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本編

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「テイト!大丈夫ですか?」
「す、すいません・・・」

俺を抱きとめて立て直させてくれるザックにホッとしたのも束の間、レイが余計なことを申し出る。

「公爵様、彼が公爵様にどうしてもお渡ししたいものがあるようです。」
「なっ!」

ザックは怪訝そうな顔をレイに向けた後こちらに視線を移した。

「テイト?それは本当ですか?」
「い、いえ。申し訳ありませんがそのようなものはありません。では失礼を・・・」

周りの冷たい視線に耐えきれずさっさと去ろうとするが、それを許してはもらえなかった。

「何を言っているんですか。せっかくハンカチを用意したのでしょう?ほら、早く渡してしまいなさい。」

レイの言葉に周りの貴族たちも事態を察したようでニヤニヤと笑っている。

「いや、渡せるようなものではないので・・・」

そう言ってなおも去ろうとしたが人混みが割れず通れない。リリアンナ王女は何が起きているのかわからないと言うふうに首を傾げ、ザックは俺の腰に手を回した。

「テイト。」

ザックが優しく俺を呼ぶ。その顔を見れば大丈夫だと言うように頷かれた。

「・・・っ!」

俺はザックの瞳に勇気をもらい、ポケットに突っ込んだハンカチをおずおずと取り出した。

「実はハンカチを用意したのですが、先程落として汚れてしまったんです。」

そうして取り出したものをザックはまるで宝物を扱うように丁寧に受け取ってくれた。

「ありがとうございます。用意してくれた事がとても嬉しいです。」

とても使えるものではないのに、大事そうに手で包み込んでくれたその優しさに思わず俯いてしまう。


「婚約者として認められていないのにハンカチを用意するなんて。」
「片手の方ってどうやって縫うのかしら?」
「さあ、口を使うんじゃなくて?」
「嫌だわ、汚らしい。」

一方で、王女の時とは打って変わったような周囲の辛辣な評価に、慣れたつもりでいても居た堪れない気持ちになる。

「公爵様、私たちには見せていただけませんの?」

集団の一人がそんなことを言う。その言葉に他の面々も瞳を輝かせる。もちろんいい意味ではない。きっと刺繍を見ればここぞとばかりに嘲笑うに違いない。

「いいえ、これは私が貰ったもの。一人の時にじっくり見させてもらいます。」

そう言って丁寧にポケットにしまった。泥がついていると言うのに・・・

「っ!その、汚れていて使えるものではないので、いらなければ捨てて下さい。」

俺はなんとかそう声を絞り出して、無理矢理群衆をこじ開けてその場から逃げ出した。

「テイトっ!」

ザックに呼び止められたが、これ以上自分のせいでザックを矢面に立たせつづけるような真似はできなかった。

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