ご主人様が大好き過ぎる新人メイドクレアちゃん

2.愛の試練～紅茶と恋の狭間で巡る勘違い～

私はゆっくりとお湯を注ぎ、彼の笑顔を見つめていた。

「私の気持ちに応えてくれる方法を考えるだなんて……私、本当に嬉しい！私を恋人にしてくれるんですね？」

私はとびっきりの笑顔で言った。しかし、彼は首を横に振り、小さなため息をつきながら答えた。

「クレアちゃんの気持ちには応えるつもりだけど恋人にはなれないな」

あれ？何かおかしい……？これはもしかして恋路を邪魔する奴が現れるパターンかしら？でも、それは変だ。だってさっきご主人様は他に好きな人がいるのは冗談と言った。それはすなわち私のことが好きということになる、と私が身構えていると彼は続けて言った。

「……それに、クレアちゃんは僕とどれだけ離れてるか知ってるよね？20歳だよ。これだけ離れてて恋人同士はさすがにないよね。どう見たって親子くらいにしか見れないよ」

私は衝撃を受けた。
「お……親子……？！」
「そう、親子だ」
彼はそう言って紅茶を口に運ぶと静かに頷く。

私は現実を思い知らされた。彼の言う通りだ。私は彼よりも20歳も年下で、親子に見えるほどに年齢差が開いているのだ。私の恋は始まる前から終わっていたのだった……

「お……親子だなんて……」

ショックのあまり思わずふらついてしまう。そしてそのまま床に倒れこんだ。しかし、私を抱きかかえてくれる優しい腕はなかった。

いつもならご主人様の優しい腕が私を温めてくれるはずなのにこの日はなぜかない。泣きまねまでしているのに……そう思って、チラッとご主人様を見てみると彼は冷静に紅茶を飲んでいた。
「これで、僕のことは諦めがついたかな？」

彼は笑顔で私を見てくる。その瞬間、私は全てを理解した。これはご主人様が私に出した試練であるということに。

年齢差が何？年齢なんて所詮単なる数字じゃない。そんな小さいことで私の愛は消えはしない。

「諦めません！たとえ親子のように見られたって、私はあなたの隣にいたいんです！」

そう、たとえ年の差があっても私が愛する気持ちは変わらない。むしろ、その逆境に燃えて更に好きになってしまうくらいだ。

「それなら別にメイドと主人の関係でも隣にいられるよ」

「確かにそうですけれど……私は恋人として、あなたと共にありたいんです！」

そう言って私はご主人様に抱き着く、すると彼は私の頭を撫でてくれた。

「はいはい、分かりましたよ。……でも、君は可愛いね。やっぱり娘だよ」

ご主人様は私を見つめて呟くように言うと、そのまま頭をなでてくれる。彼の温もりが私を包み込み幸せな気持ちに包まれた。と同時に違和感を感じる。
「娘ですか？」

私は思わずそう呟いた。そして、ここでようやく気が付いた。これは彼の試練ではない。私が勝手に勘違いをして、自滅してしまったようだ。

彼は私を見て笑うだけ……失敗してしまった私は彼の腕で抱かれたまま赤面したのだった……

「ごめんクレアちゃん。ちょっとやり過ぎちゃったかな？」

私の耳元で彼が囁くように言う。その言葉が余計に恥ずかしい気持ちにさせるが、それと同時に彼の言葉に興奮している自分がいることもわかる。だから私はわざとこう言った。

「娘ならご褒美のチュウとかあるんじゃないですか？」

それを聞いた彼は笑いながら言った。

「何を言ってるんだい。そんなわけないだろう？」

私は恥ずかしくなって顔を背ける。その様子に彼が更に笑うものだから、私は思わず頬を膨らませた。

「でも、今回は面白かったよ」

彼はそう言って私から離れると笑いながら言った。

「クレアちゃんには悪いけど僕はそんな恋愛には興味ないから」

なるほど、そんな恋愛ですか。では違う恋愛であればこの私をれっきとした彼女にしてくれるというのですね。

私はこの時確信した。これはこの恋愛に本気を出さなくてはいけないと……

「では、私が本気になっても良いんですね？」

彼は笑いながら言った。

「もちろん」
その言葉を聞けただけでも大きな進展だ。彼の愛を必ず私のものにしてみせると私は心に誓ったのだった……

恋愛の神様、どうか私にチャンスをお与えください！絶対にご主人様を振り向かせて見せますから……！そんな決意を胸に秘めながら私は今日も彼の身の回りのお世話をする。