかを入れるというのはそういうことだ」
「でも、このまま耐えろっていうの? 薬だけじゃ抑えられない。長ければなんでもいいんだ、棒でも、指でも」
心からの声だった。この際無機物でもいい。疼く体を今すぐ鎮めてもらえるなら。
「指でいいんだな?」
そう囁いたかと思うと上掛けを剥がされ、尻があらわになった。カッと頬が熱くなる。だが羞恥よりも、グレンの指が押し入ってくる圧迫感のよさのほうが勝った。散々自分で弄った入口付近を過ぎ、シリルの届かなかった奥へと獣毛を纏った指に侵入される。狭隘な内壁にぴったりと沿う感触がたまらない。その長い指を、シリルでは届かなかった奥へと進めてほしい。
「もっと奥、奥がいい……」
目の前がぼんやりと揺らいでくる。もはやシリルは完全に発情に取り込まれてしまった。耳のどこかで「……くそっ!」というグレンの舌打ちが聞こえると同時に、意識を失った。
再び目を覚ましたときには、グレンはいなかった。いつもの抑制剤を飲むと、体の疼きは少しましになった。落ち着くと、なんてことを頼んだのだろう、と顔から血の気が引いて赤くなった。翌朝、グレンに会うと気まずそうに顔を逸らされ、なにも言うことが出来なかった。
「どうしたの? あなたたち」と黒豹の母に尋ねられたが、「なにもないです」と誤魔化すしかなかった。生まれて初めて、親に言えないことが出来てしまった。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
番犬αは決して噛まない。
切羽未依
BL
血筋の良いΩが、つまらぬαに番われることのないように護衛するαたち。αでありながら、Ωに仕える彼らは「番犬」と呼ばれた。
自分を救ってくれたΩに従順に仕えるα。Ωの弟に翻弄されるαの兄。美しく聡明なΩと鋭い牙を隠したα。
全三話ですが、それぞれ一話で完結しているので、登場人物紹介と各一話だけ読んでいただいても、だいじょうぶです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる