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第7章 乙女ゲームのシナリオが少しずつ動き出す
攻撃には意味がある、俺って詰めが甘い
しおりを挟む「私の相手は、君たちか?……お手並み拝見といこう」
優美な微笑みを称えた騎士は、レイピアを持った右手を耳元まで引いた。切っ先を目線の高さへ上げ、左手の平は正面に向ける。剣を弓矢に見立てたような優美な構えだ。
俺とソルは正面に構え、隙を伺う。
アレンはその華奢な体格からは想像もできないほどの、鋭利な殺気を全身から放った。ゾクリと、俺は背中から粟立って震える。
「……手加減はしない。行くぞ」
銀色の細剣に、アレンは金色の光を纏わせた。
アレンが短く言い切るかのタイミングで、俺は地面を強く蹴った。相手が来るのを待っていては、こちらがやられる。格下の自分たちは、攻めるしかない。
双剣で絶え間なくアレンに切り掛かる。激しく金属が擦れる音が、連続して鳴り響いた。俺の連撃はレイピアで受け止められては、弾き返される。
「はっ!!」
俺が弾き返されたタイミングで、ソルも気迫を放ちながら斬りかかる。アレンは、それにも容易く反応して、さらにはソルへと反撃までしていた。
……やはり、この人の剣捌きは異様に早い。
こちらが攻撃の手を少しでも緩めれば、激しい剣戟で刺してくる。一度態勢を整えようと、剣を弾かれた勢いを利用して、俺とソルは思いっきり後退した。
「休ませるわけないだろ?」
アレンの頭上に、眩い光の十字架が幾つも現れる。神々しい十字型の光の剣が、俺たちへと一斉に放たれた。
「盾!」
ソルが叫ぶと、俺とソルの前に金色の巨大な盾が出現する。宙で光の剣を受け止め、小さな爆発が起こる。
爆風が服の裾を大きく翻し、砂煙が視界を遮った。巻起こった砂煙の中でヒュンっという風切り音が、耳に届く。視界の端で金色の輝きが、一瞬だけちらついた。
「っ?!!」
砂煙に混じって鋭い切っ先が、俺に目掛けて突き付けられる。右目の前までに迫った切っ先を、寸前のところで身体を反らして躱した。
俺の額の上ギリギリを、金色の刃が掠めていった。
「ぐっ……!!」
俺は後ろに反った勢いを利用して、地面に両手をついた。身体を回転させた拍子に、アレンの手を蹴り上げようと足技を仕掛ける。俺の蹴りを軽やかに回避したアレンは、トンっと地面に着地した。
「……君たちは戦い慣れしてるな。型に囚われない柔軟な戦闘に、冷静さ。学園にもこんな逸材がいたか……」
感心したという口調で、アレンは余裕たっぷりに俺たちを褒める。距離を取りたくても、素早く距離を詰められる。息を整えることさえ、許してくれない。
近距離でアレンの激しい剣戟に何とか応戦していると、頭上から赤い閃光が複数降り注いだ。
「やはり姿が見えないのは、厄介だな……」
アレンと俺たちの間に、勢い良く火柱が立ち昇る。リュイの後方支援だ。炎の壁が俺たちとアレンを隔て、やっとのことで息を整えた。
炎の矢を躱したアレンが、矢の放たれた場所にすかさず魔法を仕掛ける。
光の拘束魔法を発動させたが、何も捕まらない。
「手応えがない。移動しているのか……」
本来の弓手は、戦闘全体を見通すために安全な場所から移動せず、一か所に留まって攻撃するのが基本らしい。動くとその分、狙いも定め難くなるためだ。
うちの弓手は自由に移動し、時には身体を動かしながら矢を放てる。リュイの後方支援は、より実践的で心強い。
燃える炎の熱波で、アレンの姿が陽炎のように揺らめく。炎の壁は保っても2分くらいだろう。今のうちに俺はソルに短く伝えた。
「……俺が隙を作る。ソルが最後に仕留めてくれ」
「分かった」
ソルの短い返事を聞いて、俺は再び剣を構え直した。火柱の背が低くなり始めた。あと数十秒で壁が消えるというときに、アレンの思案げな顔が見えた。
「……雨」
アレンが頭上へと細剣を掲げ、魔力を放出する。明るい室内に、粒の大きな雨が一気に降り注ぐ。さめざめとした雨が頬を打ち、服を重くした。
「…………?」
俺は雨に打たれながら、掴み難い違和感を感じていた。
雨によって、アレンと俺たちを隔てていた炎の壁は勢いをなくし、目線の高さまで急激に下がる。それを望んで、アレンは雨を仕掛けたのか?自然に鎮火すると分かっていながら……。
……おかしくないか……?
なぜ、訓練場全体に雨を降らせる?
炎の壁を消したいなら、局所的な雨でいい。
雨はしばらく降り続き、地面には水溜まりができる。ぬかるんだ土に、靴底が滑りそうになって踏ん張った。戦闘中の訓練場で、そこかしこから、水っぽい足音が聞こえる。
水飛沫、音、水溜まり……。
……しまった。
「結晶化!!」
「11時方向!!」
俺とアレンの声が重なった。俺は右手の剣を逆手に持って地面に突き立てた。俺を中心として、波紋上に紫水晶がパキリと広がっていく。正面のアレンには、紫水晶の鋭利な柱を乱立させて体勢を崩させる。
俺は魔力を急激に流して、急いで地面を硬化した。気が付くのが遅かった。さすがに隠蔽をしても、足元のぬかるみや水飛沫まではコントロール出来ない。人が移動するときの泥が跳ねる様子や、水飛沫の不自然な動き。その僅かな痕跡を、アレンたちに辿られてしまった。
「了解!!」
左側にいるアレックスが、アレンに指示された方向へと手を下ろした。1人の生徒へと一斉に氷柱が降り注ぐ。
アレックスの足元には、2匹の白虎が人影を踏み潰しているのが見えた。ぐったりとした第2王子と騎士団総括の息子は、冷気を纏った獣に捕らえられ、既に戦闘不能だ。
アレックスを止めれる者が、誰一人として居ない。
「リュイっ!!逃げろ!!」
「っ!!!」
ガゼットの緊迫した声がする。咄嗟に叫んでしまった仲間の名前。
「ばか者っ!!」
エストの短い恫喝が響いたが、もう遅い。普段の戦闘なら仲間の名前を呼び合うなんて、至極当たり前だ。危険が迫っているなら尚更のこと。
しかし、今日だけは口にしてはいけない名前だった。
「っ!みーつけた!!!」
無邪気さに狂気を孕んだ声で、ヴァンが高らかに宣った。ヴァンは地面を短剣で擦りながら、緑色の魔力を流して駆ける。風の刃を身体に纏わせ、エストとガゼットを短剣で刈り取ったのが見えた。
パリンっという破壊音が連続で響く。
ヴァンが一気に駆けて向かった場所には、1人の生徒が目を見開いていた。
弓矢を構えた、リュイだ。
俺がリュイに施した隠蔽は、敵には姿を見せず、味方には姿が見えるようにするもの。その魔法が解けるのには条件がある。
味方が隠蔽している者に直接接触するか、
その存在を他の者に宣言するか。
ガゼットは咄嗟にリュイの名前を呼んでしまった。
それは、リュイがこの場に存在していると宣言することに他ならない。
隠蔽が解けてしまったのはそれが原因だった。
リュイが緑色のツタに囲わてるのが、視界の端で見えた。
「これで、やっと君たちだけに集中できる。さあ、私たちだけで、決着をつけよう」
俺の正面で、鋭利な紫水晶の柱を跳んで躱したアレンが、クツクツと喉を鳴らして笑った。
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