10 / 13
孤児院
10
しおりを挟む
「ほら、これで良いよ。」
エルマー神官は治療魔法でノエルの傷を治してくれた。幸い、かすり傷程度しかなかったようだ。
彼のことは嫌いだが、神官になるだけあって魔法の腕はなかなかのものだった。
「ありがとうございますエルマー神官。」
「どういたしまして。全く、慌てて駆け込んできた時は何事かと思ったよ。よく木から落ちてこの程度で済んだね。」
「カインが俺を抱きとめてくれたので…」
そう言ってノエルは僕をチラッと見る。あの時のことを言っても良いものか悩んでいるのだろう。僕はそっと首を横に振って答える。
「へえ、それならカインも一応見ておこうか。下で抱き止めるなんて、腕が折れてもおかしくないからね。」
「ぜひそうしてやってください。」
ノエルの勧めもあり僕も怪我ないかチェックを受けた。まあ当然ないのだが。
そして、2人とも確認が終わったので僕達は救護室を後にした。
「もう、本当に冷や冷やさせるんだから。」
「悪い悪い。でも、カインのおかげで助かったよ。」
「二度とあんな危ないことするなよ。」
来た道を戻る道中、僕はノエルに説教をする。お人好しなところは大好きだが、彼が誰かのために傷つくなど耐えられない。
だというのにノエルは「悪かったって。」と頭をかきながら軽い返事をする。本当に分かっているのだろうか。同じ状況になったらまた同じことを繰り返しそうな彼にため息をつく。
「なあ、それより本当に言わなくて良かったのか?さっきのあれって魔法だろ?」
「さあ、あの時は必死だったからわからない。」
「もし魔法だったら、お前すごいじゃん!貴族にだってなれるかもしれないぞ。」
興奮気味に話すノエルに微妙な表情を返す。
「貴族になんてなりたくないし。」
「そうか?俺は憧れるけどな。まあ、お前が嫌なら言わずにおくよ。」
そう言ったノエルに、こういうさっぱりしたところも好きなんだよなあとしみじみ思う。だが、結果として彼のこの気遣いは無駄に終わった。
「あのね、凄いんだよ!カインが手から風を出して落ちてくるノエルを浮かせたの!」
食堂では子供達が集まっていて、そこで先ほど帽子を取ってあげた女の子が皆にあの出来事を話してしまっていた。
「口止めが間に合わなかったな。」
ノエルはそう笑ながら肩を落とす。
「全く、誰のせいでこんなことになったのかも忘れて…子供は呑気だな。」
僕は苦々しい気持ちで彼女を見た。子供達に話してしまえば、もう秘密にさせることはできないだろう。
エルマー神官の耳には入れたくなかったのだが…
「それでさっきノエルがお姫様抱っこされてたのか!」
「俺も見た!ノエル、女の子みたいに抱えられてたな。」
「カインは王子様みたいだったよ。」
「うん、カインが王子様でノエルがお姫様だね。」
先程の僕達を見ていた子供達がからかってくる。ノエルの王子様と言われて僕は満更でもないのだが、ノエルは違うようだ。
「誰がお姫様だ!さっきのは不可抗力だろ…」
尻すぼみになりながらノエルが否定の声を上げる。
さっきはあまり堪能している余裕がなかったが、腕の中で顔を真っ赤にして俯いている彼は本当に可愛かった。
あの瞬間を記録に残せないのが残念でならない。
「おやおや、随分賑やかですね。」
するとエルマー神官がいつも通り遅れてやってきた。
「あっ!神官、あのねカインが凄いんだよ!手から風を出してノエルを助けたの。」
「手から風?」
「うん、木から落ちたノエルを浮かせたの。」
「…ノエル、カイン。そんな話は聞いていませんが?」
女の子の言葉に僕達が魔法のことを黙っていたことがバレてしまう。
「それは…自分でもあれがなんなのかわからなかったので。」
「ふむ…それでは、一度検査してみたほうが良さそうですね。」
エルマー神官は顔に手を当てて何やら考え込み出した。
「…もし魔法を使えるならいっそ貴族の家に売ることも…」
ぶつくさと呟いている彼に嫌な予感が込み上げる。
「検査とはなんですか?それを受けるとどうなるんです?」
「検査は水晶を使った魔力測定ですよ。まあ受けたらからといってどうなるわけではありません。魔法を使える適性があるか否かがわかるだけです。」
「そう…ですか。僕としては受けなくても良いのですが。」
「まあそう言わずに。せっかくなので全員に受けさせられるよう手配しましょう。」
エルマー神官はいかにも優しい笑みを浮かべてそう言った。皆は自分も魔法が使えるかもと浮き足立っているが、僕の気分は優れない。
「カイン。」
ふと横で心配そうな顔をしているノエルが僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「まあ、うん…」
「そんなに気負うなよ。魔法が使えるってなったら出世コースじゃないか。もし使えなくても今まで通りなわけだし。」
「そうだね…」
僕が何を不安に思っているかは分からないのだろうが、それでも元気づけようとしてくれるノエルにフッと笑みを返す。
魔法が使えようが使えまいが、僕はノエルから離れる気はない。それならそれで、魔法が使えた方が何かと便利かもしれない。
そう考えて僕は検査を受けることを承諾した。
エルマー神官は治療魔法でノエルの傷を治してくれた。幸い、かすり傷程度しかなかったようだ。
彼のことは嫌いだが、神官になるだけあって魔法の腕はなかなかのものだった。
「ありがとうございますエルマー神官。」
「どういたしまして。全く、慌てて駆け込んできた時は何事かと思ったよ。よく木から落ちてこの程度で済んだね。」
「カインが俺を抱きとめてくれたので…」
そう言ってノエルは僕をチラッと見る。あの時のことを言っても良いものか悩んでいるのだろう。僕はそっと首を横に振って答える。
「へえ、それならカインも一応見ておこうか。下で抱き止めるなんて、腕が折れてもおかしくないからね。」
「ぜひそうしてやってください。」
ノエルの勧めもあり僕も怪我ないかチェックを受けた。まあ当然ないのだが。
そして、2人とも確認が終わったので僕達は救護室を後にした。
「もう、本当に冷や冷やさせるんだから。」
「悪い悪い。でも、カインのおかげで助かったよ。」
「二度とあんな危ないことするなよ。」
来た道を戻る道中、僕はノエルに説教をする。お人好しなところは大好きだが、彼が誰かのために傷つくなど耐えられない。
だというのにノエルは「悪かったって。」と頭をかきながら軽い返事をする。本当に分かっているのだろうか。同じ状況になったらまた同じことを繰り返しそうな彼にため息をつく。
「なあ、それより本当に言わなくて良かったのか?さっきのあれって魔法だろ?」
「さあ、あの時は必死だったからわからない。」
「もし魔法だったら、お前すごいじゃん!貴族にだってなれるかもしれないぞ。」
興奮気味に話すノエルに微妙な表情を返す。
「貴族になんてなりたくないし。」
「そうか?俺は憧れるけどな。まあ、お前が嫌なら言わずにおくよ。」
そう言ったノエルに、こういうさっぱりしたところも好きなんだよなあとしみじみ思う。だが、結果として彼のこの気遣いは無駄に終わった。
「あのね、凄いんだよ!カインが手から風を出して落ちてくるノエルを浮かせたの!」
食堂では子供達が集まっていて、そこで先ほど帽子を取ってあげた女の子が皆にあの出来事を話してしまっていた。
「口止めが間に合わなかったな。」
ノエルはそう笑ながら肩を落とす。
「全く、誰のせいでこんなことになったのかも忘れて…子供は呑気だな。」
僕は苦々しい気持ちで彼女を見た。子供達に話してしまえば、もう秘密にさせることはできないだろう。
エルマー神官の耳には入れたくなかったのだが…
「それでさっきノエルがお姫様抱っこされてたのか!」
「俺も見た!ノエル、女の子みたいに抱えられてたな。」
「カインは王子様みたいだったよ。」
「うん、カインが王子様でノエルがお姫様だね。」
先程の僕達を見ていた子供達がからかってくる。ノエルの王子様と言われて僕は満更でもないのだが、ノエルは違うようだ。
「誰がお姫様だ!さっきのは不可抗力だろ…」
尻すぼみになりながらノエルが否定の声を上げる。
さっきはあまり堪能している余裕がなかったが、腕の中で顔を真っ赤にして俯いている彼は本当に可愛かった。
あの瞬間を記録に残せないのが残念でならない。
「おやおや、随分賑やかですね。」
するとエルマー神官がいつも通り遅れてやってきた。
「あっ!神官、あのねカインが凄いんだよ!手から風を出してノエルを助けたの。」
「手から風?」
「うん、木から落ちたノエルを浮かせたの。」
「…ノエル、カイン。そんな話は聞いていませんが?」
女の子の言葉に僕達が魔法のことを黙っていたことがバレてしまう。
「それは…自分でもあれがなんなのかわからなかったので。」
「ふむ…それでは、一度検査してみたほうが良さそうですね。」
エルマー神官は顔に手を当てて何やら考え込み出した。
「…もし魔法を使えるならいっそ貴族の家に売ることも…」
ぶつくさと呟いている彼に嫌な予感が込み上げる。
「検査とはなんですか?それを受けるとどうなるんです?」
「検査は水晶を使った魔力測定ですよ。まあ受けたらからといってどうなるわけではありません。魔法を使える適性があるか否かがわかるだけです。」
「そう…ですか。僕としては受けなくても良いのですが。」
「まあそう言わずに。せっかくなので全員に受けさせられるよう手配しましょう。」
エルマー神官はいかにも優しい笑みを浮かべてそう言った。皆は自分も魔法が使えるかもと浮き足立っているが、僕の気分は優れない。
「カイン。」
ふと横で心配そうな顔をしているノエルが僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「まあ、うん…」
「そんなに気負うなよ。魔法が使えるってなったら出世コースじゃないか。もし使えなくても今まで通りなわけだし。」
「そうだね…」
僕が何を不安に思っているかは分からないのだろうが、それでも元気づけようとしてくれるノエルにフッと笑みを返す。
魔法が使えようが使えまいが、僕はノエルから離れる気はない。それならそれで、魔法が使えた方が何かと便利かもしれない。
そう考えて僕は検査を受けることを承諾した。
1
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします
槿 資紀
BL
傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。
自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。
そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。
しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。
さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。
リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。
それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。
リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。
愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。
今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。
いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。
推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。
不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
婚約者は俺にだけ冷たい
円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。
そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。
それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。
しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。
ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。
前半は受け君がだいぶ不憫です。
他との絡みが少しだけあります。
あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。
ただの素人の小説です。
ご容赦ください。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる