上 下
39 / 72
第五章 それぞれの想い

武器展開 (レイルside)

しおりを挟む


死霊たちはそれぞれの手に、杖や長剣、弓矢を握っている。姿勢を低く構えながら、俺は魔力を練り出して集中する。


漆黒の騎士が、深紅のマントを翻しながら素早く突進してきた。瞬く間に間合いに入って来たかと思うと、ブンっ!という音とともに俺目掛けて槍を振り降ろす。


「……早い。」

歴戦の猛者を思わせるほど、黒騎士の動きは迷いがなく俊敏だ。振り下ろされた槍の先からは、灰色の炎がゆらりと舞い、部屋の霞をさらに白くする。


上体を低くして攻撃を躱し、短剣で槍をはじき返した。すぐに鎧騎士は体勢を整えて、俺に何度も切りかかる。

視界の端では魔導士と思われる杖を持った死霊が、杖を高々と上に持ち上げ魔法を発動しようとしているのが見えた。


死してなお、この地に地張り付けられている騎士と魔導士。長剣と槍を構えた死霊が、鎧騎士の攻撃の合間にこちらへ切り掛かってくる。


鎧騎士と死霊たちを、同時に相手をするのは面倒だ。
まずは、死霊たちを黙らせることにしよう。


「……魔力喰らい」

魔力を練り上げた俺は、紫色の雷を帯びた球体を3つ部屋に出現させる。死霊の数に合わせて作り出したそれは、黒色の突風を起こして死霊たちを吸い上げていった。


グワァァァァっー!!!

人間の呻き声のような悲鳴を上げながら、魔力喰らいの球体に吸い込まれていく。死霊たちの手に持っていた武器が、カラカランっと軽い音を立てて地面を滑った。

紫色の球体は死霊たちを飲み込むと、一気に圧縮して姿を消す。


魔力喰らいは、文字通り魔力を吸収する魔法だ。魔力のあるものを独りでに感知して吸い上げる。魔力が少ない死霊達ならば、消滅できるだろうと踏んだ。


目の前の黒騎士が、宙に浮く球体を見るように首を動かす。そして、静かに槍を再び構え直した。

風切り音とともに、鎧騎士は槍を横に薙ぎ払う。槍の刃体から灰色の炎が燻り、人間の頭部の骨のような形をした斬撃が周囲へと飛んだ。

程なくして灰色の頭部は、火の玉のように宙に揺らめき、部屋を満たしている霧が炎に吸い寄せられる。


ほどなくして、先ほど姿を消した死霊たちが再び姿を現した。地面に落ちていた武器たちは、吸い寄せられるように死霊たち手へと戻っていく。俺はその様子に思わず舌打ちをした。


「……厄介だな。」

鎧騎士を倒さなければ、死霊たちは永遠に蘇ってくる。

俺は宙に複数個、紫色の怪しげな球体を作り出した。魔力喰らいの球体は、死霊たちを勝手に吸い込んでは消滅させていく。しばらくは、これで持つだろう。


それを横目に見ながら、俺は目の前の鎧騎士の動きに集中する。鎧騎士は灰色の炎を槍に纏わせながら、次々と俺に攻撃を仕掛けてくる。

槍での打突に加えて、灰色の炎を燻らせて火球を飛ばしてくる。俺はその炎を空中で身体を捩じらせつつ、俺は両手に握りしめた短剣に魔力を流し込んだ。


短剣では明らかにリーチが足りない。


「……展開。」


俺がそう呟いた直後、両手に握っていた短剣を囲うように、黒色の魔法陣が姿を現す。連なった魔法陣の輪は、紫色に光り出し短剣にもその色を移していく。

魔力を流された短剣がしなやかに伸びて、膝上ほどの長さの長剣に姿を変えた。光も吸収するほど、艶も無い漆黒の双剣が俺の両手に握りしめられる。


その武器を見た鎧騎士が、ギシっと僅かに動きを鈍らせた。


持主の意思に応じて変形する古代のアーティファクト、『幻想の双剣』。

長さを変えるだけではなく、槍、斧、鎌など、持主がその時に使いたいものを念じると、双剣は変幻自在に姿を変える。さらには、魔力を流す量に応じて武器の本数も自由に操れるのだ。


暗殺において、これほど便利な武器はない。王宮に眠っていたこの武器は強い魔力と闇魔法を必要とし、さらに下手に使用すれば武器に自身を切り刻まれる。

いわゆる、いわくつきの代物だった。


今まで誰も使用する者がいなかったが、俺が握った瞬間に武器が魔方陣を発動して、主は俺だと指名された。それからずっと、この武器を使っている。


横に薙ぎ払われた槍の攻撃を躱し、足を踏み入れる。隙をついて胴体に近づくと、紫炎を燻らせた双剣で複数回、腹部の鎧を斬りつけた。

紫炎からは黒色の飛沫が飛び、斬撃として鎧を襲う。シューっという溶解する音とともに、騎士の腹部の鎧が煙を立てて溶けた。鎧騎士の横を通り抜け背後に回る。

一度距離を取ると、鎧騎士の首がゆっくりと後ろを振り返った。


頭部の鎧に隠れた目が、なぜか怒気を孕んでこちらを見ているような気がした。ギシギシと金属の擦れ合う音の中、男の喉から唸る声が聞こえる。


『……なぜ…、あのお方の双剣を手にしている……!』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

処理中です...