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第五章 それぞれの想い
覚醒(レイルside)
しおりを挟む『お前は何故、ここにいる?……お前は何故、存在する?』
霞みがかった意識の中、鎧騎士の問いかけに思考が動き出す。
''………レイル。''
はにかんで、俺の名前を呼ぶ少し高い声。
嬉しそうに頬を紅く染めて、花が綻ぶように微笑む少年。
俺は何故、ここにいる?
俺は何故、存在する?
「……サエ」
床に落ちていた漆黒の双剣が、カランッと音を立て地面を離れる。右手に握っていた剣も、手からするりと抜けると宙へと浮いた。視線の端に、金色の粉がチラつく。
霞みがかった思考が、一気に鮮明になる。
俺の存在意義は、サエだ。
あの美しく優しい少年を。
サエを守り抜くこと。
ドクンっ。
大きな鼓動が、俺の全身を震わせる。魔力が血液中を一気に駆け上がる。身体のどこかで、タガが外れた。
『っ!!!』
左肩に突き刺さっている槍の刃体を、右手で掴む。手袋越しに手の平が切れるのも構わず、強く冷たい金属を握った。
動かなかった身体に、内側から湧き出る魔力が流れ込む。右手には黒に近い深紫色の炎が見えた。その炎には金色の粒子が混ざって、渦を巻いていた。
パキンっ!!
右手の中で槍が砕け散った。身体が槍から解放されたのと同時に、俺は魔力を爆発させた。束縛の魔法は、一瞬にして吹き飛び無効化される。
俺は足に魔力を纏わせて、地面を蹴って一気に高い天井まで跳躍した。死霊が跳躍した俺を、宙まで追いかけてくる。
俺はその様子を上から見ながら、俺の頭上を飛んでいる双剣に魔力を流した。金の粒子が深紫の魔力に絡まる。一瞬にして双剣は無数に増える。
深紫と金の魔力を纏って、上空から下へと切っ先を向ける。
蘇る死霊など、関係がない。
一瞬にして無に還すからだ。
右手を上に持ち上げて、振り下ろす。
「鉄槌」
その言葉とともに、雷撃の轟音が響き渡る。無数の漆黒の剣は、雷となって死霊たちの身体を貫いた。
死霊の核である魂を、漆黒の剣は確実に貫く。先ほどまでは魂など視えなかったし、魂に攻撃すらできなかった。だから、無限に湧き出ていたのだが……。
今ではこの視界にしっかりと確認できるし、死霊の心臓とも言える魂が手に取るように分かる。そして、壊すことができる。
次々と死霊たちを貫く剣の雷撃。鎧騎士には、さらに多くの剣が突き刺さった。鎧に複数の穴が開き、左胸部分の大きな球体の魂にも剣が突き刺さっている。
『……覚醒したか……。』
所々壊れた鎧の中で、男の呟きが聞こえた。
俺は地面にトンッと降り立つと、魂にヒビが広がっていく鎧騎士へと近づいて行った。鎧騎士は両手をだらりと下げ、口の部分から緑色の血を吐いている。
『……我が騎士団は、王の愛しき人さえ守れなかった。情けない騎士たちよ。お前は、最後まであの美しき者を守り抜けるのか?……人間の欲に勝てるのか……?』
そう言い残し、鎧騎士は金色の粒子となって消えていった。
「……言われなくても、守ってみせる。」
灰色の炎は消えて、何処からか陽の光が射した部屋の中。次へと進む部屋の扉が、独りでに静かに開いた。
騎士団長を倒したからだろうか、それ以上の階で魔獣が現れることが無くなった。塔の頂点まではあと少し。後ろを振り返れば、階段にポタリ、ポタリと赤い鮮血が目印を残していた。
こんな怪我を負ったのも、本当に久々だな。
包帯を巻いて止血はしたが、それでも出血は止まらない。手で抑えながら進むが、身体が動くたびに鋭い痛みが襲う。脂汗が額に噴き出て、体温が冷たくなっていく。
こんな痛み、あいつに比べたら……。
サエに比べたら、どうってことはない。
「……待っていろ、サエ……。」
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