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第六章 決戦の地へ
冷徹な暗殺者に、激しく求められる愛 ※
しおりを挟む僕を抱きながら、レイルは2階に続く階段を登ると寝室へ向かっていく。力任せにドアノブを回したレイルの性急な様子に僕の鼓動が跳ねた。開け放たれた部屋の中はレースカーテン越しとはいえ、朝日でとても明るい。
以前に恥ずかしさから指摘したときは『よりサエの綺麗な身体が見えて良いな』と悪い顔のレイル言われて、室内の明るさが睦事を止める理由にはならないと思い知らされた。
レイルは僕をベッドに降ろすと、逃がさないとばかりに覆い被さる。2人分の重さにベッドが軋んだ。恥ずかしくて視線を逸らしていた僕の顎先を、しなやかな指先が捉える。そのまま、ゆっくりと正面に持ち上げられると、闇の使者のように静かな美貌の青年が僕を見下ろす。
「__サエ 」
無感情に命を刈り取る、完璧で冷酷な暗殺者。目の前にいる暗殺者は、掠れた低い声で僕の名を呼んだ。欲情の渇きを隠そうともしない獣の唸り声のようで。それでいて静かに、確実に僕の心を捉えて離さない。
金色の粒子に混じる暗く怪しい熱と、獰猛な飢えをはらんだ紅玉に捕らえられて、僕は視線を逸らすことさえ許されなくなった。
___食べられる。
そう思った瞬間、僕の心の奥底から甘く怪しい震えが起こって、全身がふるりと戦慄いた。愛しい人に獲物として捕食されるという歓喜と、これから起こるであろう過ぎる快感に肌が粟立つ。紅玉の瞳に射貫かれたまま、近づく美貌の青年から逃げ出すことも出来ず、僕の唇に柔らかな感触が重なった。
レイルの仕事は今も変わらない。国の諜報部員であり暗殺部隊にも所属している。命をかけた任務は常に緊張状態だし、長期間家に戻ってこないこともある。そんな彼は時折、今のように暗い熱を孕んで帰ってくるのだ。戦いの後の興奮状態ともいうべきだろうか。
戦闘の熱が冷めやらぬ暗殺者は、僕を激しく求めてくる。
僕は、それが堪らなく嬉しい。
「ふぁっ……う、んっ……」
重ねられた唇は角度を何度も変えて、僕の吐息ごと喰らうように激しく口づけられる。息継ぎで僅かに開けた隙間からするりっと舌が入り込み、口内を貪るように暴かれる。舌先を吸い上げられると、僕の身体が小さく跳ねた。強く吸われた舌先が甘く痺れる。
絡められた舌が僕の舌と擦れる度に、背中からぞくっとした震えが起こって熱が上がる。歯列もねっとりと舐められて、上顎の感じやすい場所も的確に舌先で突かれて、僕の意識がとろりと溶けていった。僕はこの口付けだけでも媚薬を盛られたように、身体がぐずぐずになって動けなくなってしまう。
「んっ……」
余すことなく僕の口内を暴いた唇が離れると、2人の間に淫靡な糸が引いた。どちらのものとも分からないそれを、レイルは軽く僕の唇を啄んで舐めとると、妖艶に口角を上げて舌で舐めとる。
大人の色香と淫らな欲望の色を称えたレイルは、肩で息をする僕を見下ろすと、次はどこに喰らいつこうとじっくりと僕の細い身体を見定めた。甘く弛緩する身体を見られるだけで、恥ずかしさに熱が上がる。
「ひぅ……。いっ…た……!」
獲物が動かなくなったのをいいことに、レイルは僕の項辺りをねっとりと舐め上げた。皮膚の薄いそこは、舌の柔らかな感触を敏感に捉える。レイルの動きに合わせて喉仏を震わせていると、突然首筋に痛みが走って短い悲鳴を上げてしまう。
僕の首筋に歯を立てたレイルは、狼が傷口を舐めて宥めるように、痛みでひりつく僕の肌を舐め上げた。僕の首元には、赤い噛み痕がくっきりと残っただろう。
「……綺麗だ」
「ふぁっ!……耳……、だ、めぇっ……!」
首に荒い所有印を残したレイルが、僕の耳元でうっそりと囁いた。淫靡な罠に誘うように、甘く低い声が僕の鼓膜を震わせて、堪らず肩を跳ねさせた。レイルは僕の耳を唇で挟むと、そのまま甘噛みして舌を這わせた。耳元でくちゅっ、という卑猥な水音がして一気に熱が顔に上がる。
わざと淫靡な音を立てながら、レイルは僕の身体が跳ねる様子を楽しむように、執拗に耳を舌で嬲って唇で吸い上げた。自分の口から甘い嬌声が漏れて、快感を逃がそうと熱い吐息が溢れる。
「……ンッ!」
いつの間にか、僕が着ていたワイシャツのボタンは全て外されて、朝のひやりとした外気に肌が晒された。はだけた襟から、レイルの大きな手がするりと入りこんで僕の身体を撫でる。脇腹を指先が伝い、触れるか触れないかという絶妙な感覚に焦らされて。悪戯に動く指に翻弄され、身体をビクつかせることしかできない。
レイルが煩わし気に服を脱ぐと、鍛え上げられた肉体美が露わになる。僕は吸い寄せられるように、その割れた腹筋や胸元に手を添えて撫でていると、僕の視界にレイルの右上腕に巻かれた包帯が目に入った。何気なくその包帯に触れ、僕は魔力を意識的に流し込んだ。白銀色のツタが僕の指先から出ると、蕾を宿して包帯の上に花が咲く。
満開になった白銀色の花は、そのまま儚げに花びらを散らすと、すうっと空間に馴染むように消えていった。
「……こんなのかすり傷だ。気にするな」
「……怪我は痛いでしょ?レイルが痛い思いをしているのは嫌だから……」
僕の言葉にレイルは切れ長の瞳をふっと僅かに細めると、お礼をするように僕の額に口付けた。
ステラとシエルの二人が、時魔法で事象を捻じ曲げてくれたおかげ、僕たちの傷が治った。そして、魔王が聖魔術師セレーネの魂とともに消失したとき、僕たちは彼らの最期の力で天に上ろうとしていた自分たちの魂を取り戻すことができたのだ。
その余波とも言うべきなのだろうか、僕とレイルには魔王と聖魔術師の欠片が残った。レイルは、より強力な闇魔法が使えるようになったし、僕は癒しの力が未だに使用できる。といっても、僕の聖魔術は家族と認めているレイルと双子以外、本当に疲れを軽減するくらいにしか効果はない。国を傾倒するような能力はもうないため、王太子殿下ものんびり構えていれば良いと言ってくれた。
昔のことを思い出してぼんやりとしていると、レイルが不服だと言わんばかりに僕の乳首をつねり上げた。
「ひぅっ?!」
「……考え事をするなんて、余裕だな?」
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