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孤児院

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「今日はこれくらいで良いよ。2人ともありがとう。」

マーサおばさんがそう言って僕たちにお金をくれる。

「こちらこそ、いつもありがとうございます。」

ノエルは丁寧に挨拶をしてその小銭を閉まった。するとマーサおばさんはこちらにやってきて小声で僕に話しかけた。

「ほら、これ。カインは客も呼び込んでくれたから少し色をつけてある。」
「あ…ありがとう、ございます。」

僕はそのお金を複雑な気持ちで受け取った。僕は店に突っ立っていただけで、大変な力仕事を忙しなく働いていたのはノエルの方なのに…

そうして僕たちはマーサおばさんに見送られながら店を後にした。



「やっぱマーサおばさんは良い人だな!孤児の俺らにこんなしっかり給与を払ってくれるなんて。」
「ああ…そう、だね。」

ノエルの言葉に曖昧に頷く。

「そうだ、せっかく街にいるんだし、チビどもに土産でも買ってくるよ。」
「そんなことしたらノエルのお金がなくなっちゃうよ?」
「流石に全部使う様な真似はしないって。」

どこまでお人好しなんだと思いつつ、そういうところが堪らなく愛おしかった。

そして、小さなキャンディーが入った袋を持って出てきた彼を店の外で迎える。

「じゃあ今度は僕に付き合って。」
「ん?お前もなんか買うのか?」
「いいから。」

それならば僕もとノエルを引っ張ってある場所へ向かう。

そこは、街でも流行りのカフェだ。たくさんのケーキが置いてあり、毎日客で賑わっている。

「お、おい。まさかここに寄るつもりか?こっちの方が金がなくなるだろ。」
「大丈夫。と言っても注文できるのはケーキ1つかな。一緒に食べようよ。」
「でも、それはお前の金だし…」
「ノエルだって自分のお金で孤児院の皆にお菓子を買ったじゃない。」
「それはそうだけど…」

僕は強引に彼を引っ張ってカフェへと入った。

2人で1つしか注文しない僕たちに店員は訝しげな表情をしたけれど、しばらくしてショートケーキが運ばれてきた。

これが一番安かったのだが、2人で食べるにはあまりに小さい。

僕はフォークで一口救ってノエルの口へと持っていく。

「ほら、あーん。」
「いや…ガキじゃないんだから。」

そう言いつつ照れ臭そうに口に含んだ彼に思わずドキッとしてしまう。

「絶対食べてくれないと思ってた…てっきりフォークを引ったくられるかと…」
「お、俺だってそうしたかったけど…これはお前が買ったものだから付き合ってやったんだろうが!」

そんな理由で食べてくれたなんて。顔を赤くして言い訳を述べるノエルが可愛い。

「ふふっ、そっかそっか。じゃあもっと食べようね?」

そう言って再びフォークを差し出すと、「調子に乗りやがって…!」と赤い顔のまま睨みつけられた。流石にからかいすぎたらしい。

「というか、お前も食えよ!」
「じゃあノエルが食べさせて。」
「なっ、お前はほんと…恥ずかしいやつだな。」

そんなことを言いつつ彼はフォークを受け取って僕の方へ差し出した。僕はそれをパクッと口に含む。

うん…甘すぎる。あまり好きではないが、それでもふわふわと幸せな気持ちなのはノエルと一緒だからだろう。

「うん、美味しい。」
「ああ、ケーキなんて初めて食べたよ。その…ありがとうな。」
「ふふっ、どういたしまして。きちんと働き始めたらまた来ようね。」

そう言ってノエルを見ると彼は真剣な表情をしていた。

「そのことだけど…お前、今日誘われてただろ。」
「ああ…ごめん。良い話だと思ったんだけど、ノエルには悪いことを…」
「いや、そうじゃない。実際良い話だっただろ?だから、何も俺のことまで面倒見ようとしなくて良いんだ。」
「それは…」
「お前1人なら良い働き口が見つかる。そういう話には飛びつけよな。」

彼の言うことはわかる。僕はこの恵まれた容姿のおかげで貴族相手の仕事の話をもらうことも度々あった。

でも…やっぱりノエルと離れたくはない。僕が稼いで彼を養えば良いのかもしれないが、1日の大半を彼と離れて過ごすなんて耐え難かった。

「僕はノエルと一緒じゃなきゃ嫌だ。」
「お前、たまに子供っぽいよな。まあ、まだ時間はあるし、それまでにきちんと考えとけよ。」

ノエルがそう言ったことでこの話は終わった。

「それで…これはまだ食べても良いのか?」

ノエルがショートケーキを指してそう尋ねる。彼はこれが気に入ったらしい。

「いいよ。ほら、口開けて。」
「だから、それはもう良いって…」

彼はそう言いながらも僕がケーキを突き出せば、しぶしぶそれを口にした。まるで雛に餌をあげてるみたいで楽しくなった僕は残りのケーキも全部そうして食べさせた。
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