俺は勇者の付添人なだけなので、皆さんお構いなく 勇者が溺愛してくるんだが……

雨月 良夜

文字の大きさ
上 下
104 / 146
第8章 乙女ゲームが始まる

心友たちの決意、寂しいけどまた会えるから

しおりを挟む



ひんやりとした心地よさに、思い思いに寛いでいると、向かい側にに座っていたガゼットが、神妙な面持ちでぽつりと呟いた。


「俺さ……。本当は魔王討伐が、ものすごく怖いんだ。故郷と領民を守ることもだけど、何よりも命を落すかもしれないって恐怖があってさ。……たぶん、1人だったら逃げ出してたかもしれねえ……」


俯きがちに呟かれた言葉は、ほんの少しだけ震えているようで、それがガゼットの奥底に仕舞っていた本音なのだろうと察せられた。ガゼットは静かに顔をあげると、茶褐色の瞳に強い光を宿して俺を見つめた。


「……でも、ヒズミたちを見ていたら『自分の手で大切なものを守り抜く』っていう、決意が固まったんだ。……ヒズミとソレイユが命がけで国を守ろうとしている。俺もそれに報いたい、一緒に災厄に立ち向かいたい」


ガゼットの強く眩しい意志の籠もった言葉は、俺の胸を大きく打った。優秀な兄弟に劣等感を抱いていた卑屈な姿とは違う、決意を胸に秘めた強い青年が、そこにいた。


「……僕も、こんなに戦えるようになったのは、2人のおかげだよ。何の取柄も無くて、何もかも諦めていたけど……。今は違う。諦めたままじゃダメだなって。僕は僕なりに、故郷と2人のために戦うよ」


垂れ目がちな緑色の瞳を、優しげに細めながらリュイが俺に微笑んだ。気弱で自信なさげだった青年は、誰よりも冷静で、慎重に物事を見据える賢人に変わった。

2人の決意の言葉が、胸に刻まれていく。心の底から鼓舞されたような高揚と、2人の優しさが胸一杯に満ちていく。俺はこの世界で、こんなにも優しく心強い仲間が出来た。

それは何物にも代えがたい、眩しくて温かな宝物のようだった。


じんわりとした嬉しさに浸りながら、俺はマジックバックに手を差し入れた。リュイとガゼットだからこそ、受け取って欲しいものがあった。

彼らを護ってほしいという、願いを込めて。


「リュイ、ガゼット。2人とも手を出してくれ」

不思議そうにしながらも、リュイとガゼットは俺に手を差し出した。俺は真珠に似た輝石が付いた組紐を、2人の手のひらにそっと置く。


「『星喰いのかけら』を付けて作った、組紐だ。ソルの魔力が、ふんだんに込められている。これを武器に付けておくと、いざというときに役立つと思う」

俺が2人に渡したかったのは、ソルの魔力暴走を治めるために使用した輝石、『星喰いのかけら』だった。武器屋に行って輝石を加工してもらい、黒色の紐にそれぞれの瞳の色の糸を入れて、シンプルに仕上げてもらったのだ。

補充された魔力を何時でも取り出せる石は、魔力枯渇時や大きな魔導具を動かす際に役立つはずだ。組紐にしたのは、2人の武器に付けやすいようにするため。

あと2つの『星喰いのかけら』は、同じように組紐にして、俺とソルが武器に付けている。


「……勇者の魔力とか、すげぇ御守り……。ありがとな。大切にする」

「すごく、心強いよ。……2人とも、ありがとう」

組紐を受け取ったリュイとガゼットは、その手をゆっくりと握りしめていた。


リュイとガゼットは、夏休みが終わっても学園には戻って来ない。魔王討伐時に激戦地と化すであろう、自分たちの領地に留まって、敵を迎え撃つ準備をしていくのだ。彼らの戦いは、既に始まっている。


「今みたいな穏やかな時間を、守っていきたいな……」


リュイのささやかな願いが、夏風に靡く下草のさざめきに消えていった。


翌日、俺とソルは2人が乗った馬車の背を、小さくなるまで見送った。





しおりを挟む
感想 206

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。