異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

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第五章 それぞれの想い

死霊の騎士 (レイルside)

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(レイルside)



「……せいぜい、抗うことだな。」


何処からともなく聞こえた魔王の呟きを合図に、黒色の影が一斉に動き出す。魔獣たちが地を這う唸り声を響かせながら、群がるように俺に襲いかかる。


赤黒く腐敗した筋肉を動かしながら跳躍し、狼が涎を垂らして迫りくる。狩りをするように四方から襲ってくる狼に、俺は短剣を凪ぎ払った。

短剣の切っ先から紫色の炎が燻り、空間に弧を描く。燻った炎は瞬時に複数の鋭利な剣に変化して、俺の周囲には無数の紫炎の険が出現する。


剣の切っ先は、迷うことなく魔物へと標準が合わせる。全方位に向かって弾けるように、風切り音を立てて紫炎の凶器が牙を剥いた。


腐敗した狼の身体へと、容赦なく剣が突き刺さる。とたんに、狼の全身を紫色の炎が覆った。全身を炎で焼かれた狼が、地面をのたうち回りながら、苦し気な唸り声をあげる。

どんなに暴れても、闇魔法の『執念の炎』からは逃げられない。標的を焼き付くすまで、その炎は燃え上がったままなのだ。血肉を焦がす、生々しい臭いが鼻を刺す。

やがて骨をも灰になると、腐敗の狼は黒色の砂となって絶命した。


俺はいくつもの炎の剣を出現させ、向かってくる敵に容赦なくその剣を投げ刺した。自分の道を開けられたところで、最小限だけの魔物を倒して走り去る。

上を目指す階段を、ひたすらに昇った。愛しい人の気配がする、塔の頂点を目指して。


サエは、上にいる。

お互いのことを、惹きつけ合っているからだろうか。サエの優し気な魔力を、塔の頂上近くから強く感じるのだ。


「……きりが無いな……。」

らせん状の階段で繋がっている塔は、今や魔物の巣窟と化していた。至るところから、魔物が姿を現して襲ってくる。

正面から、長剣を振り下ろしてくる骸骨騎士の攻撃を避け、短剣で腕と足を粉々にする。


塔の半ばまで差し掛かったところで、行き止まりにぶつかった。俺の正面には段数の少ない階段が現れ、最上階に深紅の大きな両開きドアが立ちはだかった。


「……騎士団長執務室……。」


アーチ状の扉の上に、金色のツタと文字で書かれた部屋の名前を読み上げる。扉からは、強い魔力が漏れ出ている。


この階層に着いてから、魔物が自分の周りを寄り付かなくなったと思っていたが、なるほどな。この扉の奥にいる魔物を警戒してのことだったか。


コツコツと音を鳴らしながら、ひび割れた地面を進む。迷うことなく、黒色の茨が周囲に這っている古めかしい深紅の扉を開けた。

キィイーと年期の入った蝶番が軋む音が、静寂な室内に響き渡る。


吹き抜けの屋根に、古く薄汚れた茶色の壁。ただ広いだけの部屋の壁には、仄暗い灰色の明かりをつけた蝋燭が申し訳程度に辺りを照らしていた。そして、部屋の床を覆うように霧が立ち込めている。


霞の向こう側には、黒色の鎧に身を包んだ騎士が立っていた。左手に盾を、右手には体躯程はあるだろう長い槍を紫色の槍を持っていた。

槍の先は鋭利な刃だ。刃は二股に割れ、一法が長く、それはまるで蟹の爪のようにも見える。柄部分には獣の爪を思わせる弧を描いた装飾が施されていた。

そして、騎士の周囲を灰色の煙が舞う。


黒騎士の周囲に浮遊している煙は、よく見ると裾の長いローブを身に着けた人間のようにも見えた。

……ただ、人間にあるはずの足がない。


「……死霊を操る騎士か……。」


漂う霞は、死霊たちの残滓だった。



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