77 / 101
本編
77
しおりを挟む
「マダムローリーの仕立て屋なのですが…」
「どうした?」
この国で一番人人気の仕立て屋に、ということでマダムローリーの仕立て屋へと向かっている訳だが、俺はおずおずと話を切り出した。
こんな話を自分が言わなければならないなんてと苦々しく思いつつ、隠し立てすることは彼にも彼の妹にも失礼だと思い気力を振り絞る。
「おそらく妹さんは利用できないかと」
「なぜだ?」
「ここは障害者お断りなんです。以前俺も断られまして」
「……」
するとヘンリーは考え込むように顔に手を当てた。
「それでも…一度入ってみたい」
「それはもちろん構いませんが…それなら俺はここで待ってます」
「いや、一緒に来てくれないか?テイトには申し訳ないが、店の者たちがどんな態度を取るのか見てみたいんだ」
そして埋め合わせは必ずする、と頭を下げた彼に俺は渋々承諾した。彼の目的を考えれば理解できる願いだ。
まあ…以前断られた店に再び入るなど、店の者たちたらは図々しく受け取られそうだが…
そうして2人連れ立って店へと入った。
ヘンリーが俺を気遣うように目配せして「彼の服を
仕立てたいのだが」と店員に話しかける。
「それではローブをお預かりします」
そう言った店員に俺はどうにでもなれと半ばやけくそにローブを脱いで見せる。
「あっ!あなたはアーデン家の…」
すると、店員は腕のこと以前に俺が誰かに気付いたらしい。「少々お待ちください」と慌てたように言って奥へと引っ込んだ。
つい先日まで社交界を騒がせていたのだから彼女が俺のことを知っているのも当然だ。俺は仕方なく手にローブを持ったまま彼女が戻るのを待つ。
すると、周りの客や他の店員も俺に気づいたようでこちらを見てはヒソヒソと話し出した。それが悪口であることはなんとなくわかる。
ヘンリーは周りの反応に動揺したように周囲を見渡していた。
すると先ほどの店員が店主の女性を連れて戻ってきた。
「まあテイト様、以前にもお会いしましたね?お断りしたというのにまた来ていただけるなど、なんて光栄なのかしら」
その言葉には明らかに侮蔑が含まれていた。
「諸事情があって来ただけです。やはり俺の服は仕立てられないということでお変わりないですね?」
俺は俺で淡々と返すと、彼女はこめかみをピクっとさせながら微笑みを浮かべた。
「ええ、申し訳ありませんが私には守るべきブランドがございますので。もっとも、テイト様には街のはずれに専属の仕立て屋がございますでしょう?そちらの方が注目を浴びずに済んでお買い物しやすいのではなくて?」
なんとも遠回しだが、要は冴えない専属店があるのだからそちらで仕立てろと。寂れている店の方が好奇の目に晒されず落ち着くだろうと言っているのだろう。
チラリとヘンリーを見ると、彼は俺が可哀想に思うくらい青い顔をして、呆然と成り行きを見ていた。
「あなたの仰る通りですね。ここはどうも落ち着かない」
彼が知りたかったことは十分知れただろうと思い俺はローブを被り直す。
「そうでしょうとも。まあ、どうしてもこの店の服が着たいのなら公爵様を連れて来てくださいませ。あの方がデザインして下さればあなたに着られてもこの店の評判を落とさずに済みますもの」
彼女の言葉に周りにいた客たちがくすくすと笑う。俺とザックの婚約が認められなかったことですっかり関係が終わったのだと思って傷を抉りにきたのだろう。
それに彼女は俺があの店で服を仕立てたことを知っているらしい。ジョニーが話していた問い合わせとやらのせいで噂にでもなっているのかもしれない。
「ご心配なく。もう来ることはありませんから」
「でしょうね。お出口はあちらですわ」
彼女は俺の言葉をザックを連れてくることはできないと捉えたようだ。俺はどうでも良く思ってヘンリーを引っ張り出口へと向かう。
彼女は見送る気もなくその場から動かなかった。
ヘンリーの頼みとはいえ、俺だってこんなところ二度と来たくはなかった。そして今度こそ来ることはないだろう。そう思って足取りも早く店を後にした。
「どうした?」
この国で一番人人気の仕立て屋に、ということでマダムローリーの仕立て屋へと向かっている訳だが、俺はおずおずと話を切り出した。
こんな話を自分が言わなければならないなんてと苦々しく思いつつ、隠し立てすることは彼にも彼の妹にも失礼だと思い気力を振り絞る。
「おそらく妹さんは利用できないかと」
「なぜだ?」
「ここは障害者お断りなんです。以前俺も断られまして」
「……」
するとヘンリーは考え込むように顔に手を当てた。
「それでも…一度入ってみたい」
「それはもちろん構いませんが…それなら俺はここで待ってます」
「いや、一緒に来てくれないか?テイトには申し訳ないが、店の者たちがどんな態度を取るのか見てみたいんだ」
そして埋め合わせは必ずする、と頭を下げた彼に俺は渋々承諾した。彼の目的を考えれば理解できる願いだ。
まあ…以前断られた店に再び入るなど、店の者たちたらは図々しく受け取られそうだが…
そうして2人連れ立って店へと入った。
ヘンリーが俺を気遣うように目配せして「彼の服を
仕立てたいのだが」と店員に話しかける。
「それではローブをお預かりします」
そう言った店員に俺はどうにでもなれと半ばやけくそにローブを脱いで見せる。
「あっ!あなたはアーデン家の…」
すると、店員は腕のこと以前に俺が誰かに気付いたらしい。「少々お待ちください」と慌てたように言って奥へと引っ込んだ。
つい先日まで社交界を騒がせていたのだから彼女が俺のことを知っているのも当然だ。俺は仕方なく手にローブを持ったまま彼女が戻るのを待つ。
すると、周りの客や他の店員も俺に気づいたようでこちらを見てはヒソヒソと話し出した。それが悪口であることはなんとなくわかる。
ヘンリーは周りの反応に動揺したように周囲を見渡していた。
すると先ほどの店員が店主の女性を連れて戻ってきた。
「まあテイト様、以前にもお会いしましたね?お断りしたというのにまた来ていただけるなど、なんて光栄なのかしら」
その言葉には明らかに侮蔑が含まれていた。
「諸事情があって来ただけです。やはり俺の服は仕立てられないということでお変わりないですね?」
俺は俺で淡々と返すと、彼女はこめかみをピクっとさせながら微笑みを浮かべた。
「ええ、申し訳ありませんが私には守るべきブランドがございますので。もっとも、テイト様には街のはずれに専属の仕立て屋がございますでしょう?そちらの方が注目を浴びずに済んでお買い物しやすいのではなくて?」
なんとも遠回しだが、要は冴えない専属店があるのだからそちらで仕立てろと。寂れている店の方が好奇の目に晒されず落ち着くだろうと言っているのだろう。
チラリとヘンリーを見ると、彼は俺が可哀想に思うくらい青い顔をして、呆然と成り行きを見ていた。
「あなたの仰る通りですね。ここはどうも落ち着かない」
彼が知りたかったことは十分知れただろうと思い俺はローブを被り直す。
「そうでしょうとも。まあ、どうしてもこの店の服が着たいのなら公爵様を連れて来てくださいませ。あの方がデザインして下さればあなたに着られてもこの店の評判を落とさずに済みますもの」
彼女の言葉に周りにいた客たちがくすくすと笑う。俺とザックの婚約が認められなかったことですっかり関係が終わったのだと思って傷を抉りにきたのだろう。
それに彼女は俺があの店で服を仕立てたことを知っているらしい。ジョニーが話していた問い合わせとやらのせいで噂にでもなっているのかもしれない。
「ご心配なく。もう来ることはありませんから」
「でしょうね。お出口はあちらですわ」
彼女は俺の言葉をザックを連れてくることはできないと捉えたようだ。俺はどうでも良く思ってヘンリーを引っ張り出口へと向かう。
彼女は見送る気もなくその場から動かなかった。
ヘンリーの頼みとはいえ、俺だってこんなところ二度と来たくはなかった。そして今度こそ来ることはないだろう。そう思って足取りも早く店を後にした。
126
お気に入りに追加
3,221
あなたにおすすめの小説
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
嫌われ愛し子が本当に愛されるまで
米猫
BL
精霊に愛されし国フォーサイスに生まれたルーカスは、左目に精霊の愛し子の証である金緑石色の瞳を持っていた。
だが、「金緑石色の瞳は精霊の愛し子である」という情報は認知されておらず、母親であるオリビアは気味が悪いとルーカスを突き放し、虐げた。
愛されることも無く誰かに求められることも無い。生きている意味すら感じれなくなる日々を送るルーカスに運命を変える日が訪れ少しずつ日常が変化していき·····
トラウマを抱えながら生きるルーカスが色んな人と出会い成長していきます!
ATTENTION!!
・暴力や虐待表現があります!
・BLになる(予定)
・書いたら更新します。ですが、1日1回は更新予定です。時間は不定期
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜
咲
BL
公爵家の長女、アイリス
国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている
それが「私」……いや、
それが今の「僕」
僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ
前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する
復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする
そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎
切なく甘い新感覚転生BL!
下記の内容を含みます
・差別表現
・嘔吐
・座薬
・R-18❇︎
130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合)
《イラスト》黒咲留時(@black_illust)
※流血表現、死ネタを含みます
※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです
※感想なども頂けると跳んで喜びます!
※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です
※若干の百合要素を含みます
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる