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本編
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俺が公爵家の仕事を片付けていると、使用人が紅茶を持ってきてくれた。
「そろそろ休まれてはいかがですか?」
その言葉に時計を見上げると、すでに0時を回っていた。
「もうこんな時間か、そろそろ終わるよ。悪いな、こんな時間まで起きていさせてしまって。」
「いえ、私はもともと今日は夜中まで勤務予定でしたので。」
「そうか、それなら良かった。俺のことは気にしなくていいから、仕事が終わったら休んでくれ。」 「畏まりました。」
そうして俺は淹れてもらった紅茶を飲みつつ眠る準備をした。寝巻きも上から被るだけのかなり簡単に着られるものを仕立ててもらったので、就寝準備はノーストレスだ。
そうして紅茶を下げてからベッドに入ろうとしていたところ、玄関のドアが開く音がした。
きっとザックが帰ってきたのだろう。俺はせっかく起きているのだからと出迎えに行くことにした。
・・・行く前に帰宅後もキスをして欲しいと言っていたし、それくらいなら・・・叶えてやらないでもない。
玄関に向かえば、ザックは使用人に上着を預けているところだった。
「テイト!まだ起きていたんですか?」
「ああ、おかえりザック。」
こちらを見上げたザックが顔を綻ばせる。だが、気のせいだろうか。ザックは心なしか少し疲れているような顔をしている。
俺はパーティーに出たことはないからわからないが、なかなかに気疲れするものらしい。
「ザック、かがめ。」
俺はザックに近づいてぶっきらぼうに言い放った。もっと言い方というものがあると自分でも思ったのだが、恥ずかしくて"キスしてやるから"なんて言えなかった。
頭にはてなマークを浮かべたザックはそれでも屈んでくれる。俺はザックの顔を掴んでそっと頬にキスをした。
「その、行く前にして欲しいって言っただろ・・・だから・・・」
ポカンとした表情のザックに居た堪れなくなって言い訳じみたセリフを並べる。
何も言わないザックに見つめられるのに我慢できなくなった俺は、自分でもボンっと音がするのではないかというくらい顔が赤くなっていることを自覚して顔を隠しながら踵を返した。
「と、とにかくお疲れ様!俺はもう寝る!」
「ま、待ってください!」
ザックはやっと我に帰ったとでも言うように俺の腕を掴んで引き留めた。
「もう一回!もう一回お願いします。さっきは不意打ちすぎて堪能できなかったので。」
「はぁ!?もうしない!あんな恥ずかしいこと・・・おやすみ!」
そう言って逃げようとしたがザックの腕は振り切れなかった。
「離せ、ザック・・・」
「嫌です。もう一回キスしてくれないならせめて一緒に寝ましょう。」
「なっ!」
ザックはヒョイと俺を抱え上げるとそのまま自室へと向かってしまう。
おかしいな・・・ここ最近は公爵邸で美味しい食事をたくさん食べていたので、以前に比べればだいぶ体重も増えたはずなのだが。俺が落ちないようにザックにしがみつくと、ザックは笑みを深めた。少し、納得がいかない・・・。
そうして優しくベッドに降ろされた俺はそのままザックに抱きしめられるように眠ることとなった。
なんだか最近絆されすぎている気がしてまずい。
今までもカインと手を繋いで眠ることはあったが、こんな風に抱きしめられて眠るのはザックが初めてだ。体に感じる体温と腕の重みに、人と眠るというのははこんなにも安心するのかと場違いな感想を抱いてしまう。
最初こそザックとの距離感に緊張していた俺だが、気づけば心地の良い温かさに、落ちるように眠りについた。
「そろそろ休まれてはいかがですか?」
その言葉に時計を見上げると、すでに0時を回っていた。
「もうこんな時間か、そろそろ終わるよ。悪いな、こんな時間まで起きていさせてしまって。」
「いえ、私はもともと今日は夜中まで勤務予定でしたので。」
「そうか、それなら良かった。俺のことは気にしなくていいから、仕事が終わったら休んでくれ。」 「畏まりました。」
そうして俺は淹れてもらった紅茶を飲みつつ眠る準備をした。寝巻きも上から被るだけのかなり簡単に着られるものを仕立ててもらったので、就寝準備はノーストレスだ。
そうして紅茶を下げてからベッドに入ろうとしていたところ、玄関のドアが開く音がした。
きっとザックが帰ってきたのだろう。俺はせっかく起きているのだからと出迎えに行くことにした。
・・・行く前に帰宅後もキスをして欲しいと言っていたし、それくらいなら・・・叶えてやらないでもない。
玄関に向かえば、ザックは使用人に上着を預けているところだった。
「テイト!まだ起きていたんですか?」
「ああ、おかえりザック。」
こちらを見上げたザックが顔を綻ばせる。だが、気のせいだろうか。ザックは心なしか少し疲れているような顔をしている。
俺はパーティーに出たことはないからわからないが、なかなかに気疲れするものらしい。
「ザック、かがめ。」
俺はザックに近づいてぶっきらぼうに言い放った。もっと言い方というものがあると自分でも思ったのだが、恥ずかしくて"キスしてやるから"なんて言えなかった。
頭にはてなマークを浮かべたザックはそれでも屈んでくれる。俺はザックの顔を掴んでそっと頬にキスをした。
「その、行く前にして欲しいって言っただろ・・・だから・・・」
ポカンとした表情のザックに居た堪れなくなって言い訳じみたセリフを並べる。
何も言わないザックに見つめられるのに我慢できなくなった俺は、自分でもボンっと音がするのではないかというくらい顔が赤くなっていることを自覚して顔を隠しながら踵を返した。
「と、とにかくお疲れ様!俺はもう寝る!」
「ま、待ってください!」
ザックはやっと我に帰ったとでも言うように俺の腕を掴んで引き留めた。
「もう一回!もう一回お願いします。さっきは不意打ちすぎて堪能できなかったので。」
「はぁ!?もうしない!あんな恥ずかしいこと・・・おやすみ!」
そう言って逃げようとしたがザックの腕は振り切れなかった。
「離せ、ザック・・・」
「嫌です。もう一回キスしてくれないならせめて一緒に寝ましょう。」
「なっ!」
ザックはヒョイと俺を抱え上げるとそのまま自室へと向かってしまう。
おかしいな・・・ここ最近は公爵邸で美味しい食事をたくさん食べていたので、以前に比べればだいぶ体重も増えたはずなのだが。俺が落ちないようにザックにしがみつくと、ザックは笑みを深めた。少し、納得がいかない・・・。
そうして優しくベッドに降ろされた俺はそのままザックに抱きしめられるように眠ることとなった。
なんだか最近絆されすぎている気がしてまずい。
今までもカインと手を繋いで眠ることはあったが、こんな風に抱きしめられて眠るのはザックが初めてだ。体に感じる体温と腕の重みに、人と眠るというのははこんなにも安心するのかと場違いな感想を抱いてしまう。
最初こそザックとの距離感に緊張していた俺だが、気づけば心地の良い温かさに、落ちるように眠りについた。
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