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本編
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するとまた誰かがやってきたらしい。
カインは既に会場にいたので、俺が関心を向けるような人物はもういないのだが、会場がやけにざわつくので気になってしまう。
俺が入ってきた時より大きな嘲笑が聞こえ、気分が悪くなる。
一体何なのだろうとそちらを見ると、驚いたことにその中心にいたのはレイとホイットリー侯爵だった。
「何で2人が…?」
「あーそういえば結局テイトは詳細は知らないんだったか。新聞で見ただろう?侯爵の新しい後妻さ」
「レイが後妻?何でそんなことに…」
俺が疑問をそのまま口にするとヘンリーはなんとも言えないような表情で教えてくれた。
「まあ、君を大好きな誰かさんが手を回したんだろうね」
「それって…」
そういえばザックが何か報告したいことがあると言っていたのを思い出す。まさかそれがこのことだろうか。
「まあテイトは気にしなくて良いよ。何度も嫌な思いをさせられてきたんだろう?」
「それはそうだけど…」
俺は釈然としないままその2人を見ていたが、タイミング悪く顔を上げたレイと目が合ってしまった。彼の瞳は憎悪に満ちていて、俺を睨みつけたかと思うと侯爵の手を振り解いてこちらへやってきた。
「お前…隣のやつは誰なんだ!お前のせいで僕はこんなことになったっていうのに…!」
「は…?お前の今の状況と俺は関係ないだろ」
正確にはザックが手を回したのであれば多少関与はしているのかもしれない。だが、俺がそうしてくれと頼んだわけではない。
もちろん、レイにとってはそんな事実はどうでもいいようだが…
「お前が大人しく侯爵の後妻になってればこんなことにはならなかったんだ!」
「俺が後妻にならなかったことが、お前と侯爵の婚約に繋がる訳じゃないだろ。人のせいにするのも大概にしろ」
俺の言葉にレイはグッと唇を噛み締めた。
「ふん、どうだか…それによくもまあそんな体で新しい婚約者を見つけられたものだね。一体どんな手を使ったのか聞いてみたいよ」
俺の方に正当性があると理解したのか、今度はヘンリーとの関係を突いてきた。
嘲笑と羨望が混じったような表情でそう吐き捨てたレイに、先ほどほんの少し気の毒だと思った感情はなりを潜め、面倒くささが勝る。
「婚約者ではない。だがテイトは婚約者にと望みたくなるほどいいやつさ」
返す言葉に迷っていた俺をそっと制止して、ヘンリーが背に庇ってくれた。
「はっ、あなたは容姿にも恵まれているというのに見る目がないのですね。どこの家の方ですか?きっと教養がないのでしょう」
国教のことを重視していないヘンリーの発言にレイが食ってかかる。
「失礼なことを言うな。彼は国外の貴族だ」
海外の貴族だと言う言葉に一瞬顔を青くしたレイだが、「どうせ子爵家程度だろ」とボソッと呟いたかと思うと元の調子に戻った。
「それは失礼を…ですが知っておいた方がいいと思いますよ。彼になんと言われてエスコートを引き受けたのかはわかりませんが、彼の体は罪人の証なのですから」
レイは一見丁寧にヘンリーに接し、侮蔑のこもった瞳で俺を一瞥した。
「勘違いされているようだがエスコートを申し出たのは私だ。それに私の国ではそうは捉えないから問題ない」
あくまで笑顔で応えたヘンリーだが、その顔には青筋が浮かんでいた。そろそろ止めないとまずい、そう思っていたら後ろから馴染みのある声がした。
「人だかりができていると思ったら、一体何をしているんだい?」
「カイン!」
俺とヘンリーが呼ぶよりも早くレイが反応する。
俺たちへの態度とは打って変わって親しみを込めた態度だ。
よくこんな短時間でころころ変えられるものだと感心してしまう。
「ああ、レイか。久しぶり」
彼の熱のこもった視線に対し、カインは冷ややかだった。
「カイン…!僕は君とずっと話がしたかったんだ。どうか僕を助けて…!」
そう言ってレイはカインに縋り付く。
俺たちはあまりにも清々しく無視されてどうしたものかと顔を見合わせた。
「助ける?僕が?」
「そう、僕は借金まみれの侯爵と婚約なんかしたくない!カインならきっと助けてくれるって…」
「どうして?」
「え?どうしてって…僕たちは幼い頃からの親友でしょう?君が僕と婚約してくれれば侯爵との婚約を破棄できるはずだ!」
レイの切実そうな訴えを聞いてもカインの態度は先ほどから変わらない。
いっそ先ほどより室内の温度が下がったかと思うほど冷ややかだ。
「僕の大切な人を傷つける人を親友とは呼べない。それに、君との婚約なんてごめんだよ」
「か、カイン…?」
「ああ、でも幼馴染なのは確かだね。そうだ。借金まみれで大変なら、昔君が僕に贈ってくれた誕生日プレゼントを返すよ。一度も着ていないから高い値段で売れるはずだ」
淡々と述べるカインにレイの表情はどんどん青くなっていく。
「ど、どうしてそんなこと言うの?僕たちは確かに親友だったのに、カインには僕を助ける力があるのに…!」
「それがわからないなら、やっぱり親友ではないよ」
泣きそうな彼に対してもカインは辛辣に言葉を返した。
「テイトのせい?あいつが僕のことを悪く言ってるんだ!そうでしょう…!?」
悲痛なまでの叫びだが、カインはため息を吐くにとどめた。
「あの服は後日送るから。侯爵とお幸せに。ほら、テイト、ヘンリー行こう」
「ああ…」
「待って!!」
そうして俺たちを引っ張るようにその場を後にしようとしたカインだが、レイに泣き縋られてしまった。
すると、再びよく見知った声が響いた。
「皆さん、ごきげんよう。お二人とは先ほどぶりですね。こんな形で戻りたくはなかったのだが、見るに見かねたもので、割り込ませてもらうよ」
この騒ぎを見物していた人垣を抜けてやってきたのは他でもないザックだった。
「スコット伯爵子息。このように人を困らせるものではないでしょう?ほら、パートナーをお連れしました」
そう言って清々しい笑顔を浮かべたザックは、ホイットリー侯爵を輪の中に放り込んだ。
「全くヘンダーソン公爵に連れられて来てみれば、とんだ恥を晒しおって。私だってお前など好みではないが可愛がってやってるだろう」
侯爵はザックを苦い表情で盗み見た後、レイに視線を向けた。
「あ、あ…嫌だ。僕はあなたなんかと結婚しない!」
「もうお前の家と国王からも承認が出ていると言ううのに往生際の悪い。私だってお前のようなお子様だったらテイト・アーデンの方がよほど可愛がりがいがあったわ」
そう言って侯爵は気色悪い視線を俺に向けた。
その瞳を見ていると彼にエスコートされたあの日の出来事を思い出してしまう。
あの日の恐怖を思い出した俺は思わず顔を逸らして後ずさる。
するとザックが侯爵の耳元で小さく、だが力強く囁いた。
「まだ懲りていないようですね?私のテイトで想像することすら許しません」
その言葉を受けて侯爵は顔を青ざめさせた。
「あ…申し訳、ございません…」
すっかり萎縮した彼はボソボソと謝ったかと思うと、レイの方を睨んだ。
「ほら、さっさと行くぞ!お前のせいでさらに状況が悪化してしまっただろう!」
彼はそう言ってレイを引き摺るように去って行った。レイは最後までカインに縋りつことしていたが…
カインは既に会場にいたので、俺が関心を向けるような人物はもういないのだが、会場がやけにざわつくので気になってしまう。
俺が入ってきた時より大きな嘲笑が聞こえ、気分が悪くなる。
一体何なのだろうとそちらを見ると、驚いたことにその中心にいたのはレイとホイットリー侯爵だった。
「何で2人が…?」
「あーそういえば結局テイトは詳細は知らないんだったか。新聞で見ただろう?侯爵の新しい後妻さ」
「レイが後妻?何でそんなことに…」
俺が疑問をそのまま口にするとヘンリーはなんとも言えないような表情で教えてくれた。
「まあ、君を大好きな誰かさんが手を回したんだろうね」
「それって…」
そういえばザックが何か報告したいことがあると言っていたのを思い出す。まさかそれがこのことだろうか。
「まあテイトは気にしなくて良いよ。何度も嫌な思いをさせられてきたんだろう?」
「それはそうだけど…」
俺は釈然としないままその2人を見ていたが、タイミング悪く顔を上げたレイと目が合ってしまった。彼の瞳は憎悪に満ちていて、俺を睨みつけたかと思うと侯爵の手を振り解いてこちらへやってきた。
「お前…隣のやつは誰なんだ!お前のせいで僕はこんなことになったっていうのに…!」
「は…?お前の今の状況と俺は関係ないだろ」
正確にはザックが手を回したのであれば多少関与はしているのかもしれない。だが、俺がそうしてくれと頼んだわけではない。
もちろん、レイにとってはそんな事実はどうでもいいようだが…
「お前が大人しく侯爵の後妻になってればこんなことにはならなかったんだ!」
「俺が後妻にならなかったことが、お前と侯爵の婚約に繋がる訳じゃないだろ。人のせいにするのも大概にしろ」
俺の言葉にレイはグッと唇を噛み締めた。
「ふん、どうだか…それによくもまあそんな体で新しい婚約者を見つけられたものだね。一体どんな手を使ったのか聞いてみたいよ」
俺の方に正当性があると理解したのか、今度はヘンリーとの関係を突いてきた。
嘲笑と羨望が混じったような表情でそう吐き捨てたレイに、先ほどほんの少し気の毒だと思った感情はなりを潜め、面倒くささが勝る。
「婚約者ではない。だがテイトは婚約者にと望みたくなるほどいいやつさ」
返す言葉に迷っていた俺をそっと制止して、ヘンリーが背に庇ってくれた。
「はっ、あなたは容姿にも恵まれているというのに見る目がないのですね。どこの家の方ですか?きっと教養がないのでしょう」
国教のことを重視していないヘンリーの発言にレイが食ってかかる。
「失礼なことを言うな。彼は国外の貴族だ」
海外の貴族だと言う言葉に一瞬顔を青くしたレイだが、「どうせ子爵家程度だろ」とボソッと呟いたかと思うと元の調子に戻った。
「それは失礼を…ですが知っておいた方がいいと思いますよ。彼になんと言われてエスコートを引き受けたのかはわかりませんが、彼の体は罪人の証なのですから」
レイは一見丁寧にヘンリーに接し、侮蔑のこもった瞳で俺を一瞥した。
「勘違いされているようだがエスコートを申し出たのは私だ。それに私の国ではそうは捉えないから問題ない」
あくまで笑顔で応えたヘンリーだが、その顔には青筋が浮かんでいた。そろそろ止めないとまずい、そう思っていたら後ろから馴染みのある声がした。
「人だかりができていると思ったら、一体何をしているんだい?」
「カイン!」
俺とヘンリーが呼ぶよりも早くレイが反応する。
俺たちへの態度とは打って変わって親しみを込めた態度だ。
よくこんな短時間でころころ変えられるものだと感心してしまう。
「ああ、レイか。久しぶり」
彼の熱のこもった視線に対し、カインは冷ややかだった。
「カイン…!僕は君とずっと話がしたかったんだ。どうか僕を助けて…!」
そう言ってレイはカインに縋り付く。
俺たちはあまりにも清々しく無視されてどうしたものかと顔を見合わせた。
「助ける?僕が?」
「そう、僕は借金まみれの侯爵と婚約なんかしたくない!カインならきっと助けてくれるって…」
「どうして?」
「え?どうしてって…僕たちは幼い頃からの親友でしょう?君が僕と婚約してくれれば侯爵との婚約を破棄できるはずだ!」
レイの切実そうな訴えを聞いてもカインの態度は先ほどから変わらない。
いっそ先ほどより室内の温度が下がったかと思うほど冷ややかだ。
「僕の大切な人を傷つける人を親友とは呼べない。それに、君との婚約なんてごめんだよ」
「か、カイン…?」
「ああ、でも幼馴染なのは確かだね。そうだ。借金まみれで大変なら、昔君が僕に贈ってくれた誕生日プレゼントを返すよ。一度も着ていないから高い値段で売れるはずだ」
淡々と述べるカインにレイの表情はどんどん青くなっていく。
「ど、どうしてそんなこと言うの?僕たちは確かに親友だったのに、カインには僕を助ける力があるのに…!」
「それがわからないなら、やっぱり親友ではないよ」
泣きそうな彼に対してもカインは辛辣に言葉を返した。
「テイトのせい?あいつが僕のことを悪く言ってるんだ!そうでしょう…!?」
悲痛なまでの叫びだが、カインはため息を吐くにとどめた。
「あの服は後日送るから。侯爵とお幸せに。ほら、テイト、ヘンリー行こう」
「ああ…」
「待って!!」
そうして俺たちを引っ張るようにその場を後にしようとしたカインだが、レイに泣き縋られてしまった。
すると、再びよく見知った声が響いた。
「皆さん、ごきげんよう。お二人とは先ほどぶりですね。こんな形で戻りたくはなかったのだが、見るに見かねたもので、割り込ませてもらうよ」
この騒ぎを見物していた人垣を抜けてやってきたのは他でもないザックだった。
「スコット伯爵子息。このように人を困らせるものではないでしょう?ほら、パートナーをお連れしました」
そう言って清々しい笑顔を浮かべたザックは、ホイットリー侯爵を輪の中に放り込んだ。
「全くヘンダーソン公爵に連れられて来てみれば、とんだ恥を晒しおって。私だってお前など好みではないが可愛がってやってるだろう」
侯爵はザックを苦い表情で盗み見た後、レイに視線を向けた。
「あ、あ…嫌だ。僕はあなたなんかと結婚しない!」
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その言葉を受けて侯爵は顔を青ざめさせた。
「あ…申し訳、ございません…」
すっかり萎縮した彼はボソボソと謝ったかと思うと、レイの方を睨んだ。
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