異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

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第四章 過去と現実

人間との開戦(レイルside)

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(レイルside)



「……サエ?」

サエが蒼色の怪しげな蝶に触れた。その、たった瞬き一つの間にサエの姿が消えてしまった。


そして今、自分がいる場所も明らかに先ほどとは違う。埃っぽい匂いに、長い年月を感じる朽ちた壁や床ではなくなっている。重厚な赤い絨毯が敷かれた床に、美しく磨き上げられた柱。


先ほどと最も違うのは、様々な人物が忙しく行き交っていること。行き交う者たちを人間と言うには、どうも容姿が違う。


鳥のような美しい黒色の羽根を背中に生やして、階層との間を飛んで行き来する人型の生き物。文官のような詰襟の服を風に靡かせながら、バタバタと通りすぎていく。


黒色の羊のような巻き角を頭に生やした男は、服を着た二足歩行の狼と難しい顔をしながら話をしている。騎士服を着た狼は、赤色の瞳を険しく光らせながら「住民の避難は完了した。あとは、この城を守り抜く。」と言っていた。


「……なんだ?」


頭上には大きなシャンデリア。細かな紫水晶を集めて、日の光を煌びやかに反射しながら輝いている。趣向を凝らしたそのシャンデリアは、一目で豪華で華やかだ。どういう仕組みか知らないが、シャンデリアは宙に浮いている。


艶のある黒色の大理石の壁。所々に金で装飾が施された欄干。

建物の作りからして、サエと先ほどまでいた魔王城で間違いはない。しかし、古びて朽ちた城とは様相が全く違う。


そして、厳かな雰囲気とは正反対な、緊迫して張りつめた空気。速足で通り過ぎる者たち。


黒猫の耳を生やした騎士が、俺の正面から近づいてくる。同じ騎士仲間であろう犬耳の男と話しながら、かなり近くまで接近してきたというのに、避ける様子がない。


いつでも攻撃できるように身構えていた、その時だ。


「っ!!」

その騎士は俺に確かにぶつかった。
いや、正確に言えば俺の身体を通り抜けた。


驚いて自分の身体を見てみるが、何ら変わったところはない。周囲を見回してみても、俺と視線が合うものが誰もいない。試しに短剣をチラつかせてみたが、誰も反応は無かった。


「……俺の姿が、見えていないのか……?」

俺は、もう一度、周囲の人間を見遣った。全員が身体のどこかに黒色を纏い、瞳は赤い。


「……魔族。」

魔族は古に存在した種族。サエが持っていた、古代語で書かれた本に記載されていた。


つまり、ここは……。昔の魔王城か。


俺はどうやら、廃城の記憶を見せられているらしい。


サエが急にいなくなったのは気にかかるが、エストが一緒にいるから心配はないだろう。エストは、サエを随分と気に入っている。いざとなれば巨体となって、必ず守るだろう。


鎧を着た騎士が、槍や盾の武器を構えて外へと出ていく。塔の部屋の扉は全て閉じられ、塔の内側には紫の閃光で描かれた、格子状の防御結界が上まで施されていた。


「人間が攻めてくる。私たちが何をしたというのだ……。」

「我らの魔力があれば、人間など敵ではない。徹底抗戦だ。」

「それに人間は国境の結界を抜けられないはず……。どうして……。」


耳を澄まさなくても聞こえてくるのは、不安と混乱の入り交じった会話だ。どうやら、魔族たちの国は人間の国に攻め入られているらしい。


しかし、人間は魔族よりも明らかに劣る存在だ。魔力も、身体能力も人間よりはるかに強い魔族。冷静に考えても、戦いを挑むこと自体無謀に思える。

……この時代の人間は、一体何を考えているんだ?


先ほどの狼の騎士が、外へと出ていく。俺はそれに続くように、魔王城の扉から出た。魔王城の扉の前には、すでに鎧騎士が何百人と臨戦態勢に入っていた。


扉の向こう側には、エストに乗って駆け抜けた石橋がまっすぐと続く。その先は、魔王城の黒色の外門だ。あそこには、結界が張ってあったはず。


ふいに、外門が赤く色を変化させた。金属が高温で熱せられたように、熱を帯びて炎の色を纏う。そこから、黒色の美しい外門がドロリ、ドロリと飴細工のように溶けていった。


その光景に、魔族たちの動揺の声が一斉に上がる。

「なぜ、結界を通れる?!ここの結界は他の地よりも更に強固なはずだ!」

「……外門が溶けるだと?あれはただの金属ではない。闇薔薇の黒鋼だぞ?」


騎士たちが動揺する間も、外門はどんどんと溶かされていく。溶けた隙間からは、人間の軍隊と思われる、灰色の鎧を着た大勢の人が見えた。


石橋の前方で待機する騎士団員たちが、攻撃魔法を放つ。紫色の雷が凄まじい轟音とともに外門へと落雷する。


フォンっ。


「っ?!!」


空気を圧縮したような音が、周囲に響いた。

人間たちを襲った紫の落雷は、その頭上で左右に大きく逸らされた。人間たちの上空に現れた、半透明な結界に弾かれたのだ。

よく見ると、その結界には模様が描かれている。


八枚の花びら。白銀色のツタ模様。


「……聖魔術か。」


外門にいる人間の一人が、厭らしく口角を上げる姿が見えた。



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