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第一章 異世界転移、渾沌
召喚、僕は黒真珠を飲んだ
しおりを挟む唇に黒真珠が触れた瞬間の、全身の血が凍えるような、恐怖と憎悪。
本能で分かる。
これは、飲んではいけないモノだ。
宰相は、指が僕の唇に触れたのが大層不快な様子だった。顔を勢いよく顰める。そして、今度は力任せに、黒い球体を押し付けられた。
それでも僕は、口を強く引き結んで拒絶した。
飲んでしまえば、何が起こるのか
分からない。
飲まされまいと、なけなしの力を、必死に振り絞って抵抗する。口を閉じるという、それだけしか出来ないけど。
僕の反抗的な態度に、目の前の宰相の顔は、般若のように大きく歪んだ。ギョロリとした目の血管が、浮き立って血走ったように見えた。
明らかな怒気を孕んだ瞳。虫を見るような冷酷で煩わしいという感情が、ありありと映っている。短く舌打ちをしたのとともに、パンっと周囲に渇いた音が響く。
「…っがはっ!」
それと同時に、僕の右頬に衝撃が走って、頭の中がぐわんっと揺れた。肌を容赦なく裂かれたような痛みと、ジンっと熱が広がる。
よほど強い力で打たれのだろう。口の中に鉄の味がした。ぐらりと傾いた頭を、さらに髪の毛を引っ張られて、無理やり上を向かされる。
「ヒっっ!」
ブチブチと髪の毛が毟られて、引き攣る痛みに小さな悲鳴が喉から出た。頭皮が無理に引っ張られ、痛みに涙が出そうだ。
「お前ごとき異物が、手を煩わせるな。……殺されたくなければ、口を開けろ。」
チラリと宰相が隣にいる騎士へと目配せをする。騎士は一つ頷くと、腰に差していた剣をすらりと引き抜いた。ためらいもなく、僕の喉元へと切っ先を向ける。
切っ先は俺の首筋に軽く当たったのか、チクリという小さな痛みがした。つーっと液体が流れる感触が、首筋を辿う。
拒絶するように首を降ろうとしても、首を少しでも動かせば、冷たく鋭利な刃に当たる。
少しの抵抗も許されないまま、鼻を宰相に摘ままれた。息が苦しくなった僕は、もう口を開けるしかなかった。
「ぐぇっ!」
口を開けると、黒真珠を持った宰相の指が、口の奥まで突っ込まれた。そのまま、どこから用意したのか、水を流し込まれた。無理矢理に喉奥へと、珠を流し込まれる。
生理的な苦しさに、身体は反射的に反応して、
黒真珠を、嚥下してしまった。
僕の喉が動いたのを、宰相が確認して再び口を開かされる。中を見て飲んだことを確認すると、ぱっと顎から手を離された。
「っうっ!ごほっ!…かはぁ!」
苦しさに激しく咳き込む僕を、宰相は冷たい目で見下ろした。
「チッ。煩わせおって。……このまま、例の部屋に連れていけ。」
「はっ!」
咳き込んで頭が朦朧とする。騎士に後ろから取り押さえられたまま、僕はぐったりと身体が傾いた。なんだか、身体が高熱を出したように、ぐったりとする。
熱い。重い。怠い。
なぜだか、朦朧とする。
そして、苦しい。とにかく、苦しい。
僕は、そのまま意識を手放した。
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