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第二章 出会い、隠し事
告白
しおりを挟む「できた!」
「かんせーい!」
双子が、小さな手をパチパチと叩いて喜んでいる。僕もそれに合わせて拍手を送った。
双子の石の芸術作品が、とうとう完成した。
それは、とても綺麗な円の模様だった。大きな円の中に、星や月、太陽を思わせる絵が小さな石で幾つも描かれていた。
大小の石を組み合わせた、複雑で繊細な線。一見するとゴチャついているように見えて、歯車が噛み合わさったように、それぞれのマークが綺麗に収まっていた。
僕の左手をステラが、僕の右手をシエルが握りしめ、夜の庭へ僕を案内してくれる。双子は僕の手を離すと、二人で揃って1つの石に指をちょんっと乗せた。
美しい淡い緑色の光が、一閃となって地面の石へと移っていく。石が1つ1つ光り出して、やがて地面に光の模様が現れる。暗い夜に、淡い緑色がぽうっと優しく灯った。どことなく優しくて、自然の木洩れ日を思わせる暖かな光だ。
「すごいでしょ!」
「……すごいでしょ。」
ステラが「ふんっ!」と小さな胸を張って、自信満々に宣った。シエルも真似をして、腰に手を当てて、「んっ。」と胸を張っている。
2人とも渾身の出来に、とても満足しているようだ。
僕は、目の前の美しい光景に言葉が出なくなる。呼吸をするようにそれぞれの石が、ぽう、ぽう、と光を放つ。
それがまた、淡くて綺麗で。寒空の暗い闇に、星が穏やかに瞬いているように見えた。
『……すごい。とても綺麗だよ。ステラ、シエル。』
言葉で言い表せない、ずっと見ていたいくらい幻想的だった。2人は僕に近づくと思いっきり抱き着いてきた。僕は2人を胸に抱きとめると、ぎゅーっっと抱きしめる。
「サエ、喜んでくれた?」
「……サエ、うれしい?」
2人は僕のために、この芸術作品を作り上げてくれたようだ。その事実に、また心が震える程嬉しくなる。2人を抱きしめていた手に、力が籠った。
『……うん。すごく嬉しい。ありがとう。』
目頭が熱くなって、じんわりと視界が滲むのを必死に耐える。僕を喜ばせようとしてくれた双子の、心優しさが身体にじんわりと染み渡った。
双子は顔を上げると、にっこりと僕の目を見て笑った。
「サエがうれしいと、ステラとシエルもうれしい!」
「……サエが笑うと、シエルとステラもうれしい。」
空色の瞳と、星色の瞳がキラキラと輝く。自然界の美しさを閉じ込めたような、こんなにも美しい瞳。それを2つも持ち合わせた奇跡の子供たち。人を優しく純粋に想う、清らかな心。
どうしてこの国の人は嫌うのか。
僕には全く理解できない。
『……僕も、2人が笑顔だとすごく嬉しいんだ。2人が僕といてくれるだけでも、とても嬉しいんだよ。……ステラ、シエル、大好きだ。』
ステラとシエルに、僕のありったけの想いを告げる。2人とも嬉しそうに、柔らかなほっぺを赤く染めてはにかんだ。
この子たちに、僕が出来る限りの愛情を伝えたい。しばらく皆で抱きしめ合っていると、ふと、エストが足元にやって来た。
すりっと僕の足に、毛足の長い柔らかな黒い頬を摺り寄せる。
「ライが来た。」
「……ライが来た。」
僕の背後を見ながらそう言った双子につられ、俺も立ち上がって振り返る。
そこに立っていたのは、冷たく冴えざえとした夜闇を連想させる、大人びた男。透き通るようなシルバーグレーの髪が、風に靡く。とても上質な絹糸のように、柔らかそうだ。
「サエ。」
形のよい唇が、少しだけ柔らかさを帯びた低い声で、僕の名前を呼んだ。深紅の瞳が、ひたと僕を見据える。ルビーという至極の宝石に似ているのに、奥には金の細かな粒子が降り注ぐ。
神秘の瞳は、この世界で見たものの中で、
一番美しいと僕は思っている。
静かに研ぎ澄まされ、鋭利な刃物を思わせる目元。濃紺の神官服を翻し、夜闇に佇む美青年。
今日、僕はライに伝えたいことがある。
『……シエル、ステラ。ライと話したいことがあるんだ。2人とも、僕の部屋で待っていて。』
「……わかった。」
「……うん。待ってる。」
シエルとステラを、もう1度ぎゅうっと抱きしめる。
手をそっと放すと、二人はパタパタと走り出す。ライの近くを通り過ぎて、部屋へと続く扉を開けた。双子が庭から姿を消したところで、俺は近くまで来たライに向き直った。
「……完成したのか。」
庭で淡い緑色の光を放つ模様を、ライは目を細めて見ていた。ルビーの瞳に、淡い光が映りこんでいる。それが、何処までも綺麗だった。
『……うん。ステラとシエルが今日完成したって。僕に見せてくれた。……すごく綺麗でしょ?』
先ほどの嬉しさがこみ上げてきて、僕はライに笑いかけながら話をする。ライは僕の左頬に、皮手袋を外した手を伸ばす。頬に触れた手が、そっと俺を上向かせた。
「………ああ、綺麗だ。」
僅かに、ライの口角が上がる。冷酷そうに見えて、僕はこの人がいかに優しい人なのか、身を持って知っている。
最近はライも僕の前で、ほんの少し微笑んでくれるようになった。魔法が上達していることを褒めてくれて、頭を撫でてくれるのが大好きだった。
僕を気遣って食事に果物を追加してくれたり、魔力回復のお茶や飲み物を作ってくれるのも嬉しかった。
言葉数は少ないし、口も悪いことが多いけど。1つの仕草に幾つもの優しさが込められていることが、何よりも冷えた僕の心を癒してくれた。
今まで、こんな感情を人に抱いたことなんてなかった。
冷めきった関係の両親を見てきた僕が、まさか1人の人に。
胸を直接、熱をおびた手で掴まれるような、
苛烈な心の痛みと。
息を詰まらせてヒリつくような、
温もりを渇望する切なさ。
涙が自然と溢れるように、満ちて震える感情。
その全てが、たった1人の存在で、
その人を想うだけで波のように押し寄せる。
だから……。
『……ライ……。』
頬に触れるライの手が暖かい。
この手が、手袋越しじゃなくなったのは、何時からだろうか?彼が少しでも、心を許してくれていると感じられて、自然と心が綻んだ。
僕の左頬を包んでいた手を、そっと掴んで離してもらう。僕はライの両手を握った。一まわり大きな手は、無骨で男らしい。
この手に、何度安心させられたことだろう。
「……なんだ?」
名前を呼ぶと、答えてくれる。ライは手を引くこともなく、僕の好きなように身体を委ねてくれていた。出会ったころより、随分と距離が近くなった。ルビーの瞳が、訝し気に僕のことを見据えている。
僕の手は微かに緊張して震えている。
それでいて、心は風のない湖のように、とても静かだった。
僕は、ライの両手を自分の首元へと導いた。
ライの両手の平が、僕の喉を包み込めるように、僕の両手でしなやかな指を開いてもらう。
大きい手は、僕の細い首を囲った。
美しい金の粒子が輝く、紅色の宝玉には、
今、僕しか映っていない。
それが、なによりも幸せだ。
シエルにステラ、ライと過ごした時間は、穏やかで。
傷ついた僕の心に、温かな風を起こしてくれた。
双子から、とても素敵なプレゼントもされた。
そして、胸の焦がれるような恋を、貴方からもらった。
貴方を愛していると。
とても幸せだという、想いを込めて。
僕は、言葉を紡いだ。
『……ライ、お願い。僕を殺して。』
静かに微笑んで、僕はそう告げたのだった。
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