出戻り勇者にいじめ返されるモブになってしまった

本編

迷い

ベネディクトが帰ってからというもの、ずっとあの誘いのことを考えていた。生まれ育ったこの街しか知らない俺は、確かに外の世界を旅してみたかった。

だが、いざ旅ができると言われて引っかかるのはアルフレッドのことだ。何だかんだと何度も助けられた借りがある上、あいつには昔酷いことをした。

あいつが望むならここに留まるべきなんじゃないだろうか･･･ 

その考えが拭えなかった。


そんな俺の心を知ってか知らずか、アルフレッドはいつも通り、いや、いつも以上にやたらと絡んでくる。食事の量も多くて、食べるのにもたついていると「食え」と半ば無理矢理押し込まれる。

そして、なぜか服もプレゼントされた。やつ曰く「うちの使用人があんなボロい服しか持っていないなんて、俺の沽券にかかわる。」とのことだった。

口はいつも通りに悪いのだが、いじめ返すなんて言っていた割にはここ数日のアルフレッドはひどく優しい。

やっぱり、あんな事があったから気遣ってくれているのだろうか。むしろ何か償うべきは俺の方なのに･･･

そう思うと余計にここを去りづらくなった。


もう仕事には復帰したのだが、アルフレッドは「経過観察のため」と言って、この部屋で過ごすよう命令してきた。なぜそこまで心配するのか不思議に思いつつも、承諾して今はほぼアルフレッドの部屋に軟禁状態だ。

複雑な気持ちだが、俺のことを心配してくれているのだろう事がわかっているので文句は言えない。

むしろ昔のことに加え、この間のようなことがあった手前、アルフレッドには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。　


少し照れ臭いが、何かアルフレッドに感謝を伝える方法はないだろうか･･･

そう思って仕事の合間、ハワードさんに相談をしてみた。

「お礼ですか･･･言葉で伝えにくいならプレゼントを贈ってみてはいかがですか？」

「それも考えたんですが、良いものが何も思いつかなくて。」

「確かに彼はなんでも欲しいものは手に入れられる人ですからね。でも、ギルバートさんから頂いた物ならなんでも喜ぶと思いますよ。」

「そ、そんなことは無いと思いますけど･･･」

普通に気に入らないものをプレゼントしたら文句を言われそうだが･･･でも言葉で伝えるより難易度は低い気がする。


「では手作りのものなどはいかがですか？」

「手作りですか･･･大したものは作れないですけど･･･」

「気持ちが大事なのですよ。」

「そういうものですかね･･･わかりました、挑戦してみます。」


俺は悩んだ末にチェーンタイプのアミュレットを作ることにした。今更お守りなんてとは思うがせめてもの気持ちだ。

一応装飾品としても成り立つようデザインは凝ったものを考えた。･･･まあ、奴は宝石の装飾品もたくさん持っているわけで、付ける機会などないかもしれないが･･･


俺は外に出る事ができないので、買い出しに行く使用人に少しお遣いを頼む。

こう見えて手先は器用な方だ。なけなしの魔力も込めつつ空き時間を見つけては制作に取り掛かった。

基本同じ部屋で過ごしているので、バレない様に作り進めるのはなかなかに骨が折れたが、1週間ほどかけてやっと形になってきた。


･･･正直、まだベネディクトの誘いには心が揺れている。だが、日々アルフレッドと過ごしている中で、黙って出て行くことだけはやめようと心に決めた。

それは余りにも恩を仇で返すことになる感じがする。

まあ、許可をもらえないのであればここに残り続けるということになるが、それもいいかと今は思い始めている。

ベネディクトも急かさず待ってくれているので、もう少し結論を出すまで時間を貰おうと思っている。


(･･･このアミュレットを渡した後、アルフレッドと話しをしてみよう。)

そう思って、今日もアミュレット作りに取り掛かる。順調に完成に近づいてきたそれを見て、満足すると共に渡すときのことを考えると緊張してきた。


(大丈夫･･･ここ最近のアルフレッドならきっと喜んでくれるはずだ･･･)

そう自分を励まして最後の仕上げに取り掛かった。