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第9章 魔王討伐戦、全員無事に帰還せよ
怒りの双子、今度の標的は王子と貴公子です
しおりを挟む「ヒズミに褒められると、なんだか照れますね……。でも凄く嬉しいです」
アトリが水色の瞳を穏やかに細めながら、はにかんだ笑みを俺に向ける。鋭い氷魔法からの、イケメンのはにかみというギャップが、胸にこうキュンっ!と来るものがある。
『なによ!私達の舞台の邪魔をしないで!!』
怒号を上げた女の子が、いつの間には両手に持ったナイフで、身体を絡め取ろうとした氷のツタを切り刻んだ。切られた氷のツタの断面からは、透明な飛沫が上がり、氷の華が散って冷気となって消えていく。
怒り狂った女の子は、男の子と手を繋ぎながら何度もターンをして、次々とナイフを繰り出した。俺は構えた双剣でナイフを弾きつつ、男の子の動きを注視する。
ダンスの途中で、男の子の左手が女の子から離れる。その瞬間、ぞくっとした怖気が俺の背中から駆け上った。この身体の内からぞくりとする、淀んだ魔力。間違いない。
俺は闇魔法を纏わせた双剣を胸の前で交差させ、意識を静寂な闇に沈ませる。より研ぎ澄ませた感覚を頼りに、俺は地面を蹴って全員の前へと躍り出た。
「反せっ!!」
男の子の左手が大きく横に振り払われたと同時に、左手の平から禍々しい赤黒い魔力の砲弾が俺たちに向かって放たれた。俺は赤黒い砲弾を双剣の重なった場所で受け止めると、勢いよく双剣を振るって砲弾を弾く。砲弾は風切り音とともに勢いよく男の子に弾き返り、そのまま着弾した。
『ううっ……。頭がいたいよう……』
タイミングよく弾き返せた攻撃は、男の子にカウンター攻撃として見事に反撃できたようだ。灰色の頭に両手を当てて、男の子が苦しそうに悶え苦しんでいる。
頭を痛がっているということは、俺たちに放った攻撃は、やはり精神操作の状態異常が施されていたのだろう。もだえ苦しんだ男の子は、ギョロリと俺に赤い瞳を向けた。人間とは違う素早い眼球の動きが、俺を捉える。
『うっとうしいなあ、じゃまだなあ、慧眼ってやつは』
『せっかく、わたしたちの思い通りに動く人形を、手に入れたと思ったのに……』
マリオネットたちは、忌々し気に溜息をつくと俺たちへと怒りの目を向ける。狂宴のマリオネットは、踊りながらに刃物で攻撃をしてく双子の姉と、様々な状態異常の攻撃を仕掛けてくる双子の弟のコンビのボスだ。
最大の難関が、弟の放つ状態異常に『精神操作』があることだ。精神操作の状態異常を喰らってしまうと、精神を双子に支配されて仲間を攻撃し出す。仲間を攻撃して怪我を負わせてしまったら、その者は罪悪感に苛まれ戦意喪失。もし、全員が精神操作の状態に掛かってしまったら仲間内で殺し合いが始まる。
本人たちが踊り続けている姿もだが、仲間同士で死闘という狂気の踊りを強制する残酷さから、名前に『狂宴』と付いているのだ。
怒りを露わにした双子の姉弟は、俺の後ろへと視線を移すと陰湿に目を細めた。実際は大きな瞳が開いたままだが、視線は明らかに虐める獲物を見つけたというように歪んだように思えた。
『今回の舞台の主人公は、金髪碧眼の王子様と、銀色の貴公子かしら?』
『舞台の題名は、『愛を知らない人形たち』でどうかな?』
双子の視線に捉えられたアウルムと、エストが警戒をさらに強めて、体に纏う魔力を上げる。
生まれながらにして使命を背負い、己の生き方を周りの人間に押し付けられた者たち。彼らの闇は心に深く根を張っている。
彼らの心の闇は、自由と愛情。
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