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第六章 決戦の地へ
中継地点
しおりを挟む半日ほど馬を駆けたところで、僕たちは中継地点に辿り着いた。途中で敵からの攻撃はあったものの、道なき道を行き敵の目を掻い潜ったり返り討ちにしてひたすら進んだ。
ここまでは、騎士の人も含めて全員が怪我なく済んでほっとする。
廃れた町から離れた鉱山地帯の隅に、古びた山小屋が隠れるように建てられている。合流地点はその山小屋だ。山小屋の隣にはぽっかりと口を開いた洞窟があって、中で馬たちが大人しく手綱を握られて待っていた。
「……ここまで、ありがとう。」
僕たちを乗せてくれた馬に、お礼を言って頭を触る。プルルルっと小さな声で戦慄くと、黒色の馬は僕の手に甘えて鼻を摺り寄せてくる。
暖かい体温とその仕草に、緊張していた心がほんの少し和らいだ。
レイルも騎士の人達も、短くお互いに報告しあうと各々馬を乗り換える。僕たちと一緒に来ていた騎士の人たちは、ここでロイラック王国内に潜伏していた人達に変わる。
「……皆さん、ありがとうございました。……どうかご無事で。」
道中を共に駆け抜けた騎士の人たちに、僕は癒しと祈りを捧げた。僅かな期間ではあったけど、見ず知らずの僕たちに親切にしてくれた人たち。
そして、命を懸けて僕たちを守ってくれた戦士たち。
僕の言葉に、この騎士たちの中でも指揮官の任に就いていた中年男性が近づいてきた。この人は、出会ったときから僕のことを随分と気にかけ、優しく声を掛けてくれた部隊長さんだ。
「……サエ君は本当に人の心配ばかりだね。……どうか自分も大切にして。君の無事も、私たちは願っているんだよ。」
そう言いながら、穏やかな瞳を細めて僕の頭に大きく優しい手を乗せた。数回ポンポンと幼い子供に言い聞かせるように、頭を撫でられる。
部隊長さんの言葉に、周りにいた他の騎士の人たちも力強く頷いていた。こんなにも、僕に温かな心を向けてくれることに、視界が滲んだ。
「……はい。」
涙が出そうになるのをグッと堪える。
泣くのはすべてを終えてからだ。
ものの数分で、僕たちは中間地点をそれぞれの戦いへと旅立った。
レイルによると、殿下たち以外にもラディウス国の騎士たちが各場所の結界を壊して、主要な街を制圧したらしい。
ここまでは順調だ。
「……セルカ殿下たちが、1日早く王都に着くかもしれないと言っていたわね……。」
隠蔽魔法で姿を隠しながら並走しているカレンさんが、思案気に口を開いた。
「……何か、様子がおかしい。」
レイルがぽつりと呟いた。先ほどの中継地点で、レイルたちは戦況を報告しあっていた。その中で何か引っ掛かることがあるようだ。
「……ラディウス国の戦況が有利過ぎる。確かに圧倒的にラディウス国のほうが武力は勝っているし、火力も十分にある。……ただ、主要都市がこんなにも簡単に制圧できるはずがない。」
大きな街には、必ず国立騎士団の支部があり、かつ領地を治めている貴族の自警団もいるという。しかし、戦闘状況の報告を聞くと、都市の制圧に苦戦した様子が見られないと言うのだ。
「国力が落ちているとはいえ、これだけの大国なら相当数の騎士がいるはずだ。だが聞いた話ではどこの街も、圧倒的に騎士の数が少ない。」
「……それって、王都に騎士を集結させて待ち伏せているとか……かな?」
王都は、国王がいる最重要拠点だ。防衛するために、多くの騎士を集めるのは当然だと言える。ラディウス国を向かい討つべく、王都に最大の戦闘力を集結させ一気にケリをつけるという作戦かもしれない。
セルカ殿下は、待ち伏せされることも当然視野に入れている。
「それとも、……何か別のことを企んでいるかだ。」
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